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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第1章 嵐の前の・・・・・・
6/106

2-6、遠足に行くのではないのだよ!?

   リリリリリリリリリリリーッ!  ジリリリリリリリリリーッ!


「うわ! もう、こんな時間か! いそいで着替えなきゃ! えーと、僕の財布、どこだ?」

「うおおっ! 目覚まし、やかましくかけすぎたかねぇー。脳みそがシェイク気味だねぇー」

「・・・・・・ぜんっぜん眠れなかったなぁ。アタシの沖縄、今日行くから、まっててね!」

「ぬああっ? へ、へんな夢見たぁ! 泰ちゃんが全日本王者になる夢とは・・・・・・」

「・・・・・・はっ! おれの眠り、レム睡眠とノンレム睡眠の狭間だったか? うむっ。いい目覚めだ!」

「ぬおっ! あー、蒸し暑くて眠りが浅かったぁ。ねみぃ。陽二が夢で踊ってやがったしよ」

「ねむいー。まだ、ねむいー。でも起きなきゃ・・・・・・。ねむいー。私、朝、だめだわぁー・・・・・・」

「はっ! 敬太と充にメールして起こしてやらなきゃ! わー。その前に、トイレーっ!」

「どうせ起きられないだろうから、きょうこにメールするか。みつるは起きてるだろーしな」

「敬太と恭子にメールするか。起きてっかな? ・・・・・・小笹ちゃんも、起きたかなぁ?」

「さよ、起きてるかなぁ? ・・・・・・だいじょうぶだよね、きっと。さ、着替えなきゃ!」

「ZZZZZZZzzzz・・・・・・。きぃやぁぁぁーーーー。かかってこぉい・・・・・・zzZ」


 暁の美しい薄明かりが、未明の闇夜を少しずつグラデーションに染めてゆく。

 柏沼高校空手道部十二名は、それぞれの家できっと、同じ時間に起きているはずだが・・・・・・。


   チチュン  チュチュチュン  チチュン


 スズメが飛びながら鳴いている。

 いよいよ今日は、あの島へ上陸する日。夏のインターハイ、全国の高校拳士決戦の地は、かの沖縄本島。

 朝日が昇り、東の空がぼんやりと色づき始めた頃、前原は自転車で学校へ向かい四時四十五分に到着。学校への集合時間は全員五時との約束だ。

 前原が学校へ着いた時には、早川先生とOBの新井が既に来ていた。同じく柏沼OBOGの松島と堀内は、有休や夏季休暇制度を重ね掛けし、インターハイ直前に現地入りしてくれるらしい。社会人メンバーはなかなか高校生のような長期休みを取れないためだ。

 前原は、早川先生と談笑する新井を見て思った。「今日から一週間以上も休んで沖縄入りしてくれる新井先輩は、なんの仕事をしているんだろうか」と。

 そんなことを思いながら、前原は二人にぺこりと頭を下げる。


「早川先生、新井先輩。おはようございます。遅くなりまして、も、申し訳ありません」

「だいじょぶだいじょぶー。まだ、みんな来てないし。いいよいいよー」

「前原は早い方だ。集合時刻十分前。そろそろみんな来るだろう。あ、ほら、続々来たぞ!」


 正門に、車が次々と入ってきた。

 田村、森畑、井上に中村、阿部に黒川に長谷川の二年生三人。川田と内山は家が近いので大荷物を背負って自転車で到着。

 神長はメンバーの中ではかなり家が離れているため、途中、県南の右野市うのしにて直接マイクロバスで拾って乗せていくことになっている。

 小笹は母の末永博子と柏沼高校へ集合し、柏沼メンバーと一緒に乗っていくことになっているがまだ姿は無い。


「おっす。みんなおはよう! 揃ったねぇ・・・・・・と言いたいけど、大南がいないねぇ?」

「あれ、本当だね田村君! ねぇ、内山さん。大南さんは昨日なんか言ってた?」

「さよは、きょうは自力で起きるから、特に電話もメールもしなくていいって言ってました」

「え! もしかして、寝坊してるんじゃないの? 紗代の家って、ここからどれくらい?」


 阿部は慌てふためき、腕時計を何度も確認。黒川と長谷川も「寝坊はやばいよ」と囁いている。


「電車で北に四十五分です。藤野原町ふじのはらまち? たしか、十駅先です。授業中もたまに、ねてます」

「はぁぁ? ちょっとちょっと。もう五時だよ! 真衣、すぐに電話して!」

「・・・・・・ダメです。出ません。電源が入ってないって・・・・・・」

「ま、だいじだ。信じて待っててあげようやぁ阿部ー。・・・・・・新井先輩、最悪何時に出ればいいんですかねぇー?」

「高速使って東京に向かうからー、五時二十分には出ないとねー。まっ、まだ待つよ待つよー」


 そしてちょうどその時、末永親子が到着。


「ご、ごめんなさい皆さん! 遅くなっちゃって申し訳ないです。ほら、小笹、降りて!」

「んー・・・・・・眠いの。眠いよぉ。ふあぁ・・・・・・。おはよーございまぁす・・・・・・いよいよ、沖縄ですねぇーっ・・・・・・。ワタシ、行きはバスで寝るー・・・・・・」

「今朝の私みたいだね小笹。まったく、この姿があの試合中の姿と同一人物とは思えないな」


 森畑は、半分寝ているような小笹の顔を見て、柔らかな笑みを見せた。その隣で川田は口をおおきく開けて笑っている。

 そして、何だかんだであっという間に十五分が経過。

 みんなマイクロバスに乗り込み、あとはただ一人来ていない大南を待つ。一体どうしたのだろうか。


「・・・・・・ダメだ。わたしの携帯からも繋がらない。紗代、どうしたのよいったいーっ・・・・・・」


 阿部が不安そうに携帯を何度も確認している最中、森畑と川田が窓の外を見ると、明らかに大急ぎで飛ばしてここへ向かっているのがわかる車が一台。

 何とか、大南は間に合ったようだ。


「「「 さよーーーーーーっ! はやくはやく! 」」」

「皆さんすみません! うちの娘、でれすけで! ほら、眠くてもてれんこてれんこしてねーで、たいへん皆さんに迷惑掛けたんだ! 紗代っ、ほらっ!」


 厳つい板前のような雰囲気である大南の父は、寝ぼけまなこな大南の背中を押し、平謝りに頭を下げている。大南は一度起きたらしいのだが、また二度寝してしまったらしい。


「みつるー。ひっさびさに『でれすけ』って聞いたなー」

「『てれんこてれんこ』もなー」

「・・・・・・なぁに、その単語ー? ワタシ、知らないよぉ・・・・・・。ふわぁ・・・・・・」

「でれすけは、バカ者とかどーしようもない奴、みたいな意味だね」

「てれんこてれんこは、ふにゃふにゃして締まりがない感じかな。栃木弁だよ」


 黒川と長谷川が、眠そうな小笹へ方言解説。小笹は「ふーん」と、さらに眠気が増したような反応だ。 


「と、とにかくこれで揃ったなぁ。新井先輩、早川先生、全員揃いました。あとは神長を右野で拾えばオッケーです!」

「わかった。じゃ、新井さん、お願いします! みんな、出発するよ!」


 新井が大きな丸いハンドルを回し、ギアのシフトレバーを動かしてマイクロバスを柏沼高校から出発させた。外では、メンバーの保護者が手を振ってお見送り。いよいよ、インターハイ会場へ向かうのだ。


「「「「「 いってきまーーーーーす! 」」」」」


 大会当日、沖縄まで応援に来てくれる保護者もいるらしい。しかし、遠いのと、仕事の都合で長期間休めない親御さんは、応援に行きたくても行けない。会場が遠いと、仕方のないことだろう。


   ぶろろろろぉぉぉぉーーーーーー ぶろろろろろろーーーーーーーーー


 バスはまず国道を走り、そして高速道路へ。

 神長の家は、右野市にある高速のサービスエリアに近いらしい。そこまで歩いてきてくれるそうだ。

 三十分ほど高速を走ると、そこへ到着。神長も無事に乗車した。

 

「いやぁ、楽しみだなぁ! いよいよだぁ・・・・・・って、みんな眠そうだなぁ。泰ちゃん、俺さ、今朝方すげぇ夢見たんだよ! 泰ちゃんが全日本大会優勝してたんだよ!」

「なんでそんなに道太郎はテンション高いんだよ朝から! あー、さすがに眠い。こんな朝早いの、修学旅行の朝以来かもしんねぇ。でも、良い夢みてくれたなぁ道太郎!」

「だはははっ! これが正夢なら、インハイ優勝もまさに夢じゃないってことだぁ! だっははは!」

「豪快に笑ってんねぇ道太郎はー。アタシは眠いから、またバスの中で寝たいくらいだわ」


 だんだんバスの窓から差し込む朝日が強くなる。その煌びやかな陽射しで目覚める人が多く、車内は賑やかになってきた。小笹と大南はバス酔いをしたらしく、いまだにぐったりと寝ているが。

 その後もバスはスムーズに高速道路を走り、群馬県、埼玉県を通過して東京都へ。

 新井は前日に仮眠をたくさん取り、今日の運転に備えてくれたらしい。


「お! カラオケがあんぜ! 先生、やろうぜカラオケ!!」


 井上は、車内のモニターに繋がったマイクを発見。元気を出して沖縄へ向かうため、突然バス内カラオケが始まった。


「よし! 一番手は、おれがいく!」

「「「「「 おおぉーーーーっ! いいぞ、なかむらっ! 」」」」」


 なんと、中村がまず名乗りを上げた。いったい、何を歌ってくれるのだろうか。


「前原、#02503、『住めんの?ボロ屋』をいれてくれ!」


   パチパチパチパチパチ! パチパチパチパチパチ!


 なんと、中村はいきなり人気アニメの主題歌を選択。インテリ系の雰囲気と熱いアニソンとのギャップが面白いらしく、内山は笑いを堪えている。アニソン好きだという阿部は、すごく興奮しているようだ。


「~♪ 住めません そこ 右にドブがぁ! つーぶされた家の 名前も知らずにー ~♪」


   パチパチパチパチパチ!  ピィーピィィ!  パチパチパチパチパチ!


 熱くぶっとんだ歌で、一気にみんなのテンションを上げた中村。大南や小笹も、この賑やかさに寝ていられないのか、目を開けている。起きた、というよりかは、起こされた感じだろう。


「よし、マイク貸せ陽二! 次は俺だぁ!」


 続いて井上が中村からマイクを受け取った。歌う曲は『でかい、牛が見えずとも』だ。


「~♪ でかい! 牛が! 見えないならば! 小屋の隙間! ひたすら見よう! ~♪」


   パチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチ!


「だはは! いいね陽ちゃんも泰ちゃんも! 次、俺な!」


 間髪入れずに神長が続く。歌うのは『ワカメトコンブ』だ。


「~♪ すべてぇお出汁のぉ! こんぶってこぉとにぃ! 僕らは気づかぁない! ~♪」


   パチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチ!


 神長の歌声は、いつもの太く渋い声とは別人。歌っている時はとんでもなく高いロックなボイスで、これには小笹と大南も驚いた。


「先輩方、ここは二年も負けられないんでー」


 そして二年生の黒川が名乗りを上げた。『変の態になって』というふざけた歌だ。


「~♪ わたしのぉ おうちのぉ まーえで 脱がないでくださいぃー ~♪」


 黒川の歌で男子は大爆笑。川田と森畑は呆れ顔だが、「バカねー」と言って大笑い。

 そして次は女子の番。まずは森畑が『どこでもいい、どこかへ』をチョイス。


「~♪ どーこでもいい どーこーかーへとぉ チャリでむーかうよぉー ~♪」


   パチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチ!


「やるじゃん菜美! どーれ、それならばアタシも・・・・・・!」


 ここで川田が続いて歌う。ジョニーズ事務所の人気アイドルの曲『わんラヴ』だ。


「~♪  百年先もー イヌを洗うよ 僕は イヌがすべてさー ~♪」


   パチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチ!


「・・・・・・ワタシ、バス酔いをぶっとばすために、うたうー!!」


 なんと意外なことに、青い顔をして具合が悪そうな小笹がマイクをよこせと言ってきた。

 何を歌うのかと思ったら、『関門海峡、春景色』というコテコテの演歌。誰もが、てっきり沖縄アーティストの曲を歌うのかと思ったようだが。


「~♪ 博多発ぅの 鈍行列車ぁ おぉぉりた時からぁぁ 山口ぃ駅は 花のぉ中ぁ ~♪」


   パチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチ!  ヒューヒューヒュー!


「やべぇ。小笹ちゃん、うめーじゃん!」

「うむっ。そのルックスでこの選曲とのギャップ、いいな!」

「ほんとだね。末永さん、きれいな声で本当に演歌歌手みたいだよ」

「なーに言ってんの井上も中村も前原もぉ! アタシのが上手だったでしょぉ!?」

「ばかか真波! ヤキモチ妬いてんじゃねーって! お前も、上手かったってば」

「よろしい。そー言ってくれると思ったよ、井上ならさ」

「なんだよそれ! 俺、真波に誘導されたってことかよぉー」

「「「「「 あははははははは! 」」」」」


 そんなこんなで、カラオケを楽しんでいるうちに、バスは空港付近へ。

 そして最後に、運転しながらなんと新井が歌ってくれることとなった。歌はヴィジュアル系バンドによるハードロック『飲みてぇビール』だ。


「~♪ どぉれだけぇ おかねをぉ払えばぁ あなたをぉ! 飲み干せるのだろぉ! ~♪」


 とんでもない超高音のキーでロックな曲を歌った新井。本人曰く「あらい高音」という音声らしい。黒川と長谷川の感想は、「歌は微妙な気がした」「言えないけど、びみょーっすね」とのこと。

 そして、カラオケで盛り上がるバスは、空港の駐車場へ到着。

 時間はまだ午前八時前。ここから今度は、空の便でついに沖縄方面へと向かうのだ。

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