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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第3章 開幕   美ら海沖縄総体!  激闘! 熱闘! インターハイ!
48/106

2-48、がんばったぜ、いのうえ! 

「(試合っちゃ、なんでこんなにも時間が経つの早いんだかな・・・・・・。残り三十秒を切ったか)」


   タタタン タタタン タタタタタン  タタタン タタタン タタタタタン


「井上ーっ! 無理するなぁ! ここは粘って粘って、取られないようにーっ! ねーっ!? アタシの声聞こえてるぅーっ!?」

「(わぁかってるよ真波! 観客席は遠いってのに、お前の声はやたらと耳に響くぜ。まったくよぉ!)」

「井上先輩ーーーっ! 負けないでーーーーっ!」

「井上先輩ファイトでーす! ファイトーーーーーっ!」

「「「「「 井上先輩ーーーっ! 」」」」」

「(後輩達も、心配しすぎだ! 俺は、勝つよ! でも、どうやったら勝てっかな・・・・・・)」


   タタタン タタタン タタタタタン  タタタン タタタン タタタタタン


 相手に向かって、左に右に、また右に。攻め方を考えながら井上は横へとステップを踏む。


「うーん・・・・・・。難しい相手ですね松島先輩。あのおかやま白陽は」

「そうだね。なかなか厄介だね。防御力が高い上に、バランスも良くて技の精度もある」

「福田先輩、松島先輩! 井上は、どうやったら勝てますかね? アタシらじゃなかなか見出せないんですよぉ。インターハイのこのレベルの相手じゃ、簡単にいきませんし・・・・・・」

「心が折れたら、だめだね。隙の無い相手には、隙を作らせるか、あえて隙の無いところへ飛び込むかで、チャンスが出てくるんだけど・・・・・・。あれは、防御力が高いしなぁ」

「川田さん、松島先輩が今言ったように、あの相手は防御力が高い。ならば、僕だったら、それを逆手に取るっていう方法もあると思うけどね」

「防御力を、逆手に? どういうことですか福田先輩」

「相手は技を避けず、けっこう受けて防いでくれる。躱すんじゃなく、受け技でね。ならばそれは、お互いに接触するほどの間合いになっているってことでしょ?」

「そ、そうかぁっ! その手がまだあった! ・・・・・・おーい、井上ーっ! 下がるなぁ!」

「私もわかった! あと二十秒ほどで、一か八か、それならいけるかも!」

「「 井上ーーーーっ! 足を使え! 足をーーーーっ! 」」


 川田と森畑が、一緒に声を揃えて叫ぶ。井上は、この声を受け止められたのだろうか。


「(な、なんだ? 真波と菜美か? なんつった今!? 足? 足がなんだって?)」

「すおおおおおおあっ!」


   ズババシュッ!  シュバッ!  シュバッ!


「(うおおお! か、考えてるヒマねぇよ! あ、あぶねえってのバカ野郎!)」


 相手の強烈な蹴りと突きが井上を襲う。

 なんとか身体を捻り、掌を使って受け流し、また間合いを切った井上。

 あと1ポイントでも取られたら致命的だ。ここは無理に勝負して相手にポイントを奪われたくないところ。


「すおおおおおおあーっ!」


   ダァン!   パパパパァン!  パパパパパパァン!


「(待ち拳じゃねーんかよ? 突っ込んで来やがった! このやろうめ!)」

「つおおああーーーっ!」


   ドガアッ  バアアァァンッ!


「止め! ・・・・・・とりませんっ」

「「「「「 はあああぁぁーーーーーーっ・・・・・・ 」」」」」

「「「「「 おおおおぉぉぉーーーーーーっ・・・・・・ 」」」」」


 栃木陣営、岡山陣営の両方から、溜め息や安堵の声がうっすら漏れる。

 残り時間も少なくなり、相手と真っ正面からぶつかった井上。お互いの突きは入っているが、不十分で主審はポイントを取らず。


「続けて、始め!」

「つおおああーーーっ!」


   シュルウンッ・・・・・・  シュバババッ!


「(こげーな蹴りぃ、効かんとじゃぁ!)」


   ベシイイッ!


 速攻で放たれた井上の右中段回し蹴り。しかし、相手はこれを冷静に受け、真下に掌で足先を叩き落とした。


「(いってぇ! こいつ、さっきから受けが強くて痛ぇっての! ・・・・・・くそぉぉっ)」

「すおおおおおおーーーああああっ!」


   バババババァッ!


「(ご、後の先の上段カウンターっ! やっべぇぇーーーっ!)」


   スッ  クルッ


 蹴りを叩き落とされ、やや体勢を崩されている井上は相手の上段突きを紙一重で屈んで躱したが、その勢いでくるりと回ってしまった。


「(外れたが、チャンスじゃけぇ! さぁ、とどめ・・・・・・)」

「つぅおおああーーーっ!」


   ドッスウウウッ!


「(な! け、蹴りじゃと!?)」


   ウワアアアアアアアアアアアアアアアーッ


「止め! 青、中段蹴り、技有り!」

「「「「「 井上先輩ーーーっ! ナイス中段でーーーーーすっ! 」」」」」


 相手が井上の背面へとどめの突きを出そうとした刹那に、それは決まった。

 後ろ向きになり、背を丸めて屈んだようになっていた井上から、大砲のような蹴りが相手のみぞおちへ入った。まっすぐに、どすんと一発、決まっていた。


「な、何しょーと? 岬っ! あいつ、何くらったとじゃ!」

「・・・・・・後ろ蹴りじゃぁ! 完全に、橋本は虚を突かれよったとじゃ!」


   ざわざわざわざわざわざわざわざわ  ざわざわざわざわざわざわざわざわ


「おい! 前原! 時間あとどれくらいだ? 見えるか?」

「は、八秒! まだあと八秒ある!」

「八秒か! 頼むぞ井上ぇ! おれまで、白星でつないでくれよぉ! 頼むぞっ!」


 メンホーに手を掛け、唇を噛み締めて祈る中村。

 起死回生の後ろ蹴りで4対2となった井上だが、まだ試合は続いている。残り時間で、勝負はどう動くのか。


「な、なんか井上、後ろ蹴りを決めたよ!! アタシや菜美が福田先輩や松島先輩から得たヒントだと、三日月蹴りを使う場面だと思ったのに!」

「私たちの声、聞こえてなかったみたいだけど・・・・・・なんか、結果的に井上は蹴りを決めてくれたみたいだから、まぁ、いっか!」


   ザワザワザワザワザワザワザワザワ  ザワザワザワザワザワザワザワザワ


「「「「「 (栃木の柏沼高校、やりよる! あそこで後ろ蹴りとは、凄い!) 」」」」」

「「「「「 (おかやま白陽、昨年準優勝よ? どうなってるの、あのチーム?) 」」」」」

「「「「「 (瀬田谷学堂にふっかけたの、あの学校やろ? 強いやないか!) 」」」」」


   ザワザワザワザワザワザワザワザワ  ザワザワザワザワザワザワザワザワ


「続けて、始め!」

「(ここにきて、技有りじゃと! くっ・・・・・・油断したぁ!)」

「(む、無意識に出した蹴りが決まったぁ! やったぜぇ!)」


   タタタン タタタン タタタタタン  タタタン タタタン タタタタタン

   タタタン タタタン タタタタタン  タタタン タタタン タタタタタン


 ステップを踏んで、間合いをうまく詰めたり切ったりする井上。

 相手はそれを読むこともせずに、がむしゃらに攻撃を仕掛けてきた。残り時間がもう五秒ほどのためか、勢いは先程までとは違い、一気に突進してくるような感じで。


「すうおおおおおおあっ!」


   ダダダダァッ!  バババババァッ!  バババババババァッ!


 ものすごい手数。ものすごい連打。

 その連突きの中に組み込まれた蹴り技も、井上を絡め取るかのように迫ってきた。ここで一本技を取られれば、井上は逆転負けだ。


「(くそおっ! 十秒前だから、下がったらペナルティだ! 打ち落とすしかねぇ!)」

「つおおああああああーーーっ!」


   ダァンッ!  ダダダダァッ!


 しかし下がらずに、前へ出る井上。

 相手の猛連撃をかいくぐり、まるで形の演武でもするかのように足捌きや受け技を用いて攻撃を防いでいる。


   バチン  バババチンッ   パァンッ  パパパパァン!


「(くっそぉ! つ、強ぇ! すげぇ攻めじゃんか!)」

「がんばれぇ井上ぇーーーっ! 防ぎ切れーーーーーーーーっ!」


 川田の声が井上まで渦巻くように飛ぶ。それに呼応したかのように、井上はさらに受けのスピードを上げた。


「(くうっ! 何とか、取り返しちゃるけぇのぉ!)」


   ババババッ  パァンッ   ドガアンッ・・・・・・


   ~~~ ピー ピピーッ ~~~


「「「「「 やあったああぁぁーーーっ! 」」」」」

「止め! 4対2。青の、勝ち!」


 副将戦、試合終了。

 最後まで相手の攻撃を防ぎきった井上の活躍により、ついに、おかやま白陽戦初の白星を獲ったのだった。

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