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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第5章 勝負の世界の「白と黒」
85/106

2-85、鎮西の強者 須藤光則!

「赤、栃木県! 県立柏沼高校、田村選手!」

「うおっす!」

「青、福岡県! 福岡天満学園高校、須藤選手!」

「おああああああっ!」

「「「「「 須藤ーーーーぉっ! そがんやつ、いっちょん相手にならんばい! 」」」」」

「「「「「 須藤主将! ちゃちゃっと、くらしちゃりぃーーっ! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ


「つ、ついに田村君、あのでっかい須藤君と激突だ。・・・・・・ほんと、でっかいなぁ!」

「尚久と身長差がかなりあるな。上段蹴りはまず、届きそうにねーぞ・・・・・・。どーすんだ、あいつ?」


 田村だって高校三年男子の平均的な身長以上はあるのだが、それが小粒に見えるほど。

 相手はバスケットボール選手のように足が長く、手も長く、背が高い。どんな組手で田村と戦うのかが気になるところ。


「赤、長野県! 松大学園高校、花田選手!」

「うおっほ! おっす!」

「青、栃木県! 県立柏沼高校、川田選手!」

「はあいっ!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ


「Eコートも川ちゃんの試合だ! 女子重量級だな。川ちゃんが横に二人分はあるな・・・・・・」

「でもさ道太郎。あの相手はあんな体型でもこのインターハイの四回戦まで進んできてるから、油断できないよ!? 真波ーーーーっ! ファイトーーーーーっ!」


 川田の相手は、身長はさほど大きくはないが、とにかく「横」に大きい。

 コートに入る際、帯で締まった腰をばぁんと叩き、相手は重みのある足取りで開始線まで入っていった。


「赤、熊本県! 県立球磨之原高校、鍋島選手!」

「しゃっ!」

「青、栃木県! 日新学院高校、二斗選手!」

「しゃるあああっ!」

「「「「「 にっしぃぃーーーんっ! 二斗先輩! ファイトォォォォーっ! 」」」」」

「「「「「 二斗先輩!  ファイ! ファイ! ファイ! ファイ! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ


「二斗の相手、おれたちが団体の一回戦で当たった学校のやつじゃないか。ここまで上がってくるとは、やはり、あれも実力ある学校だったんだな!」

「二斗先輩、大した相手じゃねーすよ! ファイトっす! 頼みますよ、俺の分まで!」


 二斗の登場に、一斉に声を張り上げる日新学院勢。畝松も個人形の悔しさを、先輩である二斗の組手に託して応援している。栃木県選手団の三人が、同時に気を吐いた。


「(須藤かぁ・・・・・・。また、向かい合うと一段とでっけぇなぁー・・・・・・。さぁて、どうすっかねぇー・・・・・・)」


 飄々とした表情で、須藤と向かい合う田村。


「(競技間違えてんじゃないのこの人? 重量級か・・・・・・。真っ正面は避けないと!)」


 川田は相手の体躯を左から右に、流すようにして見ている。


「(・・・・・・。誰でも構わん・・・・・・。オレは、日新の主将として、勝つだけだっ!)」


 二斗は仁王像のように動かず、口を真一文字に結んで相手を睨んだままだ。


「「「 勝負、始め! 」」」

「ああああぁーーいっ!」

「たあああーーいっ!」

「うるるおあああぁっ!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ


 三つのコート同時に、主審が開始宣告をした。

 田村、川田、二斗が、申し合わせたかのようにどんと右構えで前へと踏み出した。


「一気に同時開始か。・・・・・・田村君の相手が一番の強豪な気がする。僕は、田村君のところを中心に、DコートやEコートも見てみるよ!」

「そうだな。森畑は川田の試合を、後輩達とサポートしてやってくれ! 二斗はまぁ、負けないだろうから日新に任せるとして、田村の相手は並じゃない! たのむ!」

「まっかせといて! 男子はそれじゃ、田村の試合のサポート頼むね! 恭子、紗代、真衣! 真波の試合を全力で応援するよ! みんなで声出そう!」


 前原たちは、田村と川田それぞれに応援メンバーを振り分け、試合を見守る。


   ズウウンッ・・・・・・  ヌオオオオオオオオオン・・・・・・

   ズズンッ・・・・・・   ズズズ・・・・・・   ズズンッ・・・・・・


「(巨木か巨大な一枚岩のようなやつだ。・・・・・・九州ナンバーワンの実力者、須藤か。・・・・・・さぁて、どっから攻めればいいんかねぇー・・・・・・)」


   ズン・・・・・・   ズオオオオオオオ・・・・・・

   ズン・・・・・・   ズズズ・・・・・・


 田村の相手である須藤は、ステップを使わずにものすごくゆっくりな動き。

 どっしりとした構えと体格で、とにかくゆっくりと、巨大な「もの」が動くように、じりじりと田村へ詰め寄ってくる。その動きは、見ている者に不気味ささえ感じさせる。


   ズズズ・・・・・・  ズズズ・・・・・・  ズズン・・・・・・ッ


「(迷ってても、始まらねーなぁ。・・・・・・牽制して様子見てみっかねぇー!)」

「・・・・・・ああああぁーーいっ!」


   タタン・・・・・・  タタタァンッ!  シュンッ!  ビュバババババッ!


 先に仕掛けていったのは田村だった。

 軽やかに数回ステップを踏み、一気に加速。右の中段逆突きを皮切りに、そこから一気にトップスピードへ乗る。あの水城龍馬と互角に戦ったスピード感で、一気に切り込んでゆく。


「(甘かぁッ!)」

「うっりゃああああ!」


   ズズン・・・・・・ッ  ズズズズズ・・・・・・   ズドオウンッ!  ドキャアアッッ!


「(うげっ! なっ・・・・・・なんっだこれーっ!)」


   ・・・・・・ドッシィーーーンッ!


「(い、いってぇ! ・・・・・・げ、下段蹴りじゃねーのかぁ、今の?)」


   ヌオオオオオオオオオン・・・・・・  ズオオオオオオオ・・・・・・ッ


 無駄のないフォームと絶妙なタイミングで突き込んだ田村は、須藤が放ったものすごい足払いで一蹴された。たった一撃で田村は大きく身体を浮かされ、そのまま床に腰から落ちてしまった。

 普通なら、そこで間髪入れずに突きや蹴りを落としてくるはずだが、須藤は転がった田村を見下ろしたまま動かない。その威圧感と闘気は、並の選手の比ではない。


   ・・・・・・ごろごろん   ささっ!  ・・・・・・トントントォン


「(な、なんでこいつ、俺に技を決めてこねーんだ!? いったい、どういうつもりだ?)」


 慌てて立ち上がった田村はバックステップし、間合いを切って仕切り直した。


   ・・・・・・ズズン・・・・・・  ズズズ・・・・・・  ズズズ・・・・・・


 上半身をまったく動かさず、足を引きずるように須藤は詰め寄ってくる。

 前拳は少しだけ肘を曲げてはいるが、異様に長くだらりと下げ、後拳はふわっと握り、掌を突き出すようにしている。さしずめ、小笹やミランダに近い、上下の拳を入れ替えたような置き方の構えだ。


   ズズズ・・・・・・  ヒュンッ   ズズズ・・・・・・  ヒュンッ


「(ん? なんだ? 前拳を下で振ってる? ・・・・・・何だかわかんねーけど、やべぇ!)」


   ・・・・・・トントントォン・・・・・・


「うっりゃああああぁぁっっ!」


   ズズズ・・・・・・  ドオンッ!  ヒュンバババババァッ!  ビュウンバババババッ!

   ズバアアッ!  ズバアアッ!  ズバアアッ!


「(う、うおおおっ! ・・・・・・な、何でこの間合いで届くんだぁーっ!?)」


   ドガガガガガガッ!   ズシャッズシャッズシャズシャァッ!  ビシャアアッ!


 危険を察知してさらに間合いを切った田村だったが、その退く瞬間を一気に踏み込まれた。

 須藤は、脱力した前拳を振り子のように数回振り、踏み込む勢いに乗せて斜め下から振り上げるような軌道での上段刻み突きを連打。田村が正面を防げば、器用にその突きを途中で、裏拳打ちや振り打ちに変化させ、正面からも横からも、左手一本で竜巻のように攻め込んでゆく。


「な、なんてやつだ須藤光則! 前拳だけで突きや打ちを連打できるだと? 信じられん!」

「普通、あんな打ち方したら、手首に負荷がかかりすぎて、自分で傷めちゃうよ! それを、あの相手は、田村君に難なく仕掛けてる! 異常なまでのスナップやバネの強さだ!」

「それに、尚ちゃんが間合いを切ったのに、それでも届くあのリーチ。これは、迂闊には退がれないし、かといって懐は深いし・・・・・・。攻めにくい強敵だ!」

「おい、尚久! 守り切れ! 狙えるならカウンター狙っちまえーっ!」


   ズババババババッ!  バチイッ!  バチイッ!  バチバチバチバチイッ!


「「「「「 須藤主将ぉ! くらしちゃりぃ! 相手、守りで精一杯ばい! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ


「(い、井上か、カウンター狙えなんて言ったのは!? ばっかやろう、こんな攻撃のどこからカウンター狙えばいいんだ・・・・・・って! おぉっ?)」


 竜巻のような猛攻を防ぐ田村。福岡陣営から飛んでくる声援のとおり、本当に守りで精一杯と言った感じなのだが、一瞬、田村の目が光った。


「(刻み突きから、振り打ちへ切り替わる・・・・・・この瞬間! 今だ、踏み込めるっ!)」


   ズババババババッ!  ズバアッ・・・・・・  ・・・・・・シュンッ!  ダシュッ!


「ああああぁーーいっ!」


 相手の突きを両手でブロックし、横からの振り打ちへ切り替わる瞬間の隙を見出し、田村は全力で須藤の腕をかいくぐって、一気に懐めがけて踏み込んだ。


「(!)」


   ・・・・・・ズズズ・・・・・・  ・・・・・・ズオアッ!

   ガボオオンッッ! ドキャアアッッ!   ・・・・・・よろろっ


「(うおぉ・・・・・・っ! な、何だ・・・・・・っ?)」

「「「「「 あああぁぁーーーーっ・・・・・・ 」」」」」

「止め! 青、上段突き、有効!」


 田村がチャンスと思って踏み込んだところへ、須藤の後拳による強烈な上段逆突きが斜め上から打ち下ろされた。前拳から放たれる技の嵐をかいくぐり、低い姿勢になっていた田村にはその突きは見えていない。

 須藤にとっては、ここまで完全に想定済みの、二重に張った罠だったのだ。

 退がれば前拳で追い込み、踏み込めば後拳で狙い撃つ。前拳は攻め型であり、後拳は待ち拳型に。まさに攻防一体の、隙を許さない組手だ。


「(俺の前拳をかいくぐって、懐で勝負する気やったと? そげんかこつ、無駄ばい!)」

「(なんだってんだ、ちくしょう! ・・・・・・やっと入れたと思ったら、後拳でカウンター狙ってやがったのかぁ? ・・・・・・やべ・・・・・・どうやって攻めようかねぇ・・・・・・)」

「続けて、始め!」


   キュキュキュッ!  ・・・・・・シュンッ!  シュバババババアッ!  ダシュッ!


 作戦を変えた田村はジグザグステップで相手の間合いを狂わせ、そこから一気に高速で踏み込んだ。


   ・・・・・・ガシンッ


「(うぐ! ・・・・・・つ、つかまっちまった! ・・・・・・やべっ!)」


 しかし、相手はこのスピードに慣れているのだろうか。田村のメンホーのおでこ部分を、前拳の掌でがしっと抑え込み、一瞬で踏み込みを止めた。


「うっりゃああああ!」


   ・・・・・・ドドンッッッ!   ごろごろん  どしゃ


「「「「「 ナイス上段、須藤ーーーーっ! ナイス、ナイス、ナイス上段! 」」」」」

「止め! 青、上段突き、有効!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ


「あああっ! な、中村君! あの須藤君て、あんな大きい体格で、待ち拳型なのかな?」

「・・・・・・いや・・・・・・。見た目は待ち拳っぽいが、あいつ、構えの重心は、攻め型だ。田村から取っているカウンターも、懐がやたら深い分、相手が踏み込んでくるまでに余裕があるから普通に突いているんだ。結果的に待ち拳のようになっているが・・・・・・」


 二連続でポイントを奪われた田村。パワーの差も歴然で、たった一発の突きで場外近くまで大きく吹っ飛ばされてしまった。


「(ち、ちくしょう。ほんとにどーすんだよ、こいつ・・・・・・。パワーも、二斗より遙かに上だねぇー・・・・・・)」

「(瀬田谷学堂と戦ったパワーは、どうしたと? こんなもんで水城龍馬を倒そうなんて言うのは、甘過ぎばい! ばってん、水城とはできん。お前は俺の前に、沈むけんね!)」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ

   ザワザワザワザワザワザワザワザワ  ザワザワザワザワザワザワザワザワ


「(はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。こぉの、ぽっちゃりめ! アタシの技が効かないなんて・・・・・・)」

「(ふざけんじゃねぇずら! アタイにゃぁ、お前じゃ敵わんずら! やせっぽムスメ!)」


 Eコートでも、田村同様に川田が苦戦中。スコアは3対1で負けている。

 相手は川田の二倍近い体重でありながら、スピードでは川田とほぼ同等のレベルを持つ待ち拳型。そして、投げ技や崩し技が得意なようだ。

 先制点は川田が取ったものの、その後、突っ込んでいったところを大きく投げ飛ばされ、そこに重い突きを決められてしまい、逆転されてしまっていた。


「(はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。ん? 田村もむこうで苦戦してるのか・・・・・・。ここで当たるやつら、やっぱみんな強敵ってワケか! ・・・・・・くっそぉ、アタシは負けらんないんだよ!)」

「真波ファイト! まだ、余裕でいけるよ! 焦らないで! 手堅くいこうーっ!」

「「「 川田先輩ファイトです! 取り返しましょう! 」」」

「(菜美、恭子、紗代、真衣。・・・・・・ありがと、アタシはこっからだ! このぽっちゃりには、負けてたまるかぁ! 朝香が先に準々決勝で待ってるんだ!)」


 川田は身を大きく膨らませるように呼吸をし、気合いを爆発させて相手へかかってゆく。


「ったああぁぁぁーーーーいっ!」


   ワアアアアアアアアアアアアー  ワアアアアアアアアアアアアー・・・・・・


 川田も田村同様に、2ポイント差をどうにかすべく、果敢に戦っている。田村もいま2ポイント差だが、戦っている相手の条件が違う。

 圧倒的な体格差は男女どちらも変わらない試合だが、身長とリーチ差が大きく影響しているのが田村の試合だ。


「田村ファイト! 相手は、左右の腕を別々に使ってる。内側から攻めたらまずい!」


 中村が試合を冷静に分析し、田村へヒントを飛ばす。田村はこれをきちんと理解してるだろうか。ちなみに、前原と井上は、あまりよくわかっていないようだ。


   ワアアアアアアアアアアアアアアアー  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


「続けて、始め!」

「(さっきの声は、中村かぁ・・・・・・。内側はまずい・・・・・・。内側は。・・・・・・そーか、なるほど!)」


   スタンッ!  ・・・・・・キュンッ  シュタタッ  シュタタッ  ダンッ!


「(ほぉ? ・・・・・・面白いやつばい! 上等たい! やってみぃ! 来いっ!)」


   ・・・ズズズ・・・・・・  ズズズ・・・  ズズン・・・・・・ッ


 田村は肩の力を抜き、拳をリラックスさせた。そして、じりじりと前へ詰めてくる須藤に対し、なんと、左構えのサウスポースタイルに変化。

 

「田村君のサウスポースタイル!? 僕は今までほとんど見たことがない。試合では初めてかもしれない」

「マジかよ尚久ぁ! ぶっとんだ賭けじゃねーのかそりゃぁ!?」


 前原と井上は、田村のサウスポーに驚いている。神長も驚いた顔で試合を見つめる。中村だけは、ゆっくりと頷いている。


「(あんまりやったことねーけど、一か八か、だねぇ! 中村、やってみっかんな!)」

「な、尚久がサウスポーになったのはほとんど見たことねー! い、いったいどういうつもりなんだよ、あいつ。・・・・・・あ、もしかして、そう攻める気か!?」


 井上は何かに気付いたかのように、中村の顔を見た。


「構えを左右入れ替えるとは思わなかったが、どうやら、おれの伝えたかったことが伝わってはいるみたいだな! 内側から行ったら思うつぼだ。ならば、外側から攻めてみればいい」

「そうかっ! わかったぜ陽ちゃん! それならば、相手の後拳を殺せるかもしれん!」

「え? みんな、もしかして、わかったの? そんなぁ・・・・・・」


 神長も何かに気づいたが、前原はまだ気づかないようだ。その攻め方とは、いったい。


   ズズン・・・・・・  ズズズ・・・・・・

   ズズズ・・・・・・  ズズン・・・・・・ッ


「(地滑りのように、不気味に動いてきやがるなぁ。・・・・・・よし、ならばこっちも、誘いをかけてみようかねぇー)」


   キュキュキュッ  スタンッ  シュタタァンッ!  ダァンッ  タタタァンッ!


 サウスポースタイルから、前後左右のフットワークで田村は相手に的を絞らせないつもりなのだろうか。田村の前拳は今、右手。須藤の前拳は、左手。間合いの錯覚によって、これは相手がさらにものすごく遠い懐になってしまったように感じることだろう。


「(何を狙っとるのかわからんが・・・・・・俺に駆け引きば仕掛けようとは、いい度胸ばい!)」


   ズズズズズ・・・・・・  ドオンッ!  ズババババババッ!  ビュンバババババッ!

   ヒュンヒュンヒュンヒュン  ドヒュンドヒュンドヒュヒュヒュンッ!


「(来やがったぁ! ・・・・・・高速のムチみたいな刻み突きで、受けにくいぜまったく!)」


   ザシュザシュザシュザシュウッッ!  ドガガガガガガッ!


 しなやかに動き、まるで別な生き物のように猛烈な切れ味で襲ってくる、須藤君の前拳。

 拳の引き戻しも速く、突きの後にはすぐにまた突き、そして裏拳打ちや振り打ちに変化し、また引き戻しては突きを放ってくる。


「(い、いってぇ! 受けるだけでも切り裂かれそうな、柔軟すぎる突きだ! だけどなぁ、俺にその突き、見せすぎだねぇー、須藤ーっ!)」


   ビシイッ!   パパァンッ!   ・・・・・・ぐいっ


「(むうっ! むむむ! ・・・・・・な、なんばしよっと? ・・・・・・しまった!)」

「あああああああぁーーいっ!」


   シュンッ・・・・・・  シュバアッ!  ・・・・・・ズッドォォンッ!


「止め! 赤、中段突き、有効!」


   オワアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


「「「「 ナイス中段だぁ、田村ーーーーーっ! 今の、今のぉーーーっ! 」」」」

「(ふん! ・・・・・・頭ば使いよったとね! 俺の右拳が出せない位置に行くとは!)」

「(中村に感謝だねぇ。よく分析してくれたわー。・・・・・・ふぅ、とりあえず1ポイントだ)」

「そ、そういうことかぁ! サウスポーになれば、相手の前拳を外じゃなく内側に弾くだけで、田村君は相手の背中側に踏み込めるんだ! 逆捻りになるから、相手が右で突こうとしても、体勢を変えて向き直さないとうまく突けない!」


 相手の変則的な刻み突きを、右手の前拳で斜め横に打ち払った田村。その受けで、大柄な須藤と言えども姿勢をぐらっと動かされた。そして、一気に脇腹が近くなった所へ大きく踏み込み、いつもとは逆手である左中段逆突きを決めることができたのだ。


   ズオオオオオオオ・・・・・・ッ  ヌオオオオオオオオオン・・・


 しかし未だに凄まじい闘気と不気味な気配を漂わせる須藤。四回戦で立ちはだかったこの壁を、田村はどう崩してゆくのだろう。そして今、他のコートはどんな戦いになっているのだろうか。


「(しかし・・・・・・同じ手が、次も効くかな? ・・・・・・くそぉ、こいつ本当に攻めにくいねぇ)」


 1ポイントを取り返した田村。残り時間で、大逆転は可能なのか。

 力と力のぶつかり合いとなったインターハイ個人組手四回戦も、目の離せない試合展開となった。

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