2-92、激突!「東恩納」の末裔二人
昼休みの間に、メインアリーナは係員がコートの組み替えをせっせと行っていた。
準決勝戦まで四面あったコートが、中央に一面のみのセンターコートになった。この最終決戦が行われる一面にたどり着くのは、容易なことではない。
日々の稽古を積み重ね、各都道府県予選を勝ち抜き、さらにこのインターハイを勝ち上がらなければたどり着けないところだ。どんな実力者でも、どれほど実績を持った者でも、たった一回負けてしまえばこのセンターコートに立つことはできない。
勝負の世界は、何だかんだで勝つか負けるかの白黒二つしかない、シンプルな世界なのだ。
「小笹はもう、きっとスタンバイしに行ったんだね? 何だかんだですごいよね、あの子さ。羨ましくもあり悔しくもあるけど、アタシはここまでたどり着けなかったもんなぁ・・・・・・」
「真波だけじゃないよ。私も、田村も前原も、中村も井上も道太郎も、みんな同じよ。二斗や畝松、堀庭、崎岡に諸岡。みんな、ここで一緒にいるメンバーは、毎日きつい稽古を積んでここにいるけど、センターコートには立てなかった。こうなったら、小笹と朝香に全てを託して、全力で応援しようよ!」
「そうだね! しかし、美鈴ちゃんも小笹もまだ二年生だもんなぁ。来年もあるってのは羨ましいなぁ。あー、アタシも若返りたいよ。いくつか集めれば願いを叶えてくれる宝石とか、沖縄にないかなぁー」
「・・・・・・川田の発想って面白いな? 等星にはいないタイプだ。森畑、いつもこうなの?」
「まぁ、うん、そうだね。真波はずっとこんな感じかな。・・・・・・でも、小笹、だいじょうぶかなぁ? 午前中の組手のダメージや疲れ、けっこうあると思うけど・・・・・・」
「それは、二種目出てるんだから仕方ないさ。現に、うちだって、朋子や里央、それに大澤や矢萩だって、普段はみんな形と組手の二種目出てるしな」
「崎岡の言うとおりだねぇ。形も組手も、出たからにはもう言い訳はできないよなぁ。でも、末永は、何だかんだで言い訳せずに、気持ちを形モードに切り替えて降りてったから、きっとだいじだ! 迷いも言い訳も無いはずだ。決勝、何を演武するのか楽しみだねぇー」
「おれは、末永ちゃんはアーナンをやると思ってたけど、準決勝で使っちゃってるからなぁ。いったい、決勝形は何をやるのか。それにしても、これを勝てば、年末の全日本選手権に高体連代表で出ることになる。ナショナルチーム選考会に参加できる基準すら、もう持ってるのがすごい!」
「お! おいみんな、アリーナの扉が開いたぞ! 東側と西側、同時にだ!」
井上が興奮して、メインアリーナを指差した。決勝戦、まずは女子個人形からだ。
~~~ ただ今より! 女子個人形、決勝戦を開始します! ~~~
ワアアアアアアアアアアアアアアーッ!
~~~ 赤、沖縄県! 県立うるま錦城高等学校! 東恩納美鈴選手ッ! ~~~
「はぁぁーーーーいっ!」
♪ ジャラランジャララン ジャンジャンジャラン ♪ ダッダァーン! ♪
東側の入口にスポットライトが当てられ、館内アナウンスとともに、音楽に乗って美鈴がセンターコートまで歩いていく。これまでとは違う演出に、館内は大盛り上がりだ。
「「「「「 みすずーーっ! ちばりよぉーーーっ! 優勝ーーーっ! 」」」」」
「「「「「 東恩納先輩ーーーっ! ちばりぃよぉぉーーーっ! 」」」」」
「「「「「 東恩納ーーーっ! ファイトォーーーーッ! 」」」」」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!
沖縄陣営からの、ものすごい声援が一気に湧き上がる。
美鈴は入場しながら、沖縄陣営に向けて拳をぐっと突きだした。地元開催であり、地元の期待と声援を一気に吸収し、その目は闘志の炎が浮かび上がっているかのように、きらりと輝いている。
「す、すっげぇ演出だな! プロ格闘技と間違えそうなくらいだ! すっげぇ!」
「泰ちゃん! こ、これがインターハイの決勝なのか! こりゃ生半可な精神力じゃ、逆に呑まれてしまいそうだぞ?」
「だいじだ、道太郎! 小笹ちゃんは、呑まれるなんてひ弱な神経じゃねーよ!」
「まぁ、そうだな。いやぁ、しかし、これはすごい!」
井上と神長も、この演出に驚きを隠せない。大南や内山はセンターコートだけでなく、館内を見回して、ぽかんとしている。等星や日新学院の応援席にいる一年生も、これには驚いているようだ。
~~~ 青、栃木県! 海月女学院高等学校! 末永小笹選手ッ! ~~~
「はぁーーーーいっ!」
♪ ドコドコジャラララ ジャンジャカジャン ♪ ドドンドドーンッ! ♪
西側の入口からは、別な曲に乗って小笹が入場。
スポットライトに照らされながら、ニコニコして歩いている。確かに田村が言ったとおり、迷いも何もない表情だ。呑まれているどころか、逆にこの演出を楽しんでいるように見える。
「小笹ファイトだよーっ! アタシたちの分まで、思いっきりやってこーいっ!」
「小笹がんばれーっ! 勝てば高校日本一だよっ! 優勝しちゃえこのままーっ!」
「「 小笹さん、ファイトォーっ! 」」
「「「 末永ちゃん、がんばれえぇぇぇーっ! 」」」
「「「「「 頑張れよ末永小笹ぁーっ! 優勝もぎとれーっ! 」」」」」
「「「「「 末永小笹、ファイトォーーーーーーっ! 」」」」」
「「「「「 栃木県ファイトォーっ! ファイ! ファイ! ファイ! 」」」」」
栃木陣営からも、柏沼高校メンバーを筆頭に、みんなで小笹へ大きなエールを送る。
川田と森畑は、それぞれで特に大きな声を張り上げていた。
そして二人の選手が、センターコートに降り立った。静かに立ち、闘気は激しくぶつかる。
「(さぁて、小笹との一騎打ちか! 楽しみさぁ! あたしを大いに楽しませてよねッ!)」
「(まさか、決勝でほんとに美鈴とやるなんて! くすっ。ワタシ、全力でいくからね!)」
どきどき どきどき どきどき・・・・・・ バチッ! バチッ!
七人の審判員が並び立ち、いよいよ、始まる。見ている者全員の心臓も、高鳴っている。
~~~ 選手ぅ! 正面にぃーっ! 礼っ! お互いにぃーっ! 礼ーっ! ~~~
「「 お願いしまぁーーーーーすっ! 」」
美鈴と小笹は、コートを挟んで同時にお互い深く一礼。
「いよいよかぁ。まるで大相撲の横綱土俵入りのようだ。東と西から、なんてなぁ」
「すごかったね。田村君は、この女子決勝、何の形がぶつかると思う?」
「読めないねぇ。まず、末永がどれほど形をマスターしてるかにもよるけど。美鈴ちゃんは、剛道流だから、だいたいの決勝形は予想つくけどな」
そうこうしているうちに、赤の美鈴が先攻で入場。ゆっくりと一礼し、堂々とした物腰ときりっとした瞳で、コート中央へと進む。そして、ゆっくりと、また一礼。
・・・・・・しぃーーーーん・・・・・・
会場は、みなセンターコートに注目し、静寂の時が流れる。
「スーパァー・・・・・・リンペェーーーーイッ!」
かっと目を見開き、美鈴が発した形名は壱百零八歩。
剛道流最高峰の形と言われ、那覇手技法の集大成とされている高難度の形。メインアリーナから、美鈴が裂帛の気合いで空気を弾き、一瞬で凜とした場に変えた。
「スーパーリンペイ、か・・・・・・」
諸岡が一言呟き、真剣な眼で見つめる。
スゥ コォォ・・・・・・ハアアァ・・・・・・ッ フワァ ギュッ シュパパァンッ!
ギュッ シュパパァンッ! ギュッ シュパパァンッ! スウウーッ シュパアーッ
シュバッ グルンッ パシィ! シュバッ グルンッ パシィ! スゥ グギュウゥッ
シュバッ グルンッ パシィ! シュバッ グルンッ パシィ! スゥ グギュウゥッ
シュバッ グルンッ パシィ! シュバッ グルンッ パシィ! スゥ グギュウゥッ
シュバッ グルンッ パシィ! シュバッ グルンッ パシィ! スゥ グギュウゥッ
スーパーリンペイの特徴でもある、四方向へ仕掛ける技の数々。
美鈴の形は、そのキレもすごいが、独特な粘っこさと緩急が技のひとつひとつに見られる。
フウゥ シュバアッ スウ シュバアッ スウゥ シュバアッ グッ・・・・・・
バッ ドォンッ! バッ ドォンッ! バッ ドォンッ! バッ ドォンッ!
ググゥーッ シュバシィッ ドパァンッ! ググゥーッ シュバシィッ ドパァンッ!
ググゥーッ シュバシィッ ドパァンッ! ググゥーッ シュバシィッ ドパァンッ!
ゆっくりとした回し受けから、一気に吹き荒れる嵐のごとき双手突き。そしてまた、ゆっくりと四股立ちで腰を落とし、斜め四方への受けから一本拳による突き技と打ち払い。
重厚さとしなやかさ、そして、呼吸と調和した技の優雅さは、「本家本元」の自信と気迫に満ちあふれていた。
スウッ シュパァン! ズシャッ ダァンッ パァン つぅああぁーいっ! グウッ
パパァン! スウッ サァアッ スウッ サァアッ スウッ サァアッ
スウッ サァアッ スウッ サァアッ スウッ サァアッ・・・・・・
シュパアァーッ ギュルバシィンッ! バッ シャシャアッ! ダァン パァンッ!
ドパァン! ススゥ スウゥーッ・・・・・・ シュバアッ! つぅああぁーーーいっ!
クルッ シュルシュルゥンッ・・・・・・ シュパッ サアァ スッ・・・・・・
「「「「「 きぃまったぁーーーーーっ! 東恩納ぁーーーーーーーっ! 」」」」」
「「「「「 決まったぁ! 東恩納先輩ーーーっ! 」」」」」
ワアアアアアアアアアアアアー ワアアアアアアアアアアーッ!
パチパチパチパチパチパチパチ パチパチパチパチパチパチパチ!
ものすごい大歓声。まったく一点のブレも無く、四方八方にいる相手が吹き飛ばされそうなイメージが見えるほどに完成された、美鈴のスーパーリンペイだった。
そして、美鈴は一礼し、くるっと向きを変えて一度、コートから出る。
「(くすっ。みすずぅ・・・・・・なぁんて形を見せつけてくれんのさ! このワタシにぃー)」
替わって、小笹が入場。先程までの楽しそうな表情から、いつの間にか、これまでにない真剣な表情に切り替わっている。
「(さぁ、あたしは演武終えたよ? 小笹、全力でかかってくるといいさぁ!)」
小笹の入場を、美鈴も真剣な眼差しで追う。
・・・・・・すうっ・・・・・・
ゆっくりと一礼し、黒目をきゅっと引き締めて一気に息を吸って吐き、小笹の体内に満ちた気が爆発した。
「スゥーパァーリィンペェェェェーイッ!」
「「「「「 な! お、同じ形をっ? 」」」」」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
小笹が発したのは柏沼メンバーみな同時に驚く、まさかまさかの、スーパーリンペイだった。
小笹が負けず嫌いなのはみな知っていたが、故意か偶然か、まさか美鈴と同じ形を決勝戦でぶつけるとは誰も思ってもいなかったのだ。
「ぼ、僕、末永さんのスーパーリンペイを見るのは初めてだ」
「悠樹だけじゃねーぞ。俺だってそうだ」
「前原も井上も、そーんな慌てんなよぉー。沖縄剛道流がバックボーンなら、ごく普通じゃないかねぇ―?」
「だ、だからってよぉー・・・・・・」
スゥ コォォオオ・・・・・・ハアアァーッ ハッ! フワァ ギュッ シュパパァンッ!
ギュッ シュパパァンッ! ギュッ シュパパァンッ! スウウーッ シュパアーッ
シュバッ ギュルッ パシィ! シュバッ ギュルッ パシィ! スゥ シュルウゥッ
シュバッ ギュルッ パシィ! シュバッ ギュルッ パシィ! スゥ シュルウゥッ
シュバッ ギュルッ パシィ! シュバッ ギュルッ パシィ! スゥ シュルウゥッ
シュバッ ギュルッ パシィ! シュバッ ギュルッ パシィ! スゥ シュルウゥッ
「なんてことだ! これが、末永小笹の・・・・・・スーパーリンペイか! こんな形も持っていたなんて・・・・・・」
「諸岡、アタシも小笹のスーパーリンペイを見るのは初めてなんだ! こりゃビックリだね!」
小笹と美鈴はイトコ同士。祖母は共通の、東恩納キヨだ。
そして遙か昔の先祖には、あの那覇手の達人、東恩納厳量を祖に持つ二人。その二人が、同じ形で、この沖縄インターハイの決勝戦で競い合うというのは、なにかとてつもない運命のようなものを感じることだろう。
フウッ クルウンッ スッ クルウンッ スウ クルウンッ グウゥッ・・・・・・
ズバッ ドンッ! ズバッ ドンッ! ズバッ ドンッ! ズバッ ドォンッ!
ギュゥーッ シュバシィッ ドパァンッ! ギュゥーッ シュバシィッ ドパァンッ!
ギュゥーッ シュバシィッ ドパァンッ! ギュゥーッ シュバシィッ ドパァンッ!
顔立ちも体つきもそっくりな二人だが、同じ形を演武しても、見せ方や技法、技の表現の仕方が微妙に違うのが面白い。どちらも、とんでもないレベルなのは確かだが。
「末永のスーパーリンペイも美鈴ちゃんのスーパーリンペイも、ほぼそっくりなんだが・・・・・・やっぱり違うねぇー。形は、まったく同じ演武ってのは、無いんだねぇー」
「そうだね。田村君と僕が同じ形やっても違うし、これが形の妙味ってやつなんかもね」
スウーッ ヒュバアッ! ズシャッ ダァンッ パァン つああぁーいっ! ググゥ
シュパァン! スウッ サァアッ スウッ サァアッ スウッ サァアッ
スウッ サァアッ スウッ サァアッ スウッ サァアッ・・・・・・
フワァーッ ギュルバシィッ! バッ ズシャアッ! ダァン (ふっ) パンッ!
ドパァン! シュルンッ スウゥーッ・・・・・・ シュバアッ! つああぁーーーいっ!
クルッ シュルシュルゥンッ・・・・・・ シュパッ サアァ スッ・・・・・・
「「「「「 きまったぁーーーーーーっ! 」」」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチ パチパチパチパチパチパチパチパチ!
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ
「す、すごいや末永さん! すごい!!」
見事な演武だった。まさにこれは、高校女子空手選手の全国一を決める戦いにふさわしいものだと前原は思った。
「なぁ、井上・・・・・・」
「尚久。言わなくても、俺もわかってっから・・・・・・」
「え? どうしたの? 田村君も井上君も?」
「前原、この決勝戦見て、判定はどうなると思う?」
「え! うーん、難しいな。どっちもスーパーリンペイだから差はつけやすいと思ったけど、ここまでお互いに完成度が高いとなー。どっちが勝つかなぁー・・・・・・」
「森畑。川田と見てて、この決勝、どうなると思う・・・・・・」
「小笹も美鈴ちゃんも、すごい演武だった。でも、これは・・・・・・」
「アタシも、もし審判だったら・・・・・・」
「そっか・・・・・・。やっぱ、俺だけじゃなかったか。尚久だけでなく、菜美や真波もわかってるんだと思うしなぁ。悠樹は、何でだかわかってねーし・・・・・・」
「えぇ? ご、ごめん。僕の見た目は、あてにならないのかなぁ」
拍手で湧く館内。前原は二人の演武に魅入ってしまい、何か肝心な部分を見落としたのだろうか。
田村や井上は冷静な目で結果を待っている。森畑と川田は、祈るような目で審判団を見つめている。神長と中村は、真剣な眼差しのままコートを見つめ、頬に汗をつつりと垂らしている。
主審が笛を手に取り、いよいよ、注目の判定だ。
「(ふうっ・・・・・・。さぁて、と。あたしと小笹、どーなりますかねぇーッ・・・・・・)」
「(はぁーっ・・・・・・。ワタシ、決勝戦だってのに、なんてこったぁ。・・・・・・さぁーて、と・・・・・・)」
どきどき・・・・・・ どきどき・・・・・・ どきどき・・・・・・
副審六人が赤と青の旗をくるんと解き、両手に持った。
・・・・・・しぃーーーーん・・・・・・
「あー、やだぁ。アタシ、この判定の瞬間、ほんと嫌なんだよぉーっ! 小笹ーっ・・・・・・」
「奇跡が起きれば・・・・・・小笹が日本一だ! 奇跡が起きれば・・・・・・」
「さぁて・・・・・・判定だねぇ。引き分けはないからねぇー」
どこぞの有名なクイズ番組での回答シーンのように、まだかまだかと焦らされるように、静まりかえった時間が過ぎてゆく。果たして、勝負の結果は。
「判定ぇーぃっ!」
ピィーーッ! ピッ!
バッ! バッ! バッ! バッ! ババッ! バッ! バッ!
ワアアアアアアアアーッ! ワアアアアアアアアアアアッ!
ワアアアアアアアアーッ! ワアアアアアアアアアアアッ!
「赤、6! 青、1! 赤の、勝ちっ!」
七人の審判が一斉に旗を天に向かって突き上げた。
それは、ほぼ、赤一色。五人目の審判だけが青旗を揚げていたが、他六人は赤一色だった。
判定が出た瞬間、美鈴と小笹は同時に天井を見つめ、ふうっと大きく一息吐いた。そして、お互いにがっちりと右手で握手をし、にこっと笑ってコートを去った。
「「「「「 やったやったあぁーーーーっ! おめでとう美鈴ーーーっ! 」」」」」
「「「「「 東恩納先輩ーーーっ! やりましたぁーーーーっ! 」」」」」
「「「「「 うるま金城、日本一ーっ! 沖縄魂さぁーっ! 」」」」」
ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!
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パチパチパチパチパチパチパチパチ! パチパチパチパチパチパチパチパチ!
センターコートに向けて、大歓声が響いた。
結果は6対1。美鈴は沖縄陣営の大喝采を浴び、拍手が雨あられのように降り注いでいた。
「「「「「 海月女学院の末永選手もー、強かったさぁーっ! ありがとーっ! 」」」」」
「「「「「 あんたがいなかったら、この素晴らしい試合、なかったさぁーっ! 」」」」」
沖縄陣営からの言葉に、小笹が振り向いた。栃木県勢の陣営からもその様子がよく見える。
「小笹。沖縄の人たちが、あなたの頑張りも認めて讃えてくれているんだよ。さぁ、胸を張って、応えてあげなさい。小笹の気持ち、そのままを、沖縄の人たちにね」
末永は、そっと小笹の背中を押し、優しく微笑んだ。
小笹はこくっと頷き、沖縄陣営に向かって一礼し、大きく声を発した。
「にふぇーでーびる。ワタシら、いちゃりばちょーでーさぁ!」
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「えっ? なんであの栃木の子、ウチナーグチ話せるのぉ?」
「でも、なんか、東恩納先輩に似てるさぁ? 他人の空似は世界に三人いるらしいし、たまたまじゃないー? いやぁ、すごい試合だったさぁ。あの子も、まるで、沖縄の空手にほぼ同等の形やってて、びぃっくりしたさぁー」
小笹が発したお礼の言葉は、まさに「ここ」の言葉。一度会えば皆兄弟、とは、柏沼メンバーも味わった、沖縄の方々が見せる特有の温かみや優しさを表したものだろう。
惜しくも、小笹は準優勝となった。
美鈴はインターハイを優勝し、高校空手界の頂点に立ったことで、年末には東京の武道館で開催される全日本選手権に高体連代表として出場することになる。
「やれやれ。すごい決勝だった。・・・・・・どっちが勝っても、おかしくないレベルだったがな」
二人の勝負を見て、諸岡もふっと笑みを零し、たくさんの拍手をセンターコートに贈っていた。
琉球王朝時代の沖縄武士たちも、きっといま、この戦いをどこかから見ているのだろうか。そんな気がして、前原は目頭が熱くなり、ふっと窓から見える碧い海を見つめていたのだった。
東恩納厳量の末裔である、末永小笹と東恩納美鈴。
那覇手の達人の遺伝子を受け継ぐ二人の激突は、ここに幕を閉じたのだった。