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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第5章 勝負の世界の「白と黒」
81/106

2-81、白と黒 明と暗

   そよそよそよそよ・・・・・・  どっぱぁぁぁぁ・・・・・・んっ

   どざざざあぁあ・・・・・・んっ  どっぱああぁぁぁ・・・・・・んっ

   そよそよそよそよ・・・・・・  さわさわさわさわ・・・・・・


 大嵐も過ぎ、かっと暑い陽射しが降り注ぐ。碧い海は、嵐の影響でまだ波が荒れていた。

 岸壁にぶつかる波が砕けたあとの潮風のなか、柏沼メンバーと小笹はバスに乗っていよいよ最終日の会場へ入る。


「・・・・・・何か、あっという間に最終日になっちゃったね。田村君、具合はどう?」

「だいじだ。昨日、風呂でよーくケアしたから、足も腰も、痛くないねぇ!」

「よかったね! アタシは脇腹まだ痛いけど、試合は問題ないよ。田村は、今日はいきなり福岡天満学園の須藤とでしょ? そのあとは水城龍馬ふたたびだ! 頑張ってリベンジしてよねーっ?」

「田村が水城を倒したら、空手雑誌が飛びつく一大ニュースだな! 大学も特待生で取ってくれるんじゃないか? おれは、この中で唯一、田村が水城と勝負になると本気で思ってるが」

「よせよぉ。あんまり俺、騒がれんの好きじゃないんだよねぇ。ま、水城龍馬にはリベンジしたいけど、まずは福岡の須藤を倒さなきゃねぇー」

「あははっ! くすっ。ワタシも今日はぁ、あの朝香舞子と当たるかもぉーッ! 姉妹喧嘩なんかより、ワタシがいるんだから、一目置かせてやらないとねぇー」

「小笹、私たちは個人形もあるんだから、頑張ろうね? あんたが唯一、形も組手もダブル出場なんだから、期待値は高いよねっ。調子はどう?」

「くすっ。バッチリ! 朝、砂浜ランニングしようと思って五時に起きたけど、波がまだ強いから村の中走ってきたんだぁー」 

「はー、元気だねぇ小笹は。アタシはけっこう、疲労溜まってる感じするよ。恭子が作ってくれた朝ご飯で回復したけどさぁ」

「嬉しい! 美味しかったですか、先輩? わたし、ちょっと料理に目覚めたかもー」


   わいわいわいわい  がやがやがやがやがや

   ぶろろろろぉーーーー  ぶろろろーーーー


 バスは爽やかな海風を受けながら走ってゆく。道沿いにはヤギのいる農家や、小さな日用品のお店も見える。青い空と碧い海が、サトウキビ畑の向こうに広がる。この風景とも、もうすぐお別れが近い。

 田村は、腕組みをしながらまっすぐ前を見ている。川田は森畑と何やら試合のイメージ談義中。小笹は目を閉じ、イヤホンで三線の音や沖縄民謡を聴いているようだ。

 闘気と熱気渦巻く会場に着くと、みな一斉に表情を切り替え、栃木陣営でそれぞれが試合の準備を始める。みんな、すごくいい表情で。


   ざっ  ざっ  ざざっ  ざざっ


 館内を行き交う道着姿の人たちも、最終日はより一層気合いの乗った顔つき。試合に出る人はもう少ないはずだが、みんな、鋭い目付きと闘気が昨日よりもすごい。


「尚久、試合は九時半からだったよな? 打ち込みとかしないで、だいじか?」

「あー、だいじだよぉ。もう、動きのイメージはできてんだ!」

「アタシの相手は長野の松大学園かぁ。・・・・・・昨日の藤崎さつきのが強敵のイメージだけど、四回戦まで来るやつだから、油断できないなー」

「川田さん。その人に勝てば、いよいよ朝香さんかミランダさんだね! ベスト8入りを、まず狙おう!」

「うわぁ。勝てば、全国ベスト8なんですね! せんぱい、がんばってください!」

「さよもわたしも、応援してます! 川田せんぱい、森畑せんぱい、ファイトです!」

「ありがとーっ! 一年生二人も、よーく見学して、勉強してね! 栃木に帰ったら、茶帯取得に向けての審査会や、また秋には一年生大会や新人大会もあるからね! 私も新城さんと全力でぶつかって演武してくるよ!」

「嘉手本佐久雄の直弟子だもんなぁ、新城巳波さん。またあのウミヘビ汁でパワーつけてきてるかもしんないぞ、森ちゃん!」

「イラブーパワーねぇー・・・・・・。私、負けないよ! 頑張るからね!」

「さて、と。まずは形からだねぇ。先生らがそろそろ打ち合わせ終わるだろうから、俺らは観客席に行ってようぜ?」

「そうだね。頑張って! 森畑さんと末永さん! 僕たち、上から応援してるからね!」

「ファイト、菜美! 小笹! アタシも組手で暴れるからね!」

「ありがと! 私らは、公式練習場で招集点呼あるだろうから、そっち行ってるね!」

「あははっ! 頑張ってきまーすっ! まずはぁ、四回戦突破だねッ!」


 男子メンバーとハイタッチし、森畑と小笹は公式練習場へ。前原は特に、間もなく始まる四回戦を前に、妙にドキドキしていた。


「田村先輩。入口前に、大会記念写真のテントありましたけど、あそこで記念写真、撮ってもらえるんですか?」

「あー。撮ってくれるよぉ。あれは、試合中の姿のやつと、学校全体としてのやつがあるよ。試合中の写真は、もう売ってるんじゃないかねぇ? 学校全体のは、早川先生が手配して、そのうち撮ってもらうってさ」

「そうなんですか! うちやま、休憩の時に、ちょっとお写真見に行ってみようよ!」

「わー、いいなぁ! せんぱいや、小笹さんの写真、あるかなー?」


   ~~~ 本日の競技は、個人形四回戦より行います。選手の方は・・・・・・~~~


 選手招集のアナウンスが入った。きっと今頃、森畑や小笹は、選手待機所で静かに集中力を高めていることだろう。

 館内は昨日よりもさらなる闘気で溢れている。

 個人形競技の四回戦は第二指定形だ。森畑と小笹は今日の試合、何を演武するのだろうか。

 阿部は大会パンフレットを見ながら、決勝戦までのトーナメント表を指でなぞっていた。


   ワアアアアアアアアア!  がやがやがやがや  ざわざわざわざわ


「(ここを通過すれば、ベスト8入賞か! ・・・・・・相手は地元のエース! 頑張ろう!)」


 赤側と青側に分かれ、森畑と小笹は選手待機所で試合開始を待っていた。


「・・・・・・森畑さん、楽しみな試合だよ。お互い全力で、よろしくお願いしますね!」

「新城さん! ・・・・・・こちらこそ、よろしく! 全力で、演武させてもらうね!」


 腕をぐいぐいと伸ばしてストレッチしている森畑のもとへ、新城がにこっと笑って挨拶に訪れた。

 そこへ、美鈴も屈託のない笑顔で小笹のもとへやってきた。

 

「こざさーっ! あたしも地元沖縄の名にかけて、まけらんないさぁ! 小笹もちばりぃよ!」

「あははっ! 美鈴もね! ワタシも、精一杯やってやるよぉー」


 四人が話していると、入場係がさっと手を挙げ、メインアリーナへの扉が開かれた。


   ~~~ ただ今より、個人形四回戦を行います! 各コート、選手、入場! ~~~


   ♪ ダダダダァン ♪ チャララアァン ♪ ジャジャジャァーン パパァーン ♪


「くすっ。さぁて、思い切っていくよぉーッ!」

「小笹! 勝ち上がろうね! さぁ、気合い入れていこう!」


 三回戦の入場曲とはまた違った豪快な音楽で選手入場となる。

 Eコートには森畑と新城。Fコートには美鈴。Hコートに小笹がそれぞれ入った。


   ワアアアアアアアアアアアアアアアー  ワアアアアアアアアアアアアアアアー

   ワアアアアアアアアアアアアアアアー  ワアアアアアアアアアアアアアアアー


「・・・・・・赤の、勝ち!」

「「「「「 舞子ぉ、いい形やったでぇーっ! きまったぁーーーーーーっ! 」」」」」


 各コート試合はどんどん進み、ほぼ同時に森畑、美鈴、小笹の試合が始まった。


「赤、栃木県! 県立柏沼高校、森畑選手!」

「はいっ!」

「青、沖縄県! 首里琉球学院高校、新城選手!」

「はいぃーっ!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアー  ワアアアアアアアアアアアアアアアー


「「「「「 ちばりよぉーーーーっ! 新城巳波ーーーーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 新城主将ーーーーっ! ちばりよーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 ファイト新城先輩ーーーーーーっ! 」」」」」


 地元の声援をたくさん受ける新城。森畑はこの声援の中、先攻で演武する。


「(ものすごいね、地元選手への声援。まさに、アウェイだ・・・・・・)」


 お互いにゆっくりと一礼。森畑はコートへ一歩一歩、気を引き締めながら入った。


   すっ・・・・・・


「マツムラアァァーッ・・・・・・ローハイイッ!」


   ススゥ  サアアアッ  シュパパァン サアアッ パパァアアン! スウッ サッ

   ススゥ ススゥ ススゥ  シュバァッ パァン クルッパシン パパァーン!

   シュバァッ パァン クルッパシン パパァーン!  ダダンッ ササァーッ


 糸恩流の第二指定形、松村鷺牌マツムラローハイ。森畑は、以前よりもこの形のキレが増している。


   スアアアアーッ・・・・・・  バシイイッ!   とあああぁぁーいっ!  

   ススゥ ススゥ ススゥ  シュバァッ パァン クルッパシン パパァン!

   サアアーッ・・・・・・  スッ  パパァン  スッ  パパァン  スッ パパァン!

   シャシャッ シュパァンッ! クルリ パシィン! パシィ!  スッ フゥゥ・・・・・・

   すっ・・・・・・


「「「「「 いいぞ森畑! 決まったぁぁぁーーーっ! 」」」」」


   パチパチパチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチパチパチ!


「すっごい迫力の演武だったなぁ森畑さん! 六月の予選よりも桁違いにキレが増してた!」

「糸恩流ならではの動きだな、まさに! 優雅な白鷺が舞うと言うより、戦っている形だ!」

「菜美すごい! アタシにも、形の動きで四方八方に戦う姿が見えたよ! すごい!」


   パチパチパチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチパチパチ!


「(ふーっ。やった! 全力を出し切ったよ! あとは新城さんの演武か・・・・・・)」


 全力投球のように、見事な緩急とキレで演武を終えた森畑。

 続いて、森畑と交替して新城がコートへ入った。


   すうっ・・・・・・


「・・・・・・セエエェサァァーーーーンッ!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアー  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


 新城さんは、剛道流の第二指定形、十三歩セーサンを演武。嘉手本佐久雄の直弟子は、どれほどの形を披露するのだろうか。


   スウウッ コオオォォ・・・・・・ ハアアーッ・・・・・・

   スウッ スーッ シュパパァン!  スウッ スーッ シュパパァン!

   スウッ スーッ シュパパァンッ!  パパンッ! バッ シュババアァッ!

   スウゥ ズバアッ! スウゥ ズバアッ! スウゥ ズバアッ! ・・・・・・


「(さすが・・・・・・世界の嘉手本仕込みってわけね! ひとつひとつの技の重みが、すごい!)」


 新城の形を真剣に見つめたまま、森畑は直立不動で動かない。

 観客席で試合を見守るメンバーも、この勝負がどちらに転ぶのかまったく予想ができなくなっていた。


   ギュウッ シュバ ズバババッ! シャシャッ!  ダァン! バッ バババッ!

   シュババシュッ ダアアンッ! てやぁぁぁっ! スッ シュババッ スウゥッ・・・・・・


「「「「「 きまったあぁーーーーーーっ! 新城先輩ーーーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 ナイスです! いい形です! 最高です、新城主将ーーーーっ! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  パチパチパチパチパチパチパチパチ!


「川田。・・・・・・森畑のマツムラローハイと、今のセーサン、これは・・・・・・」

「際どい勝負だね・・・・・・。アタシは菜美のローハイのがやや上かと思うけど。井上は?」

「なんだよぉ、陽二も真波も! 俺は・・・・・・菜美のがキレがあったと思うぜ!」

「前ちゃんは、どう思う? 俺は森ちゃんと相手の子との差は、非常に際どいと感じたんだが」

「相手のセーサンもかなりのもんだったね! これは確かに難しいな。審判次第かも・・・・・・」


 神長と中村は、ものすごく微妙な表情。井上は川田と同じく、森畑の方がキレはあったように思っている。前原は「キレだけで勝敗がつくわけではないのが、形競技の怖さだね」と心配そうだ。


「判定っ!」


    ピィーーッ!  ピッ!

    ババッ!  ババッ!  バッ!  バッ!  ババッ!


「赤、2! 青、3!  青の、勝ち!」

「「「「「 うそぉーっ! ああぁーーーっ・・・・・・。菜美ぃーーーっ・・・・・・ 」」」」」

「「「「「 やったぁ! 新城主将ーーーーっ! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ


「(うそぉー・・・・・・。そうか。ギリギリの差だったかー・・・・・・。ふーっ・・・・・・)」

「(わ、私の勝ち・・・・・・か! ふうぅーっ・・・・・・。負けたかと思ってた・・・・・・)」


   パチパチパチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチパチパチ!


 天を仰いでふっと息を吐いた森畑。それと同時に、一瞬だけ嬉しい表情を零した新城。

 主審の宣告は、二人の選手の明暗をその場で真っ二つに切り分けた。森畑のインターハイは、四回戦で幕を閉じたのだ。


   すた  すた  すた   がしっ


「・・・・・・ありがとう、新城さんっ! 本場沖縄の形、さすがだわ! やられたぁーーーっ」

「こちらこそ! 糸恩流の鋭さと技が、本当に怖い勝負だった! ありがとうございました!」


 一礼し、森畑から新城へと歩み寄った。お互い短い時間内での健闘を讃え合い、がっちりと握手してまた一礼。

 コートから出た森畑は監督席の松島のところでがくりと座り込み、渡されたタオルを顔に当て、肩を震わせていた。

 誰が見ても際どい勝負だったが、地元沖縄のエネルギーに森畑は飲み込まれた感じだったようだ。


「なんということだ・・・・・・菜美が。こりゃ、アタシがますます組手で頑張らないと!」

「惜しかったのにねぇー! どっちもミスはなかった! もう、審判の好みの問題だな。しかし、森畑もベスト16までは余裕で来られたんだ! 恥ずべき試合じゃなかったねぇー」

「田村。あんたも組手、頑張ってよね! 柏沼高校に、男子団体のほか、もっと賞状やメダルを持ち帰ろう!」

「だな! こりゃ、外は天気だけど、今日の大会は荒れ模様かもしんないねぇー・・・・・・」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ

   ウオオオオオオオオオオオオオオオッ  がやがやがやがやがやがやがやがや


「「「「「 やったやったぁーーーーっ! ナイスファイト東恩納ーーっ! 」」」」」

「「「「「 よっしゃぁーーーーっ! いいぞぉ東恩納美鈴ぅーーーーっ! 」」」」」


 森畑が僅差で敗れたのとほぼ同時刻に、隣のFコートではまたもや波乱が起き、沖縄陣営の大歓声に包まれていた。


「あっはははぁッ! やった! やったよぉーっ! みんなぁ、にふぇーでーびるーっ(ありがとうございます)!」


 前年度ベスト4の大阪府代表 西大阪愛栄の清水選手が、美鈴にこれまた3対2の僅差で撃破された。

 美鈴のクルルンファは、キレとスピードに賭けた相手のニーパイポを、重厚さと力強さを重視した動きで打ち破ったのだった。


「す、すげぇ美鈴ちゃん! あの清水希乃を破りやがった! な、なんだ今日の試合は・・・・・・」

「井上君! Hコート! 末永さんもやってるよ! いま、相手の形が終わるところだ!」


   ・・・・・・シュバアッ  バッ ババッ シャッ  クルウッ  シュバシュバアッ

   ダァンッ! つあーーーーっ!  クルウッ スウウゥゥ・・・・・・  サアッ・・・・・・


「「「「「 きまったぁーーーーーーっ! いい形や、あすみ先輩ーーーっ! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


「(くすっ。ワタシにこの形をぶつけるなんてぇ。相当な度胸じゃないッ! この程度なら、ワタシの形が圧倒的なのは目に見えてるねーッ!)」


 小笹は福井県代表 若狭海嶺高校の緑川選手と対戦。

 ものすごいキレと重厚な技、そして呼吸法と調和した運足と立ち方で、小笹は見事なセーサンを演武。

 それに対して、相手は和合流の第二指定形、クーシャンクーを演武。和合流特有の重心移動と立ち方に加え、四方八方に緩急をつけた見事な攻撃を表現。

 同じく和合流の形も習得している小笹は、にやっと笑いながら判定を待っていた。


「判定っ!」


    ピィーーッ!  ピッ!

    ババッ!  バッ!  バッ!  バッ!  ババッ!


「赤、3! 青、2!  赤の、勝ち!」

「「「「「 ふぅーーーーーーーっ・・・・・・ よかったぁぁーっ・・・・・・ 」」」」」


 思わず、栃木陣営からは安堵の溜め息が漏れた。

 磐石の出来であった小笹の形も、判定では僅差の勝利となった。勝ちはしたが小笹はものすごく不満そうな表情。


「なんっでぇーッ? ギリギリの勝ちなんて、ワタシ納得できないよぉ! なぜ? なぜだ!?」

「ほら、小笹。ちゃんと相手の人も頑張った上での結果なんだから。むくれないのっ!」


 小笹は、ふくれている。監督役の末永に諭され、なんとか機嫌を戻してコート脇に座ったが。


「いまの試合、末永先生の娘さんの形の方が、遙かに良かったと思いましたけどねぇ?」

「そうですなぁ。審判もそれぞれ、形のどこを見ているかにもよるんですかなぁ? これだから、勝負っちゃ難しいんですねぇ」


 保護者応援団も、今の判定にはどよめいていた。審判はそれぞれ、全空連指定形は講習を受けてチェックポイントを学んでいるとはいえ、人によって見ているところが違う。そのようなことも影響し、必ずしも圧勝で勝てるとは限らない。よほど、誰が見ても魅入ってしまうようなレベルの形なら話は別だが。


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  パチパチパチパチパチパチパチパチ!

   ザワザワザワザワザワザワザワザワ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ


「驚いたな。私を下した末永小笹が、四回戦で僅差とは。相手のやつは無名だぞ。そこまで飛び抜けたレベルではなかったが・・・・・・」

「里央と同感だ。和道のクーシャンクーは、これまでまだ誰も披露していない。そういう面でも、審判の印象が強かったのかもしれん。大阪の清水は敗れるし、森畑もまさかここで消えるとは・・・・・・。これは、誰が勝ち上がるか予想がつかないぞ・・・・・・」

「・・・・・・読み通りにはいかないものよ。それが、インターハイだもの・・・・・・」


 インターハイ慣れした等星女子のメンバーでさえ、先の読めない展開となった今回の試合。

 人数がどんどん絞られているためか、あっという間に四回戦が終了。栃木県勢では、小笹のみが準々決勝のベスト8進出となった。

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