2-51、大激闘の大将戦。勝利の行方は・・・
「(・・・・・・うぐ・・・・・・。ん? な、なんだ! 寝ちまったのか?)」
五・・・・・・
四・・・・・・
三・・・・・・
「(な、なんだ? はっ! まさか! ・・・・・・くそぉっ、何てこった・・・・・・)」
ぐぐっ・・・・・・ ぐんっ ふるふるふる・・・・・・
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!
「ふぅーっ、よかったぁ! 中村、立ったよ。アタシ、ダメかと思ったぁ」
「ふぇぇ・・・・・・よかったぁぁぁ中村センパイーっ! もぅ、心配かけないでよぉッ!」
川田と小笹は、中村の復活に半泣きでお互い喜んだ。
「でも、だいじかな? あのダメージで、あの相手に残り時間戦うなんて」
「森畑先輩。わたしも、心配です。あんな強い人に、残り時間どうすればいいんですか?」
森畑と阿部は、ふらつく中村の様子を心配そうに見つめる。
ふらり ふらり
「君、大丈夫か? やれるか?」
「ええ・・・・・・。問題ないです」
主審が、立ち上がった中村の様子をよく見て声をかける。
中村は首をこきこきと左右に振り、手首をプラプラとさせながら、ゆっくり頷いた。
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!
「続けて、始め! あとしばらく」
「(さっきの連突きの一つをもらっただけで、意識飛ばされたのか・・・・・・。やばいな!)」
「(・・・・・・よくぞ立って来たぁのぉ! さぁ、続きじゃぁ!)」
タタッタタァン タタッタタァン ササササァッ!
ゆらあぁ・・・・・・り ゆらあぁ・・・・・・り
ステップを踏む中村と、ゆらりゆらりと動く岬。
「和合流・・・・・・。和合流がバックボーンだよぉ、相手の主将!」
「え! 末永ちゃん、相手、そうなの?」
「阿部チャンじゃわかんないかもだけど、あの脱力といい、さっきのインテリ中村センパイを吹っ飛ばした体当たりや、突きを下から掬ったような『乗る』の技法。あの岬って人の突っ込み方も、和合流の体重の乗せ方。あのゆらゆら感も『揺らぎ』って技法だよッ!」
「和合流ってことは・・・・・・末永ちゃんがかつて見せた・・・・・・」
「ワタシには、わかる! 和合流って、古流柔術のエッセンスも入ってるのよねッ! だからぁ、あの人、倒木法まで身につけてたんだぁ!」
「和合流! その技法に合わせて、待ち拳でカウンター使い。・・・・・・強いわけね!」
小笹の解説に驚く阿部の隣で、森畑も唸る。
岬のバックボーンは、なんと和合流ベースの技法であった。 同じ技術を持つ小笹はそれを見破ったようだ。
独特な体重の乗せ方や技法を持つ岬に、残り時間、中村はどう対処するのだろうか。ポイント差は2対0。これを落としたら、柏沼メンバーの団体戦は、初日で終わる。
ゆららあぁぁぁ・・・・・・ ドドォンッ! ドガンッ・・・・・・
揺らぎの中からいきなり無拍子で踏み込み、重い突きが中村を襲う。
「(くうっ! 頭がズキズキするが・・・・・・この無拍子・・・・・・慣れてきた!)」
「(・・・・・・ん? 運良く防いだけぇのぉ)」
ザザザッ ザザザッ
岬の突きを掌で受け止めたが、そのまま吹っ飛ばされた中村。しかしその顔は、目を輝かせて笑っているように見える。
「な、なんか中村君、いま笑ってたように見えたけど・・・・・・」
「陽二、頭ぶって変なんなっちまったんじゃねーだろぉな? おい、だいじかよぉ!」
「だいじだ、きっと。中村は、何か打開策が思いついたんだねぇー!」
「しかし尚ちゃん、主将の岬がこれほどまでとは。でも、陽ちゃん、あの無拍子を受けることができてきたみたいだぞ!」
ゆららあぁぁぁ・・・・・・ ゆらあぁ・・・・・・り
「(無拍子、か。・・・・・・まさか、そんな身体の使い方があるなんてな。でも、いつ来るかわからない技は受けようがないが、来ると予測できる技なら問題ない!)」
ゆらあぁ・・・
「さぁぁあああーーーーっ!」
ダシュンッ! ガッ!
「(うぬっ!?)」
中村は、岬が揺らいで前に倒れ込もうとしたところへ合わせ、思いっきり踏み込んだ。
そして、前拳で岬の手首をガッチリと押さえる。
「(ほぉ・・・・・・この揺らぎに飛び込んでくるたぁーのぉ!)」
「(こいつは・・・・・・どうかなっ?)」
グンッ! ガクン グググググ・・・・・・
「(ぬぁ! ・・・・・・の、乗りよった!)」
なんと、岬に接近し、その手首先へ中村は一瞬で体重をかけた。小笹にかつて教わった和合流の技法「乗る」だ。
しかし、相手は多少崩れはしたが、床に落ちるほど崩れない。やはり相手も和合流ゆえか、この技法が完全には効いておらず、防がれているようだ。
「(付け焼き刃の和合流の技が、俺に効くわけないんじゃぁっ!)」
「いぃやああぁいっしゃ!」
シュバアアッ!
「(こいつをーっ・・・・・・待ってたんだぜぇッ!)」
パァン グルンッ!
「(な! カ、カウンターを俺に出させる布石じゃったかぁぁー)」
中村は、近い間合いから放たれた岬の後の先カウンターを、手首に乗せた拳をくるっと回して引っかけ、片方の手で肘を外から押し流すようにして受けた。
その動きで、岬は突きを流されくるっと半回転。脇腹から背中がガラ空きになる。
「「「「「 い、いっっけぇぇぇぇーーーーーっ! 」」」」」
前原たちと同時に、観客席からも同じ声が谺する。その千載一遇のチャンスは、中村がずっと狙って待っていたもの。それゆえ中村は、カウンターを狙っている相手にわざわざ飛び込んでいったのだ。
「すぅあああああぁぁぁーーーーーぃっ!」
シュパアアッ ドパアアアァァンッ!
「(ぐう・・・・・・っ!)」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ
ババッ ババッ ババッ
「止め! 青、中段突き、技有り!」
「「「「「 いやったぁぁぁぁーーーーーーあっ! 」」」」」
「「「「「 ナイス中段でーーーーーすっ! 中村先輩ーーーーーーーっ! 」」」」」
見事な受け技の連携から、岬の背面へ中段突き一閃。中村の乾坤一擲の突きが入った。
それはまるで、普段の部活で稽古していた時間や独り稽古していた時間に加え、小笹や沖縄の道場で学んでいた時間も含めた、中村にしかできないような突きだった。
「しゃぁぁああーーーっ!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアア!
吠える中村。大きく湧く栃木陣営。
拳を強く握りしめ、目を見開いた中村は開始線でさらに気を昂ぶらせている。
「かぁぁぁっこいいーっ! 中村センパイーーーーっ! かっこいいよぉッ! まさか、和合流の技法に、剛道流っぽさまで加えての反撃なんて、いいねぇッ! あははっ!」
「真波っ! 試合時間、あと何秒か見える?」
「んーと・・・・・・あぁーもう、主審邪魔だよ! どけーっ! あ、どいた。十八秒だ!」
「まだそんなにあるの! がんばれぇーーーーっ! 中村ぁーーーっ!」
「「「「「 栃木県ーーーっ! ファイ! ファイ! ファイ! 」」」」」
コート内では、中村と岬の闘気がぶつかる。
観客席では、両陣営の応援団の声がぶつかる。
「続けて、始め!」
「さああああああーっ」
「いぃぃやああああっ」
ドンッ!
ズンッ!
・・・・・・しーん・・・・・・
残り時間僅かにして、2対2に追いついた中村。しかしここにきて、両者は動かない。
残り1ポイントがお互いのチームの勝敗を決めるのだが、なぜ、岬は攻めてこないのか。
「(はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。さぁ、どうする? ・・・・・・行くしかないか、それとも引き分けにすべきか。くそっ、ここまでの点差がよくわからん!)」
「(このままじゃ、いかんとじゃ! ・・・・・・じゃけん、相手も元々待ち拳。無拍子すら破る相手に、みすみす突っ込むのは、アホじゃぁ・・・・・・)」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ
「みさきぃ! みさきーっ! 行けやぁ! 行くしかないんじゃ!」
「引き分けはいかんけぇ! 勝つんじゃ! 勝たなぁーいかんじゃろぉ!」
「(・・・・・・確かじゃ。勝たないかんとじゃ! じゃけん、引き分けも全然おえん(だめだ)! おえりゃーせん(どうしようもない)のじゃ!)」
「ああああああああああああっ!」
内山が、栃木陣営でいきなり叫んだ。
日新学院や等星女子のメンバーが、その声に驚いて耳を塞いで目を丸くした。
「な、なんだなんだ! おい、川田、森畑! お前んとこの一年、どうしたんだ!?」
「ごめんよ諸岡。で、内山はどうしたってのさ! いきなり叫んじゃ周りに迷惑でしょ!」
「す、すみませんー・・・・・・。でもぉ、わたし、きづいたんですぅ」
「なにが? どーしたのよ! 中村がいいところなんだから!」
「中村せんぱいは、このまま、勝たなくていいです」
「はぁ? ちょっと内山、何言って・・・・・・」
「真波っ! 真衣の言うとおりだわ! 中村は・・・・・・勝たなくていい!」
「菜美まで何を・・・・・・。って、まさか!」
川田は、慌てて観客席の最前列で身を乗り出した。
「ちょっとぉ! 川田センパァイ、そんなに身を乗り出したら落ちますよぉッ!」
「・・・・・・・・・・・・間違いない!」
「でしょ!」
「「 中村ぁーーーーーーーっ! 1ポイントも取られちゃダメだ! 防げぇーっ! 」」
栃木陣営から、耳をつんざくような声量で、川田と森畑が叫んだ。
「(ん! い、今の声は、川田と森畑! わかってるさ。おれは、柏沼高校を守り切る!)」
「そーいうことかぁ。全然俺たちも考えてなかったねぇ。前原、俺らも声出すぞ!」
「え! あ! そ、そうかっ!」
田村はにやりと笑った。前原も何かに気付き、中村へ声を飛ばす。その横では井上と神長も声を張り上げている。
「中村君ファイトーーーっ! あと十秒だよ! あと十!」
「陽二ーっ!」
「陽ちゃん、ファイトォーッ!」
十・・・・・・九・・・・・・
「いぃやあああああああぁいっしゃ!」
ゆらあぁ・・・・・・り ズドドドドドンッ!
「(く・・・・・・っ!)」
「陽ちゃんファイトだぁ! 頑張れ! 乗り切れーっ!」
八・・・・・・七・・・・・・
「岬ぃぃぃっ! あと1ポイントじゃけぇ! 頼むでぇーっ! 勝てやぁー」
「「「「「 みさきせんぱぁーーーーーーーーーーーいっ! 」」」」」
六・・・・・・五・・・・・・
「さああああああーっ!」
シュンッ ドガアアアッ!
「(・・・・・・うぬぅ!)」
「陽二がんばれよぉ! 頼む! 頼むーーーっ! ムチャすんなぁ!」
四・・・・・・三・・・・・・二・・・・・・
「中村ーーーーーっ! 俺たちの勝ちを導くのは、お前だぁーーーーっ!」
「すぅあああああぁぁぁーーーーーぃっ!」
「いぃやあああああああぁいっしゃーーーーぁ!」
烈火の如く叫ぶ両者。気と気がぶつかり合い、一気に間合いが詰まる。
一・・・・・・
ズババァンッ! ドガアァァンッ! ・・・・・・
~~~ ピー ピピーッ ~~~
残り十秒からの、お互いの大接近戦。
岬が仕掛ければ中村は防ぎきり、中村がお返しとばかりに蹴れば岬が防ぐ。
そして、ラスト一秒でお互いに上段突きと中段突きが交錯したと同時に、試合終了のブザーが鳴った。
どよどよどよどよ がやがやがや どよどよどよどよ がやがやがや
「・・・・・・引き分け!」
ワアアアアアアアアアアアアーッ ワアアアアアアアアアアアアーッ
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
「やったやったやった! 中村、引き分けだ!」
「え? え? 引き分けで・・・・・・いいんですか?」
「黒川っ、総得点板を見てみな! やったぁーっ! アタシ、涙出てきたよ!」
最後の両者の突きは、どちらも抜けていた。ポイントは動かず、2対2で引き分けに。
「ふぅ・・・・・・はぁっ! や、やったぞ! ・・・・・・守り切った」
「・・・・・・とどかんかった・・・・・・。これも、また、結果じゃ・・・・・・」
両者、天を仰いでメンホーをはずし、脇に抱えた。そして、お互いにゆっくりと歩み寄り、岬の方から中村の手を力強く握り、ぎゅっと握手。
そして、讃えるように岬は中村の手を引っ張って上に持ち上げ、前原たちの方へ健闘を讃えるようにして、一礼。くるりと背を向け、コートから出て行く。
その背中を、中村は汗を流しながら、ただ、静かに見つめ、深く一礼をして見送った。
「中村のやつ、何とか防ぎきってくれたねぇー。よかったよかった」
「す、すごい試合だったね田村君」
柏沼高校とおかやま白陽は、先鋒戦が2対2。次鋒戦は0対1。中堅戦は3対3。副将戦が4対2。そして、大将戦が2対2。総得点差では、なんと1ポイント差で、柏沼高校が上回っていた。
これは、大将戦の途中まで、内山しか気づいていなかったようだ。
「1勝1敗3分け。総得点差、11対10。内容により、青、柏沼高校の、勝ち!」
「「「「「 ありがとうございましたぁぁーーーーーーーーーっ! 」」」」」
どよどよどよどよどよどよ ざわざわざわざわざわざわざわざわ
がやがやがや がやがやがや がやがやがや・・・・・・
「「「「「 (おかやま白陽が消えた! なにわ樫原もおかやま白陽も、消えたぞ!) 」」」」」
「「「「「 (Aコート、大番狂わせばかりだ! 柏沼は明日、瀬田谷学堂とだ!) 」」」」」
「「「「「 (無名の学校やろ? なんであんなとこに、名門が負けとるんや?) 」」」」」
どよどよどよどよどよどよ どよどよどよどよどよどよ
おかやま白陽は、とにかく強かった。でも前原たちは僅差で勝利を手にし、明日の四回戦へと進むこととなった。いよいよ、全国一のチームである瀬田谷学堂と一騎打ちだ。
ここまでの相手をさらに上回るというチームが、どれほどなのか想像もできない前原たち。
大激戦の三回戦だったが、柏沼メンバーたちが戦っている間に、他のコートも試合が終わっていた。
等星女子のメンバーたちもHコートから、おかやま白陽戦を終えた柏沼メンバーたちに、手を振って笑っていた。
さぁ、明日の相手は「最強」を誇る、瀬田谷学堂。いったい、どれほどのチームなのだろうか。