2-35、道太郎の大進化!
ぎゅっ ぎゅっ だぁん だぁん
神長は、コートのマットを左右の足で踏みしめ、軽くジャンプして身体の力を抜いて揺さぶった。
首も回し、腕もぐるぐる回し、調子は万全のようだ。
「だははっ! じゃ、最後いってくる!」
「「「「 ファイトォォォォーーーーッ! 」」」」
そう言って、神長は力強く床を踏みしめてコートへ入っていった。
「(まさか、こげな結果になろうとは思わんかったと・・・・・・。最後まで、やるだけたい!)」
「(球磨之原高校の大将も、俺よりかなりでかいな。スピードは侮れない学校だから、集中だな! 様子見はいらない。一気に畳みかけるとするか)」
大将戦が間もなく始まる。Aコートに集っている学校の選手達も、この試合を注視している。
瀬田谷学堂、東北商大、おかやま白陽、なにわ樫原。強豪の主将たちが、見つめている。
「勝負! 始め!」
「おああああああっ!」
ダダダァッ! ドオオンッ! ズバアアンッ!
「止め! 青、中段突き、有効!」
「「「「「 神長先輩、ナイス中段でーすっ! 」」」」」
開始早々の速攻。神長はまるで床を滑るかのような低い踏み込みで、鮮やかに右の中段逆突きを決めた。相手はまったく反応しきれていない感じだった。
「(は、速か! 何ねこの踏み込みの速さは!? こんなレベルの学校だったとは、俺ら、想定しちょらんかったとよ!)」
「(相手・・・・・・今の攻撃で、気持ちが退いたな! よし! いくぜ、俺も新技を!)」
「続けて、始め!」
「おおおああああああっ!」
ダァン! ズドドドドドドドドドドドドドォッ
「(な、なんっちゅう連撃たい! 退がって防ぐので手一杯とね!)」
神長は重戦車のような連突きで、思いっきり身体ごと相手にぶつかっていった。
相手は、この神長の猛突進を防御するだけで精一杯のようだ。
「(退いてる! ・・・・・・ここだぁ!)」
ズドドドドドドドドドォッ スパアンッ! ガクンッ・・・・・・
「(ぬおっ・・・・・・!)」
「おああああああっ!」
シュッ パパアアアアンッ!
「止め! 青、上段突き、技有り!」
相手が退がっていくところを、神長は相手の前足を手前に引っかけるようにして、膝を床に着かせるように崩した。そこへ、左右のワンツーを綺麗に決める。
相手は床に膝を着いているため、この突きは2ポイントの技有りとなった。
「(う、上ばかり見とったら、下を刈られた! ・・・・・・くそっ!)」
「(出来はまずまずだなぁ。もうすこし、バリエーション増やすか・・・・・・)」
「続けて、始め!」
「でええいりゃあああーーーーっ!」
ドスウンッ ドスウンッ ドオンッ! バシュッ!
「(よっ・・・・・・と!)」
パァン! グルウンッ パシイン グイッ ドォッシーーーンッ!
「どああああっ!」
ズバアアアンッ!
「止め! 青、中段突き、一本!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアー ワアアアアアアアアアアアアアアアー
技の切れ目が無い流麗な動作で相手の上段刻み突きを横へ受け流し、さらに後ろ回し蹴りのような回転で相手の前足を一気に引っかけて、自分の真下に引き倒した神長。
そこへ、重く鋭い突きを、転がった相手の脇腹へ決めた。まるでアクション映画のような、後ろ回し足払いとでも言ったところか。神長は以前よりも着実に、足払いなどの崩し技が上手くなっている。
「いいぞぉ道太郎ーっ! アタシですら惚れ惚れする鮮やかさだ! 綺麗な技だねっ!」
「・・・・・・・・・・・・強くなっている。・・・・・・神長道太郎も・・・・・・。すごいな」
「神長先輩、すっげぇ足払いだ! みつるー! あんなの見たことないよね?」
「後ろ回し蹴りの応用、なのかな? 俺も、思い付きもしなかったよ敬太。先輩、すげぇや!」
「神長って、俺とインターハイ予選当たったときは、あんな組手じゃなかったぞ。柏沼高校、本当に、どんな秘密特訓してインターハイ臨んでんだよ? すげーなぁ!」
二斗や堀庭も驚く、進化した神長の組手。しかし神長は、まだ技の出来に納得してないような表情だ。何度も首を傾げて、足先や腕の動きをその場で確認している。
「(うーん。なんかまだ、ちがうなぁー。・・・・・・もっと、イメージでは・・・・・・)」
「(う、後ろ回しの足払い! こいつ、ど、どぎゃんしてこんな組手の技を・・・・・・)」
「続けて、始め!」
「で、でああああありゃぁぁぁ!」
ドススッ ドススッ ドンドンドンドンドォンドォン!
パァン パパァン パシン パパァン
「(うーむ。もう一度試してもいいが・・・・・・まだ、やってない新技があるんだよなー)」
神長は余裕の表情で相手と向かい合う。
なにか考え事をしている感じだが、考えながらも、パワーの乗った相手の連突きを軽く受け捌いている。その目は、何かを常に狙っている感じだ。
「であああああありゃっ!」
ドスウンッ ズバババッ
「(おっ! よっしゃ!)」
パンッ! フワアッ ドッシーーーーンッ!
「(・・・・・・え?)」
相手は、体重をものすごく乗せた上段回し蹴りを放とうとした。しかしその軸足を神長は軽く真横に払い、相手は一瞬宙に浮いた後、ものすごい勢いで床に落ちて転がった。
神長は相手を仁王立ちで見下ろしているが、ここではなにも仕掛けない。逆にそれは、相手にとってはかなり精神的な威圧感となっていた。
「止め! 元の位置!」
「(はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。こ、こいつ、なして何も仕掛けてこんとね?)」
「続けて、始め!」
「でぇぇあありゃああーっ!」
シュッ ドドオオンッ! バシュンッ!
パチインッ スウウッ ドスン
相手の速攻による中段回し蹴りを、神長は余裕で打ち払う。
すると、歩み寄るように間合いを詰め、相手にゼロ距離となるまでにくっついた。
「(この距離を、待ってたぜ!)」
フワアッ・・・・・・ シャシャアアッ グリュッ パシャアアアンッ!
「止め! 青、上段蹴り、一本! 青の、勝ち!」
「(ど、どぎゃん角度から蹴ったとこいつ! み、見えんかったとたい・・・・・・)」
「な、何だ今の神長君の蹴りは! 初めて見る軌道の蹴りだったよ?」
「道太郎、いつの間にあんな派手な隠し技を! 俺も知らなかったぞ!」
「ま、みんなそれぞれ、独自に研究と特訓を重ねた成果が出てんじゃないかねぇー?」
大将戦も、終わってみればあっという間に9対0。
神長は相手に密着したところから膝を高く抱え上げ、膝先から足の甲までをくるっと回転させ、下から跳ね上げるように蹴った。
まるで、S字カーブを描く鳳凰や朱雀の尾羽のような軌道だ。蹴りのフォームも、普通の回し蹴りや裏回し蹴りとは違った、独特なものだった。
「ふぅ。今のは、うまくいった! 名付けて『朱雀蹴り』だなっ!」
メンホーをとった神長は、やっと気持ちの良い笑顔を見せた。
最後の朱雀蹴りという新技がうまくいったことで、なにか、手応えを掴んだらしい。
「5対0。青、県立柏沼高校の、勝ち!」
「「「「「 ありがとうございましたぁぁーーーーーーーっ! 」」」」」
これで、先鋒戦から大将戦まで見事な勝利を遂げた柏沼高校は、晴れて二回戦へと駒を進めることとなった。しかし、インターハイの難関は、まだまだこれからだ。
「「「「「 (栃木の柏沼高校が、球磨之原に完勝した! 面白い組手のやつらだな) 」」」」」
「「「「「 (あんな学校、知らへんがな! 次、なにわ樫原とやろ? 無理やろ!) 」」」」」
「「「「「 (柏沼高校か。日新学院、あれに予選で負けたんだべ? 強いじゃん!) 」」」」」
ざわざわざわざわ ざわざわざわざわ ざわざわざわざわ
がやがやがや・・・・・・ がやがやがや がやがやがや・・・・・・
一回戦を派手に勝ったためか、周囲からも注目の的になった柏沼高校。
球磨之原高校と一礼をしたその奥では、なにわ樫原高校の猪渕が目を光らせて腕組みをし、にやりと笑っていた。
「(なかなかやるやないか。だが、俺ら樫原の相手やないわ。二回戦、覚悟しときぃや!)」
「(なにわ樫原かぁ。楽じゃない強豪ばかりだねぇ。でも、俺らもこっから本気だぞぉ!)」
前原や井上らが球磨之原と一礼していた時、田村は、静かに猪渕と眼力の火花を散らしていた。
この先の二回戦は、確実に激戦必至の強豪校との戦いとなるだろう。