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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第4章 大嵐の大激闘! 拳士の闘志に限界なし!
65/106

2-65、個人形選手、出陣!

   ぐっ  ぐぎゅー  ぐっ  ぐっ  ぐっ

   パパァンッ! シュルゥ  パパァンッ!  パパァンッ!


「好きだねぇ、柔軟。あんたすっごく柔らかいのに、なんでまだそんなにやるの? 基本的にアタシより柔らかいし、羨ましいなぁ」

「森畑先輩も、キレはばっちりですね! すごい音! そして、力強い!」


 川田と阿部は、小笹や森畑のウォーミングアップを見ている。

 真横一文字に開脚し、柔軟運動をする小笹。その横で、指定形のセイエンチンの動きを部分的に確かめている森畑はその後、バッサイ大の動きも確認していた。


「くすくすっ。柔軟は、格闘技の基本ですよぉッ。ケガも少なくなりますしー。ワタシは、伝統的なムチミやチンクチの動きも入れてるんで、なおさら柔軟で伸ばしとくんでーす」

「・・・・・・うーん。調子はいいけど、あとは、表現力で勝負だなぁ。恭子、正面から、私の正中線のブレがあるか、見ててくれない?」

「はいっ。前に立ってますね」


 その横で、小笹の監督役でもある母の末永は、初々しい道着に白帯を巻き、もじもじしていた。


「松島さん、やはり、何というか・・・・・・。変な感じです。白帯姿の私が、監督の腕章で小笹の後ろにつくなんて初めてで。場違いじゃないかしら、私?」

「なぁに、大丈夫ですよ。よくお似合いですよ。娘さんの道着を借りたんですね?」

「帯は、同僚の体育科教諭から白いのを借りてきました。道着は小笹が三着持っているんですが、ちょっと私には小さいかな・・・・・・」

「お母さん、もうーっ。文句言わないでよぉッ。形は特に、いてくれればいーからさぁ! だって、お母さんがいなきゃ、ワタシ出られないんだもん。白帯でも、いーのッ!!」


 松島と末永は、個人形の監督として、一緒に公式練習場にいる。

 前原たちも同じ場にいて「末永親子のやりとりには、どこか癒やされる気もする」と思っていた。


「・・・・・・ふぅっ。よーし、これくらいでいいや、アップは。ありがと、恭子!」

「いえ! 頑張って下さい、森畑先輩!」

「動きはだいじだね、森畑さん。僕が見ても、もう、ばっちりだよ!」

「ありがと、前原。一回戦はバッサイ大、二回戦はセイエンチン。三回戦からは第二指定形だから、ニーパイポでいくよ! 厳しい戦いになるだろうけど、頑張る!」

「うむ。おれは松楓館流だから糸恩流の細部まではわかんないんだが、緩急と呼吸法、そしてひとつひとつの技の重厚感は、森畑のこれまでの形から進化してるな!」

「剛道流の稽古が、すこし、効果でてるよなぁ。森ちゃん、セイエンチンは糸恩流では、形の系統的には那覇の東恩納派って言われてるんだろ?」

「そうね。糸恩流の形ってさ、系統がいろいろあってね。首里の(いと)()派。那覇の東恩納派。あとは(とまり)系とか、白鶴拳(はっかくけん)系とか、新垣(あらがき)派とか、とにかく数が多いのよねぇ」

「流祖の和文仁賢和(わぶにけんま)って沖縄の空手家は、すっげぇマニアックな形や武術まで勉強して、いろいろマスターしてたらしいぜ? 俺や尚久、悠樹も、道場の師範からそう聞いてたしな」

「糸恩流も、しっかり学べば、すごく奥深い技法があるよね。落花(らっか)屈伸(くっしん)流水(りゅうすい)転位(てんい)反撃(はんげき)、それらの『受けの五原則』とか、僕、道場で姉弟子の先輩に教わって、やったなぁ。森畑さんの形は、それが見事に表現されてるよね! だから、見てて惹き込まれるんだよなぁー」

「私は、嘉手本さんに言われたとおり、今日はちょっと演武の意識を変えて戦ってみようと思う。流祖から続く糸恩流としての表現力を、だね。実戦的な相手の動きを想定した技で、気合い入れてやってくるから! 糸恩流は、糸恩流らしく、華々しく演武するよ!」

「ファイト菜美! だいじ! いける! アタシも糸恩流のニーパイポ、覚えようかなぁ?」


 三年生メンバーは、森畑と談笑しながら、いろいろと形について模索していた。


「ところで末永は、何やんだ? また、和合流の形で最初はいくんけ?」

「田村センパイの察しの通りですねぇ! チントウでいきまーす。でも、二回戦は、剛道流のセーパイかなぁ。第二指定形は、クルルンファとセーサンですねぇ。剛道流を使いますよ」

「こ、小笹ちゃん、頑張って! 応援してっから、さ」

「あらぁ。ありがとーッ、長谷川クン! 嬉しいよぉッ! ま、見ててネ。このインターハイに、末永小笹旋風を巻き起こしてやるからねぇッ! あははっ!」


 柏沼メンバーや小笹がわいわいとしている横では、堀庭や畝松が形の確認をしている。


「調子よさそうっすね、堀庭サン。そっちも、カンクウ大っすか?」

「いや、ジオンでいくよ。畝松君は?」

「俺は、カンクウ大でいきますよ。第二指定は、エンピっすね!」

「そうか。お互いに、全力で演武しよう。簡単に一回戦で落ちるなよ?」

「へっ。いらねぇ心配っすよ。そっちこそ、一回戦で没にならんように、祈ってますよ」


   わいわいわいわい  がやがやがやがや

   がやがやがやがや  わいわいわいわい


「調子よさそうで何よりです、森畑菜美さん。今回は、ベストを尽くしましょう!」

「団体組手見てましたよ。柏沼高校の皆さん。すごいですね、ベスト8なんて!」

「ヤッホーッ! 個人形、いよいよですねぇッ! 楽しみさぁー本当にぃ!」


 気さくな感じで声をかけてきたのは、沖縄代表の三人。東恩納道場で過ごした、あの顔だ。


「あ。新城さん! 選手宣誓、かっこよかったよ! お互い、頑張ろうね!」

「糸城さん。僕たちベスト8が限界だったみたいだ。瀬田谷学堂、強かったよー」

「みすずーっ。ワタシも楽しみだよぉッ! 末永小笹旋風にみんな巻き込んでやるよぉ!」


 静かに火花散る、公式練習場。メインアリーナの係員がやってきて、選手招集の案内がされた。

 ついに試合は、個人形競技に移る。


   ~~~選手は入場準備をして、各コートごとに整列して下さい~~~


「よーし! ついに来た! じゃ、みんな、頑張ってくるよ! 見ててね!」

「くすっ。あー、沖縄でインターハイの試合ができるなんて、ワタシ、楽しくてーッ!」

「よしっ。緊張するけど、いくぞ! 頑張って、栃木に鶉山高校ありと周りに見せるんだ!」

「集中、集中。日新学院の存在感は、団体戦だけじゃないんだぜっ、と!」


   わいわいわいわい  がやがやがやがや

   がやがやがやがや  わいわいわいわい


「森畑も末永も、しっかりとな! 堀庭、畝松、女子に華を持って行かれんなよなぁ」

「そういう田村も、どっか傷めたんだって? 個人組手までに、ケアしろよな?」

「二斗先輩も心配してたんすよ、一応? 水城龍馬相手に、ムチャしすぎっすよ!」

「田村。みんな。ありがとうね。私もインターハイ、全力で楽しむから!」

「じゃ、みんな、栃木陣営で応援ヨロシクねぇーッ! ・・・・・・いくぞーっ!」


   ~~~ ただ今より! 個人形一回戦を行います! 各コート、選手、入場! ~~~


 入場係がメインアリーナの扉を開け、形競技に出場する選手たちは一斉に各コートへ。

 団体組手の入場曲とはまた違った、荘厳な感じの入場曲がかかり、みんな気合いを入れてコートへ進んでいた。


   ♪ バアアァーン ♪ パパァーン ♪ ファンファンファーン ♪ ジャンッ ♪


 Eコートに入る森畑と、Hコートに入る小笹。

 入場時に各コートへ分かれるところで、森畑が小笹と掌をタッチし、お互いにふっと笑ってそれぞれ入場。


「(さぁ、今度は私たちが主役だよ! 小笹、負けんじゃないよ?)」

「(森畑センパイこそぉ、初戦でコケて泣くようなこと、しないでよねぇッ? くすっ)」


 磨いた技と精神力を競う形競技。

 沖縄インターハイでその戦いの火蓋が、いま、切って落とされた。

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