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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第4章 大嵐の大激闘! 拳士の闘志に限界なし!
73/106

2-73、女の子は怒らせないようにしましょう

   ズバアァンッ!  ダダァン!  ダダンダダァン!

   ~~~ アアアァァーーーーイッ! アアーイショォーッ! ~~~

   パパパパァン!  パパパパァン!  ドパアァンッ!

   ~~~ シャアーーーイッ!  アアアアアーイィッ! ~~~


 公式練習場はものすごい熱気に包まれている。個人組手に出場する選手たちが、あちこちで打ち込み練習やウォーミングアップに勤しんでいるのだ。


「やれやれ。どこもかしこも、いっぱいだねぇー」

「田村。腰や足首の具合はどうだ? 何かあればおれたちもサポートするから、言ってくれ」

「だいじだ。わりぃなぁ中村。みんなも、そんな心配しなくてもだいじだよぉ」

「だって尚ちゃん、インターハイ予選の時もだいぶ無理してたろ? ほんと、ケガだけは気をつけていかないとな?」

「アタシも心配なんだよなぁ、田村のそういうとこはさ。ねぇ? ほんと、やばかったら無理しちゃだめだかんね! 生活にまで響く爆弾を背負ったら、やばいんだから!」

「だいじだって。神長も川田もありがとなぁ。まぁ、確かに、ケガは気をつけないとねぇー」

「さっき、念入りにマッサージやケアはしたけど、またさらに痛くなってきたら迷わずドクターの所へ行くのよ? 私のケアじゃ限界があるからね」

「だいじっす堀内先輩。ありがとうございます。まぁ、できるとこまで、やってきます」

「・・・・・・田村。・・・・・・本当にその具合で大丈夫なのか? ・・・・・・あの顔ぶれを相手するのに・・・・・・」

「だいじだって。二斗こそ、調子はどうなんだ? ま、いいとこまで行こうぜ! 全力で戦ってくるだけだねぇー!」

「オレは万全だが・・・・・・。・・・・・・まぁ、田村がそう言うなら・・・・・・」


 田村の具合を心配する栃木県勢をよそに、朝香と小笹は念入りな柔軟運動をしている。

 公式練習場のあちこちからは、殺気に似た気迫がビシビシと田村たちのところまで伝わってくる。

 その視線は主に、朝香へ向けられたものも多いが。


「「「「「 (朝香朋子。今年こそ、倒してやるからね!) 」」」」」


 刃物でも突きつけられたかのような、鋭い視線があちこちから朝香へ刺さる。そんなことは気にもせず、朝香はサポートに回った等星メンバーや小笹と一緒に、ゆっくりと膝や足首のストレッチをしていた。


「ねー。この視線は何なのぉ? ワタシ、朝香朋子の首を狙った視線をいっぱい感じるんだけどぉ!」

「・・・・・・大丈夫よ。慣れてるから・・・・・・。それより、あなたはどうなの? ・・・・・・調子は万全なの?」

「くすっ。ワタシはぜんぜん平気だよーッ! 早く試合したくてワクワクなんだよねーッ! あははっ! インターハイ、強い人いーっぱいいるんだもんッ!」

「元気ね・・・・・・あなたは。・・・・・・ごめんね。入学前のこと。私らが傷つけたみたいで」

「等星に入るときのことは、今は忘れてるからいーのっ! 同じチームメンバーだもんねっ」


   ぺたり  ぺたり  ぺたり  ぺたり・・・・・・


「「「「「 あっ! 」」」」」

「ウフフフゥ! こぉんなトコにいたのねぇん? ごきげん麗しゅう、栃木のみなさぁん」

「か、川田先輩! ミランダ野沢シーナです! ちょっと、あなた、何しにきたのっ!」

「アハハハハァ! ホーホホホホ! 引っ込んでなさぁい、茶帯の小娘。アナタ確かぁ、コザッサのお友達だったわねぇん? ワタクシは、アナタ達みたいな田舎娘に用はなくってよ? そちらの女王に、個人戦のごあいさつをねぇん。ウフフフゥ!」


 不思議な雰囲気と、不気味な雰囲気を併せ持ったミランダが栃木県勢の前に現れた。

 中村と井上はそっとその場から離れ、二斗の後ろに隠れた。中村曰く、「こいつは人生で一番苦手なタイプなんだ」とのこと。


「・・・・・・何? ・・・・・・私に、何か用?」

「お立ちなさぁい、トモコ・アサガ! このミランダ野沢シーナがぁ、わざわざ出向いてあいさつに来たのよぉん? 団体戦、ワタクシの学校に敗れたお気持ちはいかがかしらぁん、絶対女王サマ? ウフフゥ! アサガと言っても、負ける日はあってよ? それが今日よ!」

「ちょっ・・・・・・。あんた、朝香にわざわざ喧嘩売りに来たのっ? アタシが・・・・・・」


   ヒュバアッ!  ぴたっ!


「・・・・・・っ!」


 割り込もうとした川田の鼻先に、素速く拳を寸止めしたミランダ。

 ミランダはそのまま視線を朝香に向け、話を続ける。


「黙ってなさいな田舎娘。ワタクシは、トモコ・アサガと話してるのよぉん? アハハハァ!」

「(こ、こいつっ! は、速い! アタシが反応しきれないなんて・・・・・・っ!)」

「トモコ・アサガ! 個人戦、ワタクシは間違いなくアナタと当たるでしょう? 絶対女王なんて呼ばれていい気になってるアナタがぁ、ワタクシは目障りなのぉー」

「お黙りなさい田舎娘。・・・・・・話を続けるわぁん? そういうわけで、先にぃ、勝利宣言させてもらうわねぇん? だからぁ、全力を出すことね。ウフフフゥ! ホーホホホホ!」


   すうっ   たっ・・・・・・


 高笑いするミランダは、撫でまわすかのような視線を朝香に向ける。

 すると朝香は、しばらくして無言でゆっくりと立ち上がった。


「・・・・・・私は別に、何て呼ばれようがどうでもいいけど・・・・・・。・・・・・・あなたに対して全力を出すかどうかは・・・・・・あなたの実力次第ね・・・・・・」

「なぁッ? なぁんですってぇ? ・・・・・・ウフフフ、ずいぶん虚勢を張った自信がおありのようですねぇん! アナタのチームの主将でしたかしらぁ? そちらのユカ・サキオカ。ワタクシの前に散ったのにぃ、そこまでアナタはユカ・サキオカと差があるのかしらぁん?」

「おい、お前。いい加減にしないか? 朋子はお前に私怨も何もない。相手にする必要はないんだから、挑発しても無駄だぞ? 言っておくが、私よりも朋子の方が実力は上だからな?」

「ホーホホホホ! 仲良しこよし集団なのぉ等星は? 絶対女王、トモコ・アサガ。アナタを軽く沈めて、今年はワタクシが頂点をいただくわぁん。勝たせてもらうわねぇん?」


 崎岡の言葉も意に介さずに挑発を続けるミランダ。朝香はやれやれと言った感じで呆れている。

 だがそこで、その挑発に対して怒ったのは、朝香でも崎岡でもなかった。


「・・・・・・なぁ、あんたぁ・・・・・・」

「?」


   シュバアアッ!  ピタアッ!


「なッ! な、何するのぉアナタ! ・・・・・・ウフフフゥ・・・・・・いい度胸ねぇん!」

「さっきから聞いてれば、言いたい放題やねぇ? どこの馬の骨かわからへんけどなぁ、あんたごときがお姉の首獲るなんてぇ、図に乗りすぎちゃいますぅ? 朝香家がなめられたら、さすがに気ぃ悪いわぁ。・・・・・・朝香の名、コケにしはるんなら、お姉は容赦せんと思いますけどなぁ?」

「・・・・・・舞子!」


 ミランダを振り向かせると同時に、その首筋に手刀を寸止めしたのは、朝香の妹の朝香舞子。

 三竦みのように朝香姉妹とミランダが立ち並び、静かな火花が散っている。


「お姉に因縁つけてええのは、うちだけやで。まったくもって派手な見た目してからに、水商売でもしてはるん、あんた?」

「みッ、水商売ですってぇ? ・・・・・・ウフフゥ。面白い冗談ですわぁん」

「まぁ、何でもええけどなぁ、朝香姉妹に割って入る資格はあんたにはあらへん。どうか、お引き取り願いますー」

「品のない小娘ねぇん。アナタ、確か花蝶薫風女子高のマイコ・アサガね。ウフフフゥッ! 姉妹喧嘩はぁ、おうちでやりなさぁい? 明日の団体戦、アナタもワタクシが蹴散らしてやるわぁん! このインターハイに、ミランダ野沢シーナの名を、バラの花が散りばめられるがごとくぅ、振りまいてやるわぁん! アハハハハァ! ホーホホホホ!」


 ミランダは腰に手を当て高笑い。朝香姉妹はミランダに対して鷹のような目つきのまま。

 神長と前原は「女子の火花が散るのは、なんか怖い」と思っていた。


「ちょっとぉッ! ミランダ! いーかげんにしなさいよぉッ! ワタシを無視して、朝香姉妹に因縁ふっかけるのはやめなよぉッ! ワタシはあんたにリベンジするんだからね!」


 朝香姉妹とミランダの間に、さらに小笹が割って入った。


「コザッサ・スエナガ。アナタがワタクシに勝つのは、無理よぉん。ワタクシに散々痛めつけられたヨーロッパでの決勝を、忘れたのかしらぁん? あの大会に比べれば、こぉんなインターハイのレベルなんてぇ、児戯に等しくてよぉん? ホーホホホホ!」

「なっ、なんだとー! ミランダ! ワタシ、ほんっとに怒るからねぇッ!?」

「ははははっ! ずいぶん言うてくれるなぁ。ええやろ、ミランダ野沢シーナ。朝香家に喧嘩売ったからには、その覚悟がおありなんやなぁ。・・・・・・覚悟しときなはれ!」


   ひたり  ひたり  ひたり・・・・・・   たたっ  たたっ  たたっ・・・・・・


 さらに、この騒動の方へ近寄る足音がひとつ、ふたつ。この火に、さらに油が注がれることとなった。

 新たに割って入ったのは、二人の女子選手だ。


「ふざけたやつや! もう黙って聞いてられへん! 北海道代表のミランダ野沢シーナ。インターハイをコケにするのもええ加減にせぇや! 朝香朋子を下してテッペン獲るのは、お前なんかやない! この藤崎さつきやで! これからの個人戦、朝香舞子が言うように、覚悟しときぃや! もう、引っ込みつかんでぇ? ごめんちゅーても、許さへんでぇ!」

「はぁ、おめ、あんましおだづごと言ってっと、おらも気分悪いんだ! 勝手にはぁ、なぁにさ言ってるだかわがんね! おめ、何だが話聞いてて、はぁ、ごしぇっぱらやけてくんなぁーっ! んだば、やってみれ! 簡単じゃねぇべ! おらたち無視して、はぁ、でけぇこと言ってんなこのほだなすが! へたげなことさ、言うもんじゃねぇっちゃ!」

「このぉ、ミランダ野沢シーナ! なんなのよあんたは! アタシのことも田舎娘なんて馬鹿にしてるけど、朝香と戦うのはアタシ! あんたこそすっこんでなよ!」


 大阪の藤崎と宮城の岡島も乱入。さらにそこへ川田も入り乱れ、もう、大変なカオス状態。

 森畑と共にあれほど小笹に説教してた川田も、結局は火の中に飛び込んでしまったようだ。

 朝香朋子、朝香舞子、ミランダ野沢シーナ、末永小笹、藤崎さつき、岡島玲菜、そして川田真波。七人の女子が、ものすごい闘気を揺らめかせ、向かい合う。とてもじゃないが、田村たち男子は口を挟めない雰囲気だ。


「ちょ、ちょっとみんな。落ち着いて・・・・・・」

「「「「「 だまっててっ! 」」」」」

「はい・・・・・・」


 前原はなんとかみんなを宥めようとしたが、七人の迫力にあっけなく封じ込められてしまった。


「よ、陽二・・・・・・。女子って、争うと、おっかねぇな! ぶるぶる、ぶるぶる」

「そ、そうだな。ここはまぁ、収まりつくまで、おれたちは静かにしていようか。うむっ」


   ずいっ・・・・・・


「え! に、二斗君!?」

「おい、お前たち。ここは、高校拳士が崇高な精神のもとに競い合う場所。・・・・・・私怨や私闘の気持ちを持つなら、帰れ! ・・・・・・どういうつもりか知らんが、武道に関わる者が、幼稚な争いをするのは、オレは好かんっ! ・・・・・・全員、大人になれ! 落ち着けっ!」


 この騒ぎに割って入ったのは、二斗だった。

 普段は寡黙な二斗が珍しく感情を露わにし、火の点いた女子たちに水をかけ、その場を冷ました。

 これにはみな驚きだった。


「ふ、ふん。まぁいいでしょう。これからの個人戦、アナタたち、このミランダ野沢シーナを覚えておきなさぁい! 覚悟おし、トモコ・アサガ! ホーホホホホ!」

「せやな・・・・・・。言い争っても始まらん。拳でケリつけよーや!」

「何だべ、はぁ! 日新の主将、確かに、おらたちがここで喧嘩しててもだめだっちゃ」


 ミランダは去って行った。他の選手たちも、水を差した二斗の言葉で冷静になり、それぞれに散っていった。舞子は、去り際に朝香へ一言。


「お姉。あんな輩に朝香家がなめられるなんて、うちは恥ずかしいわ。・・・・・・お姉にこんなこと言うのは不本意やけど・・・・・・個人戦、あいつは叩き伏せてや? ええね!?」

「・・・・・・舞子・・・・・・」

「あー・・・・・・アタシとしたことが。熱くなっちゃったぁ・・・・・・。うーん、アタシもまだまだ大人になれてないんだなぁー。ダメだ! 試合は試合で、フェアにやろうっと!」

「まったくぅ、川田センパイだってぇ、ワタシと変わらないじゃないですかぁッ! でも、あのミランダ野沢シーナは、確かに自信があるんだと思います。ただ、あいつが思ってるほど、この大会は楽にはいきませんけどねぇッ!」

「あったりまえだっての! アタシだって、ミランダ野沢シーナになんか負けないよ! ねぇ、小笹!?」

「もちろんーッ! ワタシだってぇ、同じ相手にもう負けるわけにはいかないんだッ!」


 静かに妹の背中を見つめる朝香に、その横でガッツポーズを見せる川田と小笹。


「悪かったなぁ、二斗。しかし、よくあの女子たちに割って入れたなぁ? 何だかんだで、日新学院の主将はやっぱ大したもんだねぇー。あのタイミングでの水入りは、さすがだねぇー」

「む・・・・・・。・・・・・・その・・・・・・女子は、喧嘩するより・・・・・・笑ってた方がオレはいい・・・・・・」

「は? あははははっ! なぁんだ! 見た目と裏腹に、優しいのねぇッ、日新の主将サン」


 小笹に笑われ、二斗は無言で赤くなっていた。朝香や等星メンバーも、騒ぎが一段落してほっとした様子だ。


   ~~~ ただ今より、午後の部を開始します。選手は招集を・・・・・・ ~~~


「さぁ、招集アナウンスだ! みんな、全力で栃木県パワーを出し切ろうね!」

「そうだねぇー!」

「・・・・・・。・・・・・・む!」

「くすっ。大暴れしてやろぉーっと!」


 川田の一言で、田村、二斗、小笹もきりっと表情を切り替えた。

 AからHまでの八つのコートで、猛烈な嵐が吹き荒れる。大混戦必至の個人組手は、いったいどんな試合になるのだろうか。

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