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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第5章 勝負の世界の「白と黒」
93/106

2-93、妹と姉

   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


 その後、男子個人形も決勝戦が行われ、昨年に引き続き、大阪府 なにわ樫原高校の一馬場新星選手が地元沖縄の県立屋良泊南高校の花城寛人選手を5対2で下し、連覇を遂げた。

 個人形の決勝は男女とも終了し、センターコートは個人組手の決勝戦へと組み替えられる。


   ひた  ひた  ひた  ひた・・・・・・


「あ、末永さんっ! いや、惜しかったね! でも、インターハイ準優勝、おめでとう!」

「小笹、お疲れさま! いやー、美鈴ちゃんも小笹も、すごいスーパーリンペイだったけど、やっちったね? ま、それも、勝負結果の一つだから、しゃーないけど・・・・・・」


 微笑む母の末永と一緒に、小笹が栃木陣営に戻ってきた。タオルで目を拭っている。前原は気づかなかったが、決勝の形で、小笹は少しのミスがあったらしい。


「あー、もぉーっ! ワタシ、美鈴に負けたのが悔しくて! あー・・・・・・なんで、あの二段蹴りの着地、ぴしっといかなかったんだろー・・・・・・。ほんと、悔しいなぁッ・・・・・・」

「やっぱり、そこだよね。着地の時に、ぐっと四股立ちが引き締まっているべきところを、一瞬だけ、ふっと膝が緩んでたよね? 私も真波も、ここにいるほとんどが、『あ!』って思ってさ。さすがに、形の最後の最後だから、審判もごまかせなかったね・・・・・・」

「アタシも、そこまではほんと、どっちが勝つか五分五分でわからないくらいだったけどさ。やっちまったなー小笹・・・・・・って、わかっちゃってー。でも、準優勝でも胸張りなよ!」


 森畑と川田が、涙ぐんでいる小笹の頭をわしゃわしゃ撫でながら、笑顔で慰めている。一瞬のミスで、小笹と美鈴の勝敗は完全に分かれたのだ。


「いやー、しかし、すごいですね末永先生! 海月女学院高校も、部では無い個人とは言え、インターハイの銀メダルですよ! これはきっと、学校に戻られてからも、なにか特別なことがあるんじゃないですか?」

「ありがとうございます、早川先生。私も正直、びっくりなんです。監督席で、初めてこの子の組手や形を間近で見ました。観客席からではなく、目の前で見たこの子の空手は、ここまで凜としてて、こんなに堂々と頑張ってやっているのか、と思いました」

「本当に、素晴らしい娘さんですよ!」

「私は素人ですが、こんなに高校生たちが青春のまっただ中にて、空手へ打ち込んでいるというのが素晴らしいとは、思ってもいなかったので。・・・・・・がんばったね、小笹?」

「準優勝っていちばん悔しいんだよぉッ! ・・・・・・でも、まぁ、お母さんが一生懸命監督席から応援してる顔が見えたしねッ・・・・・・。ワタシ、やれるだけ、やってきたよ!」

「末永小笹。・・・・・・決勝の形、悔しいが私じゃ敵わなかった。優勝できなくて残念だったな。だが、まだ、来年もあるんだ。秋の新人戦も、勝てばセンバツ大会へ繋がる。だから、これに甘んじず・・・・・・頑張れよ?」


 諸岡はちょっと悔しそうな顔をしながら、小笹へ手を差し出した。それに対して一瞬戸惑った小笹だったが、ぱんっと手を叩き返して、笑顔で応えた。「はいっ」という返事で。

 柏沼メンバーのみならず、等星女子、日新学院、鶉山メンバーから笑顔で讃えられている小笹。

 ニコニコと小笹が照れ笑いしているうちに、センターコートでは、既に入場準備が整っていた。


   ザワザワザワザワザワザワザワザワ  ザワザワザワザワザワザワザワザワ

   がやがやがやがやがやがやがやがや  がやがやがやがやがやがやがやがや


 前原や井上たちが和やかに小笹と話している横では、田村、川田、森畑の三人が、じっとセンターコートを無言で見つめていた。


   ~~~ ただ今より! 女子個人組手、決勝戦を開始します! ~~~


   ワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


   ~~~ 赤、前年度優勝! 等星女子高等学校! 朝香朋子選手ッ! ~~~


「はいーっ!」


   ♪ ジャンジャンジャッジャッジャ! ♪ ダッダァーンダンダンジャァーン! ♪


 東側の入口にスポットライトが当てられ、激しい曲に乗って朝香がセンターコートへ向かう。

 鋭くも美しく、冷ややかでも熱く燃えたぎった目。そして闘気。その入場に、館内全ての拳士が惹きつけられていた。

 朝香はいつもと変わらず、至って平常心を乱していないようだ。


「「「「「 (絶対女王、朝香朋子だ! 今年もますます強さが際立ってるぞ!) 」」」」」

「「「「「 (相手は同じ朝香家の、朝香舞子やろ? 朝香家の独壇場やね、この大会) 」」」」」

「「「「「 (姉と妹、どっちが強いんじゃ? 決勝、姉妹で白黒つけるんかいな!) 」」」」」


   ザワザワザワザワザワザワザワザワ  ザワザワザワザワザワザワザワザワ

   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


 館内がざわつき、西側の入口にライトが当たった。


   ~~~ 青、京都府! 花蝶薫風女子高等学校! 朝香舞子選手ッ! ~~~


「はいーっ!」


   ♪ ジャン! ジャジャッジャーン! ♪ ダッダッダァーン! ジャァーン! ♪


 左脇にメンホーを抱え、重低音のものすごい曲に合わせて舞子が入場。

 薄暗い中でもわかるほどに、バチバチと響くほどの闘気を纏って、センターコートへと向かう。

 姉とよく似た姿ではあるが、組手の内容や性格は真逆と言って良い。果たして、実の姉を相手に、舞子はどう戦うのだろうか。


「「「「「 朝香先輩ファイトでーーーーす! 等星ーーっ! 必勝ーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 朝香ぁーーーーっ! 等星の姉に負けるんやないでぇーーーっ! 」」」」」

「「「「「 朝香先輩ーーーーっ! 等星、常勝ーーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 朝香先輩ーーーーっ! 花蝶魂! 必勝ーーーーっ! 」」」」」

「「 朋子ーーーーっ! 遠慮はいらない! 全力解放でーーーーっ! 」」

「「「「「 舞子ぉーーーーーーっ! 今年こそ、下克上やでーーーっ! 」」」」」


 栃木陣営では等星応援団が大音声を上げている。対する京都陣営からの声も、既にたくさん飛び交っている。


「なんかねぇ、どっちも朝香だから、応援の声がややっこしいんだよねぇ。かといって、ややこしいからって俺が、朋子ーって叫ぶわけにもいかないしねぇー」

「僕たちはいつも朝香さんなんだから、いつも通りでいいんだよ。田村君も、いつも呼んでるように応援すれば、それで良いんだと思うよ?」


 因縁の朝香姉妹の頂上決戦。いったい、どんな勝負になるのだろうか。


   ~~~ 選手ぅ! 正面にぃーっ! 礼っ! お互いにぃーっ! 礼ーっ! ~~~


「「 お願いしまぁーーーーーすっ! 」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!


「朝香姉妹の決勝戦かぁ。・・・・・・アタシ、お姉ちゃんと試合で当たることなんかないしなぁ」

「そうだね。私も、姉とあたるなんて、ないな。ある意味、朝香姉妹が羨ましいかも・・・・・・」


 コートを見つめてぽそっと呟く、川田と森畑。


「え! 川田先輩も森畑先輩も、お姉さんいるんですか? わたし、初耳でした!」

「俺も! みつる、知ってた?」

「知らない! いま、初めて知った! え? いくつ上ですか?」

「(そ、そうなんだ。川田さんも森畑さんもお姉さんいたなんて知らなかった。長女じゃなかったのかぁ)」


 後輩はもとより、同期である前原も知らなかった事実。川田と森畑の二人には、姉がいるらしい。


「んーと、五歳上だね。アタシが小学一年の時、お姉ちゃん六年生だったから」

「真波のお姉ちゃんも私の姉も同期で、先輩だよ? 柏沼高校空手道部卒だかんね!」

「「「 ええぇ! そうなんですか! 」」」

「そ、そうだったの! ねぇ、田村君とかみんなは、知ってた?」

「俺は主将だもん、武道場の事務机の中に、歴代先輩の名簿あっから知ってるよ?」

「俺は尚ちゃんに名簿見せてもらったことがあったなぁ。ちょうど、今年の一年生で百名ほどだった気がするな、歴代部員は」

「おれも、川田にお姉さんがいるのは名簿で知ってたが、その人と同期の森畑って先輩が姉とは知らなかったな。部室の奥に、歴代先輩の賞状とか、あるぞ?」

「真波のお姉さんも菜美のお姉さんも、二枚看板でめっちゃ強い女子選手だったらしいぜ?」


 前原は副将なのだが、他の同期メンバーのほうが部のことをよくわかっているらしい。


「アタシのお姉ちゃんはいま、大学卒業して、秋田県で新人OLやってる。菜美のお姉ちゃんは、どこぞの町で公務員かなんかだったね?」

「もう、二人とも空手からは離れちゃってるけど、ヤル気になれば身体はまだガンガン動くと思うよね? デスクワーカーで、鈍ってるだろうけどさ」


 川田や森畑に姉がいて、さらに前原たちの直属の先輩にあたるという事実が判明。

 前原は「きっとこの二人と似たような雰囲気だったんだろうか」なんてことを考えていた。


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!

   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


 そんな話をしているうちに、組手の決勝戦が既に始まっていた。


   ・・・・・・キイイイィィィィーーンッ!  バシイッ! キイイイィィィィーーンッ!


   ドシュンッ!  キイィンッ!  ドオンッ! キイイイィィィィーーンッ!

   ドパパパパパァンッ!  パパパパァン!  キイイイィィィィーーンッ!

   ドガアアァッ!  バチイイィッ!  バチンッ バチンッッ  パパパパァン!

   キイイイィィィィーーンッ  キイイイィィィィーーンッ  フオォォォォォォンッ!

   フオォォォォォォンッ!  キイイイィィィィーーンッ パパァンッ! ドパァンッ!


「と、とんでもねぇな、朝香姉妹・・・・・・。なんだ、あのスピード! ぶるぶる ぶるぶる」

「震えんな井上! おれも驚いているんだ。そこらの男子じゃ、あの姉妹にはまったく歯が立たないかもしれん! なんということだ、信じられん!」

「・・・・・・朝香姉妹・・・・・・。つ・・・・・・強い! ・・・・・・これほどの戦いとは・・・・・・」


   キュンッ!  キイイイィィィィーーンッ  バチイイィッ!

   パパパパァン! パパパパァン パパパパァン!  キイイイィィィィーーンッ!

   フオォォォォォォーンッ!  ゾヒュウウゥゥゥッ!

   キイイイィィィィーーンッ!  ドバッババァァンッ!  パパパパパパパァン!


「(お姉! ウチはもう、お姉の二番煎じやないわぁ。どう? お姉のレベルにはさ、ウチも追いついとるんやでぇ? さぁ、どっちが先制点とるやろかぁ?)」

「(・・・・・・。)」


   ・・・・・・フオォォォォォォンッ!  キイイイィィィィーーンッ  バチイッ!

   キイイイィィィィーーンッ  ドシュンッッ!  ドパアァーーーンッッ

   ドシュンッ!  キイィンッ!  パパァーーーーンッ


 決勝戦の試合開始から、未だに主審が「止め」をかけずに、超高速と光速の攻防戦は留まるところを知らずに続く。

 突きや蹴りの飛び交う音、お互いに技を防ぐ音、技が抜ける音、技が掠める音。どれもが尋常じゃないレベルでの速度によって、ジェット機かスポーツカーかと思うほどの風切り音が舞う高速戦。

 手数やその速度、体捌きに足捌き、その動きは音速戦闘機が飛び交い、機銃やミサイルを撃ち合うかのようだ。


   キイィンッ!  キイイィーーンッ!  チュドドドドドドォッ!

   キイイイィィィィーーンッ!  ズバアンンッ!  パァーーーーンッ!


「(お姉の攻撃は普通に見える。けど、ウチの攻撃も見切られとるなぁ。まぁ、さすがはお姉と言ったとこか・・・・・・。ふふっ。ならぁ・・・・・・ウチはウチらしくいかせてもらうわぁ!)」


   キイイイィィィィーーンッ!  キイィンッ!  ダアァンッ!  ・・・・・・ススッ


「(・・・・・・。)」

「(お姉め・・・・・・。踏みつけ、見切ったか・・・・・・)」


 舞子は、スピード感溢れる突っ込みの中、朝香の足の甲めがけて踵から強く踏み込んだが、冷静にこれを朝香は顔色一つ変えずに避けた。


   キイィンッ!  シュバシインッ!  シュバシインッ!  ・・・・・・ススッ

   キイイイィィィィーーンッ  ダダァァンッ!  パパパパァンパパパパァン!


 舞子の猛攻が続く。朝香は初めこそ打ち合っていたものの、なぜか途中から受けに回る場面が増えてきた。

 常人には到底理解できないほどのスピード感。女子の試合で、両者がこれほどの速度で動く試合は、前原や井上をはじめ、柏沼メンバーの誰もが見たことがないものだった。


「(どーぉ? お姉、ウチの組手、お姉と同レベルにまでなったんよぉ? もう、朝香家には『朝香朋子の妹』はおらんのよぉ。おるんは、朝香朋子、朝香舞子、朝香光太郎の三人。ウチは、お姉を超えて、さらに朝香家を輝かせなあかんのぉ!)」

「(・・・・・・。)」


   キュウンッ!  キイィンッ!  ズパパパパパァァンッッ!  パパパパァン!

   キイイイィィィィーーンッ!  ドシュンッッ!


 試合時間、残り半分。未だポイントは入らず。いったい、この「超ハイレベルな姉妹喧嘩」のごとき勝負は、いったいどうなるのだろうか。

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