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目の前にはちょっといかついおっさんがいた。俺はその視線から逃れるように壁の後ろへと隠れる。だけどその壁は壁としての役割を放棄し、むしろ俺を前へと押し出した。
「ほらひとまず顔見せておけって」
「…誰ですか?」
「この人はこの冒険者ギルドのギルドマスターだ」
「つまり偉い人ってことです?」
「だいたいそれであってるな」
俺とクラックさんのやり取りを見ていたいかついおっさん…ギルドマスターは長いため息を吐きだし額を押さえた。
「クラック、それが今回問題があった救出対象か?」
ギルドマスターは視線を動かし俺を上から下までじっくりと眺めている。ちなみにトールさんは受付へと報告を、ロザリさんは宿の確保へと向かっているのでここにいない。後程2人もこっちにやってくるらしい。
俺たちはフロージスへついてそれぞれ別行動をし、早く休めるようにと動いていた。それで今ここには俺とクラックさんだけで来ているってわけだ。
「見たところ普通の人の子だな」
「人で間違ってはないと思うが…ちょっと普通じゃないな」
「ほう、やはりか」
「ん? もしかして知っていて俺たちに依頼受けさせたのか??」
ちょっと会話が見えないが、俺の前でもめないで欲しい。俺が怒られているわけじゃないというのがわかっていても、目の前で怒鳴りあいとか3歳児にはきつい。何度も子供みたいに泣くことになるのは大人の記憶がある身として恥ずかしいと感じてしまう。
「あー違う違う。実はさ、あの森への救出依頼は今回が初めてじゃなくてな。たしか前回は5年ほど前だったかな…あの時も依頼主がわからないまま終わったんだよな」
「つまり今回も?」
「そうだ。問題があるとすれば今まで救出した対象は無事親元へ帰れた人もいたし、自力で働いていくことが出来る年齢だったんだ。だけど流石にその年では親を探すにしたってなぁ?」
「親どころか自分の名前も知りません。あっ そういえば捨てられたときに女の人を見ましたね。あの人はだれだったのかな…どうかしましたか?」
ちゃんと答えたつもりだったんだがなぜかギルドマスターは驚いた顔をして俺を見てるし、クラックさんは苦笑いを浮かべている。
コンコン
そこへ丁度扉を叩く音がして誰かがやってきた。
「…誰だ?」
「トールとロザリです」
「わかった入れ」
用事が済んだトールさんとロザリさんがやってきた。
「何…何かあったの?」
「ははっ 丁度こいつの理解力と記憶力の異常性が暴露されたところだな」
「「あー…」」
異常性って言われても俺にとってはこれで普通だからな~ もちろん客観的に見ればおかしいことはわからないでもないんだけども。
「ずいぶんと子供らしくないな」
「む…自分でもわかってますっ」
「ほー? 言動は大人みたいだが反応は子供か」
…この人意地悪だな。俺はじりじりとあとずさりロザリさんの背後に隠れた。やっぱり視界を遮るための壁は女の人の方がいい。防御のための壁なら頑丈そうな人かな。
「なるほど。他にこの子供のことでわかっていることの報告を続けてくれ」
3人は俺を救出したときの流れからここに来るまでをかいつまんで説明している。主にトールさんが話をしてロザリさんが補足を入れる。クラックさんはただずっと頷いているだけだった。
「つまり生まれた時から記憶があるくらい賢いってことか…だとすると親は何かを感じ取って彼の能力でも調べたのか? もしくは攫われた…一番考えたくないのは家督問題で排除されたとかな。もう一つあったな…双子って場合だ」
「双子??」
双子だと何がいけないのかわからない。だから俺は教えてほしくてロザリさんの裏からちょっと顔をだしギルドマスターを方を見る。
「ああ…ってこれは知らないのか?」
「知らないから聞いていますが」
「知識に偏りもあるのか…双子はあまり似ていないのなら問題がないのだが、似すぎていると区別がつかないだろう? それに不気味だととらえる人もいてな」
「あーそれで捨てられることもあるってことですね」
同じ顔が2つあるのが怖いのかな…それに身代わりとか出来そう。もしかしてそれがいけないのか? だから片方を報告しないで隠したり処分したり…実際はどうなのかわからないけど。世界が変わると色々違うもんなんだなと思った。
「報告は終わりですけど、この子はこれからどうするので?」
「あーそういえばまだそれがあったな。とりあえず親が見つかるまでギルドで面倒見るか、どこか孤児院に入れるか…」
「どっちも嫌ですけど」
冗談じゃない。ギルドがどんな生活をさせられるかまだ分からないが、孤児院は勘弁してほしい。たくさんの子供たちと一緒に過ごすことになるんだろう? 手伝いとかで忙しくて好きなことが出来なくなる気がしていやだ。
「だがな~ 一人で町でどうやって過ごすつもりだ?」
「俺が望んでここに来たわけじゃないよ!」
もしかしたらフェンリル母さんが何かして俺を人が住んでいるところに来るようにした可能性もありそうだけども、来たくて来たわけじゃないのは事実だ。
「すみませんギルドマスター」
「なんだ?」
「僕たちが面倒みるとかはだめなんですか?」
「ちょっとトール本気なの!?」
「ダメとは言わないが…仕事はどうするんだ?」
「確か冒険者って登録するのに年齢制限ありませんでしたよね」
「…まさか一緒に活動するつもりなのかっ」
「はい。始めのうちは町の中の仕事から慣れてもらって、その間僕たちは日帰りでこなせる仕事をまわせばいいのです。親が見つからなければどうせ自分で稼いでいかないと困るのは本人ですからね。それに7歳から学園にも行った方がいいですし、そのための資金を稼ぐ必要もあります」
…んん?
「そうか学園か…それもありだな。まあその前に親が見つかるのが望ましいのだが」
「いいんじゃないか? 親が見つかったら親元へ返す。見つからなければ冒険者活動をしながら7歳になったら学園へいく。卒業したら成人だしな~」
「えっ そんな長いこと勉強するの!?」
いや…だけどよく考えたらこっち来る前も学生といったらそんな物だったかもしれないな。早くて18歳で学生が終わる。その先就職するか進学するかによって変わるからそう考えると同じくらいなのか。
「そうでもないぞ~ 初等部3年、中等部3年、高等部3年の9年だな」
「クラック詳しいわね」
「一応学園は行ったからな~ まあ中等部でやめたが」
「僕は高等部まで行ったからある程度わかるよ。学園という生活の場があるのが一番助かると思う。寝る場所があって食事とかも自分で作らなくてもいいしね。それに入学試験で好成績を残せば学費が免除される。この子ならそれも狙えそうじゃないかな」
学園生活が9年で成人ということはこの世界の成人は15ってことか。
「なるほどな。それまでの間お前らが一緒にすごせばいいという話か…よし! 定期的に俺のところに顔をだして親の情報について聞きに来ることを条件にしたら許可しようか。後は本人がどうしたいかだがどうだ?」
4人の視線が俺の方へ向けられた。ギルド、孤児院、3人の下で冒険者をして7歳から学園…どう考えても選択はこれしかないだろう。
「冒険者なりますっ ちゃんと自分で稼いで勉強もしてもう一度あの森へ行きたいので」
ちゃんと人の下で学んでからフェンリル母さんに会いに行こう。そしたら今回のことについて教えてくれるだろうか?
「親が見つかるまでだからな? その後は親次第になる」
「わかってます」
俺は3人の方に向き直り頭を下げた。
「これからもよろしくお願いします!」
ここからやっと俺のこの世界での冒険が始まる気がした。




