2-36、二回戦の強豪、出揃う
がやがやがや・・・・・・ わいわいわいわい がやがやがやがや
「・・・・・・何か・・・・・・賑やかになってきたぞ?」
栃木陣営に、賑やかな声がいくつも近づいてきた。二斗や畝松、そのほか日新学院のメンバーが階段通路側へ目を向けると、そこには扇子やうちわを片手にした集団が。
「あら! 一回戦おわっちゃったみたいですよ! どーなったんでしょうか?」
「あららら、来るの遅かったか! もーちっと早く着けば良かったなぁ」
「仕方ないですよ。会場までの道が混み合っていたんですから。あの時間を、バスが速度を上げて迂回したとしても、距離と速度の関係は・・・・・・」
「ちょうど終わっちゃったところですね。あ、でも、見た感じ、柏沼高校は二回戦進出みたいですよぉ! 次はどこと当たるのかしら?」
「まぁ、だーいじでしょぉ。うちのやつら、こういう本番に強いんですよ。きっとだいじですよ。ま、二回戦も、ちゃちゃっと勝ってくれるんじゃないですかねぇ」
がやがやがや がやがやがや・・・・・・
「お、お父さん! それに、みんなの家も揃って!」
「おー、まなみ! やっとみなさんで着けたよ。遠いな、沖縄! 個人戦は明日なんだって?」
「今日は団体組手の三回戦までだよ。明日は、個人戦の三回戦までと、団体組手の準決勝まで。最終日が決勝戦までと閉会式、だね」
「で、みなさん、柏沼の団体は、どした?」
「一回戦、みーんな余裕綽々で勝ったよ! 二回戦は、大阪のなにわ樫原。強豪だね!」
「みんな、お疲れ。応援に来たよ! いやぁ、インターハイの場、懐かしいね!」
「「「「「 ふ、福田先輩ーっ! 」」」」」
「これ、差し入れたくさん持ってきたよ。新商品の、『レモンマーマレードのミニコロネ』だよ。小さいから、お手軽に食べられると思って。他の学校のみんなも、どうぞ!」
「「「「「 ありがとうございます。いただきます! 」」」」」
栃木陣営に到着したのは、保護者応援団と、なんとOBの福田だった。みんな、それぞれの仕事をなんとか都合つけて、沖縄まで応援に駆けつけてくれたのだ。
「私も、じゃ、いただこう。あ! ・・・・・・これ、おいしい!」
「でしょ? 諸岡、アタシら、こんないい先輩がいるのよー。ふふっ、いーぃでしょぉ!」
「むむー。・・・・・・ずるい、柏沼高校! てか、いま、監督らが審判団としてここにいないから、私らもお相伴にあずかれるんだけどね。・・・・・・一年も二年も、せっかくだから頂こう」
「「「「「 はいっ! いただきます! 」」」」」
諸岡は、等星女子高の後輩達へ、福田が差し入れた三本松農園のパンを差し出す。
「諸岡。変わったね。・・・・・・等星も普通に私らと馴染めるんじゃん。もっとくだければ?」
「・・・・・・そんなことない。私らは変わりなき等星だ。・・・・・・でも、ま、こういうのって悪くない・・・・・・けど」
「正直に言えって! あー、後輩の前だから照れてんでしょ? アタシにはわかるぞ!」
「ふっざけんな川田! 私は等星の三年だ。そんなことないっ! 森畑、なんとかしてよこいつをー」
「ははっ! 真波の言うとおりだね。私もそう思うもんー」
「こっ、このー。川田も森畑もー・・・・・・!」
がし もぐもぐ ごくん
「・・・・・・うまい・・・・・・。・・・・・・オレは・・・・・・好みのパンだ。・・・・・・レモンがグッドだ・・・・・・」
「二斗先輩。食うの早すぎっすよー。まだ俺、半分しか食ってないのに」
「畝松・・・・・・。・・・・・・これ、俺はもっと食べたい・・・・・・」
「だめっすよ! 俺らの分なくなっちまうじゃないっすか」
「・・・・・・むむ」
「三本松農園ってとこ行って、買ってくりゃーいいんすよ! 部活ない日にでも」
「・・・・・・・・・・・・そうするか・・・・・・。うまかった・・・・・・」
「あー! 二斗が福田先輩のパンに感動して泣いてるー! おい二斗! アタシ、見たかんねー!」
「な・・・・・・っ! ・・・・・・泣いてなど、いない! ・・・・・・パンが、辛かった」
「なんでレモンマーマレードなのに辛いのよ。二斗ー。真波や私は、わかってるからねー」
「ぬぐ・・・・・・。・・・・・・ぬぐぐ・・・・・・」
なんだか栃木陣営は、みんな川田や森畑の「柏沼ペース」に巻き込まれてきた気がする。
日新学院や等星女子のメンバーも、監督が審判としてメインアリーナにいる時は、こんなにも空気が違うのだろうか。何だかんだで同じ年齢の高校生。普段の部の雰囲気が違うにせよ、こういう空気になればみんな馴染めるものなのかもしれない。だって高校生だもの。
たたたたたたっ ひた ひた ひた ひた
のしのし のしのし のしのし
「おーっす! こざさーっ! 栃木陣営はココだったのねぇーッ?」
「みすずーっ! わざわざコッチ来てくれたのね! 沖縄陣営はどこー?」
「あーっちさぁ! ココまで、ぐるーっと回ってきたんだからぁ。あ! 今日ね、矢木さんも応援来てくれたんだよぉーッ!」
「・・・・・・こんにちは。なかなかいい試合したね。・・・・・・柏沼高校、みんな、いい組手だった・・・・・・」
「ありがとうございまぁす矢木さん! 男子が戻ってきたら、アタシから矢木さんが誉めてくれてたって伝えときますね!」
「そうですか・・・・・・。・・・・・・よろしく頼みますよ・・・・・・」
保護者応援団や福田のあと、別方向から現れたのは美鈴と矢木だった。
矢木は大学空手部の稽古が今日はオフとのことで、沖縄勢の応援に来たとのこと。
「「「「「 え!!!! が、学生世界王者の、矢木秀人選手!? 」」」」」
「に、二斗先輩! な、なんで矢木選手が柏沼を? 本物っすよね?」
「あ、ああ・・・・・・間違いない! ・・・・・・学生世界王者、矢木秀人選手・・・・・・だ!」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
「「「「「 (栃木のとこにいるの、矢木選手だ! すげぇ! 本物だ!) 」」」」」
「「「「「 (強そうだなぁ! おい、サインもらおうぜ! 記念にさ!) 」」」」」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
「川田! 森畑! ・・・・・・なんであんたらが、矢木選手とそんな親しそうなのよ!」
「し、信じられない! びっくりしたなぁ! うっそだろうー。どうして柏沼と・・・・・・」
「ふふっ、教えなーい。企業秘密だよ。あ、矢木さん、こちらは同じ栃木県のメンバー。等星女子と日新学院と県立鶉山高校ですよー」
日新学院や等星女子のメンバー、それと、堀庭もびっくり。そして周囲の他県陣営にも、矢木は注目の的になっていた。
川田に突然紹介された二斗、諸岡、堀庭は一気に立ち上がって背筋を伸ばし、矢木に向かって緊張した様子であいさつをした。
「と、栃木県は等星女子高三年! 諸岡里央です! は、初めまして!」
「にっ・・・・・・にに、日新学院高校主将・・・・・・二斗龍矢です・・・・・・。よ、よろしくお願いします!」
「県立鶉山高校主将! さ、三年の、堀庭誠です。は、初めまして!」
「あははっ! みなさん、カチコチですねぇッ! 矢木にーちゃん、優しいからだいじですよぉッ! くすっ。みなさん、固まりすぎよぉーっ。あっはははは! おっかしいッ!」
「や、矢木にーちゃん? おい末永小笹! なんでおめぇ、そんな・・・・・・」
笑い転げる小笹に、顔を引きつらせながら畝松が慌てて駆け寄っていった。
矢木は、二斗、諸岡、堀庭のそれぞれにがっしりと握手をし、一言「頑張ってね」と激励。
三人とも、あまりの突然なことに、どうしていいかわからない様子。戸惑いながらもその顔はみな、嬉しそうだったが。
そうこうしているうちに、どのコートも一回戦が終わった。二回戦の対戦校が出揃い、この先はさらに熾烈なトーナメントになってゆく。
ワアアアアアアアアア! ワアアアアアアアーッ!
Aコートは、瀬田谷学堂と北三陸学園。東北商大と学法福之島。瀬戸内学園御港とおかやま白陽。そして、なにわ樫原と柏沼高校が激突する。
Bコートは、今針明徳と松大学園。鹿児島承西は二回戦シード。新宮吉野原と首里琉球学院。九戸北斗星と御殿城西。
Cコートは、山梨航空学舎と京経大朱雀。秋田秀徳と鳥取黄北。県立後橋工業と東嶺大馬久。長州縞城と山之手学院。
Dコートは、帝東と石川陽稜。鎮西学院佐賀北星と拓洋大青陵。宮崎第二学園と花咲東栄。県立糸洲安城と福岡天満学園だ。
そして、女子側のEコートは、花蝶薫風女子と平城紅葉学園。市立富山湾と樫葉日体。県立合津女子と東嶺大馬久。春名商大附属と日国大山形。
Fコートは、宮崎第二学園と瀬戸内学院。吉野白浜学院と陸奥海陽女子。東北商大と山梨航空学舎。首里琉球学院と西大阪愛栄。
Gコートは、御殿城西と三波光。学法ラベンダー園と凪川学院。橘平安風和とおかやま白陽。埼玉境と白波女学園。
Hコートでは、福岡天満学園と帝東。県立糸洲安城と県立若狭南部。琵琶水上と長崎光華。そして、中京学園名護屋と等星女子。
一回戦で篩いにかけられ、さらに強さの密度が濃くなった二回戦。
こうして、まるで鍋で煮詰まる醤油のように、どんどんレベルは濃くて濃厚で辛く激しいものになってゆくのだろう。
どんな戦いが、二回戦は繰り広げられるのだろうか。柏沼高校、等星女子、栃木代表チームはこの熾烈なトーナメントの中、どこまで勝ち上がれるか。