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「なんだい今日はよく人が来る日だね~」
扉の向こうからビア婆さんのそんな声が聞こえてきて入口が開いた。そして動きが止まるビア婆さん。そりゃー驚くのも無理はない。どんなメンバーがやってきたんだよって俺が同じ立場でも思うくらいだ。
「これは何の集まりなんだね?」
「ちょっとね。ベッド貸してもらえるかな」
俺の言葉にビア婆さんは深いため息を吐き出して家の中に入るようにと俺たちに勧めるのだった。
ビア婆さんの息子をベッドに寝かせて戻ると、テーブルの上にお茶が用意されていた。椅子に腰かけお茶を貰って一息つくと俺hあ婆さんの方を見た。
「そうだ、これを返しておくね」
収納にしまっていた絵を取り出し婆さんに渡す。どこからともなく絵が現れて一瞬驚いた顔をしたが、それが絵だと気がつくと婆さんはどこかほっとした顔をしていた。
「…実はあの子に血のつながりはないんだよ」
絵を元の場所に戻しながら婆さんがぽつりと言葉をこぼした。あの子…目の前にある絵の子供を示すのならこの子だよね。だとするとあの子というのは今ベッドに横になっている男のことだろうか。だけど息子だと言っていたはずだ。
「私の息子はこの子だけなんだ。だけど今まで一緒に過ごしてきたあの子がかわいくないわけじゃないんだよ。まだ私にはこの子がもういないなんて思えないだけなんだ。あの子が欲しがっている店の権利だって本当はあげたっていい…」
「じゃあなんで?」
なんとなくだけど話が見えてきた。ビア婆さんは自分の財産ともいえる店の権利を息子に渡すことによって、本来渡すはずの本当の子供がいないというのを実感したくないんだと思う。
「…心は素直なもんさね。渡そうと思うとあげる相手が違うと言ってくるんだ」
「あの~ 部外者があまり口をはさむものじゃないと思うんだけど一つ聞いていいかな?」
さっきまで黙って話を聞いていた巻き込まれた男が何やら聞きたいことがあるみたいだ。
「そういえばあんたにも迷惑かけたね。で、何を聞きたいんだい?」
「この絵の子供があんたの本当の子供なんだよな? だとしたらなんで今はいないんだ」
「「……」」
すごい勇気のある人だと思ったね。あえて理由は伏せて婆さんは話していたと思うんだよ俺…つらい過去なんて喜んではなすもんじゃないし。今回の話だって理由は言えないけど本当の子供がすでにいないってことだけわかっていればよかったんだ。
沈黙が続く…俺は視線をさまよわせ子供が描かれている絵に視線を止めた。絵の表情は変るわけがないので相変わらずぎこちない笑顔を浮かべた子供。絵のモデルとか普通に大変そうだよな~ 子供がじっとなんてそうしてられるもんじゃない。俺だったらお断りだ。
…あれ? よく見るとこの絵の子供不自然に左手の手首のところに妙な色がついている。
「ねえこの絵の子供の手首はどうしたの?」
「え…ああそれか。今思うと私も若かったんだ、一緒にお茶を入れようとしたらさ、沸かしたばかりの熱湯がこの子の手にかかってしまっての。すぐ冷やせばよかったんだけど、気が動転しちまって一緒になって泣いている間に火傷がひどくなっちまって」
少し遠いところを見るような…昔を懐かしむような…さっきまでの沈黙は何だったのかというくらいビア婆さんの口が動く。
「火傷…」
ん? さっき勇気がある質問をしたこの男。なぜか絵をじっと見て自分の手を押さえている。あれ…? ビア婆さん…男…絵…婆さん…順々に顔を見ているとなんか…気のせいか? 俺にはこの3人が親子に見えてきたんだけど。
「あのさ、話は変るんだけど…婆さんはなんでこの人に仕事を指名しているの?」
「え、ああ最初は偶然来てもらったんだけどね? この子が大人になったらこんな感じに育ったんじゃないかと思えてね。結構似ていると思うんだ」
「あんたは? 掃除嫌がってたよね?? だけど指名されて文句言いながらもやってきた」
そう実は前一緒に仕事をした時にもめたのがその掃除について。俺はクリーンで簡単にすぐ済ませてしまったことにこの男は怒ったんだ。掃除の仕方は人それぞれなのは当たり前。スキルが使えるのなら使った方が便利なのも当たり前。怒られるいわれはない。その態度からも掃除はいやいややっていると思えるんだ。なのに指名されたからとのこのこやってきた。
「この絵だよ。これが気になってもう一度よく見て見たくて来たんだ」
また絵。
「それで何か分かったの?」
男は首を振る。だけどそれだけじゃなくしっかりと婆さんの方を見た。
「教えて欲しい。この絵の子供のことを…俺に似ていて同じ場所に火傷の痕があるこの子のことを」
「少し長くなるけどいいかい?」
今度は沈黙は続かない。婆さんの話が終わるのと同時に俺はこの部屋の外へと出た。だってここにはベッドから起き上がり俺たちの話を聞いていた男がいるんだから。
「なあ…俺はどうしたらいい?」
「どうしたいの?」
「婆さんのことは本当に母親だと思ってて…絶対俺が店をもっと大きくしてやるんだと…」
「いいんじゃない? だって本当の息子かもしれない人は現れたけど、あの人は冒険者。今更商人なんてやれないよ。あんたが頑張っていかないと店はつぶれるんじゃない?」
俺は扉をそっと開け男の背中を押した。自分からあの中に入ってちゃんと話をしないと始まらないだろう。ぐっと手に力を入れた男が部屋の中へと足を踏み入れるのを確認すると俺はそっと扉を閉じてその場を去った。
「母か…」
『なんか言ったか?』
「別に」
クロと合流した俺は冒険者ギルドへ依頼完了の報告へと向かった。




