2-98、激闘の後で・・・・・・
・・・・・・ヒュオオオオオオォッ・・・・・・
・・・・・・サワサワサワサワ サラララララァァーーーー・・・・・・
風が抜け、サトウキビを揺らしながら、葉が優しい音を奏でている。
みな、島袋の運転するバスに乗って、三日間の激闘を無事に終えて宿へ戻ってきた。
あれから等星女子を見送った後、東北商大の岡島やなにわ樫原の猪渕に光太郎、西大阪愛栄の藤崎、瀬田谷学堂の水城らが通り、爽やかに元気な挨拶を交わしていった。
大阪の藤崎が川田に「なんとかがーるずふぁいたー」がどうとかいう話をしていたが、マシンガントークにうんざりしている川田の様子しか前原の印象に残っていなかった。
花蝶薫風女子の舞子と学法ラベンダー園のミランダは、団体組手の決勝での大将戦でなぜか気が合ってしまったらしく、帰りは仲良さそうにしていたらしい。前原は、そっちのほうが印象によく残っているとのこと。
「ほっほほぉ。みんな、お疲れさまなぁ。いーぃ顔して帰ってきたさぁ。頑張ったなぁ」
「おばーちゃん! 見て、コレ! ワタシ、二位になったんだよ、形で!」
「見てたさぁ。美鈴のインタビュー、テレビでさっき、流れとったぁ。決勝の相手が小笹だったんじゃ、わしも会場に行って見てれば良かったなぁー。さっき、美鈴が来てな、また夕飯食べに来るって言うとったさぁ。わしも嬉しいよ、孫二人が頑張ってくれてなぁ」
キヨは、割烹着姿で小笹の頭をぽんぽんと撫でて、台所へ戻っていった。
みんな部屋に荷物を置き、広間でぐったりと転がっている。この宿は、あまりにも、癒やしの空気に満ちており、試合後は休む気にしかならなくなるようだ。
「「「「「 あー・・・・・・。いーやーさーれーるー・・・・・・ 」」」」」
三年生、みな沈黙。
疲れが一気に出たような感じで、風通しの良い畳の間から、動くことができない。そんな様子を見て、阿部が一年生女子二人とともに、台所でキヨと料理に励んでいた。黒川や長谷川も手伝っている。
たたたたたっ さく さく さく・・・・・・
「ヤッホーっ! おっつかれぇー、柏沼のみなさん! 小笹、来たよーっ」
「美鈴ちゃん! お疲れーっ! そしておめでとう! インターハイ女王なんて、すごいね」
「あっははははッ! いや、あたしもまさか、優勝できるとは思ってもいませんでしたぁ!」
「ごめんね美鈴ちゃん。組手の約束・・・・・・。アタシ、こんな状態だから、さ・・・・・・」
「あ、いーです! 川田さん、強敵相手に大変でしたモン! あたしも、いつか川田さんと、競技じゃない組手の手合わせしてみたかったんですけどぉ、だいじょぶでーす! きっと、いつでもできますからッ! お大事にして下さいねぇ? お腹も、足も・・・・・・」
「ありがとね! いやー、アタシ、明日病院行くのが怖いよ。中学ん時の二の舞にでもなったらいやだしなー。・・・・・・松大学園のお太りめ、ほんと、運がなかったわー」
「美鈴ちゃんも、年末は東京の武道館で高体連代表、頑張って。私や真波はこれで部活引退なんだけど、空手は続けていくからね。また、いつでも会えるから、だいじだよ」
宿に夕飯を食べに来た美鈴は、とても優勝者の東恩納美鈴選手と同一人物には見えない。
諸岡に替わるインターハイ女王のはずだが、どう見ても、ただの元気な沖縄の女子高生か、日焼けした小麦色の小笹か、そんな印象でしかない。
「みすずーっ! ワタシよりも大きなトロフィーもらったでしょぉ? あとで見せてよー」
「いいさぁ。あとで持ってくるさぁ! 小笹も、組手の疲れはどーぉ? おばあの料理で、元気取り戻して癒やすといーさぁ!」
「あははっ! だね! 今日は、たくさん食べて、よぉーく休んで、ワタシいっぱい寝たいんだよねぇーッ。ちょっと疲れたかなー」
「すげぇ光景だな・・・・・・。インターハイの優勝者と準優勝者が、ふつーに俺らの目の前で笑って話してるなんてよぉー」
「くすっ。井上センパァイ、ワタシ、ちょっとは強く見えますかぁー? あははっ!」
「んー・・・・・・まぁ、小笹ちゃんは小笹ちゃんだし、美鈴ちゃんは美鈴ちゃんだな」
「あっははははッ。まぁ、そーですよねぇッ。小笹もあたしも、普段は別に、何ら普通の高校二年生ですよぉ。インターハイの結果は気にせず、普通にしてくださいねぇー?」
「そーいうコトっ! ワタシも美鈴も、結果がどうだからって変わることはありませーん」
元気な女子二人は、井上を挟んで屈託なく笑っていた。田村や中村は気付いたらしいが、よく見ると、日焼けしていてわかりにくいが、美鈴の左目尻のところには小さなホクロがあるようだ。そこが小笹とは違うらしい。
じゅわわわわぁーーーーっ じゅーーーーーっ ほわわぁぁん
「さぁ、できたさぁ! 試合の疲れを、食べて癒やすといーさぁー」
今宵もまた、美味しい香りと音を乗せて、キヨ特製の沖縄料理の数々が出てきた。
一年生や二年生が手伝い、みんな、沖縄料理をいくつも覚えて満足そうだ。いつの間にか、阿部が副料理長のような雰囲気を醸し出しているのにみな笑っていた。
新井、松島、堀内、早川先生の大人四人は既に泡盛で良い感じに盛り上がっていた。福田はお店のこともあり、大会終了後すぐに九州へ飛び、東京行きの最終新幹線で栃木に帰っていったらしい。
「(もぐもぐ)そういえば(もぐもぐ)あらいせんぱいは(ごくん)お仕事って何をされているんですか? アタシまだ聞いてませんでした」
「んー? 旅行会社の社長やってるー。だからこれも、うちの会社の研修の一環ってことで、普通に社費で来させてもらってるよー。小さい会社だけど社長だよー。社長社長ー」
「「「「「 りょ、旅行会社の社長ーっ? 」」」」」
全員が初めて知った新井の職業。だから山形までバスを出してくれたり、こうして沖縄にまで来てくれても、普通に何日もいられるということなんだろうか。これにはみな、びっくりだった。
「え! じゃあ、松島先輩は?」
「俺は、自営業だよ。農家もやってる。小麦や野菜は、三本松農園にもいくつか提供してるんだよ。福田君とこの間、契約したからね。ある意味俺も、社長だね」
「「「「「 ええええぇ! ふ、二人とも社長! 」」」」」
そんなこんなで、いろんな話題で盛り上がり、大会の振り返りや思い出話を交えながら、沖縄での夜は更けていった。
波音に、どこかの三線の音が混ざり、潮風に乗って流れてくる。そんな、心地よい夜。
その心地良さと共に、時間はゆっくりゆっくりと過ぎていった。