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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第2章 青い空と碧い海。競技空手と沖縄空手
16/106

2-16、分身対決!? 小笹vs美鈴

   しょぉわわわーーーーーしょわしょわしょわしょわしょわ


 外はいつしか暗くなってきていた。しかしこの時間でもまだ、沖縄特有の蝉の声が響いている。


「小笹、美鈴、いいかい? これはあくまで稽古だよ。でも、地稽古だから、ケガに気をつけてとことんやってみるといいさぁ」


   こくり


 両者、戦闘モードで闘気を解放し、キヨの声に対して静かに頷く。


「ほっほほ。・・・・・・ほいじゃ・・・・・・地稽古、始めぇぇッ!」

「つあぁーーーーーいいっ!」

「ツアアアアーーーーイッ!」


   ババッ   ダダダッ

   バッ   シュルンシュルン  シュパパパパッ


 烈火のような気合いで二人は構えるや否や、一気に間合いを詰めてお互いぶつかった。

 その瞬間、圧縮されたかのような二人の闘気が一気に爆ぜる。


   ギュンッ   バシュバシュッ!  ドスウッ  バスンッ

   バチイッ  ベチイッ!  ・・・・・・シュバアッ!  パパァン!


 美鈴の放つ、目の醒めるような速さの二連打。しかし、その拳は普通に捻って打ち込むおなじみの正拳ではなく、なんと、捻らずにまっすぐ出す「縦拳」。しかも肘は伸ばしきらずに、やや曲げたままの独特な打ち込み方だ。打撃音も、骨まで響くような重く鈍い音がする。

 だが、その美鈴の縦拳によるワンツーを、小笹は予測したかのように肘と肩で受け止めた。そして間髪入れずに前足での中段足刀蹴り。これを美鈴は、前へ重心をかけながら掌底で軽く打ち払う。


「(小笹との組手なんて、いつ以来だろう。懐かしいな。楽しいな。本当にねぇッ!)」


   ダアンッ   ヒュバッ   ドガアッ!


「(・・・・・・つうっ! こんのぉ、美鈴ぅ! 痛いなぁッ! これは、ワタシにおかえりなさいのアイサツってことか!)」


 美鈴は、小笹の蹴りを払った勢いでそのまま前へ踏み込み、プロレスのラリアートのような技を小笹の左顔面へ打ち込んだ。何とか小笹はこれを見切って両腕でブロック。


「な、なんだあの技! 試合じゃ見たことねぇぞ! 道太郎、見たか今の!」

「背刀でも振り打ちでもない。手首から肘までの部分をそのまま当てる、腕刀(わんとう)打ちだ。試合じゃ多分反則だから、当然、見たことない人もいるだろうな。驚いた! 本当にコレは、スポーツじゃない、実戦想定の組手稽古なんだな!」


 井上と神長が、早々に驚いている。二人の地稽古は、見たことない技がどんどん出てくるのだ。


「(なめるなぁッ! 美鈴、このやろーっ!)」


   グウイッ  ギュウッ   グルンッ!


「(は!? 何したのさ小笹? 身体が回されたさぁ!)」


   ガチッ!   グウウンッ  ダダァンッ!


「(・・・・・・つっ!)」


 今度は、小笹が美鈴の腕刀打ちをそのまま掴み、片手で相手の帯を掴んで両腕を回すようにして崩した。これは、小笹が隠し持っている和合流の技法だ。そして、脇の下から腕を絡めるようにして肩を掴み、四股立ちで重心を真下に落とし、地面に杭を打つようにして美鈴を床に叩き落とした。


「ツアアアーーーイッ!」


   フワアッ   ゴオオッ!


 小笹は、上空から獲物へ急降下するハヤブサのような目で、床に転がる美鈴の胴体へ強烈な踵落としを振り下ろした。こんな動きやこんな技を試合でやったら即、危険行為の忠告を主審から受けるであろう。しかし、地稽古では、お互いの自己責任のもとに技を掛け合うのだ。これも、ありなのである。


「(踵落とし! セーサンの形にある蹴りではない。これは・・・・・・テコンドー!?)」


   ベシイイッ!  ドガアッ!   


 まるでチャンバラ映画の侍が刀を刀で受け止め鎬を削るかのように、小笹の踵落としへ対し美鈴は下から弧を描くように蹴りをぶつけて払う。そして両者は、何事もなかったかのように立ちあがった。


「(くすっ。久々の地稽古でアツくなっちゃったぁッ! あれを防ぐか美鈴。さっすがぁ!)」

「(小笹めぇ、あたしの知らない技をどんどんかけてくるとは、相変わらず面白いさぁっ!)」


   スススッ   ヒュルンヒュルウンッ ヒュウンヒュルウンッ!


「(・・・・・・っ! 何、この小笹の動き!?)」


 小笹は、インターハイ予選で見せた独特な真横向きの構えから、回転を加えた連続の回し蹴りを四発放つ。接近戦ではなく、中間距離からの竜巻のような四連蹴りだ。


「(派手な技さぁ! でもねぇ小笹、これは地稽古さぁっ! 甘ぁいよぉッ!)」


   すうっ・・・・・・ ガッシイン  ベシイッ   ガッ  ギュウウウッ・・・・・・


「つうぅあああぁーーーっ!」


   ブウウンッ  ダダダァァァンッ!


「(い、いったぁーっ・・・・・・。美鈴め、遠慮しないな本当にぃ!)」


 美鈴は、息を吸って腹筋や身体のあちこちを締め、防御力を高めたまま小笹の蹴りをそのまま身体で受け、後ろ回し蹴りの軌道に入ったところを、身体をくっつけてそのまま後ろ襟と蹴り足を掴み、ずしんと四股立ちで腰を落として小笹を大きく投げ飛ばした。

 この攻防を見ていた神長や森畑曰く、美鈴の使った技はセイエンチンの形に出てくる動きの応用らしい。


   キュルンッ  パシイ バシイッ!   ぐらあっ


「(うわぁっ? しまった!)」

「(くすっ! 油断大敵だよ美鈴ーっ!)」


 投げられて床に這いつくばったと思わせ、小笹は両足のひらを使って美鈴の足首と膝を外側に押し開いた。両足を内側から外向きに崩され、今度は美鈴が体勢を崩した。


「ツアアアアーーーイッ!」


   ベッッシイイイインッ!  バチイインッ!


 そこに、鞭のようにしなる小笹の中段回し蹴りが炸裂。地稽古なので、思いっきり当てた。

 元々この稽古は、技の強さや身体の強さを鍛えるためでもある。しかし、かなり痛そうな音だ。さらにそこへ、首の付け根へ強力な突きがだめ押しで入った。

 かつて、等星女子高主将の崎岡有華さきおかゆかのあばら骨へ一瞬でヒビを入れたほどの、小笹の突き。でも美鈴は、痛そうな顔をしてはいるが、口元は笑っている。目も輝いたままだ。尋常じゃない打たれ強さを見せた。


「(美鈴も、相変わらず頑丈な身体だなぁッ! ふつーなら、今ので『まいった』なのになぁ)」

「(昔から、目新しいことが好きだった小笹らしい組手だなぁ。でも、これはどーぉ?)」


   ガシ  グイッ   ドッスウウンッ!


「(うぁ・・・・・・っ。けほっ・・・・・・)」


 突きを叩き込んだために、美鈴へ接近ていた小笹。そのみぞおちに、美鈴は右拳による強烈な中段の裏突きを入れた。左手では、小笹の胸元の前襟をがしっと掴み、引っ張り込むようにして突きの威力を高めたようだ。セーパイの形に同じような動きがあるが、ボクシングで言うボディアッパーと同じ技である裏突きは、接近戦でものすごい威力を発揮する。


「けほっ・・・・・・。・・・・・・みすずーっ! ワタシのおなかを、いじめたなぁーッ!」

「え! 肘っ!」


   ヒュラァンッ・・・・・・  ドガアアッ!


「あ、あっぶな・・・・・・。回し肘当て! あはははぁっ! 怒るな怒るな、小笹!」

「あー、もうッ! 防いじゃうんだもんなぁーッ、コレも! くすっ。楽しいなぁッ美鈴!」


 片手のふさがった美鈴の右側頭部へ、小笹は同じ接近戦技である肘当てを思い切り振り込んだ。

 間一髪で、裏突きを引き戻して美鈴は肘当てをブロック。二人とも、技はとんでもなく破壊力ある音を飛ばし合っているのに、無邪気に遊ぶかのような笑顔。見ている柏沼メンバーにとっては、ある意味怖い光景かもしれない。


「す、すっげぇ。インターハイ前にこんなにやっちゃって、だいじかぁ? 末永のやつさぁ、けっこう本気で技を出してるねぇー」

「そうだね田村君。まるで試合の組手とは違うね、地稽古。『自由組手』って言い方、僕らはあまりしないけど、そういうことか。本当に、自由度が高い稽古なんだなぁ。いろんな技を反復稽古する対人練習の『約束組手』の応用みたいだ」

「アタシ、あんなにバチバチ当て合ったら、大会前じゃ痛くて動けなくなりそう。でもさぁ、確かに空手は本来、実戦想定の格闘技だもん。これは、ケガさえ気をつければ、すごくいい稽古で楽しそうだよ! ・・・・・・まぁ、痛いだろうけどさ。菜美も、やるなら一緒にやろう!」

「うわぁー、私はあそこまでできる自信ないよ。しかし小笹、実戦用の技いくつも知ってるね。さすがだわ。そして小笹のイトコだけあって、美鈴ちゃんもすごい地力を持ってる!」

「さっき、サンチンガーミィで指先鍛える話があったけど、さっきからこの二人、とにかく接近戦であちこち掴んで技をかけてるなぁ。那覇手の流れをくむ剛道流は接近戦が本業とも言える技法だけど、ああやって鍛錬を活かせるのか・・・・・・。だっははは! すげぇや。俺も鍛えよう。同じ剛道流として!」

「踵落としだの、ボディアッパーだの、巻き落としの投げだの肘当てだの、ちっこい女の子でも本気で使うとあんなにおっかねぇのか! ぶるぶる。ぶるぶる。やっぱ、組手こえぇなぁ」

「井上、組手が怖いんじゃない。空手の技が持つ本来の意味や破壊力が怖いんだ。拳サポーターをして、メンホーつけて、メダルを狙うだけの部活メニューだけをやっていたら、この二人のような地稽古はできないと思う。強さや、技の、方向性がまず違う。競技じゃない。ポイントじゃない。いざというときに身を守るために磨く、言わば『懐刀ふところがたな』なのだろう」

 

   ドガアッ!  グウイッ  ベシャ  

   バチンバチイン  バキイッ!  バチイッ!

   サササッ  シュルンシュルン  パチイインッ

   ベシイッ!  ドガアッ!


「「 このぉーっ! 」」


 三年生メンバーはみな、道場の板張り壁を背にして二人の地稽古を見ながら語る。その合間にも、二人はものすごいぶつかり合いで、生々しい音や乾いた音を響かせながら技を掛け合っている。


「ほいほいっ。もーぉ、そのくらいでやめときなぁ。止めぇ! それまでっ」


 キヨがニコニコして、二人の間に割り入って止めた。小笹と美鈴は目を吊り上がらせながらも、口元はにっこりと笑っている。そして、ほとんど息を乱していない。


「ふぅ。・・・・・・あーすっきりしたッ! 美鈴、相変わらず形の技やってくるのねぇッ!」

「小笹こそ。剛道流だけの技じゃぁないねぇ? 沖縄以外で身につけた技が面白かったさぁ!」


 地稽古は時間にして、五分ほどだったようだ。

 見ていたメンバーには、時計の針と時の流れが噛み合っていない気がしたことだろう。


「「 ・・・・・・ね? 」」


 みんな、「なにが?」と二人に言いたい顔だった。要は二人とも、地稽古はこんな感じでやれと言いたかったようだが、あまりにも激しすぎて、メンバー十二人はぽかんとした顔。


「とりあえず、あんな激しくやれとは言わないからぁ。みんな、やってみよーよぉっ。どぉ?」


 小笹のこの言葉に、真っ先に手を挙げたのは田村と川田と森畑だった。そして次いで長谷川が挙手。

 小笹を含めると人数が奇数になるので、ペアを組んでいったら長谷川は美鈴とやることになった。もちろん、顔がにやけた長谷川は、美鈴に完膚なきまでに地稽古ではべこべこにやられてしまった。

 でもみんな、いい汗を流し、すごく充実した時間を過ごしていった。


「・・・・・・お互いに礼。はい、みなさん、また次回も元気にね。高校生も、お疲れ様さぁ」


 温かみのあるキヨの言葉で、稽古終了。

 そしてこの後は、民宿での待ちに待った夕食宴会タイムだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 沖縄編になって、小笹さんが本当に生き生きとしてる!それが嬉しいですね。 しかし、第一部で田村主将の強さが際立ってたのに、沖縄の学生王者に簡単にやられるなんて。 上には上があるのですね。まだ…
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