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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第6章 思いを引き継いで・・・
106/106

2-106、新たな時代へ! 空手道部、世代交代!

 三年生は、せっかくなので後輩たちとモモミヤンで軽く食事をして帰ることになった。


「じゃ、先輩、わたしたち先に行って、座席取っておきますね。また、あとでー」

「おねがいね、恭子。アタシら、着替えたらすぐ行くからねー」


 元気な後輩たちは、全力疾走でモモミヤンへ向かった。

 内山が自転車で追いかけるも、長谷川のダッシュに追いつけないらしい。予想以上に、長谷川と阿部は、足が速くなったようだ。


「いやー、でもほんと、今日はいい日になったなぁ。まさか、あんなサプライズがあるなんてなぁー。俺たち、先輩らが卒業の時はプレゼントあげたけど、部活最終日には平気でビシバシ組手やってたしなぁー」

「去年、ちょうど今日みたいな日、中村君が先輩に蹴り入れて突き指させてたよね?」

「いや、まぁ、なんだ。おれも去年は、今日みたいなことはまったく考えてなかったんでな」


 そんな雑談をしている中、川田は携帯を見つめながら、何やら驚いた表情。


「そういや真波。部活の時、携帯鳴ってたみたいだけど、どうかした?」

「いや・・・・・・。メールが二件入ってたんだけどさ・・・・・・」

「「「「「 ん? 」」」」」


 川田がみんなにメールの内容を見せた。その内容に、みんな、何とも言えない表情を見せた。まずは、一通目。


―――『柏沼のみなさーんッ! いやー、驚きのコトになったよぉーッ! なぁーんとッ、海月女学院高校に、空手道同好会が誕生しまぁーっす! 指導者は、内緒ー』―――


「「「「「 ええぇっ! 」」」」」

「なにこれ! 小笹? 海月に空手道同好会? どういうことーっ!」

「アタシにもわかんない。インターハイ準優勝だし、なんか校内で変化があったのかもよ! でも、誰よ、小笹たちの指導者ってー? 小笹以外にも、きっと、空手やりたいメンバーが集まったんだろうね! ・・・・・・よかったね、小笹も。これで、また、変化があるよ!」


 海月女学院高校は、もしかすると、秋の一年生大会や新人戦で、小笹以外のメンバーも出てくるかもしれない。違う世代の新しい風が、どんどんと入ってくる感じとなった。

 そして、二通目はなんと、等星女子の朝香からだった。


―――『日々の稽古、お疲れさまです。柏沼高校は、次代への引き継ぎはありましたか? 等星は、大澤美月が新主将、副将は一年の矢萩和光という新体制になります』―――


「大澤が主将か。まぁ、妥当かもね。副将が矢萩ねぇ。なーんかなぁ、実力主義の等星らしい布陣かもー。それよりもアタシ、朝香のメールの書き方に笑ったな。まるで役所の人がさ、お堅く書いたような感じなんだもん。ある意味、朝香らしいかもねー」

「どこも、世代交代なんだねー。秋の大会は、私たちが抜けて、恭子たち五人で挑むようだものね。小笹だの大澤だの矢萩だの、女子はインターハイ上位級の強敵ばっかりだぁー」

「ま、だいじだ。俺たちの背中を沖縄でたくさん見てっから、それなりの意地が後輩らにもあるはずだから。勝ち負けも大事だけど、俺たちから何を学んで受け継いだか、が重要になるんじゃないかねぇー?」

「そうだね。きっと、阿部さんたちだって、僕たちの姿から学び取って、今までよりもっと成長してくれるはずだよ! 末永さんらや、等星にだって、きっと負けない心の強さができてるはずだよね!」

「恭ちゃんらも、不安でいっぱいなはずだ。何だかんだで、俺たちにずーっとくっついていたのが、今日で独り立ちしなきゃなんないんだしな。まぁ、たまーに俺たちもまた稽古に行くだろうけど、五人でどれだけのことをやっていけるか、見守ってあげないとな」

「過干渉ではよくないからな。阿部は川田がずっと叩き上げてきた後輩だ。何だかんだで、根性はある。だいじょうぶだろう。最近は、朝練や自主練も黙々とやっているみたいだしな」

「日新はどうなんだろうな? まぁ、きっと、畝松虎次郎だろ? 尚久んとこには、二斗から連絡ねーの?」

「ないねー。まぁ、畝松に引き継ぐようなことは、以前聞いたから、きっとそうだよー」


 どこの部も、次世代への引き継ぎが行われているようだ。こうして毎年、この時期には世代交代が行われ、先輩から後輩へ、新たな体制でそれぞれの伝統や思いが引き継がれる。

 三年生もこれまで、様々な先輩や他校生との出会い、様々な大会での経験などを積んで、今日の阿部たちのように、先輩との引き継ぎを行ったのだ。

 春季大会、インターハイ予選、国体予選、そして沖縄インターハイなどの場で、後輩たちは先輩からだけでなく、様々な人や場面から、多くのものを吸収し、糧としたに違いない。そしてそれがきっと、三年生の先輩が抜けた後の部で、次の世代を引き継いだ阿部たちが、次の世代に伝えていくのだろう。

 三年生七人は、七色に光るそれぞれの玉を見つめながら、武道場を施錠してモモミヤンへと向かった。川田と神長が、道中それをずっと夕陽に照らしながら笑顔で眺めて歩いていた。


「せんぱーいっ、こっちこっちーっ! 待ってましたよぉー」

「早く、美味しいの食べましょうよぉーっ! もも杏仁、売り切れちゃいますよー」

「こっちです。日が暮れちゃいますから、はやく頼みましょうーっ!」

「中村先輩ーっ。今日は自分と、語らいあいましょう! 男と男の話を!」

「さぁ、先輩方。部活のことは忘れて、今日は、思いっきり笑いましょう! 食べましょう! わたしも、みんなも、待ってましたよ!」


 お店では、いつもの元気な五人が、外よりも明るい輝きを放ってこちらへ手を振っていた。

 いつもよりもなぜか、後輩たちが、眩しかった。

 その後輩たちの和に、真っ先に駆け込んだのは田村だった。続いて森畑、川田、井上、神長がテンションをやたら上げて入っていった。


「さぁ、前原。おれたちも、めいっぱい、楽しむとしよう!」

「そうだね、中村君。・・・・・・おーいっ! 僕たちの席も空けてよーっ!」


 思いを引き継いだ五人。思いを伝えた七人。日が暮れるまで、思いっきり話して、笑い合った。

 前原たちの手元には、様々な思いの詰まった涙が晴れた後に、虹が架かって輝いていた。


   ~~~ 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫 ~~~


 世代は変わっても、部員の絆に変わりはない。空手の道も、まだまだ終わりは見えていない。






 第二部、完。

 そして、物語は最終部「第三部」へ・・・・・・

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第二部完結、おめでとうございます。 武道はその本質を残しながら、少しづつ形を変えて受け継がれて行くのですね。 甚九郎さんの小説を読むと今の武道の形を教えられます。 第三部を楽しみにしていま…
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