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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第3章 開幕   美ら海沖縄総体!  激闘! 熱闘! インターハイ!
27/106

2-27、開幕! 全国高等学校総合体育大会 空手道競技!!

   ドォン バン バン バババン   ドォン バン バン バババン

   ひらひらひら・・・・・・   ひらひらひらり・・・・・・


 インターハイ会場である体育館は、号砲の花火が何発も打ち上げられ、駐車場も大量の車輌でいっぱい。

 その体育館の外には、全国から集まった様々な学校の拳士達の姿が数多くあちこちに見える。

 「空手道競技会」と記された大きなスカイブルーののぼり旗がひらひらとはためき、アーチ状の風船のような入口にも「全国高等学校総合体育大会空手道競技会」の文字が並ぶ。

 カラフルな天幕のテントがいくつもあり、インターハイのTシャツやスポーツタオルなどのグッズ販売コーナーや大会記念写真をの販売コーナーなどもある。

 あちこちに設置されたスピーカーからは、なにか、沖縄特有の民謡風な音楽が流れている。


   がやがや どよどよ がやがやがやがや ざわざわざわ がやがや

   がやがや どよどよ ざわざわざわ がやがや わいわいわいわいわい


   ~~~会場内は全面禁煙となります。禁煙のご協力を・・・・・・~~~

   ~~~各都道府県代表選手のお席は、観覧席に掲示してございます・・・・・・~~~

   ~~~公式練習場の案内を申し上げます。公式練習場はサブアリーナで・・・・・・~~~


   セァーイッ! セァーイッ! セァーイッ! トウェリャーッ!

   シャアーーースッ! ウオリャ! セイリャァァァ! アアーーイッ!


   ~~~・・・・・・それ、センパイのちゃうん? ウチらのあっちやでー?~~~

   ~~~・・・・・・のぉー、はよしねぇや! センパイや監督待たせとんのよぉー~~~

   ~~~ピピーッ! こっち満車ですぅー。あっちのCブロック駐車場へ停めてー~~~

   ~~~おーい一年! はやくコレ運べし! とっととしろしーっ!~~~

   ~~~あぁー、これはこれはご無沙汰を。先生はお元気ですか? うちは・・・・・・~~~


 人の多さと、車の多さと、飛び交う声の多さ。

 なにもかもが、県内レベルの大会とは比べものにならない。

 誰が選手で誰が補欠で誰がマネージャー役なのかすらも、行き交う人を見たところで、分からないくらいだ。


「うーっ、燃えてきたぁ! これよこれ! この空気! この雰囲気! 全国に来た感じは、コレだぁぁぁ! アタシの血が、勝手に沸騰しそうだよ今!」

「楽しみだなぁーっ! 私も真波と同じ! 夏はやはり全国大会の時季だよねーっ」


 二人で拳を掲げてはしゃぐ川田と森畑。その後ろでは、阿部が大南や内山と体育館の入口を見上げて固まっている。下見に来た時は無かった、大会名が記された大きな看板だ。


   [ 全国高等学校総合体育大会 空手道競技会  全国高等学校空手道選手権大会 ]


「・・・・・・すごいなぁ。本当にわたしたち、先輩とインターハイに来てる。ねぇ、うちやま?」

「ほんとだねぇ、さよ。・・・・・・これが、全国大会なのかぁー。す、すごいなぁぁぁ」

「一年生。わたしたちは今回、試合は出ないけどきっといい勉強になるよ。この雰囲気を吸収して、もっと学んでいこう!」

「「 はいっ! 」」

「さ、ここにいてもしゃーないから、中にみんなでいくべ! 開会式おくれっちまうよぉ。さっそく、入ろうかねぇー」


 田村は、ニコニコ笑いながら、後輩達を率いて会場へと入ってゆく。


「じゃ、先生や先輩方はまた打ち合わせあるから、みんなで観客席の陣地行っててな。たぶん栃木県は群馬と茨城の間のところだから、分かると思うんだ」

「わかりました。先行ってますね」


 早川先生、新井、松島、そして末永は監督コーチ打ち合わせのため、大会議室へと向かった。

 田村たちは堀内と一緒に、二階観客席の北東あたりへ向かう。

 観客席は各都道府県用の陣地としてうまく仕切られており、全員きょろきょろしながら「栃木」というプラカードが置かれているところを探した。

 前原がそれを見つけ、開会式の準備に向け、全員で支度を調える。

 柏沼高校メンバーが陣取った栃木席の真上を見上げると、ちょうど偶然にも、柏沼高校の部旗が吊されている真下あたりだった。


「お疲れ! 柏沼高校メンバー、なんかだいぶ日焼けして逞しくないか?」

「おぉ、堀庭じゃんーっ! あれ? 鶉山は全員じゃなかったんだ?」


 その栃木陣地には既に、男子個人形に出場する県立鶉山けんりつうずらやま高校の堀庭ほりばまことが来ていた。


「聞いてくれよ田村ぁ。うちはさぁ、予算の関係だかで、個人形の俺とマネージャー役のもう一人しか来させてもらえなかったんだよ。団体なら別だったらしいがさぁ」


 堀庭の横には、茶帯で道着姿の子がもう一人。今回出場する堀庭の付き人として来た鶉山高校の二年生らしい。


「どこも大変なんだわねぇー。今回、まして、一番遠い沖縄だしねぇー。まぁ、こうしてちゃんと会場にも来られたんだ。同じ栃木県選手団としてがんばろうかねぇ、堀庭!」

「いいよなぁ柏沼は団体で来られて。でも、そんな人数でよく宿の予算あったなぁ!?」

「いーでしょぉ? アタシら、秘密の場所を拠点にしてるから、宿代めっちゃ安いのよぉー」

「川田。自慢すんなって。ま、なんだかわかんねーけど、うちは良い宿があってさぁ、一週間前から沖縄入りして、特訓してたんだよねぇー」

「い、一週間! すげぇな! だからみんな、けっこう焼けてんのかぁ。いいなぁーっ」


 そんな雑談をしていると、さらに栃木陣地に向かってくる足音が。


   のしのし・・・・・・  のしのし・・・・・・

   すたすたすたすた・・・・・・


「「「「「 あ! 」」」」」


 以前よりもさらに刈り込まれた坊主頭。相変わらずの太く逞しい腕と脚。そして、仁王像のような顔立ち。田村や前原たちにとって見慣れた人物が、目の前に現れたのだ。


「よぉー、二斗ぉ。だいぶ気合い入れてきたなぁ。インターハイ予選以来だぁ。久しぶり!」

「・・・・・・ふっ。・・・・・・無事に着けたようだな。・・・・・・・・・・・・安心した」

「柏沼高校も鶉山高校も、これで県立は揃ったな。俺たちはもう、アップ終わったぞ」

「畝松君。久しぶりだね。さすがだ、もうアップ終わってるなんてね」


 日新学院主将の二斗龍矢にとりゅうや、二年の畝松虎次郎うねまつとらじろうの先輩後輩コンビと、応援団や付き人として来た日新学院空手道部のメンバーが多数登場。


「日新はさすがに私立で金あるんだなぁ。さすが巨大マンモス校だ。選手だけじゃなく、来ているのはもう、いつもの人数じゃないかねぇー!?」

「・・・・・・日新は、いつも、こうだ。・・・・・・田村、お前のところも、全員来たんだな」

「あったりまえだー。俺らは、このメンバーがいてこその柏沼高校だからねぇー!」

「「 ふっ 」」


 日新学院と柏沼高校の主将同士、ふっと笑みを零し、拳を付き合わせてあいさつとなった。

 日新学院、柏沼、鶉山、海月女学院、ここまで揃ったとすれば、あとは・・・・・・。


「しっかし、観客席から見てみると改めて思うことあるなアタシ。こんなに超満員のように道着姿の選手で埋め尽くされているとさ、みんな毎日同じ時間全国各地で空手やってんだなぁ」

「あははっ! そぉーだねぇ川田センパイ。みんな、同じ空のもとで繋がってるんだしねぇ。ワタシらと同じ時間軸で、みーんな空手やって、ここに集まってるんですよぉー」


 胸の刺繍は違えど、同じ陣地で、同じ向きを向いて語り合う川田と小笹。

 ちなみに、小笹の左上腕部に刺繍された「栃木」の文字は、柏沼高校メンバーと同じ書体。いままで小笹の袖にその刺繍は入っていなかったが、全国出場のために、柏沼高校空手道部がお世話になっている武道具屋で入れてもらったらしい。末永が早川先生に頼んで、同じ書体でやってもらったとのこと。


   ざっ ざざっ ざっ  がやがやがやがや  ざわざわざわ


「ん? うらが、なんか賑やかだね?」

「だれか来たんですかねぇ? ・・・・・・って、ほぉーっ!」


 川田と小笹が誰かの足音に気付き、同時に振り向く。前原たちも振り向く。

 そこには、以前よりもさらに凜とした雰囲気を纏って集う、あの学校が・・・・・・。


「久しぶりだね、柏沼の川田。そして海月の末永! 男子も主将が三人揃ってるのか。日新の二斗、鶉山の堀庭、そして柏沼の田村。・・・・・・揃うべき者は揃っているようだね!」

「・・・・・・みなさん、調子よさそうね。安心したわ・・・・・・」

「「「「「 さ、崎岡有華さきおかゆか! 朝香朋子あさがともこ! 」」」」」


 栃木陣地に最後に現れたのは、栃木ナンバーワンの女子チームである等星女子高とうせいじょしこう

 主将の崎岡とエースの朝香を筆頭に、まさに常勝戦闘集団のようなオーラを放つ等星選手団の凛とした雰囲気は、県内大会の時よりもさらに磨きがかかっている。

 段々になっている観客席の最上段で腕組みし、短く整えられた短髪は鋭さと色艶が増した崎岡が前原たちの前に現れた。


   ひた ひた ひた ひた・・・・・・


「そっちこそぉ、調子よさそうねぇッ、等星のみなさぁん! ワタシもあれから、いろいろと鍛え込んできたよぉッ! あははっ! ・・・・・・脇腹の調子は、もういいのぉ?」

「末永小笹ぁ、相変わらずとらえどころの無いやつだ。・・・・・・私はあれから、全空連ナショナルチームも抜け、この日のためにゼロから出直した。アバラのヒビは、もう気にしない。これは、お前にやられる前から傷めているところだ。今回は、仕上げてきたさ。完璧になぁっ!」

「・・・・・・崎岡。・・・・・・諸岡は個人形・・・・・・出ないのか?」

「なんだ二斗、里央のことを気に掛けてくれるのか。出ないんじゃなく、出させてもらえないと言った方が誤解が無いがな。これも、等星として仕方の無いことだ」

「・・・・・・そうか。・・・・・・・・・・・・残念だ」

「だぁからぁ、おかしいってぇ等星! 前年度のインターハイ優勝者がいないんだよぉ!? 推薦枠でさぁ! ワタシ、いまだ納得してないから! ワタシに負けたのを理由にしないでよねぇッ!」

「まーまーまー、今回はインターハイの場だしさぁ、いろいろわけわけんねーことは抜きにして、みんなで頑張ろうじゃないかねぇー。せっかく沖縄に来てまでの大会なんだ。俺たちは栃木県選手団だしさぁ、学校対抗戦ではあるけど、いまは一時休戦しようや。この会場内にいる、他県のやつらをみんなでドンパチ蹴散らしていこうぜ?」

「そ、そうだよ。田村の言う通りだ。俺ら出場選手はお互いがライバルだけど、ここではとりあえず栃木の代表選手団だから、俺からも、穏便に頼むよ。みんなで戦おうぜ!」


 田村と堀庭がなんとかその場をまとめて抑え、小笹と崎岡も目力は強いままだが、ふっと笑ってがっちり握手。


「末永小笹。ここに、監督がいないからこそできる握手だからな? 前大会でのことは、我々は引きずるつもりは毛頭無い。お互いに、良い勝負をするだけだ」

「・・・・・・まさか、ワタシが等星と握手するなんて思ってもなかったネ。・・・・・・ま、そーいうコトならぁ、しゃーないッ! 無様に負けたりなんかしたら、ワタシはあんたらを笑ってやる」

「言ってくれるじゃないか。我が等星の空手に敗北無しだ。お前こそ、この舞台に呑まれて力が出せませんでした、なんて言うことがないようにな!」

「べー。だぁれが、このくらいで呑まれるもんですかぁ。あははっ! じゃ、ヨロシクね!」


 田村、崎岡、堀庭、二斗、小笹。

 栃木県選手団の各校を代表する主将格が揃うと、なんかものすごく頼もしい感じがする。

 県内戦ではお互いに火花を散らす相手同士だったが、県外に出ればお互いに県の代表という名の下に集う仲間同士なのだ。

 小笹と崎岡が握手を解き、柏沼高校、海月女学院、日新学院、鶉山高校、等星女子のメンバーはみな同じ方向へ視線を向け、メインアリーナの各コートを眺めながら闘気を全身に漲らせていった。

 コートのある一階を挟んで、ちょうど栃木県勢のいるところと対面側の陣地は熊本県勢。向こうから、ものすごい鋭い視線がビシバシと飛んできている。


「た、田村君。向こうの陣地の選手・・・・・・」

「あぁ、どーやらそのようだねぇ。だいぶいい視線をくれるじゃないか。あいつらが、俺たちの最初の相手、熊本県立球磨之原高校の選手らしいねぇ」

「ふん。視線で組手をやるわけじゃないんだ。あのような雰囲気を持っているということは、それなりの自信がある学校のようだがな。おれたちは、まぁ、さらにあの上を行くけどな」

「陽ちゃん。あちらさんの選手、だいぶ気合いが入っているようだが、一回戦楽しみだな!」

「陽二も道太郎も余裕だな。俺はこういう雰囲気は久しぶりすぎて、なんか緊張しちまうよ」

「びびってんな、井上! あんたも強いんだよ? アタシの気合いを分けてやるから!」

「館内のあちこちから、実力者のオーラや視線が飛び交ってるね。私もこれは、試合が楽しみだなぁーっ! はやく個人形、始まらないかなぁ! ね、井上っ!」


 川田は井上の帯を引っ張り、きゅっと締め直した。森畑は、井上の背中へばしっと平手で気合い注入。井上は痛がっていたが、それによって目が一瞬で輝きを取り戻した。


「朝香。あんたは今回追われる身だよね。アタシにはまだ、そこまでの世界がわかんないや」

「・・・・・・別に大丈夫。慣れてるから。私は向かってくる相手に勝てば良いだけ・・・・・・」

「簡単に言うねぇ。インターハイなんだけどな、これ。アタシはベスト8までいけば、またあんたと戦える! この大舞台で、今度こそ、朝香越えしてやるからね!」

「・・・・・・楽しみにしてる! ・・・・・・川田さん、だいぶ、腕上げたようね」


 朝香と川田が並んで話していると、他県の選手たちや関係者が近くまで集まり、囁き声がたくさん響いてきた。


「「「 (前回チャンピオンの朝香朋子だ。すごい、本物だ。わたしじゃ絶対勝てないな) 」」」

「「「 (おい、朝香朋子だぜ! サインとかくれないかなぁ? 話しかけらんねーよ) 」」」


   ざわざわざわ  がやがやがや


「・・・・・・ふぅ」

「なに? どしたのよ? 珍しいじゃない。ため息なんて。イメージ無いなぁ」

「・・・・・・川田さん。あなたは、他の選手とやはり、違うわね・・・・・・」

「なにが?」

「・・・・・・何故、みんな初めから私に『勝てない』とか『話せない』とか、そういう目で見てくるのか・・・・・・。面白くないよね。・・・・・・普通の高校生だよ、私も・・・・・・」

「え? ・・・・・・あっはっはっは! なぁんだ朝香! あんた、別格のように見られることがもしかして嫌なの? アタシはそうは見てないけどさぁ、確かに」


   ・・・・・・こくり


 朝香は、川田に視線を向け、数秒間を置いて静かに頷いた。


「あなたは、いつだって私を本気で倒そうとかかってくる。まったく物怖じも諦めもなくね。そういう相手は、私は気に入ってる。・・・・・・そうであってこその、空手道競技よ・・・・・・」

「アタシにしてみれば、わざわざ最初から名前に呑まれて諦める意味がわかんない。誰だろうと、どこの学校だろうと、相手は同じ高校生。ま、相手を尊敬するとかどうかは別として、やるからには全力で向かい合わなきゃ相手にも失礼じゃん。朝香、あんたにもね!」

「・・・・・・あ、ありがとう・・・・・・」

「朋子は口数が少ないから、余計に誤解も招くんだ。もっとハキハキ喋ればいいのにさ!」

「・・・・・・有華と私じゃ違うのよ。・・・・・・話が上手ければ、苦労しないよ・・・・・・」


   ぺたり   ぺたり   ぺたり   ぺたり   ぺたり   ぺたり


 崎岡、朝香、川田が並んで話しているところへ、床を素足で踏む音が近づく。

 その足音は、ひとつ。ふたつ。みっつ。たくさん。

 そしてそれは、等星女子高の選手たちの前で止まった。


「ふふっ・・・・・・。ここにおったんねぇ。・・・・・・みなさんおそろいで、よろしおすなぁ」

「「「「「 !!! 」」」」」


 それは背が高く、すらっとした気品のある姿勢で、日本的な黒い髪をした女子選手だった。

 その選手は細い指でさらりと髪を払い、にこやかに話しかけてきた。


「え? 京都弁・・・・・・? さよ、そうだよね?」

「だね。中学の修学旅行以来だね、耳にしたの。阿部先輩。だれですかね、あのひとたち?」

「わたしもわかんない。でも、なんか顔立ちといい雰囲気といい、朝香さんに似てる・・・・・・」


 内山も大南も、その選手の京都弁に反応したようだ。


「・・・・・・何しに来たの? ここは・・・・・・栃木県選手の陣営よ?」

「あっはっはっはぁ! いややわぁ、そぉんな睨まんといてぇ? チームの同期と、京都の陣営に戻るとこや。なぁんも意図はないってぇ。・・・・・・お久しぶりねぇ、等星女子のみなさん」

「「「「「 !!! 」」」」」


   ・・・・・・ピリッ  ・・・・・・ズオオォォォ


 その選手たちと等星の選手たちの間に、ゆっくりと、またゆっくりと、闘気の渦巻きや歪みが現れる。


「・・・・・・なにか・・・・・・言いたそうね?」


 朝香は、その選手に対し、冷やかな口調で返す。


「言いたいことは、ありすぎやわぁ。・・・・・・うちは、今年、完全制覇狙ってるんやでぇ? 形も、組手も、個人団体すべてでなぁー」

「・・・・・・個人組手・・・・・・私に勝てると思うの? ・・・・・・舞子まいこ! 決勝まであがってくる気?」

「お姉は、京を捨てて等星行ったけど、全国一はウチの花蝶薫風女子高かちょうくんぷうじょしこうや! 個人も、勝ちますえ!」


   がしいっ!


 その時、舞子と呼ばれるその選手と朝香の両腕を掴んで、割って引き離す人物が。


「・・・・・・ちょっとぉーッ! ・・・・・・なぁに二人で、勝手に決勝なんかの話してんのよぉーッ! ふっざけないでよねぇー? あなたさぁ、花蝶薫風の朝香舞子あさがまいこだっけぇ!?」

「はぁ? 誰やろ? あんた、ウチのこと知ってはるの? ウチはおたくさん、知らんけどなぁ」

「くすっ。朝香なんて名字で、そしてその顔立ち。知らないワケないでしょぉーッ! 知らないなら覚えておいてねぇッ! ワタシは海月女学院高校、末永小笹! あんたと個人組手でまず当たるのは、ワタシ! 姉妹喧嘩したいなら、まずはワタシとね! くすっ!」

「ふぅん。・・・・・・あぁ、わかったわぁ。予選で等星の諸岡里央もろおかりおに勝ったっていう新鋭、あんたやったんやなぁー。・・・・・・でもなぁ、ウチとお姉のレベルには、及ばないわぁ。わかるんよぉ」

「・・・・・・なんだとぉーッ! ・・・・・・ふふふっ! なら、わからせてあげるよぉッ!」


 目を吊り上げ、舞子へ食ってかかろうとする小笹の襟を、田村がくいっと引っ張った。


「やーめーろ末永。試合は試合で、私情を挟むな。・・・・・・なぁ、花蝶の人らさぁー? とりあえず、なんかしたいなら試合でやってくれないかねぇー。朝香ぁ、妹と喧嘩してーんなら、二人でやってくれよなぁー? 開会式前から揉め事は勘弁だぞぉ?」

「・・・・・・ごめんなさい。・・・・・・舞子。私に敵意があるのは、わかるわ。・・・・・・でも、私はね、決して京を捨てたなんてこと、してないから・・・・・・」

「さて、どぉだかぁ。ま、個人も団体も、全国一は花蝶薫風ってのを、お姉に教えてやるよぉ」


   ぺたり   ぺたり   ぺたり   ぺたり   ぺたり   ぺたり


 そう言って、花蝶薫風女子高の選手たちは、颯爽と去って行った。


「・・・・・・舞子・・・・・・」


 一言呟いて、朝香は等星のメンバーと一足早く開会式入場の待機所へ向かった。


「川田センパイ・・・・・・朝香朋子の妹、朝香舞子。・・・・・・あれは今回、侮れない存在ですねぇ・・・・・・。くすっ」

「小笹がそう言うなんて・・・・・・。だいぶ姉と妹で印象の違う雰囲気だけど、強いってのは共通か。姉妹揃って同等なレベルとみて間違いないな。アタシ、妹もあんな風格だとは思わなかった」

「花蝶薫風女子高・・・・・・。あのチームは・・・・・・・・・・・・等星以上だ・・・・・・」


 二斗が、イチゴみるくオーレを飲みながら小笹へ後ろから語りかけた。

 小笹は驚いて二斗の言葉に振り向き、黙って聞いている。


「・・・・・・末永小笹。・・・・・・お前、度胸いいじゃないか・・・・・・」

「あははっ! あれが等星以上? ほんとですかぁ? てか、日新の主将サン、情報通ですねぇー」

「・・・・・・オレは女子高と練習試合の経験は無いが・・・・・・。・・・・・・朝香の妹は、ある部分では姉以上に恐ろしい組手をする・・・・・・。『裏技』を使いまくるらしい・・・・・・」

「「「「「 う、うらわざ? 」」」」」

「反則ギリギリの高等技術ってぇことさ。それを駆使して、さらに技の威力やキレは姉と同等に近いもんがあんぜ! そういう意味で、恐ろしいんだ」

「いま、畝松が言ったとおりだ・・・・・・。気をつけろ・・・・・・末永小笹・・・・・・」

「くすっ。裏技なら、ワタシも持ってるモン! 早く始まれぇ! ワタシは暴れるよぉッ!」

「ま、誰が来ても、全力で戦うだけね。アタシ、周りが強いのばかりで面白いんだ、いま!」

「女子たち、火花散ってるねぇー。こりゃ、既に、気合いたっぷりだねぇー」


 田村は、「やれやれ」という表情で苦笑い。前原や他の男子メンバーも、女子の闘気渦巻く一場面に、表情を固くしていた。


   ~~~間もなく、開会式を始めます。選手の皆さんは招集待機場へ整列してください~~~


「あ! 田村君! ついに招集かかったよ! 開会式だ!!」

「よぉーし! みんな、行こうかねぇー!!」


 招集アナウンスと共に、栃木県メンバーは全員で校名プラカードを持って、開会式の待機所へ向かったのだった。

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