2-83、絶対女王に挑む女王
どよどよどよどよどよどよ どよどよどよどよどよどよ
「どっちも、とんでもねぇ四人だなぁ。小笹ちゃん、まさかインターハイのベスト4とは! さすが、諸岡里央を泣かせてぶっつぶしただけあるぜ!」
「・・・・・・おい。お前、井上とか言ったな? そのぶっつぶされた本人が、お前の後ろにいるんだから、もう少し言い方、何とかなんないのか? デリカシー無いな、お前・・・・・・」
「あ! わ、わりぃ! つい・・・・・・。でも、お前だって、実際に小笹ちゃんと形をぶつけ合ったんだから、わかんべ? これ、もしかすっとさ・・・・・・」
「あぁ。・・・・・・あのアーナンに私はやられたんだ。しかも、その時よりも今日の出来はいい。だが、相手の香山だって、文句のない出来のチャタンヤラクーサンクーだった。さすがは花蝶薫風だ。仕上がり具合は生半可じゃないからな。さて、どうなるか・・・・・・」
形の得意な井上も驚く、ベスト4の戦い。
四人とも、このランクになるとさすがに完璧と言わざるを得ない出来映え。よって、判定はさらに厳しいものになる。誰が勝ってもおかしくない勝負なのだ。
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
どきどき どきどき どきどき・・・・・・
「小笹・・・・・・。さぁ、どうだーっ? アタシはあんたのが勝ったと見た!」
「真波。俺は口から心臓が飛び出そうだぜ。小笹ちゃん、たぶん勝てっとは思うけど・・・・・・」
栃木陣営もドキドキの判定待ち。主審が、エンブレムのついた胸ポケットから笛を取り出した。
CコートもDコートも、ほぼ同時に判定が行われそうだ。
「「 ・・・・・・判定ーっ! 」」
ピィーーッ! ピッ!
ババッ! ババッ! バッ! バッ! ババッ!
バッ! バッ! ババッ! ババッ! ババッ!
「「「「「 うおおおおおーーーっ! 」」」」」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ
「どっち? どっちが勝った? ねぇ、道太郎! しゃがんでよ! あんたでかいんだから前に立ってたらアタシが見えないじゃん!」
「すまんすまん、川ちゃん! 小笹ちゃん、やったぞぉ! 危なかったが勝った! 決勝だ!」
「ほんと? 見間違えてないよね、道太郎? 小笹! 小笹ーっ! 勝ったかーっ!!」
「田村。新城さんはどうなった!? 私からだと、Cコート見えにくくて!」
「森畑、それがねぇー、新城さんは惜しくも敗れた! とんでもねぇ決勝戦になるねぇー、これ!」
ワアアアアアアアアアアアアアアア ザワザワザワザワザワザワザワザワ
「(くすっ。やったぁッ! やったぁーッ! ワタシ、決勝戦だぁーーーーっ!)」
「(あっははは! あっぶなかったさぁーっ! 新城主将、さっすがだぁ! ふぅーっ)」
両コートともに、青側が僅差の勝利。
美鈴と小笹が激戦を制し、ともにインターハイの決勝へと進んだのだ。
「(なんてことなの。嘉手本先生、すみません。あと一歩、届きませんでした・・・・・・)」
「(完敗やわ。これは、とんでもない二年やなぁ! アーナンが出てくるとは・・・・・・なぁ)」
判定を受け、天井を見つめたままの新城と、目を伏せたまま床を見つめる香山選手。
屈託のない笑顔を見せている美鈴や小笹とは、まったく対照的だった。これが、勝敗の白黒がついた者の明と闇なのだろう。
「いやぁ、すごいなぁ! 僕がインターハイに出た頃とは、選手の空手の質が違うね。なんか、熱くなってきちゃうね!」
「福田先輩の頃は、形は点数制だったんですか?」
「そうだね。その頃はちょうど、点数制からフラッグ制の移行期間だったかな。僕が出たインターハイは、最後の点数制だった年かなぁー」
「へー。アタシ、点数制のが好きなんですよ、ルール的に。・・・・・・フラッグ制は旗が揚がる瞬間がもう心臓バクバクで、いやなんですよぉー」
「そうかぁ。僕は、どっちも嫌だなー。はははははっ!」
ワアアアアアアアアアアアアアアア ザワザワザワザワザワザワザワザワ
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!
これで決勝戦は、美鈴 対 小笹という、那覇手の直系継承者であり沖縄剛道流をバックボーンにした者同士の、面白すぎる対戦となった。決勝は全種目まとめて午後に行われる。
個人形競技が一旦終了し、組手用にコートが組み替えられている。十五分間の休憩を挟み、いよいよ次は、田村と川田の個人組手四回戦だ。
「みすずーッ! どぉだ、勝ち上がってきたよぉーッ! あははっ!」
「こざさぁッ! よくここまで来たさぁ! あたしも、あの新城主将にまさか勝てるとは思わなかった! 午後の決勝、ぜぇったい負けないからねぇーッ!」
「くすっ。・・・・・・美鈴、ワタシに何をぶつけてくるつもりぃ?」
「ふふっ。・・・・・・教えないよぉー。小笹こそ、決勝、何をあたしにぶつけるの?」
「教えないよーッ! ま、決勝戦のお楽しみにねぇーッ!」
ほとんど同じ顔をした二人が、別々にメインアリーナを出ていった。
美鈴は沖縄陣営からたくさんの歓声を受け、にこやかに手を振って、小笹の背中を追いかけていった。
「まさか、イトコ同士で決勝戦になるとは・・・・・・。東恩納さん、これ、嬉しいだろうね。孫が二人とも全国の頂点を競うなんてさ! 新城さんも、惜しかったけどね。ざんねんーっ」
「そうだねー。菜美、アタシも頑張ってメダルやトロフィー持って帰るよっ! 四回戦の相手なんかには、手こずってらんないけど、集中して頑張らないとなーっ!」
「ファイト、真波っ!」
「さぁて、川田! 俺らも続こうぜ! 四回戦を勝てば、ベスト8の賞状ゲットできるぞぉ!」
「だねっ! ・・・・・・よぉーし、やるぞぉアタシ! 菜美のぶんまで、戦ってくる!」
「ありがとね真波。がんばって! 柏沼高校旋風を起こしてね、二人ともっ!」
「うん! 朝香は・・・・・・もう、公式練習場に行ってるのか。田村、アタシらも準備して、もう行こうよ!」
「そうだねぇー。じゃあ、そろそろ行くとするかねぇー!」
~~~ 個人組手四回戦に選手の方は、選手待機所へ・・・・・・~~~
「お! 招集案内も入った! じゃ、みんな、応援頼むなーっ! 頑張ってくるかんねぇー!」
「頑張って田村君も川田さんも! 僕たちみんなで精一杯応援するよっ! ファイト!」
そうして、メンホーや組手用具一式を抱え、川田と並んで田村は下に降りていった。
その後ろを追って、監督役の新井と松島が現役選手のような目をして、歩いていった。
* * * * *
「とあああああぁーーーっ!」
パパパパァン! パパァンッ! パパパパァン!
「どぉ? キレ味、いいかな?」
「うん。だいじだ。川田は調子バッチリだねぇー」
「そうね。田村は?」
「どれ・・・・・・。ああああぁーーいっ!」
ギュンッ ズババババンッ! ズババババンッ!
「うん! バッチリ! よかったねっ、足も腰も調子いいみたいね! アタシ嬉しいな、田村が万全でさ」
「万全かどうかはわかんねーけどなぁ。でも、俺、今度の相手はまた強豪だしねぇー」
選手の招集点呼を終えた田村と川田は、公式練習場でお互いに打ち込み確認をしていた。
川田の突きを田村が掌で受け捌き、調子を判断。田村も川田に技の善し悪しを見てもらい、二人ともお互いの調子を確認し合ったところ、今は万全のようだ。その奥では、壁越しにストレッチを静かに行う朝香と小笹がいる。
「・・・・・・。・・・・・・。仲がいいのね、あの二人・・・・・・」
「え? なぁにぃ? 川田センパイと田村センパイのことぉ?」
「そうね」
「まっ、同期みたいだしぃー。・・・・・・いいなぁーッ、部で同期がいるって・・・・・・」
「・・・・・・。・・・・・・そっか・・・・・・」
「あははっ! まっ、インターハイ期間中は等星や柏沼とこうしてワタシも一緒に加われて、楽しいからいーですけどね」
「・・・・・・そうね。よかったわ・・・・・・」
すたり すたり すたり すたり・・・・・・
その二人のもとへ、静かに近づく足音が。
「あ!!」
「ホーホホホホ! ウフフフゥ! さぁー、トモコ・アサガ、このワタクシとの楽しい楽しいお遊戯のお時間がやってきたわぁん! 覚悟しなさぁい? この世に『絶対女王』は、二人もいらなくてよん! ワタクシが、アナタを女王の座から陥落させてあげるわぁん!」
「こら、ミランダぁ! なんであんた、そこまで朝香朋子に関わるのさぁッ! インターハイを何だと思ってんのぉーッ? あんたなんか、たぶん、この人の相手にならないよーだ」
「黙ってなさいな、コザッサ! ワタクシこそが絶対女王に相応しい存在。このインターハイ制覇をすれば、多くの道がワタクシに華開くのよぉ!」
「そんなの知らないもんッ! あっち行ってなさいよぉーッ!」
「まぁまぁ。ウフフフゥ! そんな牛のように怒らないことよコザッサ? ワタクシの祖父は、スペインで有能なマタドールでしたのん。トモコ・アサガ、アナタも、スペインの牛のように、ワタクシが遊んでさしあげるわん。・・・・・・ホーホホホホ! ウフフフゥ! アハハハハァ!」
顔を膨らませて不機嫌そうな小笹の横で、朝香はミランダには目も合わせず、やれやれといった感じでそっぽを向いている。
「まったく、またミランダ野沢シーナか! ちょっとぉ、あんたねぇ! いーかげんにしなってば! 朝香をなめるんじゃないわよ? アタシや小笹でも勝てないのに、あんたが楽に勝てるわけないでしょーがっ!」
「お黙り、田舎娘! アナタ、もし勝ち上がればワタクシとの試合ですわねぇん? その時は、自分がどれほど田舎娘か、わからせてあげるわぁん。ホーホホホホ!」
高笑いをしながら、ミランダは先に選手待機所へ行ってしまった。
「おいおいぃ、相手にすんなよ川田ぁ。どーせ、そこまで大したことないやつだってー。冷静に、いつもの通り試合すれば、お前も朝香もあんなの何ちゃねーべ? だいじだー。そうカリカリしないほうがいいねぇー」
「そうだけどさぁ田村ー。・・・・・・まぁ、そうだと・・・・・・いいんだけどね・・・・・・」
~~~選手の皆さんは、入場準備をして下さいー・・・・・・~~~
「よし! さ、行こうぜ? 気持ち切り替えろよ川田。末永、お前も頑張って勝てよなぁ!」
「くすっ。形に続いて、組手も一気に勝ち上がるよぉーッ! 田村センパイも、頑張れぇッ」
「・・・・・・オレも忘れないでくれ・・・・・・。・・・・・・さぁ、四回戦・・・・・・いくぞっ!」
静かに、二斗もこれからの試合に向けて準備運動をしていたのだ。
田村と川田の肩をぽんと叩き、二斗の目つきがきりっと変わった。
~~~ 個人組手四回戦を行います! 各コート、選手、入場ッ! ~~~
♪ パパパァーン ♪ チャララーン ♪ ジャジャジャァーン ジャンジャン ♪
「いよいよだ! あ、田村君が出てきた! 相手は福岡天満学園の主将・・・・・・かぁ!」
「尚ちゃん、あのでかいのを相手に、どうやって戦うんだろうか。これは注目だな!」
「井上。川田の相手はまたずいぶんとすごい体格じゃないか! だいじなのか、あれ?」
「マジかよ! 女子だろ? 真波の体重は知らねーけど、相手はどう見てもあれ、九十キロはあるんじゃねーかぁ? 重量級の選手とやんのかよぉー・・・・・・。真波ぃ、ファイトだぜぇ!」
「真波、がんばれーっ! 勝てばベスト8だよーっ!」
「中村先輩。田村先輩の相手も、すごく大きいんですね! 二メートルないですか、あれ!」
「さすがにそこまではないだろうけど、一九〇センチは超えている。あれが、九州で一番強いやつだ!」
「九州で一番強い相手、ですか・・・・・・。ごくり」
「ああ。阿部、あれが福岡の須藤光則という男だ。水城龍馬と当たる前に、これはまた難関だぞ田村の試合も!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ
Aコートの赤側に入る田村。Dコートの青側に入る二斗。Eコートには赤側に朝香、青側に川田。 そしてHコートの赤側に小笹が入り、各コートの準備が整った。どこも注目の選手ばかりだ。
「「 赤、推薦/栃木県! 等星女子/海月女学院 高校、朝香/末永 選手! 」」
「「 はい!/はぁーいっ! 」」
「「 青、北海道!/佐賀県! 学法ラベンダー園/鎮西学院佐賀北星 高校、ミランダ/森宮選手! 」」
「「 ホホホホ!/はいっ! 」」
いきなり注目選手の試合があちこちで始まる。
朝香と小笹の試合が同時に始まった。Aコートでは、水城の試合も始まったところ。
「朝香と小笹の試合、被っちゃったね! ・・・・・・ミランダ野沢シーナがどれだけのものか、気になるからなぁ・・・・・・」
「森畑さん。末永さんはおそらく、余程のことがなければだいじだよ! だから、朝香さんのほうをメインで見てみよう。僕もあの北海道のミランダ野沢シーナって人が、朝香さん相手にどれほどなのか、気になるんだ」
「・・・・・・よし! 小笹を信じて、私らは等星と一緒にEコートを見てみよう!」
「先輩。それじゃわたしたちはHコート見てます! 末永ちゃんを応援しよう、敬太、充!」
「阿部せんぱい。わたしとさよは、両コート応援します! どれも、すごそうなんで!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアー ワアアアアアアアアアアアアアアアー
Eコートでは、凜として落ち着いた目と雰囲気で、朝香が静かに開始線に佇む。相手のミランダはくいっと顎を上げ、上から目線のように朝香を見下し笑っている。
身長はどちらもほぼ同じ。リーチもほぼ同じ。ならばあとは、純粋な技量と体力の勝負になるだろう。
「(・・・・・・。)」
「(さァ、絶対女王サマ、ワタクシにその座をお渡しなさぁい! ウフフフゥ!)」
朝香はとにかく、静かだ。
何度も拳を握り、床を幾度も踏みならすミランダとはものすごく対照的に映る。
「勝負、始め!」
「「「「「 朝香先輩ーーーっ! 等星ーーっ! 必勝ーーっ! 常勝ーーっ! 」」」」」
・・・・・・キイィィィィンッ! ドパァァーーーーーーーーンッ!
「止め! 赤、上段突き、有効!」
「(・・・・・・な、なっ!?)」
「「「「「 ナイス上段でーーーーーすっ! 朝香先輩ーーーーっ! 」」」」」
まさに、目に見えないほどの電光石火。
光速のような鋭さの上段突きが、開始早々にミランダの鼻先を打ち抜いた。
「(な、なぁんですってぇッ! ・・・・・・マグレよ。マグレだわッ!)」
「(・・・・・・。)」
朝香はまったく表情を変えず、眉一つ動かさず。
菩薩像のような半眼で、ミランダと目も合わせないまま静かに佇む。
「続けて、始め!」
「(おのれ、トモコ・アサガ! ワタクシの顔を叩くなんてぇッ!)」
「キイィィエエェーーーーーーッ!」
ヒュヒュウンッ! シュバシャアッ! シュバシュバシュバアッ!
けたたましい気合いとともに、ものすごい切れ味の蹴りを繰り出すミランダ。
前足の刻み回し蹴りから、くるくると回転し、回し蹴りと後ろ回し蹴りの四連蹴り。その蹴り技のキレは、同じような動きを使う小笹の足技を遙かに凌駕していた。
スウウゥ・・・・・・ バババババババババチュンッ!
「(なぁッ! な、なんて失礼なッ! ワタクシの蹴りをーッ!)」
しかし朝香は、そのスピードの蹴りすらまったく問題にせず、両腕をすっと広げてあっという間に全て叩き落とした。
・・・・・・キイイィンッ! キイイイィーーーンッ! ドパァーンドパァーンッ!
「止め! 赤、上段突き、技有り!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアー ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!
「(・・・・・・。)」
ジェットエンジンでも腕に仕込まれているかのような、朝香の高速突き。風切り音が尋常ではない。
観客席にいる者にまで、その異常なほどの炸裂音と打撃音がわかるほどだ。技のキレや雰囲気からしてもやはり、全国から「絶対女王」と呼ばれるほどのことはある。
あまりにも速すぎる朝香のワンツーは、両拳ともミランダの顎先へ寸分違わずに叩き込まれ、技有りの判定になった。
同じコートに控える川田も、座りながらその試合をじっと見つめている。
「(そうだよ。それでこそ、アタシの知る朝香朋子だ! さすがだね、あんたは・・・・・・)」
ワアアアアアアアアアアアアアアア ザワザワザワザワザワザワザワザワ
「す、すごいな、朝香朋子は。ミランダ野沢シーナって女、もっと強いかと思ってたけど全然歯が立ちそうにないじゃないか! おれは、朝香の強さをちょっと低めに見ていたのか・・・・・・」
「中村。だから言っただろう。朋子は私たち等星の中でも、強さは別格なんだって。有華でさえ、朋子にはかなわない。あの北海道のやつも、朋子のことをナメすぎなんだよ」
菩薩像のように、悠然と荘厳なほどの雰囲気で静かに立つ朝香。
ミランダは般若面のような表情で歯を食いしばり、唇も噛み締め、わかりやすいほどに悔しそうな感じだ。
「(こっ、こんなことがぁ! ワタクシが・・・・・・遊ばれるなんてェッ! 許さないわぁん! 許しませんわよぉ!)」
「続けて、始め!」
「(・・・・・・。)」
すっ・・・・・・
朝香はミランダに対し、前拳をゆっくりと柔らかく上げただけ。攻めるのか、守るのか、何もしないのか、それらの気配がまったく見ていて読めない。呼吸すらしているのかも怪しいほどの静けさ。
「(ムキィーーーッ! ワタクシを馬鹿にするのもいい加減にしなさぁいトモコ・アサガ! それなら、後悔させてあげるわぁん! ホーーーッホホホホ!)」
シュルンシュルルン シュタンシュタシュタン グッ・・・・・・
小笹の構えにどこか似た、横向きの構えを見せるミランダ。その動きから、一瞬、踏み込むための力を足の指先に溜め、一気に朝香さんへ襲いかかろうとした、その時・・・・・・。
・・・・・・キイイイィィィィーーンッ! ドパアァーンッ!
「(・・・・・・ーっ!)」
「止め! 赤、上段突き、有効!」
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!
「「「「「 朝香先輩ナイス上段でーーーーーすっ! ナイス上段ーーーーーっ! 」」」」」
朝香は開始線からほとんど足を動かしていなかったはず。ミランダまでは二メートル以上の間合いがあったはず。それなのに、ミランダよりも明らかに後になって動いたはずの朝香が、前拳による上段の刻み突きでミランダよりも遥かに速く、そのミサイルのような突きを決める。
「ミランダ! 熱くなるな! 冷静さを失ったらだめだべさ!」
「あんたは冷静にやりゃ、朝香朋子にもあの組手が、そしてあの技が、通用するはずだべやーっ!」
北海道陣営からミランダへの声援が飛ぶ。しかし今の段階では、誰が見てもミランダが朝香に勝てるとは思えない流れだが。
「ミランダぁーーっ! 朝香朋子相手に、さすがに『女王モード』は無理だべ! さぁ、あの技を絶対女王に、くれてやれーっ!」
「「「「「 なまら待ったべさぁ、ミランダーっ! 解放しろぉー! 」」」」」
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ
「(ふんっ・・・・・・。どうやら、致し方ないわぁん。・・・・・・トモコ・アサガ! アナタは、このワタクシを、本気にさせてしまったようですわねッ!)」
ゆらあぁ・・・・・・ ずおおおおぉぉぉ・・・・・・ かっ!
ミランダはだらりと腕を下げ、怒りに似た闘気を一気に膨らませた。
一瞬にして、その雰囲気が変わる。表情も、冷酷無比な目と、猛禽類にも見える口元に変化。
「(・・・・・・。・・・・・・ふぅん)」
朝香はメンホーの奥で、ぴくりと片眉を少しだけ動かした。相変わらずミランダには興味なさそうだが。
「続けて、始め!」
「キイイイェェェーーーーッ!」
シュンッ! ガチッ ガチチッ ストォンッ
肘をたたみ、力強く両拳を握りしめたミランダ。身体の奥底まで見透かすような、冷たい虎のような目付きで、膝の力を抜いたままその場から動かない。実に不思議な構えだ。
今だに冷静沈着な朝香は、ミランダのその構えを前に、いまだ変わらず静かに佇む。
点差は4対0。ここから試合はどう動くのだろうか。




