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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第3章 開幕   美ら海沖縄総体!  激闘! 熱闘! インターハイ!
26/106

2-26、いざ、会場へ!

   ささささささぁぁー・・・・・・

   さらさらさらさらさららー・・・・・・

   ざざざぁ・・・・・・んっ

   ざざざぁ・・・・・・ ざざざぁ・・・・・・んっ

   タンタンタンタン   ザザザザァーーー・・・・・・


 フクギ並木の中央を、朝の爽やかな潮風が木々の葉を揺らしながら通り抜ける。

 小さな漁港からは、漁船が数隻、エンジン音を響かせながら波をかきわけて沖合へ出て行く。

 港や浜辺の海面は、南東からの陽射しをきらりきらりと照り返し、虹色の光を四方へ届けている。宿の裏山からも、樹々の香りと花々の香りが風に乗って漂ってくる。


「おーい、みんな荷物まとめたかねぇ? 会場に持ってくもの、忘れんなよぉ?」


 田村の声が宿内のあちこちに届き、それぞれの部屋からは、五月雨式に返事が聞こえた。


「おはよぉーッ! みんな、おばーちゃんの朝ご飯食べて、きょうはがんばろぉ! くすっ」

「おぉ、小笹ちゃん! おはよぉ! よっしゃ、がんばろうな!」

「早いね末永さん。なに? もしかして、どっかに朝稽古でも行ってきたの?」


 Tシャツ一枚とスパッツ姿の小笹は、額にうっすら汗を浮かべ、前原や神長に元気よくハイタッチしてきた。


「今日からだもんネ。ちょっと気を引き締めるのに、裏山の頂上までいって戻ってきたのぉ」

「ついに、今日からだね!」

「だなっ! だはは! やってやろうぜ!」


 いよいよ、今日から三日間「全国高等学校総合体育大会 空手道競技会」が開催される。

 全国からこの沖縄に集まった各都道府県トップレベルの選手たちと、真っ向から火花を散らして戦うことになる柏沼メンバーたち。

 果たしてインターハイ本戦には、どんな人がいるのか。どんなタイプの選手がいるのか。


   たったったったったっ  だだだだだだだだだだ  ざざぁー


「ふぅーっ、アタシの勝ちぃーっ! これでもう、ウォーミングアップ済みだねアタシら」

「くそぉ、速いなぁ川田! おれが追いつけないとは! 歩幅とその回転数の計算が・・・・・・」

「はぁー・・・・・・。真波はなんか、沖縄に来て変わったね! 運動能力が上がったんじゃない!?」


 フクギ並木を全力疾走して、川田、中村、森畑が帰ってきた。三人とも早朝から軽く身体を動かして自主練をしていたらしい。


   からららら・・・・・・ たぁん


「おはよう。みんな朝からすっごい元気ねぇー」

「俺たち昨日着いたばかりだから、まだぐったりだよ」

「おはようございます! 堀内先輩も松島先輩も、だいじですかー? 昨晩、けっこう先輩方で飲んだんでしょぉ? アタシが寝るときまで盛り上がってたもん」


 宿の戸が開き、堀内と松島が顔を出した。昨日、この宿へ到着して合流した二人は、どうやらだいぶ夜遅くまで盛り上がっていたらしい。

 昨晩は隣の島袋や道場の方々、そして美鈴の父や村の漁師らも集まり、泡盛や古酒でみんな美味しく楽しくにぎやかになっていた。前原たちは、さすがに早めに寝たようだが。


「いよいよ今日からだな! みんな、早めに沖縄入りして、けっこうこっちに慣れた?」


 松島が、にこっと笑って中村へ声をかけた。


「そうですね。もう、驚きと発見の連続でした。おれはここの民宿に出会えて本当に良かったと思います。松島先輩にも、あの沖縄空手の技法をぜひ一緒に見て欲しかったです」

「中村がそこまでの感想なら、すごくレベルアップに良いものが発見できたんだね。それは良かったなぁ。さっき前原や神長とも話したけど、みんな一週間前よりもだいぶ自信に溢れた精悍な顔つきになってる。俺も新井君も、今日からの試合、楽しみに監督やるからね」

「はい。よろしくお願いします! ま、見てて下さい。レベルアップしたおれたちを!」


 中村は眼鏡を指でくいっと上げ、にやりと笑みを見せる。


「ほいほぉい。朝ご飯さぁー。時間もなくなっちゃうからぁ、食べちゃってなぁ」


 キヨが縁側から笑顔で呼びかけた。前原たちも外にいる中村たちに広間から手を振り、中へと呼ぶ。

 みんな揃ったところで美味しい朝ご飯を食べ、全員、エネルギー充填完了。

 朝食後はみんな会場へ向かう準備を整え、服装も全員道着に着替えた。

 みな、大きなバッグをそれぞれ抱えて島袋のバスへ乗り込んでゆく。


「「「「「 いってきまーす! 」」」」」

「ほっほっほ。ちばりぃよぉー。また夕方、待っとるさぁー」


 バスに手を振るキヨの見送りに応えながら、柏沼高校メンバーはインターハイ会場へと向かう。


「あー、だんだんドキドキしてきた! 悠樹! よくそんな落ちついてんなぁ」

「井上君とは違った感じで、僕もドキドキだよ。落ち着いてるように見せてるだけだよ」

「ま、みんなやるだけのことはやったんだ。沖縄に着いてからは修行のような感じだったしな。あとは、試合で身体が勝手にこれまでの成果を出してくれるから、だいじだべ」

「井上からそんな言葉が出るとはねぇー。ま、もうあとは、何も気にせず暴れりゃいいんだよー」

「尚ちゃんの言う通りだな。ここまで来たら、後はもう、試合でみんな大暴れすりゃいいんだ!」

「アタシも道太郎に同感だ! 民宿とぅおんなでの修行は、きっとアタシらをすごいレベルの空手にしてくれていると思う。あとは、戦うだけだねっ!」

「私も楽しみだな。どんな相手なのか。中学生以来だなぁ、こういう全国大会はー」

「こうして、高校最後の年に同期七人全員がインターハイに出られたんだ。おれたちは、成る可くしてこうなった。楽しんで戦わなきゃ勿体ないってもんだろう!」

「「「「「 よっしゃぁぁぁっ! やってやるぞおぉぉぉぉーっ! 」」」」」


 燃える三年生七人。その後ろ座席では、黒川、長谷川、阿部も小さく「先輩ファイト!」とガッツポーズでエールを送っている。

 一年生の大南と内山は、なぜか、奇妙な呪文を唱えてお祈りをしている。


「くすっ。元気だなぁーっ、センパイたち。ワタシも、個人戦で大暴れしてやるんだからぁ」

「小笹は頼もしい子たちに迎え入れられて、本当によかったわね。お母さんも安心したよ」

「あははっ! ワタシ、柏沼高校の支店みたいな感じだしねッ! でも、ワタシはワタシで海月女学院の看板を背負っている以上、お母さんとワタシの二人チームだよぉ。今回はお母さんも、道着で監督席座るんだもんね。ワタシの試合、間近で見ててネ!?」


 小笹は、末永ににこっと満面の笑みを見せる。


「私が道着でねぇ・・・・・・。白帯だし大丈夫なのかしら。お母さん、何もアドバイスできないよ?」

「しょぉーがないでしょ! そういう制度らしいし。白帯でもいいのぉ。監督はお母さんだよ」


 こんなやりとりを、新井は座席の後部で微笑ましく眺めている。


「うーん。いいねいいねー。盛り上がってきたよー。あれ? 松島君に堀内さん、どうしたの?」

「「 ・・・・・・なんでもない。昨日の盛り上がりの反動ー・・・・・・ 」」


 堀内と松島は、泡盛によるダメージが抜けておらず、新井の横でげんなりした表情となっていた。


   ぶろろろろぉぉー・・・・・・


 島袋の運転するバスは、どんどん会場へと近づく。

 サトウキビ畑を抜けた先には、拳士たちの戦場である、インターハイ会場が見えてきていた。

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