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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第5章 勝負の世界の「白と黒」
95/106

2-95、朝香の空手、水城の空手

「・・・・・・すさまじい姉妹決戦だったね。そして、男子の決勝も、朝香さんの弟があの水城龍馬君とかー。いったい、どんな試合になるんだろう? さすがの水城君も・・・・・・」

「一年でインターハイの決勝なんて、既に怪物級だよな。俺や悠樹なんかじゃ、及びもつかねぇ場所だよ、決勝なんて!」

「まぁ、そう言うなよぉ井上。お前や前原だって、出てみれば決勝いけるかもしんないぞぉ? 要は、その時になんなきゃ、勝負の行方なんて誰にもわかんないってことだねぇー」

「・・・・・・水城龍馬に、朝香光太郎・・・・・・。・・・・・・むむー・・・・・・この勝負、わからん・・・・・・」

「めっちゃ真剣っすね二斗先輩? まぁ、俺も来年またインターハイに出られたら、あの朝香光太郎ってのは要注意人物になりますし、よく見ときますよ」


 そして、館内がふっと薄暗くなり、東側のメインアリーナ入口にスポットライトが当たる。


   ~~~ ただ今より! 男子個人組手、決勝戦を開始します! ~~~


   ワアアアアアアアアアアアアアア!


   ~~~ 赤、前年度優勝! 瀬田谷学堂高等学校! 水城龍馬選手ッ! ~~~


「さああぁーーーっ!」


   ♪ ダダッダン! ダダッダァン! ♪ ジャンジャーンジャンジャッジャン! ♪


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ

   ウオオオオオオオオオオオオオオオッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


「「「「「 龍馬ぁーーーっ! 連覇だーーーーーっ!  龍馬ーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 水城龍馬ファイトーーーーっ!  瀬田谷学堂ぉーーーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 水城先輩ぃ!  水城先輩ぃーーーっ! 」」」」」


   ザワザワザワザワザワザワザワザワ   ザワザワザワザワザワザワザワザワ


 きりっとした目。すらっとした体躯。まさに、スターのような雰囲気と、強者だけが持つ独特のオーラを纏って、水城が入場。瀬田谷学堂以外の声援も混ざり、水城の表情は余裕に満ち溢れ、常人とは違う世界のレベルにいる選手なのが一目瞭然だ。


   ザワザワザワザワザワザワザワザワ  ザワザワザワザワザワザワザワザワ

   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


 そして、大阪陣営や京都陣営などの近畿地区勢がざわつき、西側の入口から「第三の朝香」が入場してくる。


   ~~~ 青、大阪府! なにわ樫原高等学校! 朝香光太郎選手ッ! ~~~


「しゃあーーっす!」


   ♪ チャーチャーチャーン ♪ ドンドコドンドコドコドコドンドン! ♪


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


「「「「「 オラァ、しばいたれやぁ朝香ぁ! なにわの根性見せぇやぁーっ! 」」」」」

「「「「「 東京モンをしばき倒したれや! 水城龍馬がなんぼのもんじゃい! 」」」」」

「朝香ぁ! 水城龍馬をナメるんやないでぇ! お前はお前の持ち味出すんやで!」


 なにわ樫原の主将である猪渕をはじめ、ものすごい怒声・・・・・・ではなく、歓声が近畿地区勢から飛び交う。猪渕は準決勝で水城に敗れたため、なにわ樫原は弔い合戦の様相だ。


「いたいた! ・・・・・・猪渕! なぁ、猪渕ーっ!」

「なんやねん! やかましいな藤崎! いま、集中しとるんや。黙って見させぇな!」

「ええやん別に! あの水城龍馬相手に、朝香光太郎、どんな作戦なんや? あー、ウチ、あんたんとこの一年が優勝なんかしよったら、もー、大阪代表としてめっちゃ嬉しーわーっ。あ、せや! もし、なにわ樫原が優勝したら、ウチら西大阪愛栄と合コンしよか? このインターハイの反省会も兼ねて、強化稽古を含んだ合コンしよーや! あー、朝香光太郎、優勝してーな! なぁ、猪渕、なにわ樫原は、大阪なにわのど根性がもちろんあるんやろ?だったら、瀬田谷学堂の水城なんか、ちょちょっとやって、楽勝や。そしたら・・・・・・」

「だぁーーーっ! もう、なんやねん! やっかましいわ! おい、誰か、藤崎さつきをどっかに捨ててきてくれや! うるっさくってかなわんわ!」

「なんやねん! つれないなぁ、もうーっ! せや、ウチな、おかげさんで、ごっつぅ驚きの進路ができそうなんや! 猪渕、あとであんたんとこにも、オイシイ話、持っていってやるわー。おもろいでぇ! ウチは、もっともっと広く、強いやつらと戦えそうや!」

「いらんわアホォ! 俺はもう、関西近畿大に行くって決めてるんや! なんやねん、驚きの進路って? 藤崎さつきほどの選手なら、学連のどこ行っても、驚かんわ!」

「ま、えーわ。とりあえず、ウチもこの決勝は女子以上に興味あるんや! 朝香光太郎が、あの水城龍馬をしばき倒す瞬間を、早よー見せてーなー」


   ザワザワザワザワザワザワザワザワ  ザワザワザワザワザワザワザワザワ

   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアーッ!


 コート中央を挟んで、水城と光太郎が向かい合う。お互いに目を合わせたまま、ぴたりと動かない。


「(朝香家の末っ子長男か。ふん。お手並み拝見だな、ぴっかぴかの一年生よ!)」

「(とも姉とまい姉の試合は、すごかった。男子も、朝香家の力を見せつけたるわ!)」


   ~~~ 選手ぅ! 正面にぃーっ! 礼っ! お互いにぃーっ! 礼ーっ! ~~~


「「 しゃあぁーーーーーすっ! 」」


 両者、メンホーをかぶり、きゅっときつく装着した。

 水城は帯をぎゅっと締め直し、腕組みをして待っている。光太郎はその場で膝や肘をよく伸ばしたり、腰を捻ったりするような動きをして、戦闘モードを整えている感じだ。


   ~~~選手!~~~


「(さぁ、朝香家の力というものを、この俺相手に見せてもらおうじゃないか、一年生)」

「(日本一は、この朝香家の空手や! 瀬田谷学堂の時代は、終わりや!)」


 光太郎は、開始線で既に両拳に力を溜めている。水城は、いまだにうっすら笑って余裕綽々といった感じ。


「「 光太郎・・・・・・ 」」


 朝香姉妹も、メインアリーナの東西にある扉部分で、振り返って見つめていた。

 注目の男子個人組手決勝。東京対大阪。王座に君臨する三年生と、新進気鋭の一年生。まったく予測がつかない対戦カードに、再び、全観衆の目が集まっていた。


「勝負、始め!」


   ・・・・・・キイイイィィィィーーンッ!  スパアァーーーーーーーンッッ!


「止め! 青、上段突き、有効!」

「「「「「 え! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ どよどよどよどよどよどよ

   ザワザワザワザワザワザワザワザワ  どよどよどよどよどよどよどよどよ


 開始一秒。水城が前に一歩踏み出した時、光太郎はそのリーチ差を活かし、姉二人を彷彿とさせるフォームでの高速上段突きを決めていた。


「「「「「 ええよぉーーーっ! 光太郎ーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 朝香ぁ、どんどんそのまま行けやぁーーーーっ! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアー  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


 観衆も一瞬、あの水城が一年生に速攻を決められるとは微塵も思っていなかったのか、時間が止まった。だが、その後すぐに大歓声が湧いた。


「す、すげぇな朝香の弟! 水城に速攻とは! ほんとに一年かっていうスピードだぜ!」

「俺もびっくりだ泰ちゃん! 朝香の名は伊達じゃない! フォームも姉と同じ無駄の無い洗練されたフォームだ! 風切り音も尋常じゃないキレ味だ!」


 井上や神長だけでなく、前原も驚いている。田村は、普通の顔をして眺めているが。

 水城も、開始線でメンホーをくいっと直し、口元は微かに笑っている感じだ。


「続けて、始め!」


   キュウンッ!  キイイイィィィィーーンッ  パパパパァン!

   キイイイィィィィーーンッ  ドパァン! ドドン! ドパァン!

   キイイイィィィィーーンッ  パパパァンパパパァン!  パパパァンパパパァン!


 まさに「朝香の音」を響かせる猛連撃。超高速の連打や蹴りが、水城へ間髪入れずに叩き込まれる。

 水城は得意のフットワークで間合いをうまく切っていくが、その速さを上回る踏み込みで光太郎が攻めている。驚くことに、スピードは、光太郎が上か。


「「「「「 ぶちかましたれ朝香! 水城龍馬をしばいたれやぁーっ! 」」」」」

「やったれ朝香! 水城龍馬のスピードを超えられるんはお前だけや!」


 猪渕も、大阪陣営から身を乗り出して応援している。


   キイイイィィィィーーンッ!  ドガアァァァァッ! バチイイィッ!

   キイイイィィィィーーンッ!  ドオンッ!  ドオンッ!  ドドォンッ!


「すごいね、朝香さんの弟。あの水城君を相手に、追い込んでるよ!」

「姉によく似てるね。アタシが見た感じだと、朋子と舞子じゃ朋子寄りの組手かな、弟は」

「あははッ! なぁんでまぁ、三人ともあんな高速の組手ができるかなぁッ? あの弟クン、一年なのに頑張るねぇーッ! ・・・・・・でも、最初だけしか通じてないケドねー」


   キイイイィィィィーーンッ!  パパパパァンパパパパァンパパパパァン!

   ・・・・・・フオォォォォォォンッ!   ギュアアアァァァッ・・・・・・


 連突きで水城を場外ギリギリまで追い込んだ光太郎。そして、風切り音を立てて、大きな足底が水城の顔面を襲った。


   ・・・・・・パカアアァァァァッッ・・・・・・


「止め! 青、上段蹴り、一本!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアーッ!

   どよどよどよどよどよどよどよどよ  ザワザワザワザワザワザワザワザワ


「「「「「 ナイッス一本やぁ! ええぞ朝香! どんどんいてまいえや! 」」」」」

「「「「「 水城龍馬なんぞ恐るるに足らずや! いっけるでぇ光太郎ーっ! 」」」」」


 水城より背が高いのが有利になっているのか、場外ギリギリの所で高速の上段前蹴り一閃。

 真っ正面から一気に顔を蹴られた水城はそのまま場外まで押し出され、ぐらっと身体を鞭のように揺らし、踏みとどまった。


「(やった! どぉや! これが、朝香家の空手や! 朝香家は頂点しか許されへん! この水城龍馬を超えて、朝香家の名をもっとお姉たちと響かせるんや!)」


 開始線で、小さく拳を握ってガッツポーズをする光太郎。点差は一気に4対0。もう、半分勝利を確信したかのような笑みを水城に向けていた。


   ワアアアアアアアアアアアアアアアー  ザワザワザワザワザワザワザワザワ


「おい、恩田。・・・・・・龍馬君、まだポイント入ってないよな?」

「なぁに、あの一年、やっちまった感じがあるぜ。よりによって龍馬君の顔面を蹴っ飛ばした上に、あからさまな笑いを見せちゃ、もう知らねぇよ俺たちは・・・・・・。桑浦、俺たちが龍馬君の恐ろしさは、一番わかってんだろ?」

「そうだな。・・・・・・朝香光太郎とか言ったな、あのなにわ樫原の一年。・・・・・・かわいそうに。南無阿弥陀仏、だな」


 東京陣営では、瀬田谷学堂の恩田や桑浦たちが、団体組手の準備をしながら話をしている。ここから水城は果たして、挽回できるのだろうか。


   ・・・・・・ズオオオオオオオ・・・・・・ッ・・・・・・・

   ・・・・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・


「(くっくっく・・・・・・。朝香の空手、か・・・・・・。・・・・・・一年坊ごときがぁ、この俺の顔を蹴りつけるとはな・・・・・・。良い度胸じゃないか! 覚悟できてんだろうなぁッッ!)」

「(え! 何や? ・・・・・・この威圧感!)」


 栃木陣営の所から見ていてもわかる、水城の殺気に満ちた表情とものすごい闘気。

 開始線に立っている水城の目は光太郎を突き刺し、締め上げるかのような殺気が漂っている。

 笑顔は消え、体躯で勝る光太郎を飲み込むかのような圧力で、メンホーの奥にある両目を尖らせている。スポーツマンなどではない、狂気じみた鬼のような目つきだ。


「水城のやつ、やーっと本気かぁ。遊びすぎなんだよねぇー。まぁ、俺と団体戦やった時には、あんな殺気はなかったけどねぇ。一年に調子込まれて、ちょっとお怒りなのかねぇ?」

「す、すさまじい闘気というか、殺気というか。ピリピリ伝わってくるね田村君・・・・・・」

「ま、スポーツでもあるけど、あくまで武道の競技だからねぇ。超エリート優等生みたいなあの朝香弟の組手が、こっからの水城にどこまで通用するかねぇー・・・・・・」

「田村君とやった時もすごかったのに、あれが本気じゃなかったなんて。本気じゃなくても、水城君は超高速レベルで動いてたけど。いったい、本気だと、どれほどまでに・・・・・・」


   ・・・・・・ズアアアアアアア・・・・・・  ・・・・・・ユラアアアアア・・・・・・


「(な、何やこの圧力! 水城龍馬の雰囲気が、変わった!?)」


 陽炎が立つかのように揺らめく、水城の殺気と闘気。それを感じて、光太郎は渋い表情に冷や汗がつうっと垂れていた。

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