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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第1章 嵐の前の・・・・・・
4/106

2-4、道太郎、デートなのか!?

   じじじじじじじっ  みゅーんみゅーんみゅんみゅんみぃぃーん


 街路樹からの蝉時雨を浴びながら、前原と田村は、宇河宮市の中心街を東西に抜ける商店街「オオイヌ通り」を小走りで行く。途中にある洋服店「クリスタル・キー」の前で、女子が五人おり、合流。

 結局、休みの日でも、このメンバーで集まってしまった。


「おっそいよ前原も田村も! 見失っちゃうじゃん。いやー、アタシ、なんだか変なワクワク感だよ」

「どーいうことなんだ川田!? ほんとに神長だったんか? なんだかわかんねーけど、俺も前原も今日はフリーだしな。尾行なんて趣味ないけど、息抜きの暇つぶしかねぇー」

「私たちも、さっきまでこの店で洋服見てたの。そしたらさ、真波がふっと外を見たとき、道太郎がだれか女の子と二人で買い物袋持って歩いていたって! 事件でしょぉ!?」

「そ、それは驚きだね確かに。僕もメールもらって、びっくりだったよ!」

「神長先輩も、なんだかんだで、いつの間にか彼女いたんですかねっ? きゃー、すごいもの見ちゃった感じですーっ!」

「落ち着け、紗代! でね、気になるからいま、みんなでさりげなく追ってたのよ。あ、見失っちゃう! さっき、西の方へいったよ。県立博物館とか県央公園じゃないかな?」


 女子メンバーはみな、きゃあきゃあと変なテンションになっている。

 神長と誰かが、確かに遠くに二人でいるようだ。その「誰か」は確実に女の子のように見えたらしいが、一体誰なのだろうか。


「でも、神長君が女の子と買い物なんてほんと意外だったなぁ。その人と、なに買ったんだろう?」

「アタシがちょっと見た感じだと・・・・・・漬物石っぽい、重そうな何かだったね。でもさぁ、デートで漬物石って、ありえなくない!?」

「ありえないね。私なら、デート中に漬物石を買おうとは思わないし」

「わたしは、さっきホームセンターで、角材みたいなものを買って二人で出てきたの見ました」

「「「「「 ん? んん? ・・・・・・漬け物石? ・・・・・・角材ぃ? 」」」」」


 みんな、神長の隠れデートのようなものを尾行するのが楽しそうだ。

 神長と謎の相手が買ったものは、何だかよく分からないラインナップ。見ていたメンバーの頭には、ハテナマークが漂っていた。

 

「とにかく、行ってみよう。・・・・・・よし、バレないように、行こうかねぇ」


 田村、川田、前原、森畑、阿部、大南、内山の順で、神長の遙か後方五十メートルあたりから、尾行開始。まるで、探偵か刑事にでもなったかのようだ。

 神長は、前原たちが遠くから見た感じだと、すごくオシャレな服を着た大人っぽい子となにか話しながら公園へ向かっているようだ。

 確かに、持っている袋には重そうな何かと角材が見える。ガムテープや麻縄のようなものも見える。


   ・・・・・・こそこそ  こそこそ  こそこそ


 あまりにも怪しい動きだ。交番の前を通る際、職務質問を受けそうな気もするが大丈夫だろうか。


「(おい、押しすぎだ川田! 見っかっちまうだろーが! もっと後ろ行けよ)」

「(しゃーないでしょ! アタシも、うらから押されてるの! 菜美、もっとひっこんでよ)」

「(無理! どうしたらこの電柱一本だけで七人が隠れられんのよ。真波、ほとんど隠れてないよ!?)」


 いったい、田村たちは何をしているのだろうか。こういう時間も、なんか楽しそうではあるが。


「・・・・・・ちょっと。・・・・・・ちょっと、君たち。何をしているんだね?」

「「「「「 あ・・・・・・ 」」」」」


 なんと、尾行をしていた七人は警察官に職務質問を受けた。

 田村と川田が、「ぼくたち電柱研究会という同好会です」とか言って、ものすごく曖昧にごまかした話をした。

 その警察官には怪しまれたものの、「怪しいことをしないように」と咎められただけで、何とか大丈夫だった。見た目が明らかに高校生とわかったためか、何もなく、その場で軽い注意をされたのみで済んだ。


「びーっくりしたぁ! いきなり警察はびびるね。アタシと田村の咄嗟の言い訳が通じるとは思わなかったよー。変な問題起こしてインハイ出場不可とかは、絶対避けよう!」

「川田さんー。電柱研究会って、あまりにも意味不明すぎだよ。阿部さんや一年生たち、笑いをこらえるのが精一杯って感じだし・・・・・・」


 阿部、大南、内山は口元と腹を抱え、声を出さないように我慢しているが、明らかに心の中では笑っているのがわかる。


「あ、真波! 道太郎ら行っちゃう! 行こう行こう!」


 再び尾行開始。やはり県央公園へ向かって、二人は歩いてゆく。その手には、変な荷物を両手に持って。


「(もうすぐ公園に入ってくみたいだよ? 田村君。あの子、誰なんだろうね?)」

「(誰なんだかねぇー? だいぶ神長がでかく見えるねぇー。相手はちっこい子だな、ずいぶんと・・・・・・)」

「(しかし、道太郎のやつ・・・・・・あんなオシャレな子といるのにスニーカーにジャージだよ? はぁー。もーちょっと、服装考えりゃいいのに。私じゃ考えらんないよ・・・・・・)」

「(アタシ、仮にも自分の彼氏がデートでよれよれなジャージで来たら、ぶっ飛ばすかも・・・・・・)」


 森畑と川田が呆れている。ジャージの神長と一緒にいる子はすごくオシャレで、髪を後ろで小さく結んでいて、前髪をさらっと両脇に垂らした感じだ。髪をさくらんぼのヘアゴムで束ねているようで、可愛さをアピールしたオシャレスタイル。七人からは遠いためでよく見えないが、全体的に可愛い感じの子らしい。


「(公園の芝生広場にいくみたいだ・・・・・・。ケヤキ並木の先まで行くぞ? よし、いくぞ)」

「(沖縄行く前に、道太郎がどんな過ごし方してるのかと思ったら、何やってんだろうね?)」


 田村と川田が小声で話しているうちに、公園にある芝生広場へ神長は到着。

 しかし、そこには意外な人達の影があった。


「(あれ? あれぇっ! た、田村君! 井上君と中村君もいるよ!)」

「(な、なんだぁっ? どーいうこっちゃ! もうすこし、様子を見てようぜ?)」

「(井上に中村もぉ? アタシはいま、何を見ているんだ? 恭子、押すな、こら!)」

「「「「「 わぁぁーーーーーーー 」」」」」


 七人はぎゅうぎゅうになって樹木の陰から様子を見ていたが、雪崩のようにどさどさりと芝生へ倒れてしまった。その声で、神長たちにも気づかれたようだ。


「うおおぁっ! な、尚ちゃんにみんなも? なんだ、なんだぁ!?」

「いつものメンバーがいるじゃんか! なにやってんだよぉ、悠樹ら!」

「そっちはそっちで、七人まとまって過ごしてたのか。結局、この顔ぶれが自然と集まってしまうんだなぁ。前原たち、どうしてここへ? おれたちがいるの、知ってたのか?」


 神長も、井上も、中村も、三人はジャージ姿やTシャツ姿できょとんとしている。

 中村は、柏沼高校空手道部の名を背負ったTシャツで、既に爽やかな汗が額に滴っている。


「神長君が誰か女の子と二人で歩いてるのを川田さんらが目撃してさぁ。連絡もらって、みんなで、ちょっとね・・・・・・」

「んー? ・・・・・・あぁー、そういうことか。だははははっ! 陽ちゃん、なんだか俺ら、面白い誤解をされたみたいだぜ?」

「こら、道太郎! なにがどう誤解なの? 説明しなさい。アタシのもやもやを晴らしてよぉ」


   さく   さく   さく   さく・・・・・・


 芝生を踏む足音が聞こえてくる。するとそこに、両手にペットボトルのドリンクを持った女の子が、前原たちの横から現れた。その子は、さらさらの髪が陽射しに照らされ艶やかで、笑顔が眩しく輝いている。


「あははっ! なーにしてんのぉッ!?」

「あぁぁーーー? こ、小笹だったのぉ! なんであんたが、この男子らと?」

「くすっ。あはははっ! 森畑センパァイ、尾行、バレバレでしたよぉ! あんな面白すぎる尾行の仕方、見たことないですよぉっ。みなさん、こんにちわー。良い夏休みですかぁ?」


 神長と買い物してたのは、なんと、私服でだいぶイメージが違うが、小笹だったようだ。

 祝勝会の時の私服姿とはまた違った、オシャレな服装。一緒にいる男子三人は明らかに運動するための姿なのに、いったい、小笹はここで何をしているのだろうか。


「みんな、末永さんとこんなところでいったいなにを? しかも、何か、変わったもの買ってきたみたいだけど? 僕たちも謎だったんで、面白いからこっそり追ったんだけど・・・・・・」

「あー・・・・・・、実はな、おれたち三人で、田村や前原よりもっと地力をあげて、団体戦で確実な勝ち星を得ようってなったんだ。そこで、神長が、末永ちゃんに連絡してくれて。まぁ、秘密特訓てやつだな。黙ってて悪かった。・・・・・・すまんな」


 中村が、申し訳なさそうに頭を搔きながら話す。どうやら、プライベート時間としての自主特訓をやっていたらしい。


「そーいうコトっ! ここね、ワタシがいつも自主練してる公園なの。神長センパイがね、きのう連絡くれてぇ、特訓したいって言うんだもん。だから、ワタシもこのあと夕方は用事あるんだけど、それまではずーっと三人とここで遊んでたんだぁ」


 小笹は屈託のない明るい笑顔で、はしゃぎながら言った。どうやら朝早くから、みんなここで集まって動いていたようだ。


「だからみんな、俺がメールしても、都合が合わないって言ってたのかぁ。なぁんだよぉ。言ってくれれば良かったのにねぇー」

「ごめんな尚久! 俺たちもよぉ、尚久や悠樹にまかせっぱなしじゃなく、レベル底上げしてインターハイに臨みたくて。小笹ちゃんの秘技や鍛錬を参考にしようってことになったんだ」

「それは、まぁ、スゴイ向上心だからいいんだけどさ、アタシらが見たあの買い物はなんだったのよ? 何を買ってたの?」

「あぁ、あれか。小笹ちゃんのアドバイスで、漬け物石と、角材と、麻縄にガムテープだな」

「・・・・・・とても、デートで男女が買うもんじゃないわねぇ。なぁんだ、変な想像して損した」

「くすくすっ。これで、いーぃ鍛錬具が作れるんですよぉ? 沖縄の本場のってわけにはいかないけどぉ、鎚石(チーシィー)ができるんです。ホームセンターで、いいの見つけたんですよ。えへっ」

「「「「「 ちーしぃー? 」」」」」


 オシャレな身なりに可愛い顔立ち。なのに、口から出てくる言葉は鍛錬具。芝生広場は、いつの間にか、道場になってしまったようだ。

 メンバーはみな、せっかくのオフも忘れ、いつものように空手談義になっていた。しかし、チーシィーとはいったい何なのだろう。田村は「追試」ならよく馴染みある言葉だと言っているが。


「へぇぇ。漬け物石っていっても、プラスチックで包んだ重りね。それに、角材を縄で巻いてガムテープで固めたんだぁ? どーやって、なにするんだ、これで?」

「わ! ねぇ、真波! これすっごい重いよ! 先っちょに重りついてるんだもんねぇ!」


 森畑は鎚石を持ち上げたが、かなり大変そうだ。内山は、頑張ってみたがとても持てそうになかった。


「コレ、周囲に人がいるとあぶないんで、この芝生広場の端っこでワタシよくやるんです。ちょっと見ててね? ・・・・・・しょ、っと!」


 小笹は鎚石を片手でがっちり握り、振り上げて重りを真上に向けた。

 足を横に開いて腰を落とし、腕を地面と水平に保ち、手首と肩を使って一度高く振る。

 そしてまた下ろすときに、水平に維持。そして下ろしてまた振り上げる。ものすごく広背筋を使って、打撃力強化にも繋がる全身運動になるらしい。


「すっご・・・・・・。小笹、あんた、アタシが蟹鶴温泉で見たカラダの秘密はコレだったのね!」

「・・・・・・ふぅ。やってみる? センパイたちも、阿部チャンも、一年生も。はい!」

「よぉし。私もやってみようっと。周りに人、いないよね? よし、えいっ!」


 森畑が鎚石チャレンジ。しかし、慣れない鍛錬に悪戦苦闘。続いて川田もチャレンジ。

 前原や田村も振ってみたが、これがなかなか勝手が利かずにきついようだ。

 小笹は沖縄剛道流で、子供用のやつをよくやっていたらしい。

 中村が言うには、「なかなかこれは地味にハードな鍛錬に感じる」とのことだ。


「すごいだろう? おれたちも一本ずつ作ったんだが、もう一本欲しくてな。ちょうどその買い出しを川田が見たんだろう、きっと。・・・・・・カフェも、冷たいもんを神長がおごった時だなきっと」

「はー。そういうこと。・・・・・・それにしてもこれ、ものすごく背筋や広背筋を使うね! 手首や肩周りも強くなるわコレ! すっごぉい」


 川田も、初めてチャレンジした沖縄空手の鍛錬にびっくり。小柄でありながら瞬間的な破壊力や爆発力のある小笹の技について、これが関連しているということを納得したようだ。


「やらないよりは、やったほうがいい鍛錬だよッ? あとはね、ホームセンターにあったんだけど、梅干しを入れる甕も、使えるよ? 水入れて、握って、サンチンの移動をやるんだぁ。三戦甕(サンチンガーミィ)っていうんだよぉ。指先や握力がしっかり鍛えられて、身体の軸も強くなるよぉ?」

「前ちゃん。小笹ちゃんに、もうひとつビックリな稽古法を教わると良いわ。俺も剛道流だが、これまであまりやらなかった稽古だ。カキエーってやつ、やってもらってみるといいぞぉ?」


 この四人は、朝からここで秘密特訓をしていたようだ。話を聞いた前原と田村は、「これは目から鱗なことばかりだ」と驚いていた。

 それにしても、こんなオシャレな身なりをして、ここで朝から男子三人の自主特訓に付き合っていた小笹は、空手に対しての情熱はやはり人並み外れたものを持っているということなのだろう。

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