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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第5章 勝負の世界の「白と黒」
97/106

2-97、沖縄インターハイ、終了!!

「素晴らしい感動! 素晴らしい試合! まさに皆さんは、この日本が誇る高校拳士であり、優秀な成績となった上位の者には、さらなる高みへ・・・・・・」


 偉い方々からの大会講評があり、まさに大激闘であったインターハイは、表彰式へ。

 開会式であれほど多くいた選手たちも、一日目で撃沈したり、二日目で撃沈したりした学校は早々と沖縄を発ってしまったところも多くあるようだ。初日の半分ほどしか閉会式に出ていないような感じがする。

 なんだかそれはそれで寂しい感じもするが、柏沼メンバーがこうしてここまで残っていられたのも、全員で力を合わせて頑張った結果なのだと前原は思っていた。


   パチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチパチパチ!

   パチパチパチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチ!


 各種目の表彰が続く。そして、いよいよ、柏沼メンバーにも関わる時が来た。


   ~~~女子個人組手、優勝、朝香朋子選手・・・・・・―――~~~


   ざわざわ  ざわざわ


   ~~~―――・・・・・・優秀選手、川田真波選手、末永小笹選手・・・・・・~~~


「はいっ! じゃ・・・・・・アタシ、受け取ってくるね!」

「ワタシも一緒にねッ! くすっ。行きましょぉ、川田センパイッ!」


 川田の手を引いて小笹が表彰状を持つ役員の前へ並び、一緒に笑顔でベスト8の賞状を受け取った。


   ~~~男子団体組手、優勝、瀬田谷学堂高校・・・・・・―――~~~


   ざわざわ  ざわざわ


   ~~~―――・・・・・・優秀校・・・・・・県立柏沼高校~~~


「ほら、田村! 主将のあんたが代表で、行ってきなよ! ほれ、堂々とさ!」

「田村君。ベスト8の表彰状、ほら、笑顔でもらってきなよ!」

「しゃーないねぇ。どらっ、ちょっくらもらってくっかねぇー」


 照れながら、田村は男子団体の激闘の成果である表彰状を受け取り、にこっと笑った。

 柏沼メンバー三年生七人が、三年間このチームでやってきた証としての一枚だ。


   がやがや  ざわざわ


 表彰式が終わると、個人戦各種目の優勝者へ、地元沖縄のテレビ局がインタビューをしていた。

 男子個人形覇者の一馬場と男子個人組手覇者の水城は、慣れた感じの爽やかな受け答えだった。


「えー、では、女子個人形、東恩納美鈴選手です。いかがでしたか、今回の決勝戦は?」

「あっはははッ! いやぁ、イトコの小笹が、ものすごいレベルで、強かったです。そして、地元沖縄のみんな、関係の方々、みーんなのおかげで優勝できました。ほんと、感謝です!」


 屈託のない笑顔と、小麦色の肌が特徴的な美鈴。

 インタビューで触れられた小笹は、その言葉を聞いて、ちょっとだけ目が潤んでいるようにも見える。


「そして最後に、連覇をしました朝香朋子選手です。印象に残った試合は、ありますか?」

「支えて下さった皆様、本当にありがとうございました。・・・・・・決勝戦の朝香舞子選手、あ、妹なんですけど、その試合も印象的でした。北海道のミランダ選手も。・・・・・・あと・・・・・・栃木県の柏沼高校、川田真波選手との試合が・・・・・・特に、心に刻まれています・・・・・・」


 朝香のインタビューは、最後に予想もしない言葉が出た。

 それを聞いていた川田はびっくりしていたが、ちょっと間を置いてくすっと笑い、その場で、朝香へ深く頭を下げていた。頬に数滴、涙を伝わらせながら。小さな声で「ありがと」と呟いて。



   《全国高等学校総合体育大会 空手道競技  大会結果》


◆男子個人形

優 勝  一馬場新星(なにわ樫原・大阪)  

準優勝  花城寛人(県立屋良泊南・沖縄)

三 位  真島進矢(瀬田谷学堂・東京) 寺小路芳晴(おかやま白陽・岡山)

優秀選手 関谷敬士郎(瀬田谷学堂・東京) 葛西怜音(県立湯野原・大分)

     中澤宏基(東北商大・宮城) 柴山星輝(水見学園東・富山)


◆女子個人形

優 勝  東恩納美鈴(県立うるま金城・沖縄)  

準優勝  末永小笹(海月女学院・栃木)

三 位  新城巳波(首里琉球学院・沖縄) 香山みのり(花蝶薫風女子・京都)

優秀選手 朝香舞子(花蝶薫風女子・京都) 雨宮百合音(山梨航空学舎・山梨)

     君原智香(凪川学院・兵庫) 吉平鈴(瀬戸内学院・香川)


◆男子個人組手

優 勝  水城龍馬(瀬田谷学童・推薦)  

準優勝  朝香光太郎(なにわ樫原・大阪)

三 位  猪渕悟(なにわ樫原・大阪) 恩田昂士(瀬田谷学堂・東京)

優秀選手 青柳徳馬(拓洋大青陵・千葉) 須藤光則(福岡天満学園・福岡)

     二斗龍矢(日新学院・栃木) 北里ベンジャミン(クラーク記念道東・北海道)


◆女子個人組手

優 勝  朝香朋子(等星女子・推薦)  

準優勝  朝香舞子(花蝶薫風女子・京都)

三 位  金城陽(首里琉球学院・沖縄) 吉岡理沙(松坂第四・三重)

優秀選手 末永小笹(海月女学院・栃木) 川田真波(県立柏沼・栃木)

     小倉美和(御殿城西・静岡) 染原真澄(花咲東栄・埼玉)


◆男子団体組手

優 勝  瀬田谷学堂(東京)  

準優勝  福岡天満学園(福岡)

三 位  御殿城西(静岡) 山梨航空学舎(山梨)

優秀校  県立柏沼(栃木)  松大学園(長野) 

     拓洋大青陵(千葉) 山之手学院(神奈川)


◆女子団体組手

優 勝  花蝶薫風女子(京都)  

準優勝  学法ラベンダー園(北海道)

三 位  等星女子(栃木) 西大阪愛栄(大阪)

優秀校  日国大山形(山形) 宮崎第二学園(宮崎) 

     県立糸洲安城(沖縄) 白波女学園(徳島)


   ザワザワザワザワザワザワザワザワ  がやがやがやがやがやがやがやがや


「はい、では、準備できました。じゃ、柏沼高校の皆さんの撮影に入りますよー」

「よし、みんな! 先生が閉会式後に写真屋さんを頼んでおいたから、記念写真を撮ってもらおう。さぁ、あの大会名と高体連旗がバックになるように、並んで並んで!」


 無事に表彰式まで終了し、柏沼高校空手道部はみんなで大会記念写真のパネル用スナップを撮ることになった。

 早川先生が部旗を引き上げてきてもらい、三年生の出場メンバーを中心にし、田村と川田が賞状を持って真ん中に入る。


「黒川せんぱい、おとさないでくださいね? わー、こわいー」

「だいじだから、暴れんなって! 部旗、そっちもよーく引っ張って!」


 黒川と長谷川が両端でそれぞれ大南と内山を肩車し、部旗を二人に引っ張ってもらっていた。

 阿部も、落ちそうな内山を横で支えながら、にっこり笑顔。


「ねぇ、田村! せっかくの記念パネルだよ? もっとにこっとしなよー。アタシみたいに」

「無理だべ! 俺、前歯ねーんだぞぉ? 歯っ欠けで笑ったら間抜けじゃんかー」

「あ、そういやそうだったね。ごめんごめん!」


 新井や松島も入り、みんなでガッツポーズのようにして、パシャッと一枚。

 護者もみな、ビデオカメラやデジカメで撮影している。まるで、プロサッカーリーグで選手が肩組みをしてよくやる、あの撮影光景のようだ。


   パシャ   パシャッ   パシャパシャ   パシャッ  パシャ


「はいー、お疲れさまでした。パネルは編集して、でき次第、学校に郵送しますので」

「よろしくお願いいたします。宛名は、柏沼高校空手道部顧問 早川でお願いいたします」


   パチパチパチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチパチパチ!


 堀内や福田、そして保護者応援団からたくさんの拍手が贈られた。

 柏沼メンバーの後ろでは、小笹が母の末永と一緒に形の銀メダルとミニトロフィー、そして表彰状二枚を持っての記念写真を撮っていた。

 写真撮影が終わったあとに振り返ると、メインアリーナはあちこち片付けに入っている。


「なんだか、三日間の激闘を繰り広げた会場があっという間に片付けられていくのを見ると、なんとも言えない寂しさがあるなぁ」

「確かにね。なんか・・・・・・すごい三日間だったなぁー」

「そうね・・・・・・。私も真波もみんなも、本当にここで三日間、戦って、泣いて、叫んで、ね」


 前原と川田、そして森畑は、アリーナの床を見つめながら、しみじみとこの戦いを振り返っていた。


   ざっ  ざっ  ざっ  ざっ  ざっ


 全員着替えを終え、宿に帰る準備をしてエントランスホールにいると、いろんな学校が去って行くのが見える。柏沼高校と戦ってくれた学校、当たることはなかったけど同じ三日間を過ごした学校、それぞれが、それぞれの故郷へ帰って行くのだろう。

 柏沼メンバーは明日一日宿泊し、明後日の朝には沖縄を発ち、栃木に戻る。明日、田村や川田は早川先生と病院に行って、詳しく負傷部分を診てもらうそうだ。観光をすると言うより、三日間の静養を少しでも多く取って、みんな身体を休めたいらしい。

 激闘を終えたメンバーは今、同じことを感じていた。終わってみると、本当に心に空っ風が吹いたような感じ。本当に、「終わったのだ」と。


   ざっざっ  ざっざっ  ざっざっ


「よぉし、みんな! 忘れ物などはないな? 監督たちはもうバスにいる。我々も急いで向かうぞ! 一年、二年、全員いるな?」

「あ・・・・・・有華、ちょっと待って!」

「ん? なんだ朋子? ・・・・・・あ、そうか。そうだったな」


 柏沼メンバーが待っている間、そこへ等星女子のメンバーが寄ってきた。一体、なんだろうか。


「柏沼高校、三日間本当にお疲れさま! 私たちも、一緒に戦えて楽しいことも学ぶこともたくさんあった。ありがとう。礼を言う。おかげさまで、我々も、別な視点での空手に出会えたことに感謝だ。・・・・・・そこで、だ。まぁ、何というか・・・・・・」

「早く言いなよ有華! 監督に怒られるから。時間ないし端的に!」

「まぁまぁ・・・・・・急かさないで里央。・・・・・・ほら、有華」

「せっかくなんでな・・・・・・まぁ、これも良い機会だから、連絡先をみんなで共有してはどうかということを、里央と朋子がどーしてもと言うんでな・・・・・・」

「なんだそれ! 有華が言い出しっぺだったでしょーよぉ!」

「まぁまぁ、里央。・・・・・・そういうわけなんだけど、柏沼の皆さん、いいかな?」


 突然のことに、全員はビックリした。まさか、等星からそんなことを言われるなんて。これも、同じ栃木県選手団として一緒に三日間いたからこその変化だろうか。


「なぁんだ、そんなことならお安いご用。アタシは大賛成だ。等星がいなかったらこの大会、面白くないこともいっぱいあったし、こっちも感謝だよ!」

「そうだね。特に真波は、朝香のインタビューであんなこと言われちゃ、ねぇー?」

「うっさいな菜美! ありがとね、朝香。アタシなんかの試合、そこまで印象に残らないと思うけど、嬉しかったよ!」


 みんな、試合中の表情とは別人のような感じで、携帯を取り出してポチポチと連絡先交換。特に、大南や内山は、崎岡とのアドレス交換を大喜び。

 小笹は阿部とともに、同級生である大澤と何やらいろいろ話し、笑い合っている。

 同じ空手仲間の繋がりが、こうして和気藹々と広がっていくことに、それぞれが不思議な感情を沸き抱いていた。嬉しいし、喜ばしいし、微笑ましい。すごくいいことだな、と。


「そういえば田村君。二斗君や堀庭君らとも、連絡先交換とかしなくてよかったのかな?」

「ん? いや、もうとっくにしたよ? 前原だけかも、してないの・・・・・・」

「えええ? いつの間に! 教えてよーっ! みんなほんと、いつの間にしてたのさ?」

「前原、宿に戻ったらおれが教えてやるから。・・・・・・二斗のアドレス、nito.ichigomilk@++.jpなんだが、なんであいつ、そこまでイチゴみるくオーレが好きなんだろうな?」


 中村は携帯に入ってる二斗のメールアドレスを見ている横で、不思議そうな顔をして首を傾げた。

 朝香がなぜかイチゴみるくオーレを二本持っているのだ。朝香はそこまでこの飲み物が好きなのだろうか。


「よし、これでオッケーだ! ありがとうな、柏沼のみんな! じゃ、また!」

「元気でね、崎岡! またいつか、アタシらと手合わせしてね。いつか、ね!」


 崎岡、朝香、諸岡ら等星女子の三年生は、きらっと目を輝かせて、柏沼メンバーと小笹に手を振って会場から去って行った。

 祭りの後の静けさがやってくる。激闘を終えた高校拳士たちは、みな、「普通の高校生」の顔にだんだんと戻ってゆくのだろう。

 沖縄インターハイの会場には、ゆるやかな風が吹き、潮の香りとともにさらりふわりと抜けていった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ミランダ野沢シーナもインパクトある名前だったが、男子の北里ベンジャミンって誰だ!?www 北海道代表どーなってんだ(笑)
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