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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第5章 勝負の世界の「白と黒」
99/106

2-99、さらば沖縄! 忘れられないインターハイ

   ざざざぁー・・・・・・んっ  ざざぁ・・・・・・んっ

   サワサワサワサワ・・・・・・  チチチッ   チチチュン チチチュン


 風が抜けていく。ハイビスカスを揺らして。

 小鳥が遊び、フクギ並木で囀る。

 碧い海に、キラキラと黄金色の光がゆらぐ。


「「「「「 本当に、お世話になりましたーっ! ありがとうございましたぁ! 」」」」」


 今日はいよいよ、沖縄と「さようなら」をする日。

 田村と川田も昨日、病院で診てもらったところ、特に緊急で検査が必要なことなどはなかったようだ。

 腰や足は靱帯損傷や骨折にはなっておらず、前歯は新たに差し歯を作り直すことになった田村。

 膝の靱帯までは損傷に至らず、無理がたたったのと、乗られた圧力で少し傷めている程度と診断された川田。井上が言うことには「昨日は二人のほっとした表情が忘れられない」とのことだ。

 民宿とぅおんなには、感謝しきれないほどお世話になった柏沼メンバーたち。

 キヨに島袋、沖縄剛道流の道場の方々、嘉手本に矢木、そして美鈴に新城、糸城などなど数多くの出会いと初めての経験がものすごく糧になったインターハイだったことだろう。


「ほっほほぉ。いやぁ、楽しかったさぁ。またおいで。わしはいつまでも、みなさんのこと忘れないからね。沖縄空手に興味が出たら、いつでもここを訪ねるといいさぁ」

「本当にありがとうございました。・・・・・・あの、本当に良いんですか? あんな安くて?」

「ほっほほお。気にせんでいーさぁ、わしのことたくさん手伝ってくれたしな、むしろ、お金いただくのも悪いくらいさぁ。楽しんでもらえてなにより。良かったさぁ」


 早川先生が困った顔をしているが、どうやら、キヨは本来の三分の一の料金で、滞在していた期間の宿代としてくれたらしい。中村は最後まで「そこまでしてもらっちゃっていいんだろうか」と戸惑っていた。


「ねぇ、小笹はまだこっちにいるんでしょ? 何かあったらアタシらに写メで送ってよ!」

「はぁーい! そうしまーす! くすっ。気をつけて帰ってね、みんな! また、二学期になったら会えるといーな! ワタシはもう少し沖縄にいるね。美鈴とも話したいし」

「小笹のことは、あたしにお任せを! あっははははッ! 楽しかったさぁ、柏沼高校のみなさん。また、沖縄に来てね! あたしも冬、東京に初めて行くんだ! 全日本大会が、すっごく楽しみさぁー」

「そういえば小笹、今朝も早くから浜辺じゃないほう行ってたけど、早朝ランニングとか? 私が起きたとき、既にいなかったよね。大会三日目もそうだったけど、朝早いよねー」


 森畑がにっこり笑ってそう告げると、美鈴がちらっと小笹の方へ目を向けた。


「あははっ。・・・・・・うーんと、まぁ、走り込みはしてますケドね。村の奥に、お父さんのというか、東恩納家のお墓があるんです。そこで、この間もお参りしてから試合に行ったのー。もちろん、今朝も、お父さんやご先祖様たちに、あれこれ報告してきましたよぉーッ」

「そうだったんだ。そうか、小笹も元の姓は東恩納だもんねー」

「ワタシ、嬉しかったし、良かったですよぉ! 沖縄でたーくさん、試合楽しめて!」

「あたしも、小笹に久しぶりに会えたから、楽しいインターハイだったなー」

「俺たちも、すごく勉強させてもらったねぇー。ありがとなぁ、美鈴ちゃん、そして東恩納さん。この沖縄インターハイはただの大会じゃなく、柏沼のみんながそれぞれ空手についての見識が広まったと思うしなぁ。ほんと、よかったねぇー!」

「「 くすっ。嬉しいなぁッ! 」」


 田村に、小笹と美鈴が声を揃えてにっこりと笑いかけた。


「ではみなさん、本当にお世話になりました。末永先生も、また、帰りは気をつけて」

「本当に、ありがとうございました。早川先生、また何かありましたら、その時はアドバイスを頂きたいのでよろしくお願いします。帰り、お気をつけて」


 全員で深く一礼し、荷物を担いでフクギ並木の木漏れ日を浴びながら歩き、島袋のバスに乗り込んだ。末永親子とキヨ、そして美鈴が遠くで手を振っている。


   ばるん  ばるばるん


 バスのエンジンがかかり、空港に向けて出発した。

 車中には優しい沖縄民謡が流れ、アロハシャツのような服を着た島袋が、にこにこしながら労いの言葉をかけてくれた。


「あ! 川田さん! あれ! ・・・・・・おーい、おーい」

「まったく、どこまでも名残惜しいことしてくれるね、沖縄のみんなは・・・・・・」


   ・・・・・・ぶろろろぉぉぉぉーーーーーー・・・・・・


 宿を出発して間もなく、空港に向かう道中、なんと糸城と新城が道の両脇に立っていた。

 二人は太陽のような笑顔で、赤と黄色のハイビスカスの束を一斉にバスへ向かって放り投げ、両手を広げて大きく振っていた。どうやら、美鈴と小笹が二人に先回りしてメールをし、この「見送り作戦」を決行したらしい。


   がたっ  がたたっ   がらっ


「おぉーいっ! 糸城さん、新城さんーっ! 粋な見送り、ありがとねーーーーっ!」


 川田がバスの窓を開け、身を乗り出して振り返り、二人に大きく手を振って応えていた。それを、隣では田村が腕組みをしながら笑って見つめていた。


「尚久、沖縄ほんとよかったな。・・・・・・俺、沖縄の大学行こうかなー」

「おれも、海洋生物学に興味を持った。沖縄の大学も、視野に入れてもいいかもしれん」

「泰ちゃんや陽ちゃんと違うが、俺は沖縄剛道流や沖縄空手、武器術を科学的に研究してみたくなったな。だはははははっ! じゃ、みんなで沖縄に進路固めるかぁ?」

「まったく、みーんな、沖縄が気に入ったのね。ま、私もそうなんだけどねーっ・・・・・・」


 車中は絶えず笑い声が飛び交い、しばらくして空港へ到着。

 島袋にみんなでお礼を言って分かれ、東京直通の帰りの便へと乗り込んだ。


   ギイイイイイイィィーーーーーィン  ゴゴォォオオオオオオオオオオ


   ~~~間もなく当機は、沖縄本島より離陸し、東京へと向かいます・・・・・・~~~


「・・・・・・夢のような、幻のような、変な感じだね。沖縄、さよなら・・・・・・」


 前原は飛行機の窓から、青い空と碧い海を眺めながら、インターハイに関わる全てのことを思い返していた。全国の強豪たちとの戦いが、夢幻のような感覚。でも、それは確かに、現実。

 東京に着く頃には、みんなぐったりと眠っていた。

 帰ったら、すぐにお盆の時期となる。それが過ぎるといよいよ、柏沼高校空手道部は次の世代へと「代替わり」をする準備に入る。

 高校生たちの夏は、超特急のように、過ぎてゆく。


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