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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第3章 開幕   美ら海沖縄総体!  激闘! 熱闘! インターハイ!
39/106

2-39、男、井上! 頑張らせていただきやす!

   ~~~選手!~~~


「「「「 ファイトーーーーーっ! 」」」」

「「「「「 井ノ原ぁぁーっ! しばき倒したれ! 樫原の強さ見せぇやーっ! 」」」」」

「(なんだぁ、おっかねぇ声援だな。しばき倒したれって、これ、ポイント競技だっての)」

「(次鋒戦は白星もらうで、ワレェ! 樫原なめんなや! 一気に叩くわ!)」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!  ワアアアアアアアアアアアアアアア


「み、みつる! 相手の顔、やばいぞ! ヤンキー漫画とか極道映画に出てきそうだ!」

「ほ、ほんとだ! 身体もマッチョだし・・・・・・井上先輩、生きて帰ってきて下さい」

「「 合掌・・・・・・ 」」


   スパン スパァン!


「い、いってぇ!」

「なーに縁起でも無いこと言ってんのよ! 井上先輩は、勝つよ! 組手は顔でやるモンじゃないでしょうよ! 敬太も充も、ちゃんと応援しなよーっ!」


 相手の風貌に観客席で怯える黒川と長谷川。その頭を、阿部がひっぱたいた。

 阿部はいつの間にか、二年男子より強くなってしまったようだ。


   ざわざわざわざわざわ・・・・・・


 開始線に立ち並ぶ両者。井上は相手を見上げるようにしたまま、微動だにしない。

 身長差は十センチほどだろうか。しかし、その十センチが、戦いの中では大きな体格差となる。


「(でけぇな。・・・・・・しかも、気合い入りすぎだろ、この野郎。俺を睨むんじゃねぇっ!)」

「(何睨んでんやワレ! 俺と本気でやる気かボケェ! しばき倒したるわ!)」


   ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・  ズオオオオオオオオ・・・・・・


 相手と井上の闘気が渦巻き、さらに熱気が上がってゆく。


「井上のこんな姿、初めてだねぇー。びびってないねぇー」

「そうだね田村君。なんか井上君・・・・・・変わったよね? びびるどころか、あの強面の相手を睨んでるよ」

「あ、ああ。信じられんな。まぁ、気負けしてないんだから、いいことなんだろうが・・・・・・」

「泰ちゃん、ファイトだ! いい気合いだ! 睨み返してやれーっ!」

「井上もやるねぇ。男だねぇー。なんか、気持ちが変わったんじゃないかねぇ?」


   がやがやがや・・・・・・  がやがやがや・・・・・・


「菜美! すごい。アタシ井上があんな相手にもびびってないの、初めて見た!」

「だね! 以前だったら絶対『俺には回すなー』って言うのにね。今回は通じないけど」

「なぁんかねー、うちの子、この大会行く前当たりから、すごく気合い入ってたのよぉ! 本屋で『男の生き様』なんて本を買ってきてたりね、任侠映画のDVDなんか見てたりも

してたのよぉー? おっかしいでしょぉ!」

「「 え? 」」


 井上の母が、笑いながらみんなに暴露。どうやら井上は、相手に呑まれてしまうのを克服するために、一人でいろいろ陰でやっていたようだ。それにしても、任侠映画で怖さ克服とは、どういう克服の仕方なのだろうか。

 しかしその効果なのか、樫原の井ノ原を目の前にしても臆することなく井上は気合い十分。むしろ、井上がそっち系の本職なのではと思うほど、相手をものすごい形相で睨んでいた。


「勝負! 始め!」

「しゃあああーっ!」


   ぐるんっ  ササッ  スウウーッ・・・・・・  たぁん!


「おうるあぁぁっ!」


   ダァン!  ザザザッ ザザザッ シャシャシャシャアアッ!


 次鋒戦がいよいよ始まった。

 井上は腕をぐるんと一回ししてから、緩やかに拳を握ってやや高めに構えた。

 そして、なぜかいつもの規則的なステップを使わず、その場でどかりと構えたまま動かない。

 相手はものすごく素速いフットワークで前後左右に動く。特に横への動きは、目を見張るほどの速さだ。


「(なんか、だいぶ動く相手だな! まぁ、知ったこっちゃねーっ!)」

「(フェイント使いなんやろ? さぁ、俺に通じへんってこと、思い知れやボケ!)」


 井上は、動き回る相手に対し、常に正面を向くように足捌きをうまく使って細かく動く。


「(なかなか来ねーな・・・・・・。待ち拳かこいつも! じゃ、そろそろ仕掛けてやるか!)」


   たん  たん  たたん・・・・・・


 数歩、井上は前へ出て、一気に加速すると同時に目を見開いた。


「(くわっ!)」


   シュバアッ   バアアッチィィィィンッ!


「「「「 !!! 」」」」


 ものすごい打撃音が響き渡る。

 井上の突きが見事に相手を捉えた・・・・・・かと思ったが、何とやられたのは井上の方だった。

 相手は高速で井上の横に回ってから、上段を捉えていたのだ。


「止め! 赤、上段突き、有効!」

「(い、いってぇぇ・・・・・・っ! な、なんだぁ?)」

「(ニヤリ! どーしたんや、フェイント使い。俺には効かんやろぉ?)」

「続けて、始め!」

「しゃああああっ!」

「おうるあっ!」


   ザザザッ  ザザザッ  シャシャシャシャアアッ!

   シャシャシャシャアアッ!  シャシャシャシャアアッ!  ザザザッ


「(くわっ!)」


   ヒュンッ  ドガアアアァッ!


「(・・・・・・つぅっ! いてぇ!)」

「止め! 赤、中段蹴り、技有り!」


 井上のフェイントは二回とも不発。一回戦の相手には面白いように決まっていた技が、この相手には効いていないのだろうか。またも、横から脇腹を蹴り抜かれた。


「あれは・・・・・・井上のフェイントは、効いていない。いや、効く効かない以前の問題だ」

「なに? どういうこと中村君!?」

「いいか前原、井上の使っているフェイントは、目と目でじっくりと駆け引きができてこそ活きるんだ。目と表情で生み出すフェイントだからな」

「そ、そうだね」

「だが、見ろ。あの樫原の次鋒は常に動き回っていて、井上には二回とも真横から回り込んで技を決めている」

「そ、そうか! 井上君がフェイントをかけるときには、相手はもう目の前から外れているのか! だから、フェイントにすらなっていないんだ」

「そういうことだ。まずいぞ! 相手は待ち拳型だが、今までのタイプとは違う。一応、後の先のタイプだろうが、絶えず動き回って真っ正面から飛び出してこない。しかも、リーチもあり懐も深い。これは、厄介な相手だ!」

「じゃ、じゃあ、せっかく井上君が編み出した新技のフェイントは・・・・・・」

「ああ。この相手には相性が悪すぎる。通じないし、封じられたと言っていいだろう」

「そんな。でも、きっと打開策はあるはず! がんばれ井上君ーっ!」


 中村の分析により、相手の組手スタイルが判明。

 じっくりと狙うタイプの待ち拳ではなく、動き回るタイプの待ち拳型。こういうタイプは、井上をはじめ柏沼メンバーはこれまで一度も対戦した経験がない。

 この相手に、井上はどうやって戦えば勝てるのだろうか。現在、点差は3対0。

 まずは、手堅く攻めて追いつきたいところだ。


「続けて、始め!」

「・・・・・・しゃああっ!」


   タタタン タタタン タタタタタン タタタン タタタン タタタタタン

   タタタン タタタン タタタタタン タタタン タタタン タタタタタン


 小気味よい、リズムの一定したステップ。

 井上はいつも通りの動きに切り替えたようだ。ここから、また流れを変えたいところ。


「(なんで俺の井上スペシャルが効かねー!? ならば、小細工は無しだ!)」

「(アホちゃうかこいつ。待ち拳の俺に、こんなリズム、読みやすいわ! だが、正面からなんか行くかいボケェ!)」


   ザザザッ  ザザザッ  ザザザッ  シュタシュタシュタァッ

   シャシャシャシャアアッ  シャシャシャシャアアッ


「つうぉりゃああああーーーっ!」


   ヒュヒュヒュンッ!  バババババッ!  シュバババババッ!

   すかっ   すかっ   すかっ


 井上君の連突きは、まったく掠りもせずに空振り。

 相手は前後左右に動き回って横へもたくさん動くためか、突きの的が絞りにくいようだ。

 井上はメンホー越しに唇を噛み締めながら、悔しそうな表情で相手の動きを目で追いかける。


「(ちっくしょぉ! どっちだ? そっちか! 動き回るんじゃねぇー・・・・・・)」


   キュンッッ!   チュドンチュドオンッ!   ごろん


「(うおあーーっ・・・・・・)」

「止め! 赤、中段突き、有効!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアア


「ええよ井ノ原ぁ! ナイス中段や! もっとやったれ!」

「「「「「 井ノ原先輩ナイス中段やぁ! 」」」」」


 相手を追いかけようとし、井上は向きを変えようとした。そこへ、相手が出鼻を狙って一気に素速く踏み込み、強烈な上段中段のワンツーを叩き込んだ。

 上段は躱したものの、その中段突きの威力に、井上は大きく吹っ飛ばされてしまった。


「(な、なんだこいつ! パワーは二斗以上か! くっそぉ!)」

「井上君、焦らないで! スピードは負けてない! スピード差はだいじだよ!」

「泰ちゃん、フェイント技が封じられたとなると、あとは・・・・・・」

「前原、残り時間はまだあと一分半はある。4対0だが、1ポイント返せれば流れはきっと変えられるはずだ!」

「「「「「 ファイトでーーーーすっ! 井上先輩ーーーーーっ! 」」」」」


 開始線に戻る井上を、相手は拳の指をゴキゴキと鳴らしながら余裕の表情で見下ろす。

 井上は相手と目を合わせているが、攻め倦ねた表情だ。


「(フェイントは効かねーし、下手に動くとカウンター・・・・・・。待ってたら終わっちまう・・・・・・。どーやって攻めりゃ、こいつを崩せる・・・・・・)」

「続けて、始め!」

「う、うおおおおーっ!」


   ダダダダッ!   バシュンババババシュンッ!  ズババババァッ!


 迷わずに思い切り行った井上。

 開始線から一気にダッシュし、相手へ向かって井上は上段へ集中させた連突きを仕掛けてゆく。しかし、上背のある相手にはなかなかそれが届かない。


「おうるあぁぁっ!」


   バシッ  ドパアアアンッ!


「(く・・・・・・っ!)」

「止め! 赤、上段突き、有効!」

「だめだぁ、井上! 真っ正直に行きすぎて、逆に上段カウンターを狙われたー」

「真波、あのでかいやつは、どう崩せばいいんだろう。動き回るし、懐は深いしさ。私もあそこまででかい人と組手で当たったことないからさぁ」

「待ち拳スペシャリストの菜美がわかんないんじゃ、アタシもわかんない。でも、これで点差は5対0。やばいよぉ! リーチ差もあるし、どーするんだ井上は!」


   ざわざわざわざわ  ざわざわざわざわ  ざわざわざわざわ


「しゅ、主審! ちょっと。メンホーが・・・・・・」

「む。一分以内に装着を直しなさい!」


 メンホーを締め直して時間を稼ぐ井上。その間に何か索を考えているのは、明らかに誰が見ても分かるが。


「(な、何かヒントねーのかぁ? 落ち着け、落ち着くんだ俺。・・・・・・相手のカウンターなんか気にしてたら、きっとダメだ。・・・・・・沖縄に来てから、なに学んだっけ・・・・・・)」

「青、間もなく一分だ。元の位置!」

「は、はい。すみません。もう大丈夫です! (だいじじゃねぇよぉ。もっと時間くれー)」

「おーい、井上っ! おーいおーい」


 田村は、メンホーを直し終えた井上に呼びかけた。慌ててそちらへ振り向く井上。


「空手は、一撃必殺だねぇ。もう、思い切ってぶつかっちゃえよ。連突きいんねーよぉ。ま、二の拳いらず、かねぇ? 薩摩坐元流さつまざげんりゅうのハナシ、覚えてっかなぁ?」

「(な、なんだ? ・・・・・・はっ! そうか、連突きより、一発に賭ければ・・・・・・)」


 青い拳サポーターを握りしめ、にやっと笑った井上。その目には、迷いの靄が消えていた。


「続けて、始め!」

「つうおりゃぁーーーーっ!」


   ダダダッ!  ギュンッ!  ダダアァッ!


「(アホが! まぁた無駄に手数で突っ込んでくるんやろ! 意味ないわ!)」

「おうるあぁぁっ!」


   ズバシュウッ!    サアッ!   シュバアアアッ・・・・・・


「(何やと!)」

「うおりゃあああーーーーーっ!」


   シュバッ!   バシイイイイッ!


「止め! 青、上段突き、有効!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ


 井上は、きらりと光らせた目を相手に向け、一気に猛ダッシュ。

 しかし先程までとは違い、連打で仕掛けるのではなく、さらに深い間合いまで飛び込んでいった。

 相手の上段逆突きのカウンターを、踏み込みながら頭を振って躱し、お返しとばかりに井上は強烈な上段逆突きを相手の顎先へ叩き込んだのだ。


「(あの間合いから、さらに踏み込むやと? ・・・・・・待ち拳の俺に対して。アホちゃうか!?)」

「(ふぅ。尚久のおかげで、ちょっと吹っ切れたぜ。・・・・・・迷わずに、とことん突っ込んで、確実に届くところで一発ぶっ叩いてやる!)」

「続けて、始め!」

「おうるあぁぁーっ!」


   ダシュッ!  ダダダ・・・・・・  バアアッ  ズッドォン!


「つおおおあぁぁぁっ!」


   タアンッ!  スススッ   シュバアッ!  バッシインッ!


 主審の合図がかかるのとほぼ同時に、相手はいきなり速攻で中段逆突きを飛び込んできた。

 井上もそれに反応し、同じく中段逆突きで同時に迎え撃った。

 両者、床を蹴った後ろ足の膝が床のマットに擦れ、足の親指横の部分も擦れていくほどに低い姿勢の相打ちとなる。


「おらあっ!」

「つあああっ!」


   パパァン! シュバッ!  バシュッ!  ドパアアンッ!


「(・・・・・・くそたらぁ! しつこいわワレ!)」

「止め! 青、上段突き、有効!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


 中段突きが相打ちで交錯した後、さらに腰を切り替えしてお互いに上段突きの二の矢が飛ぶ。

 一瞬速く、井上の突きが相手よりも深く喉元へ届いていた。


「菜美。井上さ・・・・・・急に技に勢いが増したように見えない?」

「うん。なんか、技の構成も、連突きから単発に切り替えたようにも見えるけど・・・・・・」

「くすっ。なるほどぉ。井上センパイ、意識が変わったんですねぇッ! 技の間合いや、距離感が明らかに実戦向きな、距離ですねぇー。あれなら、思い切り行けば、入るかもネ」

「そうか! 井上のやつ、本気で相手を倒しにかかる距離に変えたのか! だから、さっきまでと違って、踏み込みも深いし技に勢いが増したように見えるんだ! 寸止めを意識した技の距離じゃない。あくまでも、技はコントロールしてるけど、意識は相手を倒しにかかってるな、あいつ!」

「そーゆーコトっ! さぁすが川田センパイ! わかってますねぇ。井上センパイは、意識をもう変えてるからぁ、これは強いと思いますよぉ!」

「なに! なに? どういうこと、末永ちゃん!」

「だからぁ、寸止めを先に意識して技を出すのと、相手を打ち抜いて倒す意識で技を出すのとじゃ、踏み込む間合いや重心のかけ方も違ってくるのよー。はじめから止めるために踏み込むと、無意識に踏み込みは浅くなる。そのブレーキを無くして踏み込むと、意外なほどに技は届くようになるモンなのッ! 阿部チャンじゃ、優しいからまだわかんないよね」

「ちょっと、小笹。それじゃまるでアタシが、優しくないからその違いを知ってるって言うようなもんじゃないの! アタシはあくまでも、武道の知識として語ってるんだからね?」

「わーかってますよぉッ! ま、川田センパイは、競技の空手も武道の空手も、両方知ってるみたいだしぃ、ワタシもそこはわかってますからだいじでーす!」


   ざわざわざわざわ  ざわざわざわざわ  ざわざわざわざわ


 井上が立て続けに2ポイント奪い返した。大阪陣営も栃木陣営も、どよめいている。

 拳サポーターをぎゅっと数回握り、井上はうっすら笑いながら目に炎を灯らせた。


「おいぃ、井ノ原ぁ! なにしとんねん! とっとと片付けて終わらせーや!」

「相手、マグレや! どんどん突っ込んでくんの返したれや! しばいたれ!」

「(やかましぃわ! わかっとるわ! だが、こいつ、何か間合いが変わりよった・・・・・・)」

「続けて、始め!」


   ダダダダァッ!  タタタン タタタン タタタン タタタン タタタタタン


「おうるあぁぁーっ!」


   ドガアアアーッ!   ・・・・・・ザザザァッ


「(いってぇ! このやろう、前蹴りで俺を入れさせない気かよ! なめんな!)」


 相手は、ステップを踏んで近づく井上に対し、前足での重い前蹴りで突き放す。

 しかし井上は、それでも迷わずに思い切り突っ込んでいく。


   ダダダダァッ! ダダダダダダダダァッ


「(なんやねんワレェ! 邪魔なんや! すっこんどれや!)」


   ドガアアアーッ・・・・・・  ガシイッ


「(!)」

「つおおおおおおおぁぁぁっ!」


   グルウウンッ!  シュバアッ!  バチイイィィンッ!

   ワアアアアアアアアッ  ワアアアアアアアアッ


「止め! 青、中段突き、技有り!」


 相手が放つ強力な蹴りも、井上はしっかりと前腕で受け止めていた。そして、そのまま小手先をぐるんと回し、相手の足ごと回転させ、井上は回転させた相手の背面へ切れ味鋭い突きを決めた。


「い、井上の今の技・・・・・・。あれは糸恩流のバッサイ大に出てくる『振り捨て』だよ!」


 森畑が喜びながら観客席で驚いている。井上が使った、相手の蹴り足を前腕に乗せて横に捨てるようにくるんと回転させた技。なんと、形の動きを応用したものだったらしい。

 背面に突きを決めたことで、技有りを奪った井上。これで5対4。だんだんと井上が追いついてきた。


「あ・・・・・・変わったトンボ・・・・・・」


 観客席に、窓からすいーっと入ってきた一匹の黒っぽいトンボ。

 それは大南の指先にふわっと留まり、ひらりひらりと揺らめく部旗のほうへと飛び去っていった

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