2-89、女子二人の、実戦喧嘩空手!
「勝負、始め!」
「ツアアアァーーーッ」
「(さぁーてとッ! ワタシにどう仕掛けてくるのぉ? 朝香妹! くすくすっ)」
・・・・・・シュタンシュタン シュルルンシュルルン シュララッシュララッ
お馴染みの、滑らかで滑るような独特の動き。
小笹は、舞子から間合いを取って、左右に動きながら様子を探っている。
「(・・・・・・。)」
舞子は小笹の動きに対し、まだ特に構えることなく、自然体でいるのみ。
その目を左右に動かし、動きを確認しているだけのようにも見える。
「小笹・・・・・・。朝香舞子を相手に、そこまで余裕ではいけないと思うよ? ほんと、気をつけてよね・・・・・・」
ドクター席から、川田が汗を垂らしながら視線を送る。
そしてその時、小笹は舞子との間合いを一瞬詰めて踏み込んだ。
「ツアアアーッ! ツアアアァーーーイッ!」
タタアンッ タアンッ! クルンクルンッ シュバアッ! ドカアッ!
「「「「「 (す、すげぇあの子! 形で決勝行った子だろ? ものすごい蹴りだ!) 」」」」」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
たった一発の蹴りで会場内をざわつかせた、小笹の飛び込み後ろ蹴り。
独特のステップから回転して踏み込み、舞子のみぞおちめがけて、小笹は思い切り踵で蹴り込んだ。
「(ちぇ! 止めたか。間合いが浅かったかもぉ。くすっ。でも、驚いたかなぁーッ!)」
「(・・・・・・。)」
変則的な小笹の後ろ蹴りを、舞子は右掌をすっと先に出し、片手で受け止めていた。
そして、小笹が構えを直してバックステップで間合いを仕切り直そうとした瞬間に、今度は舞子が動いた。
・・・・・・キュウンッ! キイイィィーーンッ チュバアァーーーーーンッッ!
「(なっ! あ、あっぶないなぁッ! ・・・・・・あははっ! キレはものすごいのねーッ!)」
姉に勝るとも劣らない超高速の踏み込みと、無駄のないフォームの追い突き。
間一髪で小笹はそれを打ち払ったが、舞子はさらに踏み込もうとしている。
・・・・・・グッ キュウンッ! キイイィーーンッ キイイイィィィィーーンッ!
ドパアァーーーンッッ! ズバアァーーーンッッ! ザシュウッ・・・・・・
「(・・・・・・いったぁ! 受けるだけでも痛いなぁッ! くすっ。でも、あまりにもお姉サンにそっくりすぎてねーッ! この軌道やスピードは、ワタシもう知ってるよぉーッ!)」
舞子のワンツーによる追い打ちを両掌で弾き飛ばした小笹。
舞子の攻撃は、間合いやリズム、フォーム、何から何まで姉そっくり。確かに、朝香朋子がもう一人いるようなものだ。
「す、すごい! 朝香さんの妹って、お姉さんそっくりの組手だ! 崎岡さん。これは確かに、恐ろしいことだね! あの迅さに付いていく末永さんにも驚きだけど・・・・・・」
「いや・・・・・・。違う。朝香舞子の組手は、こんなスタイルじゃないはず・・・・・・」
「ああ。どういうことだ? これじゃまるで、朋子のコピーだ。こんなはずでは・・・・・・」
「え?」
「どういうこった?」
前原や井上は、崎岡や諸岡が何を言っているのかわからなかった。
「(・・・・・・。)」
キュウンッ! キイイィーンッ! キイィンッ! キイイィィィーーンッ!
チュバアァァンッ! ドバアァァンッッ! ズバアァーーーンッッ!
小笹を追いかけ、攻撃の手を休めない舞子。しつこいほどに、超高速の連続攻撃がどんどん空気を切り裂いて小笹へ襲いかかる。
「(くすくすっ。・・・・・・しつっこいなぁ! このスピードの連打、ちょこっと止まってもらおうかなぁーッ! ・・・・・・やれやれ、ちょっと、使っちゃおうかなぁーッ!)」
キュキュキュッ! キイイィィーーンッ! シュバアアアアァァァッ!
方向を変えた小笹をすぐに舞子は追いかけ、さらに踏み込んで攻撃を仕掛ける。
「ツアアアァーーーイッ!」
シュルッ・・・・・・ ドオンッ・・・・・・ グググウッ・・・・・・
突きをかいくぐり、小笹は舞子と斜めの姿勢同士でぶつかった。舞子の右脇腹と小笹の右脇腹がくっつきあっているほどの距離だ。
「(くすっ。ごめんなさいねぇ! これもぉ、ちゃんとした空手の技なのぉ! しつっこいから、ちょぉーっと黙っててねぇッ!)」
ギュンッ ブンッッ ドスウウッ!
バアアァァンッッ ・・・・・・シュウゥゥ
「(・・・・・・。)」
「(あ、あれっ? ・・・・・・うっそぉ! えええっ!)」
主審にも副審にも見えにくい位置で、密着した状態から小笹は舞子の太腿の付け根めがけ、短くも重い鉤突きを放っていた。
しかし、この超至近距離で放たれた鉤突きは、手の甲で舞子が余裕のブロック。そして、耳元がくっついたメンホー越しに、舞子がぽそっと小笹へ囁く。
「(・・・・・・そういうおつもりやね? ・・・・・・自分で蒔いた種やからね? 覚悟してなぁ?)」
「(は!? なによぉッ? どーいうことぉ?)」
・・・・・・シュルゥゥゥ キィンッ カァァンッッ!
「(・・・・・・っつ! ・・・・・・え!)」
ふらあっ くらあぁっ・・・・・・
密着した位置で、何かが起きた。舞子が動いた瞬間、小笹の顎が少しだけ撥ね上がったのだ。
前原たちからは、何をしたのかまったく見えない。小笹は、ふっと気が抜けたように、千鳥足でよろめいていた。
「(ウチに、えげつない技叩き込もうとしたやろぉ? ふふっ。おしおきやわぁ・・・・・・)」
キュウンッ! キイイイィィィィーーンッ! ズバンズバアァーーンッッ!
「「「「「 あああぁぁーーーーっ・・・・・・ 」」」」」
「止め! 青、上段突き、技有り!」
超高速の上段突きが二発、小笹の側頭部へ叩き込まれた。あまりにも綺麗に入ったため、まるで約束組手のような感じだった。
「な、なんだ!? 朝香の妹、なにやったんだよぉ! 見えたか悠樹?」
「わかんないよ井上君。それにしても、末永さんがいきなり反応できないなんて・・・・・・」
ワアアアアアアアアアアアアアアアー ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!
「(ワ、ワタシいま、何された? 顎先になにか、堅いものが・・・・・・。ひ、肘?)」
開始線で、迷った目をして舞子を見つめる小笹。その様子を見て、崎岡や諸岡がうなる。
「やはり・・・・・・。末永小笹は朝香舞子の動きを止めるために、足の付け根へ鉤突きを当てて痺れさせようとしたな。それを、簡単に防いだ。そして、お返しとばかりに、裏技の肘当てを入れて目眩ましをした矢先に、あれか!」
「ひ、肘当てって! 反則じゃないそんなの! そうか、審判に見えていないところでの裏技って、そういうことか・・・・・・」
森畑は崎岡に向かって驚きの声を上げた。
小笹への裏技返しで、だんだんと、舞子の組手の本性が見えてきたようだ。
「続けて、始め!」
「(・・・・・・ふふっ。さっきまでのは、お遊びやわぁ。お姉の組手のマネゴトちゃんやぁ)」
「(違う! これは・・・・・・朝香朋子の組手とは質が違う! や、やばいねッ・・・・・・)」
・・・・・・スラアアァァァァーーーッ フワアアァァァァーーーッ・・・・・・
舞子はゆっくりと両腕を動かし、舞を舞うかのような優雅さで構えた。
両拳は握っていない。オーソドックスな右構えではあるものの、ふわっと指を開き、握っていない。開かれた両掌はまさに、ひらひらと蝶が舞うように動く。
「(どぉしよーッ・・・・・・。朝香朋子対策の戦法、こいつには使えないなぁッ・・・・・・)」
戸惑ったまま、離れてステップを踏む小笹。相手が相手だけに、以前のように不用意に蹴りを仕掛けていくこともないらしい。
・・・・・・キュキュウンッ! キイィンッ! ダアアンッ グンッ!
「(は、速ぁーっ! まずい! 一旦退がって・・・・・・)」
グン! グン! グンッ・・・・・・
「(え? なにそれ! ちょっとぉッ! ずるーいっ・・・・・・)」
なんと、舞子はノーモーションで小笹の眼前に踏み込んでいたが、それと同時に、前足でがっちりと小笹の爪先を踏みつけていた。
驚いてバックステップしようとした小笹は、前足の爪先を踏み固められて、下がれない。
キイィンッ! チュバアァァンッッ! ドパアァーーーンッッ!
「止め! 青、上段突き、技有り!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ
「「「「「 ナイス上段やぁ舞子ぉーーーーっ! そのまま、もっといこうやぁーっ! 」」」」」
「「「「「 花蝶薫風ーーーーっ! レッツゴーファイトォーーッ! 」」」」」
京都陣営が湧きに湧く。花蝶薫風女子高のレギュラー外メンバーが、大きく拍手している。
舞子は正攻法でやっても姉並に恐ろしい強さだが、そこに反則スレスレの裏技を執拗に絡めてきている。小笹の放った鉤突きが、舞子の本性に火を点けてしまったようだ。
「(・・・・・・ワタシの顎を肘で打ち、ワタシの爪先を踏みつけて・・・・・・。くすっ。くすくすっ。ふふふふっ・・・・・・あははははははっ! 上等だよぉ、朝香舞子! そういう組手か!)」
小笹は開始線でメンホーを両掌で覆い、俯いたまま静かに笑っていた。
「す、末永さん、笑ってる? ・・・・・・って、えっ!?」
前原は、小笹がどこか痛くて泣いているのかと思っていたが、顔を上げた小笹の眼を見て、背筋が凍った。
その眼は、冷酷さを奥に秘めた、氷のような鋭く冷たい眼だ。
「(・・・・・・へぇ? ・・・・・・ウチとの勝負で、あんたも本気出すかぁ。ふふふっ。できるもんなら、やってみなはれやぁ?)」
舞子もくいっと顎を上げ、小笹へ挑発するかのような眼力と笑みを浴びせた。
それに反応した小笹は、あのインターハイ予選の時以上の曇った目付きに変わっていた。
「す、末永ちゃんの目が・・・・・・。あの、冷たく怖い眼に・・・・・・」
「小笹! だめよ! ちゃんと、あなたは正々堂々戦いなさいよーっ!」
阿部や森畑も、心配していた小笹の「裏モード」の覚醒に戸惑いを隠せなかった。
中村や神長も、小笹の変化を見て何とも言えない表情に。
「続けて・・・・・・」
「ツアアアァーーーーーーーイッッ!」
ダダダダダダダダッ タタァンッ ベキイィッッ!
「(・・・・・・つっ!)」
「・・・・・・こ、こら! まだだっ! まだ!」
「くすっ。ごめんなさぁいッ! あまりに楽しくて、フライングしちゃったぁ。あははっ!」
「(・・・・・・末永小笹。この下品な女め。ウチに、そういう喧嘩の売り方しはるんやな?)」
主審がまだ開始の合図を言い終えてないうちに、小笹は猛ダッシュして舞子の足首へ足払いと見せかけた下段回し蹴りを叩き入れていた。
驚いた主審が慌てて小笹を開始線へ戻したが、戻り際に小笹は舞子へ向かってぺろっと舌を出してウインク。
「・・・・・・続けて、始め!」
「ツアアアァーーーイッ!」
シュルルンシュルルン シュルゥゥゥ シュルッ・・・・・・
「(お姉は後回しや。お前を泣くまで叩く! 末永小笹。もう、謝っても許さんでぇ)」
すたり・・・・・・ すたり・・・・・・ フワアアァァァァーーーッ・・・・・・
薄ら笑いを浮かべ、ふわあっと構えて間合いの中へ入っていく舞子。小笹も猛禽類のような目付きで、滑るような高速ステップを駆使して間合いを撹乱。
スススススススゥゥーーーーッ・・・・・・ タタタァンッ! トォンッ・・・・・・
「(朝香舞子! ワタシの組手も、裏技ならあんたより上のこと、知ってよねぇーーッ!)」
小笹は頭の高さを変えずに摺り足で一気に間を詰め、舞子の斜め右下にスライディングをするかのように一瞬で潜り込んだ。右足を下から掴み、引っ張り倒す気だ。
「(何やぁ? 末永小笹、踏みつぶしてやろぉかぁー?)」
・・・・・・フワッ スウウゥ ギュウウンッ! ドグウゥッ!
「(うぐ! ・・・・・・けほっ。こ、このぉっ! ワタシを踏みつけるなぁぁっ!)」
潜り込んだ小笹を避けるように、舞子は右足を高く上げ、そのまま小笹の腰元を強く踏みつけた。床に踏みつけられた小笹は、目を光らせ、掌をばっと大きく開いた。
主審が止めをかけようと、割って入ろうとしたその時、鈍い音が響く。
・・・・・・グギンッ・・・・・・
「(ぐ! ・・・・・・うぅあ・・・・・・っ! つああっ・・・・・・)」
舞子は、踏んでいた足を慌てて戻し、足の小指付近を手でさすっている。
「(・・・・・・あはははっ! 足の小指の一つくらい、ワタシを踏んだ代償と思うといいよ!)」
小笹は、自分を踏んでいた足の小指を握って思い切り捻り回した。
舞子の右足小指は、それによって一瞬で脱臼。あってはならぬ方向へ曲がっていた。しかし、その指を舞子はぐいっと引き捻り、なんと痛みを堪えながら脱臼を自分で入れ直してしまった。
「(ひゅーっ。やるうっ! くすくすっ。さぁ、ワタシがここから、お返ししてやるよッ)」
「ツアアアァーーーイッ!」
シュルルンシュルルン シュルゥゥゥ シュバアッ! ドバシャアアァッッ!
ヒュルウンッ クルッ ズバシャアアァァッ! ヒュウンッ パパァンッ!
小笹の足技による猛連撃。しか、舞子は、足の小指が何ともなかったかのような表情で、うっすらと笑みを浮かべながら蹴りを受け払った。
「(はしたないなぁ。そぉんな無闇矢鱈に足を振り回すモンやあらへんよ? こぉしてなぁ、一瞬で決めるのが、雅ってもんやわぁ)」
・・・・・・グウッ ギュウウッ
舞子は、小笹の蹴りを受けている最中、後ろ足の爪先を握りしめるかのように折りたたみ、力を込めて固めていた。まるで、足先で握り拳を作るかのように。
「ツアアアーー・・・・・・」
・・・・・・キイイイィィィィーーンッ ドギュッッ・・・・・・ッ
「(うっ・・・・・・く! かはぁ・・・・・・っ! こ、この蹴りは、ワタシ・・・・・・知ってるぞ・・・・・・ぉ)」
小笹が回し蹴りに入ろうとしたその瞬間、舞子の固く握りしめた足先での蹴りが、小笹の右脇腹に槍の如く突き刺さった。
蹴ったのではなく、「突き刺した」という方が正しい見た目。蹴られた小笹は、身体をくの字に曲げて悶絶している。
「止め! 青、中段蹴り、技有り!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ
「な、なんかいま、朝香の妹の蹴り、足先をぎゅっと握って固めていたけど」
「森畑先輩、末永ちゃんの様子が変です! ずっと脇腹を押さえ込んでて・・・・・・」
「槍のような蹴りだった。しかも、あの蹴り方、雑誌で見たことがある。恐ろしい技だぞあれは! 確か『足先蹴り』という、必殺の実戦用技術だ。沖縄の下地流という古流が使う技だが、朝香舞子は独自に自分のものにしているというのか!」
「な、中村君! 足先蹴りなら僕もネット動画で見たよ。蹴られたところがどこでも急所になるという技だ。本当に鍛え込んだ足先蹴りは、ブロック塀や木製バットすら軽く破壊するほどの威力だったよ! それを、まさか、競技で使う人がいるなんて・・・・・・」
舞子が放った蹴りは、ただの前蹴りではなく足先蹴り。しかし、きちんとした空手の技だから、残心を取れば反則にはなることは少ない。裏技としては一石二鳥の蹴りだ。
そのDコートの試合を、隣のコートから見つめている朝香。
「(・・・・・・やはり、こうなったか・・・・・・。舞子・・・・・・。朝香家の組手は、そんなえげつない技じゃない! 裏技で相手を痛めつけて仕留めるなんて、私が一番嫌いな組手)」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
「続けて、始め!」
「(けふっ・・・・・・。けほけほ。まさかぁ、下地流の足先蹴りを知ってるなんてぇッ!)」
・・・・・・キイイイィィィィーーンッ チュバアァァンッッ!
・・・・・・キイイイィィィィーーンッ ドパアァーーーンッッ!
・・・・・・キイイイィィィィーーンッ パパパパァン!
超高速の突きや蹴りが、小笹の急所めがけて飛んでくる。
舞子が放つ蹴りは、普通の前蹴りや回し蹴りではなく、すべて足先蹴り。受ける小笹は、その蹴りを防ぐときが特に痛そうだった。
「(くっ。ポイントになる加撃部以外に当たっても、足先蹴りは痛いし、効いちゃうなぁッ! 突きも、何か、軌道が変だ! 何なのぉ! 朝香朋子より、このダークな組手は!?)」
「(受けはうまいんやねぇ? 形もうまいなら、当然やわぁ。・・・・・・でも、こういう技は、知ってはるやろかぁ? そぉーれぇっ!)」
キイイイィィィィーーンッ トンッ グリュウウゥゥッッ・・・・・・
・・・・・・(ビリリリィィッ!)・・・・・・(ズキイッ)・・・・・・
「(痛っ! 痛いっ! ・・・・・・つ、ツボを押し込んでるのッ? うああ・・・・・・っ!)」
舞子は、小笹のボディプロテクターの無い首元と鎖骨の付け根にある窪みへ、軽く拳を当てて置き、正拳から楔のような形の中高一本拳に変化させ、ドリルのように捻り込んだ。そこにあるツボを押し込まれた小笹は、一瞬で呼吸を乱されてしまった。
「(ふふっ。・・・・・・これであなたは、呼吸がまともにできんはずやわ。スタミナも一気に減り続けるだけやわぁ。さぁ、まだまだウチの実験台になってくれはるんやろぉ?)」
・・・・・・キイイイィィィィーーンッ ズンッ! (みしっ!)
「(うぁッ! た、体当たりじゃないッ! ・・・・・・ひ、肘を乗せて・・・・・・!?)」
超高速の打撃だけでも恐ろしいが、舞子は刻み突きで踏み込んだ勢いを消さずに、そのまま小笹に密着すると同時に肘を折り曲げ、全体重をその肘先に乗せてぶつかっていた。
ちょうど、小笹の右鎖骨と右乳房との間にある部分へ、楔を打ち込むように堅く鋭い肘が突き刺さっていく。表情が一瞬で歪む小笹と、口元に笑みを浮かべて踏み込む舞子の顔が、ものすごく対照的だ。
「(どぉかなぁ? ここのツボは、効きますやろぉ? 痺れて動けへんやろぉ? ふふふっ)」
「(イ、インターハイに・・・・・・こんな実戦技持ち込むやつが、いるなんて・・・・・・。ワタシのあちこちが、痛くて痺れて動かないよぉッ・・・・・・。くっ、悔しいッ・・・・・・)」
・・・・・・ドウンッ! ごろんごろんごろん どしゃ
「・・・・・・止め! 元の位置!」
小笹に肘を打ち込み、そのまま身体の勢いで吹っ飛ばした舞子。現在、ポイントは6対0。
まるで実戦技や裏技の実験でもしているかのように、舞子は小笹へわざとポイントを取りに行かない技の出し方をする。
その異様な組手を、隣のコートから朝香は唇を噛み締めながら見つめていた。