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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第3章 開幕   美ら海沖縄総体!  激闘! 熱闘! インターハイ!
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2-49、W待ち拳

「す、すごい! 井上君、おかやま白陽に勝ったよっ! 初白星だ!」

「最後の後ろ蹴りが、結果を分けたな! あの体勢、あのタイミングで蹴りを入れ、相手はそれに反応していなかったことからも、泰ちゃんは無意識に蹴ったな!」

「最高だねぇ。やったなぁ井上! これで、勝ち星は五分五分になった! あとは・・・・・・頼んだぜ、中村!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアア

   ザワザワザワザワザワザワザワザワ  ザワザワザワザワザワザワザワザワ


「「「「「 (柏沼高校って何者や! これ、おかやま白陽やばいんちゃうか?) 」」」」」

「「「「「 (おかやま白陽、大将戦まで! 信じらんがじゃ! 目が離せんぜよ!) 」」」」」

「「「「「 (でも、次は主将の岬が出るじゃけぇ! 岬は負けんじゃろ!) 」」」」」


   がやがやがや  がやがやがや  がやがやがや・・・・・・


 西日本陣営の観客が、どよめいている。

 田村が引き分け、前原は惜しくも敗れ、神長も引き分け、そして井上が勝った。

 おかやま白陽高校とは、これで1勝1敗2分け。ラストの中村と主将の岬行光との大将戦の結果で、全てが決まるのだ。


「アタシ、ドキドキが止まらないんだけど。明日の個人戦、こりゃ男子からものすごいパワーもらえるなぁ! 井上、やったねぇーっ! おーいおいーい!」


 川田は目を輝かせて、何度も何度も井上へ手を振っている。


「くすっ。あはははッ! 井上センパイ、まさかあんな後ろ蹴りを出すなんてねぇッ! ワタシも、びーっくり! 面白いなぁ! これ、流れがいーぃ感じですねぇッ!」

「やったじゃん柏沼! これ、大将戦を獲れば明日の四回戦進出だろ? いやぁ、強敵揃いのトーナメントで、よくここまで戦ってるよ!」

「でも堀庭さ、四回戦で待ってるのは瀬田谷学堂だよ。このおかやま白陽より、瀬田谷は総合的に全て戦力が上回ってるんでしょう? どーなってんのよ、このインターハイって」

「いや、森畑、それがインターハイじゃんか! 強いやつらしかいないし、どこが番狂わせをしてもおかしくないのがインターハイだよ。あぁ、うちの鶉山も、団体で出られたらよかったなぁ。でも、その分、柏沼には頑張ってもらわないとね!」

「くすっ! まー、だーいじでしょッ! 柏沼高校は、つよいんだからっ」

「まーさか小笹からそんな言葉が出るなんてねー。アタシはびっくりだ」


 川田は小笹の肩をバシバシ叩きながら、どこか嬉しそうな顔だ。


「大将は・・・・・・岬行光! ・・・・・・おい、川田と森畑・・・・・・。お前のとこは、中村が大将か。・・・・・・あいつは柏沼一の稽古量と聞いているが?」

「そうだよ? 中村はね、アタシらが帰ってもずっと残って稽古し続けてる時も多いし、朝練だって、へたすりゃ昼休みだって稽古してるんだから。それで、自分の動きや技を分析して、レベル上げしてんのよ!?」

「・・・・・・む。・・・・・・そうか・・・・・・」

「二斗。予選であんたに中村が勝ったのも、そーゆー努力のたまものってやつだと私は思うよ?」

「むむ・・・・・・。・・・・・・そうか。・・・・・・・・・・・・だが・・・・・・おかやま白陽の主将、岬行光・・・・・・。あいつは・・・・・・・・・・・・」

「え? なによ、あの主将に、何か気がかりなことでもあんのー?」

「二斗。はっきりしなさいよー。真波も私も気になるでしょうよ」

「・・・・・・むぅ・・・・・・」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア!


 栃木陣営は、井上の白星に湧きに湧いていた。

 その次の大将戦に向け、中村がゆっくりと立ち上がり、前髪をさっと掻き上げて眼鏡をすっと外した。


「よーーーっしゃぁ! やったぜ! 後は頼んだぜ、陽二! 俺は、やるだけやったぜっ!」

「まかせろ!」


   パァン


 メンホーを脇に抱え、ガッツポーズをしながら笑顔で戻ってきた井上。中村は掌を差し出して、笑顔を見せる。そこへ井上が、拳を思いっきり叩き入れた。


「田村、すまん。眼鏡を預かっててくれ。・・・・・・さぁ、おれが最後だ。勝って帰ってくるぜ!」


   がぽん  びっ  びびーっ  ぎゅうっ・・・・・・  パァンパァン


 メンホーをつけ、両頬をぱんぱんと叩いて気合いを入れる中村。

 泣いても笑っても最後の大将戦。しかし、相手は超強豪校の主将を務める岬だ。

 おそらく待ち拳型なのだろうとは思うが、他の四人よりも体格は一回り大きく、引き締まった体型の印象で、怒涛の攻め技でかかってきそうな闘気が溢れ出ている様子だ。

 醸し出される雰囲気からは、明らかに「勝つ」という絶対の自信が見える。

 コートを挟んでの向こう側からでも、柏沼メンバーにそれが伝わってくるくらいの凄まじいオーラだ。


「な、中村君。相手はこのおかやま白陽の主将。どう出てくるかわからないから、油断せず気をつけて!」

「陽ちゃん。頼むぞ! みんなで、明日も、大暴れしようぜ!」

「陽二ぃ。俺の持ってきた流れ、無駄にしたらひっぱたくかんなぁ! 頑張れよっ!」

「おかやま白陽の主将ねぇ。まぁ、ここまできたら、みんな強いよねぇー。でも、それと真っ向から戦えてる俺たちも、強いんだよねぇー。さぁ中村、その強さを最後に思いっきり見せてきてくれよなっ!」

「・・・・・・強敵中の、強敵ってワケだな。まぁ、インターハイは、そうでなくちゃな。あの岬行光を下して、明日、瀬田谷学堂と対決だ! ・・・・・・よし、いってくるぜ!」


 そう言って中村は帯をきゅっと締め直し、開始線まで一歩ずつ歩んでいった。

 対する岡山陣営は、主将の登場に声援がものすごい。まるで、決勝戦でもあるかのような声量で、大将の岬へエールを送っている。


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


「「「「「 みさきせんぱいーーーっ! ファイトーーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 全力圧勝ーっ! みさきゆきみつぅーーーーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 岬先輩っ! 岬先輩ーっ! 」」」」」

「「「「「 岬主将に負けはないんじゃ! 勝利へ前進、岬主将ーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 おかやま白陽ーーーーっ! みさきーゆきみつーーーーーっ! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


「頼んだでーっ! 岬ぃっ! おかやま白陽が絶対勝つんじゃ!」

「岬が負けるわけーねぇけーなぁ! ファイトじゃけぇ!」

「岬、稽古量は裏切らんけぇなぁ! それ見せられるなぁ、岬だけじゃけぇ!」

「信じとるでぇ、岬主将よぉ! 相手も、運が悪かったのぉー」

「「「「 ファイトーーーーーっ! 」」」」


 おかやま白陽メンバーも、四人で岬の肩や背中を叩き、声で押しながらコートへ見送った。

 主将の岬はクールだが、ものすごく鋭く尖った闘気を纏って中村と対峙。そのオーラは、インターハイ予選の二斗を凌ぐものだ。切れ長の目からは、集中力が極限まで研ぎ澄まされているのがわかるほどだ。

 いったい、どんな組手で中村と勝負するのだろう。前原と田村は、主審の開始宣告を、息を呑んで待っている。そのくらい、緊張感のある相手なのだ。


「(強い。気でわかる。こいつは・・・・・・一筋縄ではいかない相手! 強さが滲み出ている!)」

「(・・・・・・俺の前に立ったからにはのぉ、沈んでもらうけぇ!)」

「(だが・・・・・・強いやつを乗り越えるために、おれは稽古量を積み上げてきてるのさ!)」

「(どんな稽古を積んできたかぁ知らんがのぉ、おかやま白陽の稽古が日本一なんじゃ!)」


 両者、鋭い視線をピクリとも動かさず、開始線に立つ。

 その間の空間には、電撃のような火花がバチバチと散っているのが感じられる。

 中村も、相手にはまったく気迫負けはしていない。これまでの稽古量からくる自信によるものだろう。


「「「「「 中村先輩ファイトーーーーーッ! 」」」」」

「中村センパァァーーイッ! がぁんばってねぇーーーッ!」

「こら、小笹! そんなに身を乗り出すなって! 落ちたらどーすんのさ! 危ないよっ!」


 主審が、両者を確認し、すっと姿勢を正した。


「勝負! 始め!」

「そあああああーーーっ!」


   タタァン・・・・・・  タタッ   サッ  スササッ  ススッ  ススッ


「いぃやあああああああぁっ!」


   ズウンッ・・・・・・  ガッ  ザザッ  ダンッ!


 颯爽と両拳を構え、ゆるやかな力加減での摺り足を行う中村に対し、岬は大地に根を下ろすが如く両脚をずっしりと床に着け、右拳は中段へ置き、左拳は胸元へ上げ、動かずに不動の構えを見せる。


「やはり・・・・・・待ち拳なんだねぇ、岬も。でも、こっちも、中村だって待ち拳だぞぉ」

「待ち拳・・・・・・。くっそー。でも、陽二だって負けねーぜ!」

「これは、目が離せないよ! 待ち拳のスペシャリスト同士の大将戦だもの!」

「だははっ! 陽ちゃんの研ぎ澄まされた待ち拳型に、相手はどうすっかだなー」


   スススッ・・・・・・   スススッ・・・

   スッ   サッ


 中村が少しだけ間合いを詰めれば、岬は両拳を素速く反応させる。

 どこに動いても、一瞬でカウンターを決めてやるという意志が拳から伝わってくる。


   ダンッ!

   ザザッ・・・・・・  スッ


 岬が一歩前へ出れば、中村は重心をすぐに変え、前拳を岬の喉元へ届くようにロックオン。

 お互いに一瞬のチャンスを奪い合う、神経戦の様相となった。


「(この反応速度。待ち拳なのはわかるが・・・・・・。先の先も後の先も、両方ハイレベルのカウンターを使いこなす感じだなこいつは!)」


   ススッ・・・・・・  ササッ・・・・・・

   スッ   サッ   スススッ・・・・・・

   サッ!   バンッ!   サササ・・・・・・


 動きは、間合いの読み合いと、細やかな拳の反応のみ。大将戦は観衆の予想を裏切り、ものすごく静かな立ち上がりとなった。

 まるで時代劇の侍が、野試合において居合斬りの一瞬で勝負をつける場面でも見てるかのようだ。


「も、森畑先輩・・・・・・。試合が、動かないんですが。中村先輩もあの岬って人相手に、そう簡単には動けないんですか? わたし、見てて、心臓がバクバクですー」

「恭子。中村は動けないんじゃなく、あれでも動いてるんだよ。目に見える突きや蹴りやステップで動くってのとは違うけど。相手もとんでもないカウンター使いだってのがわかるから、目や間合い、そしてフェイントや先読みを駆使して、将棋のようにお互い手の内を読み合ってる。精神力の勝負、ってやつかな・・・・・・」

「待ち拳同士だからこその、神経戦だね。アタシ、このタイプの試合、苦手なんだよなぁ」


 まったく目が離せない大将戦。やっている本人も神経磨り減る試合だが、見ている者もまた、同じように神経が磨り減りそうなほどの緊張感。


「(崩すイメージや、間合いに入っていくイメージが浮かばないな。まずい、こいつは相当に厄介な相手だ・・・・・・)」


   スススーッ   ズドンッ! ザザッ ザアァッ!  ババババッ!


「(む! ・・・・・・視界を!?)」


   ササササァッ!  パパッ!  タタァン  サァッ!


 岬が、一瞬だけ動いた。不動の構えから一気に床を滑るように移動し、踏み込んだ。

 そして両腕を上下に動かし、中村の視界を奪うかのような動きを見せた隙に、下には高速の足払いが。

 これに反応した中村は構えを上げ、間合いをバックステップで切った。視界が岬の両腕で惑わされているにも関わらず、中村は前足を上げて足払いをひょいと躱す。

 突きも蹴りも出ていない攻防だが、直感と先読みと反射神経がものを言う両者ならではの駆け引きだった。


「(・・・・・・なかなかじゃ。こげーなええ反応とはのぅ!)」

「(今のは・・・・・・おれを試したってワケか! ふん! ふざけたことするやつだ!)」


   ヒュンッ・・・・・・   ババッ!


 中村は帯をひゅんと翻し、重心を落としてがっちりと構えた。


「(来い! おれのカウンターも、おかやま白陽に引けを取らないレベルだってのを教えてやる! 動いた瞬間に、斬り伏せてやる!)」

「(・・・・・・ほぅ。度胸ええのぅ)」


   ズンッ!   ゆらああぁ・・・・・・   ゆらっ・・・・・・


 岬は、中村が腰を落として構えたのを見ると、両脚をしっかりと踏ん張り、膝の力を抜いて上半身をゆらゆらと動かし始めた。風に靡く柳のように、ゆらりゆらりと、またゆらり。


   ゆらん  ゆらぁり・・・・・・   ゆらっ  ゆらああぁぁ・・・・・・


「な、なんだぁ? 岬のやつ、奇妙な動きだねぇー・・・・・・」

「尚ちゃん、あの不気味な動きは何だ? 足は動いてないのに、上半身だけでのリズムか?」

「いったい、何を。・・・・・・中村君、迷うな! ファイトーっ!」

「道太郎! 悠樹! あの動きは、これまでのおかやま白陽連中は見せてない。ってことは、きっと、あの岬行光独自の動きってことだ! なんか、やばそうだぞ・・・・・・」


 岬の不可思議な動きに、困惑する柏沼メンバー。

 対峙する中村は、メンホーの奥でその目をきらりと光らせる。


「(何だ? ・・・・・・この動きは、いったい・・・・・・。・・・・・・面白い。何をする気なんだ、岬っ!?)」


 待ち拳型のスペシャリスト対決の大将戦。

 果たして、先制点はどちらに転ぶのか。

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