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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第4章 大嵐の大激闘! 拳士の闘志に限界なし!
72/106

2-72、もうひとつのお昼休み

   ~~~ ただ今より、沖縄伝統空手の師範による、模範演武を行います! ~~~

     

「「「「「 師範の模範演武だって? 」」」」」

「「「「「 今年のインハイは、そんなのもあるんか? 」」」」」


 なんとこの二日目は、昼休みのセレモニーアトラクションとして、沖縄空手の師範などによる演武が披露されるらしい。これには会場中みな興味津々で、メインアリーナへと注目。


   ~~~ 初めは、沖縄剛道流、東恩納キヨ師範による、三戦(サンチン)の演武です ~~~


「ひ、東恩納さん? あ、そうか。だから道着だったのかねぇー!」

「田村君。あっちのイスには、嘉手本さんもいる! 両手に鎌持ってるよ!」

「道場の二階で見た、二丁鎌だな! まさか、その演武を見られるのか。おれは初めて見るな」

「陽二、あっちは、バスの島袋さんだ! そして、矢木さんもいるぞ!」

「えー! ちょっと、アタシ興味あるな!」

「川ちゃん。森ちゃん。これはけっこう、レアな演武かもしんないぜ? だははっ!」

「そうね。私も、本場沖縄空手の演武は興味あるなぁ」


   コオオオォォォォォーーーー・・・・・・・ フハアアァァァァァーーーーッ・・・・・・

   ズシャアッ コオオオォォォォォーーーー・・・・・・ フハアアァァァァァーーーーッ・・・

   ズシャアッ クオオオォォォーーーーッ・・・・・・ クハアァァァァァーーーッ・・・・・・


 キヨはコートの真ん中でスポットライトを当てられ、サンチンの演武を始めた。

 まるで猛獣がうなるかのような呼吸音は、形競技で行われている呼吸音とはまるで別物だった。

 ゆっくりゆっくり動きながら、身体に気を巡らせるように締め上げるキヨ。

 会場内は、水を打ったような静寂に包まれた。

 競技ではない伝統文化としての空手が、館内全員の眼前に確かにいま、存在しているのだ。


   パチパチパチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチパチパチ!

   パチパチパチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチパチパチ!


「す、すごい! これが・・・・・・本場の、源流の形。すごい。それしか、言えない!」

「里央・・・・・・。私たちは、今、競技だけに目が向いているが、こういう空手もあるんだな!」

「すごいね、あなたのおばあさん。・・・・・・あんなサンチン、私もできないな・・・・・・」

「でしょーッ? くすっ。うちのおばーちゃんだよ! 久々だなぁ、おばーちゃんの三戦」

「に、二斗先輩! これは・・・・・・!」

「・・・・・・。・・・・・・むぅぅ!」


 諸岡、崎岡、朝香らも真剣に見入ってしまったキヨの三戦。二斗や畝松も驚愕の表情だ。


   ~~~ 続いて、沖縄劉景流、嘉手本佐久雄師範による、二丁鎌の演武です ~~~


「か、嘉手本佐久雄って、伝説の世界チャンピオンの! 鎌って、そんな形もあるのか!」

「くすっ。沖縄ではふつーだよ! ふつー!」

「す、末永小笹。お前もできるのか、あれが!?」

「うんッ! ふつー」

「ふつー・・・・・・ってお前!」


 等星女子で主将を務める崎岡も、この鎌の演武には驚愕。小笹はニコニコして見ているが。


   サッ スウッ シュバッ! ヒュウンッ! ヒュババッ ええぇーーーいっ!

   シュウンッ! ヒュババッ! ガッ ズバッ ヒュババッ! サッ ヒュババッ!


 両手に鎌を携えた嘉手本は器用にくるんと鎌を掌で扱い、突きや受け、そして斬撃を繰り出す。そのキレは凄まじい。動きは、空手の動きに鎌がくっついた感じだが、独特の迫力を生み出している。


「鎌を持った形なんて初めて見た。動きは、素手の形とあまり変わらないんだな・・・・・・」

「崎岡ぁ。等星も、鎌持って試合に出れば、優勝できるんじゃないかねぇー?」

「何言ってるんだ田村は! そんな、草刈りボランティアみたいな試合があるか!」

「・・・・・・。・・・・・・ぷっ」

「何笑ってるんだ二斗! だって、そんな試合あるわけないだろう!」


 崎岡と二斗のやりとりの最中も演武されている武器術の形。競技ではまず、なかなか見られない貴重な時間だろう。


   パチパチパチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチパチパチ!

   パチパチパチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチパチパチ!


   ~~~ 続いて、沖縄省林流、島袋鉄男師範による、内歩進(ナイファンチ)の演武です ~~~


「島袋さんって、いつもバスの運転してる印象しか無いけど、道着がみっちりとしてる。ものすごい鍛錬してる人なんだな! ナイファンチやんのかー」


 井上が珍しく、騒がずに大人しくじっくりと見つめている。

 サンチンと並ぶ、基本を練って鍛錬を積む代表的な形、ナイファンチ。横にしか動かず、シンプルに見えるが、その奥深さはサンチンに勝るとも劣らない。


   スウッ ススッ  グアアッ! バアンッ!  サッ  スウッ  ススッ

   バアッ! バッ ズババッ バッ!  グアアッ! バアンッ!  サッ スウッ 

   ススッ  バアッ! バッ ズババッ バッ! 


 忍び足のようにゆっくり横へ動き、手を開いて横受けし、強烈な肘当てを繰り出す島袋。

 脇に構えた拳からは、ものすごい鉤突き。受けも突きも、島袋の剛拳から唸り音をあげて繰り出される、迫力あるナイファンチだ。


「ナイファンチのあの鉤突き・・・・・・。おい、末永小笹。お前が私にかつて入れた突きだな?」

「あははっ! あの時は、ごめんなさぁい! まさに、あの突きをやったんですよぉー」

「まぁ、あれがなくとも、私の右アバラは中学の時に全中でやって古傷になってたんだ」

「は? ちょっと、崎岡。それ、どーゆーこと? ・・・・・・もしかして!」


 森畑が慌てて崎岡の方へ振り向き、二人でいくつか言葉を交わし合った後に、森畑は両手を合わせて崎岡へ何度も謝っていた。何のことだろうか。


   パチパチパチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチパチパチ!

   パチパチパチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチパチパチ!


「三戦に、二丁鎌に、内歩進・・・・・・。いやぁ、これだけでも、すごい見応えだねぇ!」

「沖縄空手、奥が深い。ただ単にスポーツとしてやっているだけの高校生には、衝撃だなぁ」

「でも神長君、まだ、矢木さんがいるよ? 矢木さんは師範じゃないだろうけど、何をやるのかなぁ?」


   ~~~ 最後は、東恩納師範と矢木秀人選手による、一本勝負自由組手です ~~~


「「「「「 は? 」」」」」


 館内一同、一瞬だけ固まった。なんと、高齢のキヨと世界学生王者の矢木が、組手を行うというのだ。見ている誰からも、模範演武の場と知りながらも、「絶対にそれは無理だろう」という空気が流れた。


「い、一本勝負って言っても、無理だろ! 何考えてるんだ高体連の運営委員は! どうなっているんだ!?」

「崎岡さん。東恩納さんならきっと大丈夫だから、承諾したんだよ。矢木さんは東恩納さんの直弟子だし、きっと、一本勝負って言ってもほら、演武だし?」

「いや、だからって、それでヤラセのようにやっても、それは一本勝負じゃなく約束組手って言うんじゃないのか?」

「有華・・・・・・。矢木先輩の目、とてもヤラセに見えないけどね。ナショナルチームの強化合宿の時みたいな、真剣な目よ? ・・・・・・まぁ、見てみようよ」

「そうだよ。朋子の言うとおり、まずは見てみようよ有華」

「・・・・・・どういうことなんだ。いくら大師範でも、ご高齢の方と現役世界チャンピオンだぞ? 私は知らないぞ何があっても。朋子も里央も、なぜそんな冷静なんだか」


 最後の演武には会場がしばらくどよめいていた。現役の学生世界王者と、高齢の師範が行う組手。

 一本勝負というアナウンスが入ったが、ここでは、先取り勝負の申し合わせのようだ。


   ~~~ 審判役立会人は、島袋鉄男師範です ~~~


 道着姿の島袋が間に立ち、キヨと矢木が向かい合って立った。

 拳サポーターもメンホーも何もない、素手素面の先取り一本勝負とのこと。


「「「「「 ごくりっ! 」」」」」


 会場内のあちこちから、生唾を飲み込む音が聞こえる。あれほど賑わっていた昼休みの会場が、一気に静まりかえっている。


「勝負一本! 始めぇっ!」

「っしゃあああああぁぁーーーっ!」


   ダダダァンッ!  ザッ  ザッ  ザッ  ザッ・・・・・・


 大きな身体を、ゆったりと揺すりながら絶妙な脱力で構えてステップを踏む矢木。

 その動きはどう見ても、演武用の約束された感じではない。本気で技をしかけていくつもりだ。目が、気迫が、そう物語っている。


「ほっほほぉ。さぁ、おいで。遠慮はいらんさぁ」

「・・・・・・・・・・・・失礼します!」


   シュンッ  ヒュババッ ヒュバババババッ


 本当に、矢木が攻撃を仕掛けた。その瞬間、会場内はあちこちから、声にならない声がいくつも聞こえた。驚きの声もあるし、何とも言えない感情の籠もった声もあるだろう。


   ガツンッ  ガツガツンッ ドゴンッ


「(・・・・・・っつ! せ、先生! この技はっ・・・・・・)」


 矢木の放った左右の突きは、あの水城龍馬よりも速い。

 だが、矢木が動き出す瞬間、既にキヨは滑らかな足捌きで突きの延長線上から間合いを外していた。そして、放たれた突きを、掌底や手首の横に出っ張った骨でがちんと打ち落とす。

 受けられた矢木は、ものすごく表情を歪めている。さっきよりも、矢木の突きの速度は一気に落ちた。


「矢木にーちゃん、骨受け喰らったね。あれ、痛いんだよぉーッ!」

「骨受け? なにそれ? アタシの知らない技、いっぱいあるんだなぁー・・・・・・」

「手首の横に、ポコンてあるでしょ? 足で言うくるぶしみたい骨。あれでわざと受けて、相手へダメージを与えるやり方が剛道流にはあるのよねぇッ!」

「いったそぉ! ・・・・・・だから矢木さん、スピードが一気に落ちたの? すごいなぁー」


 川田と森畑は小笹の説明を聞いて、感心しながらも苦笑いしている。


   シュバアアッ!  ガツンッ  ヒュルウンッ  ガッツン!

   シュンツ シュパパパァン  ドゴンガツンドゴンッ!  シュバアアッ!


「ほっほぉ。さすがのわしも、秀人の速さをずっと受けるのは、もうきついねぇー」

「(く・・・・・・っ! 手足が・・・・・・痺れる! さすが先生・・・・・・)」

「(くわっ!)」


   ガシイッ!  グイッ!  ギュルルルッ  ズダンッ!  ・・・・・・ドスンッ!


「止め! それまでっ!」


  矢木の突きや回し蹴りを一瞬で掴み、捻るように引き倒し、キヨは重い突きを矢木の脇腹へどすんと決めた。


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ! パチパチパチパチパチパチパチパチ!


 度肝を抜かれた見応えのある演武が終了し、会場のボルテージが一瞬で沸き上がった。

 そしていよいよ試合は個人組手へ移る。この大会も、折り返しだ。

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