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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第3章 開幕   美ら海沖縄総体!  激闘! 熱闘! インターハイ!
32/106

2-32、インターハイでの戦い、開始!

 Aコート、男子団体組手一回戦、第六試合。

 このコートの一回戦ラストは、いよいよ柏沼高校の番だ。まずはこの初戦突破をしなければ、話にならない。

 コートの係員が、赤青共に学校名のプレートを入れ替えた。大歓声に包まれる中、メンバー五人の心拍数が少しずつ上がっていく。


   ~~~ Aコート第六試合を行います。選手は整列して下さい! ~~~


 そして、両校の選手がコート横に並び立つと、オーダー順が先鋒から大将まで公開された。


 『赤 熊本県 県立球磨之原    青 栃木県 県立柏沼』

 先鋒    鍋島 勧    ー     中村陽二

 次鋒    園田隼平    ー     井上泰貴

 中堅    押入 哲    ー     田村尚久

 副将    野口春喜    ー     前原悠樹

 大将    戸倉川 渉   ー     神長道太郎


「い、いよいよか。あー、悠樹、いよいよだぜ! 早く戦おうぜ! でも、緊張はするなぁ」

「そ、そうだね。なんか、周りの空気が凄すぎて、地に足が着いていないような変な感じだよ」

「・・・・・・まぁ、普通にやるしかない。相手校もきっと、同じ気分のはずだろう。うむ、問題ないはずだ」

「尚ちゃん、相手のチーム、みんなデカいな・・・・・・。縦にも横にも!」

「ま、各県のトップレベルだかんねぇ。気を引き締めていこうやぁ」

「みんなー、先鋒戦大事だよー。中村君、先鋒はまず、どんどんいこう。いくよいくよー」


 監督席には、腕章をつけた新井が座る。周囲の大歓声で、係員や主審の声が聞こえないほどだ。


「よぉし、みんなぁ、まずは一回戦突破! いくぞおぁーーーーっ!」

「「「「「 柏沼ファイトォーッ! オォォーーーーッ! 」」」」」


 五人は円陣を組んで、大声でお互いに気合いを入れた。

 相手校もまた、同じように円陣を組んで気合いを入れる。既に、ここから戦いは始まっているのだ。

 呼び出し係が立ち上がり、先鋒の名前を両校共に呼ぶ。

 まずは、先鋒の中村が出陣だ。相手の先鋒である鍋島は、個人組手にも出場している。おそらくは、熊本県のトップ選手なのだろう。


「中村ぁ、まずは一勝だ。がんばれよぉ! ファイトだ! リラックスしていこうかねぇー!」

「中村君、僕たちのインターハイの初戦だ。思いっきりいこう!」

「陽ちゃん、たのむぜ! これを勝てば次はもっと強敵だ。ならし運転ナシで、な!」

「陽二! 次鋒は俺だ! 安心して戦え! たのんだぜっ!」


 みんなで中村を囲んで、激励。コートを挟んで、視線をぶつけて相手と火花を散らす。

 向こうも同じように、鋭い眼光で柏沼メンバーを見ている。


「・・・・・・でかい奴らだ。全員、九十キロはあるな。当たり負けしないようにしなくては。田村、眼鏡を頼む。・・・・・・上等だ! おれは体格で威圧なんかされないぜ」


 そう言って、中村は田村に眼鏡を渡し、メンホーをつけた。

 青の拳サポーターをぐいっと着けてバンドをきゅっと締め、中村は太腿や腰元をバンバン叩いて臨戦態勢を整えた。


   ~~~選手!~~~


「「「「 ファイトォォォーーーーーーっ! 」」」」

「がんばれぇーっ、中村ぁーっ! アタシ達の声、届けぇーっ!」

「中村ファイトだよーっ! 大事な先鋒戦、がんばれーっ!」

「「「「「 中村せんぱーーーーーーーーいっ! 」」」」」


 観客席から柏沼高校の女子メンバーや後輩男子の声が飛んできた。数多の大歓声でも、その声はコートにいる五人にはわかる。心から湧き出るパワーになるのだ。


「「「「「 栃木ぃーーーーっ! ファイトォォォ! ファイ! ファイ! ファイ! 」」」」」

「カッコイイ中村センパァァイ! 蹴散らせぇーーーーっ! ファイトだよぉーッ!」

「柏沼がんばれーっ! 大事な初戦だ! 全力でーっ!」

「「「「「 栃木県ファイトでーーすっ! 勝てます! いけます! ファイトです! 」」」」」


 そして柏沼高校メンバーだけでなく、日新学院メンバーや小笹、堀庭、等星女子高の面々からも大きな声援が飛んできた。栃木県選手団として、各校が一丸となって応援してくれるのは嬉しい。

 中村は、それらの声を受けて一歩一歩を踏みしめるようにコートの開始線へ向かう。

 相手の鍋島も、重量感のある足取りで堂々と開始線に立った。


「(む! な、なんだ、この感じ。・・・・・・あれ? どうした、おれ・・・・・・)」

「(ふん。こぎゃん奴らに負けるわけなか! どぎゃんしてやろうかね)」

「勝負! 始めっ!」


 主審は、大きな声で、先鋒戦の開始を告げた。


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアア


「しぇえええええあああああっ!」


   ズダダァッ!  ドンッ!   ドゴアアアアッ!


「(・・・・・・ぐあっ!)」

「止め! 赤、中段蹴り、技有り!」

「「「「「 ナイス中段たい! ナイス中段! 鍋島ぁっ! 」」」」」

「「「「「 鍋島先輩! ナイス中段! ナイス技有り! 」」」」」

「(な、なんだ? ・・・・・・身体が、変だ。反応が、遅れる・・・・・・)」

「な、中村君! 集中だよ! まだまだ始まったばかり! 焦らないで!」


 なんと、開始早々に中村は相手に強烈な中段前蹴りをもらってしまった。

 中村らしくない。いつもなら、紙一重で華麗に躱して返し技を入れるタイミングなのだが。


「続けて、始め!」

「しぇえええええあああああっ!」


   グウッ  ドドンッ!  ドガアン! ドパンドパァン! バッシイイッ!


「(・・・・・・くっ・・・・・・)」

「止め! 赤、上段突き、有効!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ウオオオオオオオオオオオ


「お、おい! どうしたんだ陽二! 反応しろ! 動きが鈍すぎるぞ!」

「陽ちゃん、どしたぁ! らしくないぞ! リラックスリラックス!」


 中村は、またも相手に易々と上段突きを決められてしまった。

 神長が言うように、本当に中村らしくない立ち上がりだ。


「続けて、始め!」

「(な、なんなんだこの感覚は? ・・・・・・おれ、何をしているんだ・・・・・・)」

「しぇいりやあああああああ! そおおいやああああ!」


   ズッドドドドドド  ドン! ドン! ドンッ!  ドガアッ


「(・・・・・・ぐうっ! ・・・・・・ま、まずい!)」


 中村は、防戦一方。

 相手の鍋島は、ずんぐりとしており背もそこそこ高い。しかし、その動きは素速くパワーもあり、一発一発の技は回転力があってスピード感もなかなかの相手だ。

 中村を相手にしながら、カウンターも気にすることなく連射砲のような突きをどんどん身体ごとぶつけてくる。


「ど、どうしたのさ中村ーっ! いつものカウンターはぁ! おーい、ファイトだよぉ!」

「動きがおかしいね。堅すぎと言うか、なんというか。どうしたんだー、中村!?」


 川田と森畑も、初戦の先鋒戦がこんな立ち上がりになるとは思わなかったのか、とても心配そうだ。


「・・・・・・・・・・・・おい、川田・・・・・・」

「なによ二斗! いま、アタシ、忙しいんだけど!」

「・・・・・・中村は・・・・・・・・・・・・呑まれてるな・・・・・・」

「は? 中村が? なんでよ。あんな程度の相手には慣れてるはずだよ?」

「相手にじゃない」

「じゃ、何によ!」

「・・・・・・会場の雰囲気に、だ・・・・・・。インターハイ特有のな・・・・・・」

「「「「「 ええ? 雰囲気に? 」」」」」

「ちょっと、二斗! どういうこと?」

「・・・・・・お前や森畑は、会派の全国大会で、こういう場は慣れているだろうが・・・・・・。あの中村は、どうなんだ? ・・・・・・・・・・・・大舞台の経験値は・・・・・・」

「そういえば、確かに、私や真波は全国慣れしてるけど。中村とかは、会派の全国出たとか聞いたことないよね?」

「なに? じゃ、ここに来て中村は雰囲気全体に呑まれて固まっているっていうの?」

「ああ。・・・・・・まずい。・・・・・・先鋒戦でこの立ち上がりは・・・・・・・・・・・・」


 二斗の見立てでは、中村はなんと雰囲気全体に呑まれ、身体が思うように動いていないのだという。

 これが、インターハイの「魔物」というやつなのだろうか。


「(相手がやたらデカく見えやがる。・・・・・・どうなってんだ・・・・・・どうする。何をすればいいんだ、こいつに・・・・・・)」

「中村君ファイトだよぉ! 相手の攻撃、見える! だいじだよ! 落ち着いてーっ!」

「うーん、まずいねまずいねー。中村君、冷静だけど、かたいねー」

「・・・・・・陽二ぃ、がんばれぇ! まだ初戦だ! こっからだ、こっからーっ!」

「(く、くそっ!)」


   フワアッ  ヒュンッ!   パシイッ ドオオンッ!


「(・・・・・・ぐあっ)」

「止め! 赤、中段突き、有効!」

「「「「「 ああああーーーーっ・・・・・・ 」」」」」


 中村は迷ったように、間合いの噛み合っていないところから上段の逆突きを繰り出したが、あっけなく相手はそれを片手で払い、ガラ空きになった中村の中段へ重い一撃を放った。

 これで、点差は4対0に。


「(何ね! 瀬田谷学堂に喧嘩売ったやなかと、柏沼高校? こぎゃん程度かい!)」

「(・・・・・・はぁ・・・・・・ふぅ。・・・・・・き、効いちまった。中段!)」

「おーい、中村ぁ! 今夜の夕飯はなにがいいー? 美味い夕飯が待ってるぞぉ。何を食べようかねぇー」

「ちょ、ちょっと田村君! こんな時になにを・・・・・・」

「まぁ、見てろって。中村が、今の俺の声、聞こえてるはずだからさぁ」

「(た、田村! 何言ってんだこんな時に。あの民宿の夕飯は確かにうまいが。・・・・・・ん? そ、そうだ。民宿! 地稽古! 鍛錬! 矢木さん! 砂浜ッ!)」


 中村は、田村の方を振り向きながら、何かを悟ったようだ。

 メンホーの奥にある表情がだんだんと何か閃いたようになってゆく。さっきまで迷っていたような雰囲気が、蒸発する水のように薄れてゆく。


「思い出したかねぇ? だーいじだって。俺ら、いろいろやってきたんだしさぁ」


 そう言って、田村は頬杖をつきながら、にこっと中村へ手を数回振った。それを見て、中村はまた相手と向き合い、ふっと息を短く吹いて、両拳を握り直した。


「(ん? 何ね? そぎゃん目付きは!)」

「続けて、始め!」

「しぇいりやあああああああ! しぇいりやあああっ!」


   ダダダダァッ  バシュンッ バババババッ!


「そああああーぃっ!」


   パァン パパァン  ズパアアアァンッ!


「(・・・・・・ぐっ!)」

「止め! 青、上段突き、有効!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアア


「いいぞぉ! ナイス上段だ中村君!」

「な、なにが起きたんだ陽二のやつ。・・・・・・いきなり、動きが軽くなった」

「だから言ったろぉ? だーいじだって。ちょっとエンストしてただけだなぁ、中村は」


 相手のパワフルな突進を、掌と手首を柔らかく使って弾き、同時に中村はキレのある上段突きを返した。だんだんと、いつもの中村らしい動きになってきた。


「おい、鍋島! 気にするこつなか! 変わらんと、行くったい!」

「「「「「 中村先輩ファイトーーーーーッ! 」」」」」

「「「「「 鍋島せんぱぁーーーーーーーーーいっ! 」」」」」


 飛び交う熊本と栃木の声援合戦。中村は、目と動きに輝きが戻り、相手と向き合っている。


「続けて、始め!」

「さああああーっ!」


   キュッ  シュタタッ シュタン  シュバアッ! パパパァン!


「(・・・・・・うおっ・・・・・・)」

「止め! 青、上段突き、有効!」

「「「「「 ナーイス上段でーす! 中村先輩ファイトーーーーーッ! 」」」」」


 力みのない、リラックスしたステップから、一気に間合いを詰めて高速のワンツースリーで中村は上段突きを入れた。

 頭の高さが変わらず、滑らかな移動で相手との間合いを一気に詰めたことで、相手にとっては反応しづらい動きになったのだ。


「くすっ。やっと中村センパイ、エンジンかかったのねぇー。もう、心配ないね。あははっ!」

「これで、2ポイント連続で中村先輩が取り返した。試合の流れを一気に変えるかもね!」


 小笹と阿部が、観客席で喜びながら観戦。大南や内山も、「がんばれ先鋒! がんばれ柏沼!」と繰り返している。


「(ふうっ。やっと感覚がいつも通りになった。ありがとうな田村。リラックスできたぜ)」

「続けて、始め!」

「しぇえええあああああーっ! しゃあああぁっ!」


   ギュンッ  ダダダダァッ  ズドオオッ! ズバアンッ!


「そああああああーっ!」


   ガッシィン  ドガッ  ググッググッ・・・・・・ ググーッ


 相手の攻撃を真っ向から受け止め、中村は身体を正面から密着させた。相手はパワーで押し切ろうとぐいぐいと押してくる。


「(どげんしたとね? 力じゃ、俺の方が上たい!)」

「(そうだ。力任せの空手には、あの技法も試そう。こんなことも・・・・・・できるのさ!)」


   ぐるんっ  ふわあああっ  かっ  どったああああんっ!


「(!)」

「そあああーっ!」


   バシイインッ!


「止め! 青、中段突き、一本!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ


「すごいすごい! 中村先輩、一本だ!」

「きょうこ! 今の技、あれって・・・・・・小笹ちゃんの! だよな、みつる?」

「くすっ。あははっ! さすがインテリ中村センパイだぁ。ワタシの持つ和合流(わごうりゅう)の技法、うまーくアレンジしたねぇーッ!」


 中村は密着した状態から、あえて力を抜いて相手の押し込むパワーを利用。

 くるっと体勢を入れ替えるようにして、足をつっかえ棒のように出し、無駄な力を使わずに相手を床に転がした。そこへ、素速い中段突きを叩き込んで一本技を決めた。

 これで点差は、5対4で中村が逆転。


「・・・・・・なんだ!? ・・・・・・いまの中村の技は・・・・・・。・・・・・・不思議な動きだ!」

「教えないよ二斗には! あれは、アタシらが小笹から教わった、企業秘密の技法なの!」

「くすっ。日新学院や等星女子のみなさんはぁ、独自で覚えてくださーいっ! あははっ!」


 仁王像のような顔の目を見開き、二斗が驚く。川田と小笹は、瞳を輝かせて笑っている。


「(な、何ね今の? 俺は、何されたとね! わけがわからんばい!)」

「(さて、と。まだ、試させてもらおうじゃないか。まだ付き合ってくれよな!)」

「続けて、始め!」

「くうっ! しぇえええあああああーっ!」


   ダダンッ!  バシュンッ   ・・・・・・ガッ!   


「(! ・・・・・・こいつ、腕を? なに、考えとると?)」


   グウンッ!   ズウン


「(! なっ・・・・・・腕が、重くて、崩される! な、何ねこれはぁ!)」

「そああああーぃっ!」


   ヒュラアンッ  パッカァァンッ!

   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアア


「止め! 青、上段蹴り、一本!」

「うおおおっ! 陽ちゃん、相手の突きに乗って崩した! しかも、いい蹴りだなぁ!」

「末永が教えてくれた、和合流の技法をアレンジして試したなぁ? やるなぁー。さすが中村」


   ~~~ ピー ピピーッ ~~~


「止め! 8対4。青の、勝ち!」

「「「「「 やったぁぁぁぁぁ! ナイスです中村先輩ー 」」」」」


 中村は、相手の重い中段逆突きが伸びきる前に小手先を相手の腕に乗せ、そのまま真下に重心をかけて崩し落とした。そして後ろに一歩下がる際に、ゆるやかに上段回し蹴りを放ち、これが見事に一本技となったのだった。


「ふっ・・・・・・。立ち上がりこそ堅くなって苦労したが、ま、いい試し技ができたぜ」


 そう言って、中村はメンホーをはずし、相手に一礼して戻ってきた。

 最後は華麗な技の連携で決めているあたり、やはりそれは、中村の組手だった。

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