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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第2章 青い空と碧い海。競技空手と沖縄空手
21/106

2-21、部旗観賞会?

   ぶろろろろろーーーーーー

   ぶいいいーん ぶろろろろろろーーーーーーーー


「中村君。今朝の朝食もまた、おいしかったね」

「うむっ。チキナーチャンプルーにもずく酢、にんじんシリシリにアーサ汁。まさに、これぞ沖縄と言わんばかりの家庭料理。素晴らしかったな!」

「チキナーって、からし菜みたいな野菜で、僕はとても気に入ったなー」

「まったくー。前原も中村も、さっきから朝ごはんの話ばかりじゃんー」

「ほんとほんと。空手道部じゃなく、料理部の会話みたいだわ」

「ま、まぁ、その、なんだ。食というものはそもそも、活力の根源であり・・・・・・」

「はいはい。でも、前原が言うように、アタシもあのチキナーチャンプルーは気に入ったね」

「川田さんも?」

「うん。だって、おいしかったもん。ねぇ、菜美もよく食べてたよね?」

「そうねー。あれは、おいしいわ」


 現在、メンバーたちは朝食後にバスに揺られ、インターハイの会場を下見に向かう道中。

 島袋が会場までドライブがてら連れてってくれることになったのだ。なお、島袋はインターハイ当日、大会副審判長になっているとのこと。


「ありがたいねぇー。こうして、会場もバスで下見に行けるなんてねぇー」

「尚ちゃん。インターハイの会場、どんなところだろうな? ワクワクしてきたぞ。だははっ!」

「神長ー。俺も、ちょっとそうなんだよねぇー。いよいよかって感じだしなぁー」

「尚久も道太郎も、気が早いぜ。まーだ、下見なんだぜ? まぁ、気持ちはわかっけどなー」

「泰ちゃんも、そーかぁ。びびって震えてた泰ちゃんとは、もう、違うわなー。だっはっは!」

「うっせぇ道太郎! それよか、運転してる島袋さんの拳、やっぱ、どーみても普通じゃねーよなー」

「そういえば、沖縄省林流の七段とか言ってたっけねぇー。見た目は、いたって普通な漁師系のおじさんなんだがねぇー」

「すっごい拳ダコだよな。いかにも、達人の拳って感じだぁ」

「あんなんでぶっ飛ばされたら俺、死んじまうー。ぶるぶる、ぶるぶる」

「・・・・・・お? 見てみー。あれが会場っぽいねぇー」


   ぶろろろろぉぉ・・・・・・  ききっ


「ほいほい。ここさぁ。着いたぁよぉ」

「ありがとうございました。さぁ、みんな、降りて中に入ってみようかねぇ!」


 田村を先頭に、いよいよ会場の下見に入る。どういうフロア構造で、選手待機所やサブアリーナはどんな感じか、トイレはどこか、どこが公式練習場で解放されるのかなどなど、下見で見ておくべきところはたくさんある。


「ここで、おれたちは全国の奴らと戦うのか。下見でもドキドキもんだな」

「まったくだぜ陽二! まるで戦場に入る前の気分だ。でも、まだどこの学校もいないからイメージ湧かねーなー」

「アタシの檜舞台だ。よーくあちこち見ていかなきゃ! はやく始まらないかなぁ!」

「私の檜舞台でもあるのよ真波。会場イメージを頭に入れて、どういう演武するか今日からイメージできるね」

「そうね! あー、はーやくこいこい、インターハーイ!!」

「尚ちゃん・・・・・・そっちじゃない。メインアリーナはこっちらしいぞ?」

「ん? あれ? そっかぁ。なーんか、広すぎて何が何だかわかんないねぇー」

「ほんと広いなぁ。僕たちの知る会場でもかなり大きい部類だよこれ!」

「とりあえず、メインアリーナ入ってみるかねぇー? よし、このでかい扉か。あけるぞぉ」


   ググウウゥ・・・・・・  ぎいいーっ・・・・・・


 試合フロアとなるメインアリーナの扉を、田村がゆっくりと開けた。

 すると目の前には、数日後に激戦が繰り広げられるであろうインターハイ空手道競技会場が、もうほとんど出来上がっていた。


「「「「「 す、すっげぇなぁ! 」」」」」

「「 これが、インターハイの会場なのかぁ! 」」

「「「「「 うわぁー・・・・・・っ! 先輩たち、こんな会場で・・・・・・っ! 」」」」」


 コートは、AからHコートまでの八面構成。

 各コートには、赤の選手と青の選手それぞれのネームプレートや学校名プレートを差し込む専用のボードが設置。

 試合時間用のタイマーも、大型電光掲示板式の専用機器が各コートに置かれている。


「お、おい、前原! 上見てみ! みんなも、全体を見回してみ! すっごいねぇー」


 田村が何かに気づいてみんなに会場を見回すよう促した。メンバーは皆、アリーナに数歩先まで足を踏み入れた。するとそこには、観客席や体育館全体をぐるりと囲んで、二百校近い数の部旗が掲げられている。大会前に事務局を通して、選手よりも先に部旗は会場入りしていたのだ。


「す、すっげぇなぁ。いろんな部旗があるもんだな、大小いろいろと・・・・・・」


 井上は、ぽかんとしながら、様々な学校の部旗をひとつひとつ眺める。

 そして、みんなも、次々と視線を移しながらそれを見る。


   [ 闘  魂   豊後佐伯城南高校空手道部 ]

   [ 逞しく 強く 出雲学園総合高等学校 空手道部一同 ]

   [ 我が等星に敗北無し 常勝必勝  等星女子高等学校空手道部 ]

   [ 清らかに 麗しく たくましく  花蝶薫風女子高校 空手道部 ]

   [ 燃えろ若虎!  山之手学院中学校・高等学校 空手道部 ]

   [ 乾坤一擲 平常心是道也  瀬田谷学堂高校 空手道部 ]

   [ 必 勝  常 勝  日新学院高等学校空手道部 ]

   [ 剛柔一体 三位一体  鳥取県立鳥取丘東高校空手道部一門会 ]


 メンバー全員は、まるでプラネタリウムでも見るかのように、全体をぐるりと見渡しながら、この中に柏沼高校の部旗がどこにあるのかを探していた。


「うわぁー、なんだかすっごい! いろんな学校の旗同士が既に戦ってる感じだ。アタシらのはどこに隠れちゃってるんだろう? 等星や日新のは見つかったけどさぁ」

「色もこれだけの数の中じゃ目立たないよね。僕もいま探してるんだけど・・・・・・どこだろう?」

「も、森畑先輩! 部旗って、ものすごく大きいのもあれば、横に長いものとか、縦に長いものとか、様々ですねぇ・・・・・・」

「恭子たちは、全国大会は初めてだものね。いろいろなタイプがあるのよ。それにしてもどこだ、柏沼高校は?」

「アタシもまだ、見つからないのよねー。県別とかになってるわけでもないんだけどなー」


   [ 繚 乱 拳 舞  徳島県 白波女学園空手道部 ]

   [ 燃やせ 梅花の魂!  寄贈 加賀梅花女子高校空手道部OG会 ]

   [ 栄 光 随 一  秋田秀徳高校空手道部 ]

   [ 咲けよ花! 輝け華々!  学校法人ラベンダー園高等部 空手道部一門 ]

   [ 平 常 心  御殿城西高等学校空手道部 ]

   [ 勝たないかんぜよ 必勝  高知商科高校 空手道部一門会 ]


「いーなぁッ! ワタシは個人だから部旗ないしーッ。さて、柏沼のを探す手伝いするかぁ」


 一緒についてきた小笹も、みんなと柏沼高校の部旗を探し始めた。


「なんだぁ? ねーぞ? 早川先生、ちゃんと送ったんだろうなぁ?」

「井上は疑いすぎだぁ。だーいじだって、どっかにあるはずだねぇー。あまりにも名門校の旗がでかすぎて見つけにくいだけだよ。だいじだ」

「尚ちゃんがだいじって言うならだいじだが・・・・・・ほんとに、どこだ?」

「これだけの数、これだけの種類・・・・・・。さすが全国大会だな。この中に、必ずおれたちの部旗もあるはずなんだ」


 あまりにも多すぎて、やはりまだ見つからないらしい。

 飾られている部旗は、県内大会とは比べものにならない数だ。


   [ 疾風迅雷 一拳入魂  東嶺大馬久高校空手道部 ]

   [ 目指せ! 全国一の桃太郎! おかやま白陽高等学校 空手道部 ]

   [ 華々しく戦え! 今女商!  今針女子商業高等学校空手道部 ]

   [ いよっしゃ! 日本一!  山梨航空学舎高校空手道部 ]

   [ 琉球の風よ吹け! 空手の故郷魂を!  うるま金城高等学校 空手道部 ]

   [ 怒 濤 の 快 進 撃  福岡天満学園 空手道部一同 ]

   [ やったれ大阪! 常勝軍団!  なにわ樫原高校空手道部 ]

   [ 燃えよ火の国魂 肥後もっこす  熊本県立 球磨之原高等学校 空手道部 ]

   [ 日 々 精 進  栃木県立 柏沼高等学校空手道部 ]

   [ いて舞えや! こぶし輝け愛栄なでしこ  西大阪愛栄高校空手道部 ]

   [ 純 粋 真 向 勝 負  帝東高等学校空手道部 ]


「あっ! ありました! あったあったぁ! わーいわーい」


 内山が、館内の東側を見て、思いっきり跳びはねて喜んだ。

 やっと見つかった柏沼高校空手道部の部旗。よりによって、男子団体組手で初戦に当たる学校と隣り合わせに掲げられていた。


「それにしても、本当にものすごい数だ。部旗の展示会と言われてもわからないくらいの、各校独特なデザインと色合い、大きさ、そして書かれた言葉。卒業生が寄贈してくれたチームもあるな。本当に、さまざまな思いが詰まった部のシンボルなのだろう」

「そうねー。ちなみに中村ー? 他校のデザインだと、どれが目を引いた? アタシはー・・・・・・」

「うむ。そうだな。おれはー・・・・・・」

「陽ちゃんのセンスはなかなかだな。だはは! 俺はさ・・・・・・」

「みつるー。あの部旗、かっけーなー」

「おお! すげー! 見ろよ。あれもさ・・・・・・」


 しばらくその場は、部旗鑑賞会になってしまった。

 他校の部旗をここまで数多く見られるのも、ある意味、インターハイの醍醐味なのかもしれない。


「うーんっ! アタシ、もう後頭部がゾワゾワしてきちゃったぞ! あー、早く試合したぁいっ!」

「真波だけじゃねぇぞ! こんなすげぇ舞台に立てるなら、俺も、もうびびらずに早く暴れてやりてーなぁ!」

「あっははは! びびらない井上なんて、らしくなーい!」

「な、なんだよ! 真波ぃ、バカにすんじゃねー! 俺は、いつまでもびびってらんねーのさ!」

「わーかったよー! 叩くな叩くな! それにしても、もう、こりゃーお祭り会場だね!」

「うむ・・・・・・。川田の言うとおりだ。これは祭りだな! 闘争心が沸き上がってくる。良い試合をするんじゃなく、勝手に良い試合になるようにしよう。おれも、試合が待ち遠しくなってきた!」

「泰ちゃんも陽ちゃんも、のってるなぁ! ・・・・・・ん? お、おい、あそこ! あれってまさか、TV中継のカメラセット台じゃないか?」

「ほ、ほんとだね! すごぉい! テレビ中継までするの? 私、ちゃんと髪を整えて形の演武してやろうっと! すごいな、インターハイ!」

「菜美ー。アイドルオーディションじゃないんだからー。あははは!」

「専門誌の取材席や、空手ビデオ制作会社の撮影席まであるねぇー。こりゃぁ、俺たち、活躍したら雑誌や試合DVDなんかにも出られるねぇー。なんだかしらねーけど、すげぇねぇ!」


 見れば見るほどに、そこはすごい会場だった。まさに「高校生のオリンピック」のごとき派手さだ。

 これは、勝手に闘争心が沸き上がる中村の気持ちもわかるというものだ。


「でも、AからHまでの八面しかないんだね。アタシの松楓館全国選手権は十面あったから、やっぱり、まぁ、規模的にはノーマルな全国大会だろうね。菜美やアタシには普通な感じだよきっと」

「そうね。糸恩流全国選手権も最大で十二面あったときあるしね。真波とか私には、まぁ、慣れた規模の会場ね。始まっても驚かずに済みそうだなぁ。全国中学生大会の上位版程度で考えておけば、まぁ、緊張も何もないだろうし」

「スポットライトやドライアイス演出の選手入場とかぁ、あるのかなぁーッ? ワタシがフランスで出たヨーロッパのジュニア大会は、もう、ショーみたいな選出ありましたよぉー」

「なにそれー。小笹の出た試合って、そんなのまであったの!? アタシ、海外の試合はさすがに知らないわ」

「フツーに、そういう演出あったよぉ? あははっ! まぁ、この会場でドライアイス焚いたら、真っ白になっちゃうかもぉー」


 会場の雰囲気に圧倒されている一年生や二年生をよそに、川田、森畑、小笹の三人は、平然とした顔でこう話していた。


「なんだか女子三人が並んで、さりげなくすごいことを言っているよ中村君?」

「あ、あぁ。きっとあの三人は、インターハイのこの会場ですら、あまり呑まれることもないのだろう。ここまで辿り着くまでの場数が、おれたちとは違うんだなきっと」

「僕は、間違っても『ノーマルな全国大会』なんて思えないよー。大舞台慣れしている人にとっては、インターハイも、いくつかある全国大会のひとつに過ぎないのかもしれないね」

「そんな余裕を、持ちたいものだな。まぁ、始まってみないと、何とも言えない部分もあるが」

 

 前原と中村の横では、井上と田村も何か話している。


「正面ステージの来賓席もすっげぇ。何人いるんだよ、偉いおっちゃんら。開会式もきっと、あーだこーだとありがたいお話、長ぇんだろうなぁ・・・・・・」

「文句言うな井上。ここに出られただけでも、まずは価値があるんだからねぇー。開会式も無駄にせず、せっかくのインターハイを堪能しようぜー」

「・・・・・・ったく。真面目だなぁ尚久は。俺は、開会式よりも試合をすぐに始めてほしいぜ!」

「あと数日で、俺たちはここに立つんだねぇー。うーん、ワクワクしてきたなぁ! 頑張ろうねぇー!」

「そ、そうだなー! せっかく沖縄まで来たんだ! めいっぱい暴れてやんぜー」

「その意気だねぇ! ・・・・・・お。こんな時間か。そろそろ、別なところも見てみようかねぇ」


 田村に続いて、みんなメインアリーナから出て館内をまたあちこち確認。

 サブアリーナが当日は選手待機所になるようだ。多目的ホールは公式練習場として解放されるらしい。


「あれ? ねぇ田村。アタシ達以外に、どっかの人らがいるわー」

「お。ほんとだねぇー。同じように下見しに来てるのかねぇー?」


 多目的ホール内には、柏沼高校や小笹以外にどこかの高校が先に来ていたようだ。


「ん? あーっ! 小笹や柏沼高校のみんなぁ、来てたぁのねぇーっ」

「え! なーんだぁ。美鈴の学校だったかぁ。くすっ。なぁに? 美鈴らも下見なのぉ?」

「下見じゃないよ、地元だしぃー。当日ね、うちはあたし以外の部員はみんな競技役員や大会役員になるから、打ち合わせやリハーサルよぉー。一年生らに、当日のこと教えてたの」

「「「「「 うるま金城高等学校空手道部! 一年部員です! よろしくお願いします! 」」」」」


 来ていたのは、美鈴率いる地元校「うるま金城高等学校」だった。

 うるま金城の一年生たちはみな、女子や男子が混ざって、元気に大きな声で挨拶。かなり、礼節には指導が行き届いている学校のようだ。


「はぁいよぉー、一年っ! それじゃぁ、打ち合わせ通りに館内の持ち場についてみてぇ!? 何かあったら、気づいたことを、あたしや先輩方に報告! おねがいねーッ!」

「「「「「 はいっ! 失礼します! 」」」」」

「ふぅーん、やるじゃなぁい美鈴ぅーッ! センパイらしいよぉー。すごいなぁッ」

「美鈴ちゃんさ、後輩を指導するときに、気をつけているコトって、ある? どうやったらうまく指示が伝わるかとか、言うこと聞いてくれるかとか・・・・・・」


 阿部は小笹を押しのけ、美鈴に何かを尋ねた。かなり、食い入るような感じで。


「何か最近さ、阿部さんがやたらと積極的にこういうところで前に出るようになってきた気がする。そう思うのは、僕だけだろうか」

「いや・・・・・・。前原だけじゃないねぇー。俺もそれは・・・・・・」

「田村君も? やっぱり」

「積極的に、阿部は何かを掴もうとしているねぇー。いいことだねぇー」


 阿部に対し、美鈴は一瞬きょとんとしながらも、すぐに笑顔で応えた。


「阿部ちゃんもあたしと同級じゃ、来年は三年だもんねぇーっ。うーん、特に、言うことを聞かせようとかは、してない。部の雰囲気なのかな? 勝手に、一年はこーなってるよぉッ?」

「ふむふむ、特に言うことは聞かせたりしない・・・・・・と」

「なんですか阿部先輩? まるで、わたしらが言うこと聞かないみたいじゃないですかぁ」

「みすずさん、わたしもさよも、ちゃーんと先輩の言うこと聞いてる、いい一年ですよー」

「ちょ、ちょおっと! 二人ともー、何を・・・・・・」


 大南と内山は、阿部を羽交い締めにし、笑いながら美鈴へ言葉を返していた。


「あっはははぁッ! おもしろいねぇッ、柏沼高校っ! じゃ、あたしはまだ後輩や先輩といろいろやってから帰るからぁ。小笹、おばぁに今日も夕飯食べるって言っといて。頼んだぁ」

「今日は、おばーちゃん、何作ってくれるのかなぁーっ! ワタシ、実家が久々だから、ご飯のとき楽しみなんだぁーッ! 美鈴、今日はみんなで花火でもやろーよぉ―」

「だからよぉー。いいねぇ! コレや部活終わったら、家帰って着替えてから、また行くよ」

「はぁいー。バーイ!」

「バーイ!」


 同じような仕草で、申し合わせたかのように手を振る小笹と美鈴。


「・・・・・・やっぱり、どう見ても、小笹が二人だね。日焼け小笹と、美白の小笹だ。アタシにはそのくらいしか見分けがつかないー。美鈴ちゃんのが、体型は少し引き締まってるかな?」

「そぉんなことないですよぉー。美鈴はワタシと違って、左目のところにぃ、目立たないけど泣きボクロあるんです。ワタシはないですよぉー。体型は、まぁ、言われてみればそーか・・・・・・」

「そういや私、前から思ってたけど、小笹は沖縄育ちだったのにずいぶん肌白いよね。日焼けもした感じがないし。真波と良い勝負の白さじゃなぁい? 驚きの白さだ!」

「ひどぉい森畑センパイ。人を洗剤のCMみたいにぃ。沖縄だって肌白い人いっぱいいますぅ」

「やーめーろって! こら小笹、はたかないでよ。悪かったってばぁ。はいはい、謝るー」

「美鈴だって白いんですからねぇ? うるま金城は、昔から稽古で砂浜を走るから勝手に焼けてるだけですー。ワタシも小学生の時、三回ほど、その砂浜を走る稽古に混ぜられましたねッ」

「そぉいや前原さぁ、お前、今朝ずーっと寝言で砂浜がどうとか、転がすのがどうとか言ってたぞぉ? 夢見てジタバタしてるし、うるさくって俺、五時には起きちまったよぉー」

「あぁ! ご、ごめん田村君・・・・・・。寝言で、そんなことが。・・・・・・他には寝言で何か言ったりしたかなぁ?」

「んー・・・・・・なんだかよくわかんねーやぁ。まぁ、俺はなにも知らないことにしとくよぉ」

「えぇ! 何それ、田村君てば。僕、きっとなんか言ってたんでしょ! 教えてってば!」

「おしえねぇ。これは、言ったらダメなやつだねぇー! ・・・・・・まぁ、風呂んときに男子みんなで、前原のナゾ解きだねぇー」

「ほほぅ。なにか、面白いことがあると言うんだな田村? そういうことなら、夕食後、じっくりと風呂で疲れを抜きながら、聞こうじゃないか。なぁ、井上!」

「なんか、尚久がおもしれーネタでも掴んだのかぁ? 陽二が食いつくなんて珍しいなぁ」

「前ちゃん。まぁ、人生いろいろだ。インターハイには魔物が潜んでいるとよく言われる。だから、安心するといい」

「い、意味わかんないよ神長君! インターハイには魔物が潜むって、意味が違うよ! 勝敗を左右する魔物だろうけど、こんなムチャクチャに絡んでくる魔物じゃないでしょうよ!」

「田村! 何の話か知らないけど、アタシに後日報告ね。前原のナゾ解き」

「真波だけでなく、もちろん私にも! 頼むね田村!」

「ラジャ! ・・・・・・ってなわけだ前原。沖縄の夜を楽しもうぜ」

「はあああああ? みんなぁ、テンションがおかしいよぉー」

「くすくすっ。あはははははぁッ! 前原センパァイ、寝言で砂浜がどうとかなんてぇ、そんなに海で遊びたいんですかぁーっ?」

「ちーがーうって! そもそも、砂浜が夢に出たのは、それは末永さんがあんなに・・・・・・」

「「「「 ほぉ? なんですと? 」」」」

「・・・・・・あ。ちーがーうって! あぁーもう、いじやけるなぁ。こーなったら、僕から何でも話を吸い上げりゃいいでしょ! 知らないよもう」

「だははっ! 怒んなって前ちゃん! これも、楽しい高校生活の思い出の一部だってば!」

「ふっ。前原、別にやましいことが何もなければ、何でも無いんだ。話、楽しみにしてるぞ」

「なんか面白いんじゃない? もっと聞かせてよ。こりゃ、まるで修学旅行みたいなノリだね!」

「森畑さんも、そこまで絡んでこなくていーから! じゃ、僕はもう、何も語らない!」


 こんな砕けたやりとりをしながら、全員はまた島袋のバスへ乗りこんだ。

 このあと、バスは少し走って、なんと途中で水族館へと入っていった。

 その水族館には、ものすごく大きいブルーに澄んだ水槽があり、南国の魚やアジ、サバ、ミナミマグロなど大型魚も光り輝き泳いでいた。

 その中でも、ひときわ大きな水槽にジンベエザメやオニイトマキエイが悠然と泳いでおり、黒川が目を輝かせて中村と長谷川に魚類論を語っていたのは言うまでもない。

 中村は黒川に、話の途中で「おまえは話し出すと長すぎて理屈っぽい」と突っ込んでいた。長谷川はそれを、冷やかな目で見ていたが。

 こういう言葉を中村は知ってるだろうか。「五十歩百歩」。もちろん、形の名前ではない。

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