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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第3章 開幕   美ら海沖縄総体!  激闘! 熱闘! インターハイ!
42/106

2-42、神長道太郎の大進化

   ワアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!


 なにわ樫原高校との勝負は、最後の大将戦へ。

 チーム全体の勝敗はもう決まっている。しかし、相手の大将はそんなことはお構いなしとばかりに、気合いの入った目つきと表情で、神長を睨んでいる。


「神長君、相手はまったく気を抜いていない感じだよ。大将戦もきっと全力で来る。油断しないように、頑張って!」

「だははっ! だいじだ。俺も、前ちゃんらの試合見て、ものすごく触発されたからなぁ! なにわ樫原が、ここまで強敵とは。ほんと、紙一重の勝負レベルだもんなぁ。ま、頑張るわ!」

「いってこい道太郎! この次は、またさらに強敵続きだぜ? 体力はすっからかんにならないようにしろよな!」

「だっはっは! 泰ちゃん、心配ないさ。ま、強豪との試合、楽しんで暴れてくるぞ! 見ててくれ!」

「ファイト! 神長。この次は、おかやま白陽戦だ! ケガに注意はだ」

「やりたいようにやってくるといいぞぉ。これも、俺たちのいい経験値だからねぇー」

「了解! 陽ちゃんも尚ちゃんも、サンキューな! おおっし! やるぞっ!」


 神長は、ばしんと両手でメンホーの頬を叩いた。


   ~~~選手!~~~


「「「「「 ファイトぉーーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 ひのでせんぱぁぁぁーーいっ! けっぱれやぁーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 日出ぇ! ファイトやでぇーっ! 必ず勝てやぁーっ! 」」」」」

「「「「「 なにわの意地見せぇや日出ぇーっ! しばき倒したれやぁっ! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


「す、すっごい声援だなぁ大阪陣営! もう、勝敗ついてるのに・・・・・・」

「全体の勝敗はついたけど、まだ、個々の戦いはあるからねぇー。大将は大将で、その勝ち星は大きな意味があるんだよぉ。前原、これは・・・・・・相手はまったく気ぃ抜かないで来るぞぉ!」

「ご、ごくり・・・・・・。神長君、堂々と開始線には立ってるけど・・・・・・」

「あぁ。向かい合う相手からは凄まじい殺気というか闘気を感じる。おれのとこまで届くほどにだ」

「やべぇよ、ありゃ! 道太郎、しっかりケガせず戻ってこいよなぁー・・・・・・」


 開始線に立つ両者。

 神長はゆっくり呼吸を整え、堅く拳を握りしめている。相手も、眉間にシワを寄せて神長を睨み、いまにも食って掛かりそうな感じだ。


「勝負! 始め!」

「どぉあああああっ!」

「うぅらああぁぁーっ!」


   ダダァンッ!  ドドォンッ!   ダシュンッ!  ダシュッ!

   パパァン!  シュバッ!   バババシィッ!  ドスッ!  バァン!


「(くっ! ・・・・・・さすが、名門なにわ樫原の大将。コンビネーション攻撃はすごい回転力だっ! 特に、上段突きが速いっ!)」

「(ウチらが白星ゼロなんて、そんなアホなことできるかい! だが、やるやないか! 初めて当たる学校やけど、日新が敗れたのが、わかる気がするわ!)」


   シュバアッ!  シュバアッ!  シュバアッ!

   パァン   スパァン   パシンッ


 相手は矢のような上段突きを三連続で神長に放つ。その突きは、寸分違わずに同じ位置を狙って飛んでくる。気の遠くなるような基本稽古を積み重ねた、精度の高い技だ。


「(なんて正確な突きだ! 荒っぽい雰囲気とは裏腹に、この大将、相当な稽古量を積んだ精密な動作で繰り出してくる! 反応しにくい!)」


   ・・・・・・シュバアッ!    ズパアンッ!


「(く・・・・・・っ! よ、四発目もあったとは!)」

「止め! 赤、上段突き、有効!」


 なんと、同じ軌道での三連打ではなく、四連打。

 神長は三連打と読んでいたところを、一瞬の隙を突かれて四打目で先制点を許してしまった。


「続けて、始め!」

「うらああっ! うらああっ!」


   バシュンッ!   ダァンッ    ドヒュウンッ!


「(あぶねえっ!)」


   ススッ   パシンッ!   バシュンッ!   バチンッ


 今度は、中段逆突きでものすごく深く飛び込んできた。

 神長は一瞬反応が遅れたが、すうっと半歩退いて掌で横に払いのける。そして、上段回し蹴りで返すが、相手はそれをガッチリとブロック。


「(そんな攻撃、もらうわけないやろ! ・・・・・・まだまだやぁ!)」

「うらああーっ!」


   ギュウンッ・・・・・・   ダアンッ!   スパパパパァン!


「止め! 赤、上段突き、有効!」

「「「「「 ええよぉーっ日出ぇ! そのまま突っ走れやぁーっ! 」」」」」

「(スピード感がすごい・・・・・・。俺よりもテンポが早く反応してる。強いな、この大将!)」

「神長君ファイトーッ! まだまだ、時間あるからだいじだよーっ!」

「道太郎ファイトッ! 取り返せ、取り返せーっ! いけっからよぉーっ!!」


 前原と井上が大声で神長の背中へ声を飛ばす。


「続けて、始め!」

「うぉらああああぁっ!」


   ギュッ・・・・・・  ダシュンッ!  ズババァン!  ドカアァッ!  バチインッ!


「(くそっ! すごい突進力だ! ・・・・・・離れろぉっ!)」


   ドカッ!   ・・・・・・ズザザザザッ


 神長は相手の攻撃を捌きながら後ろ足に重心を乗せ、前足で思い切り相手の腰元を蹴って突き飛ばした。


「(くそがぁっ! なんやねん! 前足だけでこいつ、俺を吹っ飛ばしよったで! パワーあるやないかい!)」


   ワアアアアアアアアッ   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ


「へー。神長センパイ、いい技術知ってるねぇッ! あれ、ワタシがフランスで学んでた、サバットって言う格闘技にも、似た技術あるのよねー。足の付け根を蹴って突き放したり、相手の動きを止めるって技法・・・・・・」

「足クセが悪い小笹なら、あの技法は使うだろうね。でも、道太郎みたいにがっしりした体格の人で、体重があれば尚更、効果的な技法かも。アタシじゃ軽くてだめだなー」

「くすっ。川田センパイだってぇ、いざとなったら足クセ悪いんじゃないー? あははっ!」

「なっ、なにをー! 小笹! こら! アタシがいつ足クセ悪くなった! こらー」

「いたいいたい。やめてぇー。冗談だってばぁッ。いたいー」


 川田と小笹がじゃれ合っている間に、神長は床を蹴って猛突進。


   ググウッ・・・・・・  ダダダダァッ!  スパパパッ パパパァンッ!


「(う・・・・・・おっ! なんや! なかなか速いやんけ!)」

「どああああああーっ!」


   クルンッ   ヒュバアッ!   ガガッ・・・・・・


「(くっ・・・・・・これも防ぐか!)」


 相手を突き放して間合いを作った矢先に、神長はワンツースリーからの上段連突き。

 そして相手を退かせたところへ向かって、回転してからの後ろ蹴りを繰り出した。しかしこれは、技が決まる間際で相手がしっかりと腕でブロックしていた。


「(いってぇやんか! 後ろ蹴りなんぞ、なめくさりおって! おかえしやあっ!)」

「うらああっ! うぉらああああっ!」


   シュバババッ! シュバババッ! パパパパァン!


「(これ以上は、ポイントはやれないんだよ! 負けてたまるかいっ!)」

「どああああああーっ!」


   ザシュッ!  パパァン!  ガガガッ!  ズバババババッ!


 2対0の点差がなかなか縮まらないが、お互いに突き技の応酬を続けている。

 スピード感溢れる打ち合いは、片方が攻めれば片方が受け、その攻守が絶えず入れ替わる。


「うらああっ!」


   ドシュンッ!   ズババ・・・・・・  ガッ  ドカアッ!


「(ま、また突き放しよった! めっちゃむかつくわ! コイツの前足!)」

「どぉああああああーっ!」


   ヒュッ   ヒュルウンッ・・・・・・   パシャァァアアアッ!


「(・・・・・・ぬぉあっ? なっ、何や!)」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ


「止め! 青、上段打ち、有効!」


 相手が前に出ようとしたところを、神長は前足の蹴りで動きを止めた。そこへ左拳で上段突きのフェイントを見せ、それを目隠しにして右の背刀打ちを綺麗に決めたのだった。


「い、いまの道太郎の背刀、俺の蹴りをパクりやがったな! 目隠しで背刀なんて、いいぞぉ道太郎!」

「井上君が使ったブラインド技を、得意技の背刀打ちに活かしたのか! 神長君、やるね!」

「やるな、神長。仲間の組手も、しっかりと見ていながら自分の組手に応用とはな!」

「それが神長だからねぇー。これで2対1かぁ。頑張れ神長ーっ! ここからまだまだ行けるねぇー!」


 神長は仲間からの声に対し、背中で「まかせろ」と言っている。


「(や、やろぉっ! 背刀なんぞ、ショボい技なんか使いおって! なめんなやぁ!)」

「続けて、始め!」

「どああああああーっ! うおおおあっ!」


   ドドドドドッ!  ガガガガッ!  バチンバチンバチン!

   ガツンッ・・・・・・


 一気に突っ込んでいった神長と、それを防いだ相手の大将が、胸を合わせてぶつかった。

 相手は、組み付きはしないが、神長を両腕で押そうとして圧力をかけている。


「(悪いな! 俺は、この距離を試したかったぞ! ・・・・・・接近戦が信条の、剛道流出身なもんでなぁ!)」

「(何やねんこいつ! オラァ! 離れんかいコラァ! 離れぇや!)」


   ググググググッ・・・・・・  グイイイイッ・・・・・・


「(また、いい感じで押してくるじゃないか。・・・・・・それっ!)」

「(んぁ!!)」


   ググイッ!   グウッ  ギュルウンッ!  ダアアンッ!

 

「くすっ。あの大阪の人、かなり強いケドぉ・・・・・・運が悪かったネっ! 剛道流の神長センパイ相手にくっついて『押す』なーんてさぁッ。あははっ!」

「道太郎、すっごく安定感のある組手だね。これは、強いわねー」


 小笹と森畑は、道太郎の組手を感心して見ている。


「どああああああーっ!」


   シュバアッ!


 神長は、まさにカキエーの稽古でもやっているかのように、主審が止めをかける前に相手を手首で押し返して捻り、真下の床に崩して倒した。そこへ、真上から、打ち下ろすような突きを放った。


「「「「「 いけぇーーーーっ! 神長せんぱーーーいっ! 」」」」」

「(な・・・・・・なにわの大将を・・・・・・なめるんやないでぇぇーーーッ!)」


   パッ   バッシイイイイッ!   グラアッ・・・・・・   ドカアアアァッ!


「(ぬおっ! ・・・・・・なんだとっ!)」


 だが、相手は倒されてもなお、片手を床についてそのまま足底を真横に振り切って、神長の前足を力強く払いのけた。

 バランスを崩した神長の突きは、的がぶれて、そのまま相手の真横の床を強く打ち付けた。


「あぁーーーっ! 神長君の今の技! お、惜しかったのに!」

「なんて執念だ! 相手の大将も、最後の意地というやつか! 絶対に負けないという意志が見せた動きか。それとも、ここまで相手校は練習しているとでも言うのか!」

「こりゃもう、執念だねぇー。俺がやった相手は、簡単に技を決めさせてくれた。あいつは、最後の最後まで白星を諦めずにやってやがる。神長の技もすっごいんだけどねぇー!?」

「道太郎、まだだ! まだ行ける! 今のやつを、もう一回やれー!」


 神長の突きが外れ、相手はさっと間を切って立ち上がった。そして神長が構えを整える前に、思いっきり突っ込んできた。

 主審は同時に「あとしばらく!」のコールを宣告。試合時間は残り、三十秒となった。


「うらあああああああああっ!」

「(ま、まずいぃーっ!)」


   ババババシィッ!  ババババババッ バシイイイイッ!


「(くっ・・・・・・)」


   タァンッ  バチンバチン ドガガガガガッ


 何とか間一髪、神長は肩をすくめ、後ろに飛び退いて前腕と掌で相手の連突きをブロック。


「(くそったれぇっ! そこは、もらってくれなあかんやろぉがアホォ!)」

「(迷い無く突っ込んでくるからか、とにかく、速いっ! 危なかった・・・・・・。お返しだぜっ!)」

「どああああああーっ!」

「うらああーーーーっ!」


   ドガアッ!   ドパァンッ!


 右構えから放たれるお互いの上段刻み突きが飛び交い、乾いた打撃音と共にぶつかった。

 副審の一人が青旗を斜め下に出し、もう一人は赤旗を出している。


「止め! 青、上段突き、有効!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!

   どよどよどよどよ  ざわざわざわざわ


「(と、とったのか俺! ・・・・・・ギリギリ際どい相打ちだったが、良かった!)」

「(審判のボケェ! 今のは俺やないんかい!? 俺の突きのが速かったんちゃうか? まぁ、もうええわ!)」

「続けて、始め!」

「うぉらあああぁぁぁぁぁあっ!」

「どおおりゃああぁぁぁーっ!」


   キュンッ  ダシュンッ!   シュバシィッ! バシバシバシイッ!

   パパァン  ササアッ  タンタタァン  ババババッ   バチインッ!

   ドオンッ! ・・・・・・ザザザッ   ダアンッ!  ・・・・・・ザザッザッ


 両者、攻撃の手を緩めず、激しいハイレベルな打ち合いを続ける。

 相手の前蹴りで神長は後ろに身体ごと吹き飛ばされ、お返しに神長が蹴ると相手が吹き飛ぶ。

 だんだんと、両者はさらにスピード感を上げて攻防を繰り広げてゆく。


   ~~~ ピー ピピーッ ~~~


   ワアアアアアアアアッ  ワアアアアアアアアッ


「・・・・・・引き分けっ!」


   がやがやがや・・・・・・   がやがやがや・・・・・・

   ざわざわざわざわざわざわざわざわ


「「「「「 (大将戦も引き分けだ! やるなぁ、あの学校!) 」」」」」

「「「「「 (なにわ樫原が二回戦で消えよった! えらいこっちゃで、こりゃ!) 」」」」」

「「「「「 (柏沼高校ってとこ、あの樫原相手に黒星無しかい! 大番狂わせや!) 」」」」」


 ハイレベルすぎる激闘の末、神長は引き分けとなり、Aコートに注目していた観衆がどよめく。

 結果的に、柏沼高校はなにわ樫原の五人と戦い、黒星が無いまま白星二つで三回戦へ進出。


「2対0、3分け。青、柏沼高校の、勝ち!」

「「「「「 ありがとうございましたぁーっ! 」」」」」


   ざわざわざわざわざわざわざわざわ  ざわざわざわざわざわざわざわざわ


「道太郎、あの大将と引き分けなんて、すごいね! いやーほんと、アタシも早く試合したいよっ! この熱気とテンションのまま、今日が個人戦だったら良かったのになぁ!」

「明日、頑張ろうね真波! 私も、早く形をやりたくてウズウズしてきたよ! 今日はこれ、ものすごく幸先いいよね! 次のおかやま白陽戦も、この勢いで行くといいなぁ!」

「くすくすっ。やったねぇッ柏沼高校! あー、次の三回戦も、面白い試合して欲しいな! 神長センパイも、すっごくレベル上がってるもんねぇッ!」


 柏沼メンバーの五人は、なにわ樫原の選手達と試合後の握手を交わし、続く三回戦へ向けてさらに気を引き締め直した。

 握手の際、相手側の選手達は、大して特に態度を変えることもなく、潔く言葉掛けをしてくれた。

 主将の猪渕が、田村に歩み寄って、にかっと笑う。


「いっやぁ、負けたわ。負けた! いや、でも、個人的には負けた気はせぇへん! いや、でも、負けたわ!」

「猪渕ー。ちょっと、何が何だかわかんねぇなー。でも、いい試合だったねぇー。いい選手で組んでるチームだったと思うねぇー」

「柏沼高校、よーく聞けや! 俺らにはな、個人戦にのみ集中している秘密兵器の一年坊がおるんやで!? そいつの組手こそが、樫原の理想型や! 楽しみにしときーや!?」

「え? 一年なのに、主将の猪渕がそんなに言うほどなんかぁ? どんなやつなんだ、そいつ。そりゃー、気になるねぇー」

「個人戦のトーナメント見てみぃや! 大阪代表は俺とそいつやで! めっちゃ恐ろしい一年や! ま、あいつの組手は、血なんだわなぁ」

「トーナメント表、どんなだったか忘れちまったねぇー。しかしなんだそれ。血ってどういうことだぁ?」


 猪渕と田村は、主将同士で何かシンパシーを感じたのだろうか。握手の際に、まるで旧友との再会でもあるかのように、馴染んで語っている。

 コート内では、係員がせっせと三回戦に向けての準備をしている。


「アホか! 血は、血ぃや! んー、んー、なんちゅうか、そう、遺伝子や! あいつはもう、遺伝子が既に強いんやな!」

「わりぃ、ほんとに何言ってっかよくわかんねいねぇー。まぁ、その一年が樫原の秘密兵器で、強ぇってことなんだねぇ? そして、遺伝子が強いって言い方はもしや、誰かの息子とかなんかねぇ?」

「あいつは、両親がかつての全空連ナショナルチームや! んで、今日はあいつの姉二人も、試合に出てるで?」

「へぇ、すごいねぇ。そういうやつじゃ、強くても仕方ないねぇー」

「アホか。他人事みたいな返事やな。お前んとこにも関係なくはないやろうな、あいつの姉は」

「はぁ? どういうことだよぉ。まさか、うちの川田とかに隠し弟がいたとか?」

「ちがうわアホォ! あいつの姉は、昨年の女子組手でのインターハイ女王や!」

「「「「 (・・・・・・朝香朋子の弟か、やっぱり!) 」」」」


 前原たちは、猪渕と田村の会話から全て察した。組み合わせ表が送られてきたときに話題になった、「朝香」の名字を持った個人戦の大阪代表。それはやはり、朝香朋子と朝香舞子の弟だったのだ。


「やっとわかったか? うちの秘密兵器は、朝香(あさが)光太郎(こうたろう)! 朝香朋子、朝香舞子、その二人を姉に持つ、どえらくゴッツい組手をやる一年坊や。ま、ヘコまされんよう、楽しみにしとってや!」

「ふぅん。やっぱり朝香朋子の弟か! ま、最初からちょっと怪しいとは俺らも思ってたんだよねぇー。朝香なんて名字、あまりいないしねぇー」

「(ほんとかよ尚久。さっきまで、きょとんとしてたべよー)」

「(まぁまぁ井上君。きっと田村君のことだから、わかってたんだよ)」

「ま、俺らの団体戦は、お前らに負けてサヨナラや。だが、個人戦は、負けへんで!」

「ありがとなぁ。俺も楽しみにしてっからねぇー猪渕。いい勝負だったしねぇー。個人戦でも、よろしくねぇ」

「まっ、礼なんかいらんわ! ま、三回戦のおかやま白陽戦、頑張りーや!」


 なにわ樫原のメンバーは、猪渕を先頭に、ゆっくりとメインアリーナから去っていった。


   シュバアァァッ!  シュパアァァァァンッ!  シュバシャァァァァッ!

   ドパパパパパパパパパパパパァンッ!  ドバアァァァァンッ!


「・・・・・・止め! 青、上段突き、技有り! 青の、勝ち!」


 そうこうしているうちに、Hコートでは、等星女子が中京学園名護屋を相手に、1ポイントも与えることなく完全勝利。

 朝香と崎岡だけでなく、今回の等星チームは他のメンバーもみなレベルが格段に上がり、尋常じゃない強さを周囲に見せつけていた。


「「「「「 等星ーーーーっ! 常勝ーーーーーっ!  必勝ーーーーーっ! 」」」」」


 等星女子高の、お馴染の声援が館内に響き渡る。


「へぇー。強くなってるね等星も。・・・・・・諸岡、あんた本当に団体戦に入らなくていいの? オーダーに入れてもらったりすればいいのにさ」

「だーかーら、これが私のケジメなんだって。自分で決めたことなんだから・・・・・・仕方ないよ。それに今回、朋子や有華だけでなく、私が入らない代わりに二年の大澤が入ってるし、大量の練習試合や遠征で経験値を積んだ一年の川島や矢萩も、すごくレベルを上げてきたよ」

「でもやっぱり三年生だしさ、インターハイはもう、ないんだよ? ちょっと私は残念だね」


 森畑が諸岡へそう告げると、諸岡は少し俯いて黙っていたが、ゆっくりと顔を上げて再びコートを見つめた。「これもひとつの運命だから」と言って。


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアア


「5対0。青、等星女子高校の、勝ち!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアア


「・・・・・・私の分まで背負って、有華と朋子が戦ってくれている。そして、大澤、川島、矢萩。みんな、未熟な私の分まで、等星女子の名を背負って戦ってるんだ。私は今更、あそこに戻ることはできないよ。その分、もっと先で暴れてやるさ。・・・・・・大学でね!」

「そこまで熱い決意なら、アタシはもう言わないよ。何も。・・・・・・諸岡、大学でも空手やるんだね? もし、また、アタシと当たったら、その時は本気でぶつかってよね!」

「大学連盟の荒波で鍛え上げて、私はさらに上を目指すさ。川田! あんたも大学でやるなら、その時は容赦しないよ!」

「上等だよ! じゃ、今大会は、しっかりアタシらのことも応援してよね!」


   ガシッ


 川田と諸岡は、にっこり笑って、拳をお互いに合わせて返事を交わした。


   ワアアアアアアアアア  ワアアアアアアアーッ!


 各コート、三回戦の準備が整ったようだ。

 予想通りのところが勝ったり番狂わせがあったり、有名無名を問わずにどんどん出場校が絞られ少なくなってゆく。会場の熱気は、それと反比例するかのごとくどんどん上がっている。

 太陽は真南から少し西に傾くかどうかの位置。

 潮の香りを含んだ碧い風は、ふうっと吹いてきては、館内の熱気をさらってまた抜けていった。

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