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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第5章 勝負の世界の「白と黒」
96/106

2-96、頂点の戦い

「続けて、始め!」


   ・・・・・・ユラアアアアア・・・・・・  ・・・・・・ズオオオオオッ・・・・・・・

   ・・・・・・ピリッ   ・・・・・・パチッ   ・・・・・・パチチッ


「(く・・・・・・っ。な、なんて圧力や! ・・・・・・水城龍馬・・・・・・。これまでは遊びやったんか)」

「(調子込むな一年坊。高体連空手の頂点、瀬田谷学堂の水城龍馬をなめやがって。その面が、もっと恐怖で慄くようしてやる! 瀬田谷学堂は常に頂点だ! なめるなよぉッ!)」

「(せ、先手や! ・・・・・・朝香の空手は、まず、速さで翻弄するんや!)」


   ・・・・・・グッ   キュンッ  キイイイィィィィーーンッ!  バシュウッッ!

   キィンッ!  キュウンッ!   フオォンッ!


 ゆるりと近づく水城に向けて放たれた、超高速の上段刻み突き。しかし、突きが伸びきったときには、水城は光太郎の横面へ回っていたのだ。


「(お、おらん? は、速い!)」

「アアアァァーーーーーイッッ!」


   キイィンッ!  ドパァンドドンドパァンッッ!


「止め! 赤、上段突き、技有り!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアッ!  ワアアアアアアアアアアッ!


「ま、前原・・・・・・。いまの動き、見えたか?」

「いや・・・・・・。ごめん、まったく・・・・・・。中村君が見えないのに・・・・・・」

「お、おい尚久、見えたかよ今の!」

「うん。まぁ、俺は見えたねぇー。速いよねぇー、水城は」

「なにぃ! 尚ちゃん、見えてたのかぁ! なんで、あんな速さが見えるんだ?」

「さーぁ? なんでだかねぇー」


 まさに瞬間移動。体重移動と足捌きとその他よくわからない体捌きで、水城は光太郎からあっという間に技有りを奪っていた。超高速が自慢の光太郎が、スピードで完璧に翻弄されている。


「(おいこら貴様・・・・・・。この俺をコケにしたこと、後悔させてやるぞ。わかってんだろうなぁッ!)」


   キィンッ!  ドゴオオオオォォォッ!  ドパアァーーーーンッ!


「止め! 赤、上段突き、技有り!」


   キィンッ!  ドギャアアッッ!


「止め! 赤、中段蹴り、技有り!」


   キイイィィィーーーンッ!  ズドオオォンッッ!


「止め! 赤、上段突き、有効!」


   キュンッ!  キイイィーーーンッ!   ドスウウゥゥゥツ!


「止め! 赤、中段突き、有効!」


   キイィィーーーンッッ!   バカァァァァーンッッ!


「止め! 赤、上段蹴り、一本!」


 館内の誰もがその試合を見ていて、戦慄していた。

 水城は、あれほどの速度と精度を誇る光太郎をまったく相手にせず、あっという間に10ポイント逆転。これで、あと技有り一つで水城が勝利となるポイント差となった。

 見ている前原たちには、開始線で光太郎が歯ぎしりをしながら悔しがっているのがわかる。それと同時に、水城の殺気と圧力に、光太郎は雁字搦めに縛られているのもわかる。

 これが、高体連のトップレベルでで三年間叩きあげられてきた者と、中学生から上がってきて間もない者の、決定的な差なのかもしれない。くぐっている修羅場の数が違うのだろう。


「(はっ・・・・・・はっ・・・・・・。な、何や? こ、怖い! 水城龍馬、こんな圧力と気迫を隠し持ってたんかぁ? 何てことや! 朝香家の名が・・・・・・。朝香家の空手が・・・・・・)」

「(クソガキが! この程度でビビるくらいなら、俺を怒らせるようなことすんじゃねぇ!)」

「続けて、始め!」

「アアアアァァァーーーーーイッッ!」


   キュンッ!  キインッ!  キイイィィーーーーンッ!  ドゴォゥッ! (ベキッ)


「(うぐ! うごぅ・・・・・・っ! げほおっ・・・・・・)」

「止め! 赤、中段蹴り、技有り! 赤の、勝ち!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!


「「「「「 水城先輩ーーーっ! おめでとうございますーーっ! 」」」」」

「「「「「 水城ぃーーーっ! 瀬田谷学堂―っ!  最高ーーーーっ! 」」」」」


 両者がメンホーを取ると、光太郎は脂汗びっしょりで、息も絶え絶えだった。水城はそれを見下ろし、手を差し伸べることもなく一礼。そして、ゆっくりと口を開く。


「ふん。これはスポーツじゃない。武道だ。肉を切られようが骨を折られようが、それは自己責任。戦闘を前提とした競技で、痛ぇだの怖ぇだの言うなら、生きていけねぇんだよ!」


 痛みで動くこともやっとな光太郎へ、水城は刺し殺すかのような目つきを向け、一言投げつけてから、コートを出て防具類を外した。

 あまりに凄まじい展開の試合内容に、館内は静まっていた。その空気を割るかのように、どこからともなく拍手の音が。


   パチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチ!


「いい試合だったぞぉ、水城ぃ。やるなら最初から本気でやれよなぁー」


 なんと、その音の中心は、田村の掌からだった。柏沼高校から拍手が響いたことで、疎らではあるが五月雨のようにあちこちからセンターコートへ拍手が注がれた。


   パチパチパチパチパチパチ  パチパチパチパチパチ  パチパチパチパチパチ

   パチパチパチパチパチパチ  パチパチパチパチパチ  パチパチパチパチパチ


「あ、あれで俺らと本当に同級生なのかよ! んで、矢木さんはあの水城龍馬より強ぇってのか? どーなってんだよ、トップレベルって! 空手の世界は、広すぎねーか?」


 井上が冷や汗を流してわめいていたが、男子個人組手は12対4で水城があっけなく光太郎を秒殺した形となり、連覇を遂げていた。

 

   ざわざわざわざわざわざわ  どよどよどよどよどよどよどよ


 そしてその後、女子団体組手の決勝は、北海道 学法ラベンダー園 対 京都府 花蝶薫風女子。

 大将戦まで勝ち星が同じでもつれ込み、両校の大将は、ミランダ野沢シーナと朝香舞子が激突。その大将戦で日本一が決まる戦いは、熾烈を極めたものすごい内容の大激戦となった。


「止め! 赤、上段突き、一本!」

「止め! 青、上段蹴り、一本!」

「(なめるんやないでぇ、北海道のイモ娘どもぉ! 日本一はこの、朝香舞子擁する花蝶薫風女子高!  すっこんでなはれ、イモ女ども! とっとと泣いて田舎に帰りなはれ?)」

「(ホーホホホッ! トモコ・アサガの妹、いい度胸ねぇん! ワタクシの蹴りに、迷って迷って迷いまくるといいわぁん! アサガの一族には、消えてもらうわぁん。女王はぁ、この、ミランダ野沢シーナ擁する、学法ラベンダー園よぉん! ホッホッホー)」


   キイイィィーーーンッ!  ドバシャアアアッッ!

   ゴオオオォォォッ!  ドキャアアアァァァッ!


 まさに、死闘と言うにふさわしい死闘。

 朝香舞子 対 ミランダ野沢シーナは、まるで球技の試合でもあるかのような、19対18の乱打戦となり、その激闘を制した舞子が辛うじて勝利。花蝶薫風女子が昨年に引き続き連覇を成し遂げた。

 超高速の打撃を駆使した舞子。サソリ蹴りや多彩な足技を駆使して喰らいついたミランダ。どちらも意地を張って譲らぬ試合展開に、みんな釘付けになっていた。

 そして、最後の男子団体組手。昨年度優勝校の瀬田谷学堂と、福岡県 福岡天満学園の頂上決戦は、中堅戦までであっという間に勝敗は決まってしまった。


   ・・・・・・ユラアァァァァ・・・・・・   シュバァァバババチュンッ!  ドガアアッ!

   キュンッ!  キイイィィンッ!  パパァーーーンッ!


 だが、大将戦の水城龍馬 対 須藤光則は、個人戦の内容を払拭するかのように、8対6まで須藤が迫り、両校の主将戦と呼ぶにふさわしい試合展開となった。


   ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ


   パチパチパチパチパチパチ  パチパチパチパチパチパチ

   パチパチパチパチパチパチ  パチパチパチパチパチパチ


   ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ


「お、終わっちゃったなぁ・・・・・・。これで、僕らのインターハイの全試合、終了かぁ」

「すごい奴らばかりだった! おれも、これは空手人生のいい糧になった!」

「いやぁ、やっばい試合ばかりだった! でも、俺らも、この中で試合したんだよな!」

「やっといま、インターハイに出て試合した実感がわいたよ。だはははっ!」

「まぁ、いい勉強になったよねぇ! 俺らにとっちゃ、いーぃ人生勉強にもなったわぁ!」

「アタシは、忘れらんないな、このインターハイ。なんか、泣きそうだよ、田村・・・・・・」

「私も、真波と一緒に、泣きそう。・・・・・・インターハイ、終了かぁ・・・・・・」


 柏沼メンバーの三年生七名は、インターハイの全種目が終わったことで、しみじみと感慨深いものに浸っていた。そう、これが高校生活における、高体連最後の大会だからだ。


   ~~~これで全種目の試合が終了しました。閉会式は・・・・・・~~~


 館内に、閉会式を促すアナウンスが流れ、大会の終焉が近いことを全員に悟らせた。

 田村に促され、栃木県選手団はみな、閉会式に向けて選手待機所へ向かった。その足取りは、開会式と違って、みなそれぞれ、なにか思うことを足取りに込めた歩調だった。

 前原の目には、歩きにくそうな川田に森畑と田村が優しく肩を貸す姿が映り込んでいたのだった。

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