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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第4章 大嵐の大激闘! 拳士の闘志に限界なし!
62/106

2-62、大将vs大将 水城vs田村

   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアア


 前原は、最後の最後で、勝利に届くことができなかった。

 前原の負けは、チーム全体の負けを意味するものとなった。


「ごめん・・・・・・。僕が弱いせいで、ここで僕たちが・・・・・・」


 曇った表情と気分で戻ってきた前原が見たもの。それは、あまりにも意外なものだった。


「おつかれ! 前ちゃん、惜しかったなぁ! いい試合だった! 相手、強かったな!」

「悠樹、顔あげようぜ! なんせ、全国一のチームが相手なんだ。互角に戦えるだけでも、俺たちのチームはすげぇんだって! ほら、元気出せよ!」

「勝負だから、仕方ないんだ。だが、それを引きずってもダメだ。これはこれで、おれたちのいい記念となる。記憶にも記録にも残るんだ。さぁ、前原、試合はまだ続いてるんだ! 気持ちを切り替えて、最後の大将戦を見届けようぜ!」


 戻ってきた前原に対してみんなは、明るく迎えて声をかけてくれた。

 そして、チームとしての勝敗はついてしまったはずなのに、まだ希望が残されているかのような盛り上がり方で、田村の周りを囲んでいる。


「そういうことだ、前原。おつかれ! すげぇ勝負をサンキューな! おかげでよぉ、俺も大将戦に向けて、益々気合いが入ったねぇー!」


 メンホーを抱え、輝く眼で話す田村。まるでその表情は、まだ勝敗は決しておらず、この大将戦で勝敗が決まるのではないかと錯覚するほどだ。

 みんな勝敗度外視で、いつの間にか瀬田谷学堂相手に熱くぶつかるこの四回戦を、心から楽しんでいたのかもしれない。


「俺や泰ちゃんは、前ちゃんみたいに競ることができなくて残念だったからなぁ。ならばせめて、仲間が戦う姿を、一緒に楽しまなきゃな! 尚ちゃんを、全力で応援しよう!」

「あ、ありがとう、みんな。・・・・・・田村君。最後は、全国トップの水城君だ。とんでもない相手だけど、頑張って!」


   パァンッ!


 前原は、田村と掌でタッチし入れ替わる。

 柏沼高校男子団体組手は、四回戦で瀬田谷学堂の前に沈むことになったが、闘志まで沈んで消えることはない。田村は水城との試合を前に、ものすごく眼が爛々と輝いていた。


「さぁて・・・・・・と。柏沼高校の田村尚久、か。どれ、ひとつ、楽しませてもらうとするかな」


 瀬田谷学堂側でゆっくりと水城が腰を上げ、メンホーをかぶり、準備を整える。

 柏沼側も、田村が同時にメンホーをかぶり、呼吸を整え、準備が整う。


「昨年のインターハイ王者、水城龍馬か。・・・・・・ふぅ、どーれ、俺もちょっと、本気以上の本気を出すかなぁ」

「え?」


 確かに田村はいま、ぼそっと言った。「本気以上の本気」と。


   ~~~選手!~~~


「「「「 ファイトオオオォォーーーーーっ! 」」」」

「田村ぁーーーっ! 水城龍馬を、打ち倒せーっ! アタシに、元気をちょうだいーっ!」

「頑張れ田村! 主将の意地、瀬田谷学堂相手に見せるんだよーっ!」

「「「「「 田村先輩ーーーーーーーっ! ファイトーーーーーっ! 」」」」」


 一気に盛り上がる栃木陣営。対する東京陣営の声援も凄まじいものがある。


「「「「「 水城主将! ファイト! ファイト! 水城主将ーっ! 」」」」」

「「「「「 龍馬ぁーーーーーーっ! 蹴散らせぇーーーっ! 必勝ーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 平常心是道也! ファイト一発、燃えろ瀬田谷学堂ーッ! 」」」」」 

「「「「「 水城先輩ぃ! 水城先輩ーーーーーっ! ファイトです! 」」」」」

「もう、勝敗ついてるってのに、すげぇ声援だ! 決勝戦みたいな盛り上がりじゃんか!」

「井上、あくまでも、勝敗はチーム同士のもの。水城龍馬と田村の、主将同士としての勝負は、まだ、これからなんだ! これは決して、消化試合なんかじゃない。おれたちの、チームのプライドを賭けた、大将同士の戦いだ!」

「尚ちゃん・・・・・・。本気以上の本気って、どういうことだぁ? まさか、いつもの本気以上に、まだ尚ちゃんは実力出し切ってなかったのか?」

「ごくり・・・・・・。まさかとは思うけど、田村君、相手がそこそこの場合でも苦戦するときもあるし、強敵に難なく勝つときもあるし・・・・・・。相手が強いほどに、実力が引き上がるんじゃないのかなぁ? だとしたら、これ、ものすごい勝負になったりして・・・・・・」


   ざっ・・・・・・  すうっ・・・・・・  しーん


 開始線に並び立つ両者。田村も水城も、まるで猛獣のように鋭い目になっている。

 会場内も、栃木陣営や東京陣営だけでなく、様々な方向からAコートへ視線が集まっている。水城龍馬の試合をみな、注目しているようだ。


「勝負、始めっ!」


   ドゥンッ!  ダァンッ!


 主審の合図とともに、両者同時に床を蹴った。

 一秒も経たないうちに、竜虎相打つかのごとく、二人は一気に拳を衝突させる。


   キィンッ!  ビュバババババァァァッッッ!   ヒュヒュンヒュヒュヒュンッ

   シュンッ!  ズババババッズババッババッ!   バチュンッ バチンバチンッ

   ササッ  シュバッ  ザッ  パァン!   シュッ! ズシャッ! パァンッ!


 水城の連突きは、先程の桑浦よりさらに速かった。

 一呼吸の間に、残像が残るかのような突きのスピードの連打。その踏み込みに合わせ、腰の回転や手首の捻り、そして絶妙な力の抜き入れが生み出す理想型のような連突き。それを田村は、なんと体捌きで全て躱しているのだ。

 お返しとばかりに、今度は田村が上段中段を振り分けた連突きを放つ。その速さはなんと、水城と比べても見劣りしない。しかし、水城は眉一つ動かさず、軽くそれを小手先で打ち払う。

 両者、体勢を交互に入れ替え、水城は高速上段回し蹴り、田村は中段回し蹴りを放つ。

 お互いに冷静な対処で、その蹴りを掌で受け止めていた。


   オオオオオオオオオオオオッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


「(ま、アイサツはこんなとこかねぇ。さすがに速ぇなぁ。水城ぃ、楽しく戦おうぜぇ!)」

「(こいつは、他の四人とはランクが違うってことか。ふん。面白い。俺たちにわざわざ挑むだけのことはあるじゃないか。だが、どこまで付いてこれるかな?)」


 両者、メンホーの奥でにやりと笑う。そして、一気に闘気を開放。


「あああああーーーーーいっ!」


   キュンッ   シュバアアァンッ!   パァン


「アアアアァーーーーーイッ!」


   キュンッッ  キィンッ!  シュバアーーッ  サアアッ


 田村は、目にも留まらぬ速さで右の中段逆突きで飛び込む。

 それを水城は前拳で無駄なく打ち落とし、同時に高速の上段突きでカウンターを放つ。

 田村はそれを軽く見切り、首を倒して躱す。

 両者譲らぬ白熱の攻防。試合序盤は、まったくお互いに技をもらうことなくせめぎ合う。

     

「・・・・・・凄いな、田村は・・・・・・。あの水城相手に、あんな攻防ができるのか!」

「驚きっすね、二斗先輩! 俺、予選であいつとやったとき、あんなんじゃなかったんですけどね・・・・・・。水城と互角だとしたら、とんでもないことっすよ?」


   がやがやがや がやがやがや がやがやがや


「何やぁ! 何やねん、あの田村っちゅーんは! み、水城龍馬と互角やないかい!」

「あったりまえよ! アタシらの主将はね、本気を出せば全国でもトップレベルにまで行けるのよ! ・・・・・・その本気を、出してなかっただけ!」

「なめとんのか! じゃあ、昨日の試合は何やったんや! おかやま白陽とは引き分けとったやないかい!」

「田村の実力は、だから未知数なのよ。むしろ、底が見えない。天井知らずなのかもね。私だって真波だって、ここまで本気出した田村は見たことないかもよ」

「わけわからんわ、柏沼高校。・・・・・・田村尚久か。絶対にこいつはマークや今後。学連でも、実業団でもな!」


   ザワザワザワザワザワザワ  ザワザワザワザワザワザワザワザワ

   どよどよどよどよどよどよ  どよどよどよどよどよどよ


 どよめく会場内。栃木陣営や東京陣営だけでなく、様々な選手たちが、水城の動きに同等のスピード感で対応する田村に驚いている。


   サササッ  タタッタタァン タタァン・・・・・・


「(何だぁ? 二度もバックステップ? どーしたんだ、水城のやつ)」

「(なかなか面白いじゃないか。ならば、少しだけ、本気の一部を見せてやろう)」


   タタンタタン  タタンタタン  タタンタタン


 水城は一度間合いを切って構え直した。やや広めの足幅、そしてゆったりと力を抜いた上半身の構え。両拳をゆるっと開き、ステップをゆさりゆさりと踏んでいるが頭の上下はない。


「(んん! ・・・・・・雰囲気を変えやがったな? じゃ俺もギア上げるとするかねぇー、水城ぃっ!)」

「あああああぁーーいっ!」


   シュンッ!  シュバババッ! ババババババババッ! 

   スッ・・・・・・  スススススッ  ススススススススッ


「(な、何だ! 距離が、まったく縮まらない! どうなってんだ!)」


 高速で無数の突きを仕掛けた田村。電光石火の連突きだが、田村が踏み込めば踏み込んだ分、なんと水城はその間合いをまったく変えることないまま滑るように退き、何事もなかったかのように田村の突きを全て空振りさせた。


「アアアァァーーーーイッ!」


   パパッ パパパパァン!


「(つぅ・・・・・・っ!)」

「止め! 赤、上段突き、有効!」


 手が止まった田村の一瞬の隙を逃さなかった水城。矢のような突きを一発、見えないほどの速さで田村の顔面へ決めていた。


「(いってぇ! ・・・・・・な、何だ? あんなに突っ込んでいったはずなのに、まったく距離が変わってないとはねぇー。水城との目と目の間合いは変わってなかった。な、何が起きた?)」

「続けて、始め!」


   トトトォン  トトトォン・・・・・・  ザザッザザッザザッ


「あああぁぁーーーーいっ!」


   シュバババッ! ババババババババッ! バッ! バッババッ!


 真っ正面を避け、左右左とジグザグに横跳びで惑わして一気に十発近い連突きを仕掛けた田村。

 観客も驚く、水城のスピードと変わらぬほどの動きで一気に畳みかけていった。


   スススススッ  ススススススススッ  スッ  スススッ


「(ま、まただ! 距離が変わってねぇ。踏み込んでるのに、踏み込めてねぇ。どーなってんだちくしょうー! 水城、俺に何を仕掛けてやがる?)」

「アアアァァーーーーイッ!」


   キィンッ!  ヒュバアアアァァァァーーーッ  スパアアァァァァンッ!


「(・・・・・・くっ!)」

「止め! 赤、上段突き、有効!」

「「「「「 ナァイス上段です水城主将ぉーーーーーっ! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアーッ! ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


「ああああっ! た、田村先輩っ・・・・・・。なんで? 末永ちゃん、あれ、どーなってんの!」

「田村センパイ、ワタシもあんな本気は初めてだけどぉ・・・・・・、あの水城って人、とんでもない『空間使い』だわ。あれは、天性のモノだと思う・・・・・・」

「なになに? どーゆーことなの?」

「あの水城って人は、田村センパイに対してね・・・・・・」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  オオオオオオオオオオオオッ


 小笹は阿部に、水城の「カラクリ」を説明している。

 その向こうの大阪陣営の場所では、川田も小笹と同じことに気づいていた。


「・・・・・・お互い構えた位置から、まったく距離を狂わせることなく、田村が出ればその分だけ同時に退き、もし田村が退けば退いた分だけ詰める。これ、簡単なようで、とても真似できない技術なのよね」

「真波。龍馬は、田村との間合いを自在にコントロールできるってこと!?」

「そうなの。これをやられると、突っ込んだ方は自分がかなり踏み込んだはずなのに、まったく相手との距離が変わっていない錯覚に陥る。そして、一瞬の隙を逃さずに取る。シンプルだけど、確実すぎる技術だ。なんということだ・・・・・・」

「真波、まずいよ。田村はそこまでの空間把握能力はないし。田村が龍馬に勝つには、スピードと技の数だけ互角じゃどうにもならない。どうするのよ、田村・・・・・・」


 連続ポイントを許してしまった田村。メンホー越しに見える表情は、困惑しきった感じだ。

 栃木陣営と大阪陣営の所で、小笹や川田が見破った水城の生まれ持った天性の技術。

 ただ単に、技が速いとか多いとか、パワーがどうこうという問題ではないらしい。


「続けて、始め!」

「(な、何が何だかよくわかんねーから、ここは間合いを取って様子見だ。どーなってんだ?)」


   パッ  トトトォン トトトォン・・・・・・

   シュンッ スススッ  スススーッ


「(な、何で俺いま下がったのに、距離が変わってねーんだ!)」

「アアアァァーーーーイッ!」


   キィンッ!  シュバアアアアッッ  シュバアアアアッッ


「(あ、あぶねぇーっ!)」


   ガガッ  ドガガッ


 出ても退いても、空間を自在に操るかのように間合いを変えさせない水城。

 田村は何とかギリギリ、水城のワンツーを腕や肩に当てさせて防いだ。


「(わけわかんねーんじゃ、考えててもしょうがねぇ! くらえっ!)」

「あああぁぁーーーいっ!」


   シュンッ!  ずしゃああぁぁ・・・・・・

   サササササササッ


「(くっそぉ。今度は、届かねぇ! どーなってんだ!)」


 田村の中段前蹴りは不発。蹴りを踏み込んだ時には、水城はその蹴りの距離だけ既に退いていた。

 まるで、寄せては返す波のように、押し寄せては退いていく。

 田村は、水城の天性である間合いのコントロールをどう、打ち破るのだろうか。

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