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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第6章 思いを引き継いで・・・
103/106

2-103、世代交代に向けて

   カカカッ  カカカカカッ   カカッ


「・・・・・・~~~ここのぉ書き下し文で注意するのはぁー、このぉー、構文による返り点でー・・・・・・」


   ~~~♪ ~~~♪♪ ~~~♪♪♪ ~~~♪


「あー・・・・・・。アタシ、漢文も苦手だぁー・・・・・・。でも、今日も課外、やっと終わったぁー」


   ぱた  ぱた  ぱた  ぱた


「へばってるねー、真波! おつかれーっ!」

「菜美ー・・・・・・。なんで漢文って、漢字ばっかりなんだろうか・・・・・・。アタシ、漢字のない国に将来住もうかなぁー・・・・・・」

「なぁに言ってんの? 漢文って言うくらいだからこそ、漢字ばっかりなんだよ」

「おつかれ、森畑さん。二人して、よくわかんない話してるけど・・・・・・いよいよあと三日で、僕たちも部活終わりだね。森畑さんは、今日も実行委員の打ち合わせ?」

「そうなのよー。もう、来月の二週目の金土でしょぉ! もう、実行委員会もドタバタで毎日忙しくってたまんないよ。まぁ、最後だから、いい思い出にしないとね!」


 来月の半ばには、柏沼高校の文化祭である「柏葉祭」が開かれる。金曜日は東体育館でセレモニーとステージ発表部門、そして各部活動や家庭クラブ、生徒会などによる出し物がある。そして土曜日は一般公開。校内外で各クラスごとの模擬店や、各部の体験コーナーなどで賑わうイベントだ。

 森畑は実行委員長らしく、その行事の準備でいま、大忙し。


「ねぇ、菜美は今日、ちょっと打ち合わせ抜けられる? 明後日には、もう、さ・・・・・・」

「あ。そうだね。田村と前原で、だいたいの案はもう固まってる?」

「うん、まぁ。田村君や川田さんとも話したけど、今日、三年生全員でそれについて相談をしたいんだ。もし可能なら部活後、僕たちの案を固めて、早川先生にも出さないとね」

「そっか。わかった。たぶん今日は、副委員長に任せてみるのもだいじだと思うから、そしたら私も話し合いに入るね。・・・・・・じゃ、とりあえず、私いくねっ。またね!」

「はぁーい。またねー。じゃ、夕方にね」

「ファイト! 森畑委員長。僕たちもお昼食べたら武道場にいるからねー」


 森畑は資料のファイルをいくつか持って、クラスの友達と小会議室の方へ行ってしまった。廊下で、他のクラスの実行委員とどんどん合流し、歩きながらあれこれ指示を出している姿は、まるでキャリアウーマンのようだ。


「頑張ってるねぇ、菜美はー。アタシは美化委員長だけど、なーんもやってないなー」

「なんで? 川田さんだって、美化活動よくやってるじゃん。西門前の落ち葉掃きとか、校舎周りの空き缶拾いとかさ?」

「なーんかねー・・・・・・。インターハイ終わったら、ちょっとアタシ、気が緩んだかもー」

「まぁ、それは・・・・・・。僕も同じかなー・・・・・・。なんかさ、のーんびりした気持ちというか、大激闘の反動というか、さ。気が入らないような感じだねー」

「今まで、毎月のように大会だのあったもんね。アタシも、県指定の強化練習、今はあまり行けてないしなー。・・・・・・はぁーっ、なーんかなぁー・・・・・・」

「まなみー。お昼どうするの? 焼きそば屋さん行こーよー」

「今日、焼きそば、半額なんだってさ! まなみも行こうよ!」

「焼きそば! いいねぇ! 行こう行こう! じゃ、前原も、お昼食べたらまた武道場でね! ちゃんとお昼、食べるんだぞー? ・・・・・・ねー、待って。アタシも行くからー・・・・・・」


 川田はバッグを持って、友達と教室から駆けていった。階段で何やら騒がしかったが、急いで駆け下りて、転んだらしい。


「おっす、前原! あれ? 川田はいねーんかぁ?」

「ついさっき、奈良さんや後藤さんらと、焼きそば屋さんいっちゃったよ。田村君はお昼、どうする? 僕も、持ってきてないから、どっか買いに行くか、食べに行くかだけど・・・・・・」

「そーだねぇー。・・・・・・モモミヤンまで行く時間はないからなぁ。三本松農園も、夏休み期間は売りに来てないしなぁ。・・・・・・『ゆみちゃんラーメン』でも、チャレンジすっか?」

「ゆ、ゆみちゃんラーメン・・・・・・ね」


 ゆみちゃんラーメンとは、学校から歩いて五分ほどの場所にある、寺に隣接した小さな町中華屋だ。店内は五人も入ったら満員なくらい小さく、お年を召したおばちゃん一人で切り盛りしているが、とにかく、全メニューをワンコインで食べられるのがありがたい店だ。しかも、その量がとんでもないので、運動部には重宝されている。味はまぁ、人それぞれで好みが分かれると言われているようだが。

 前原と田村は神長も誘って、三人でゆみちゃんラーメンへ歩いて向かった。田村は中村も誘ってみたが、彼は学習委員長として、夏休み明け後すぐにある校内一斉百人一首テストの準備で忙しいようだ。蒸しパンを頬張って、委員会の資料を大量に印刷していたらしい。

 お店へ入ると、田村たちより先に、剣道部の人が二人来ており、先に食べていた。


「お! 田村じゃん。空手道部も、ここで運気アップに来たんか?」

「そんなんじゃねーよぉ。もう、俺ら大会ないしな。剣道部だって同じだべ」


 ここの超大盛りのラーメン&どんぶりチャーハンセット、通称「セット」を十分以内に食べきると、全国大会に出られるという。その謎のジンクスが、柏沼高校七不思議のように都市伝説化しているほどだ。それゆえ、運動部も文化部も関係なく、ここのセットを注文する生徒は多い。


「ま、俺らも食べようかねぇ。おばちゃん、俺、久々のセットね!」

「尚ちゃんがセットなら、久々に、俺も! おばちゃん、おねがい!」

「え、二人とも、セット? じゃ、僕は・・・・・・もやしラーメンで」

「あいよ! すぐやっから、待ってな。食べきんなきゃ、持ち帰っていいかんね」


 おばちゃんが中華鍋を振る音が響く。ぱらりとしたチャーハンが、炎の上を踊り舞う。


   じゅわわー  じゅー  ぱららららら  じゅー


「あいよ! 置いとくから、持っていきな!」

「「「 いただきますーっ! 」」」

「はふ、はふ。あっちぃな(もぐもぐ)このチャーハン(もぐもぐ)きょうはうまいな」

「(もぐもぐもぐ)なおちゃん(もぐもぐ)たべるの、はやいな(ずぞぞぞぞ)」

「熱うっ! もやしラーメン・・・・・・麺が見えないや。おばちゃん、今日、もやし多くない?」


 田村と神長はなんと八分でセット完食。前原はもやしラーメンのスープが熱すぎて、さらにはもやしも多すぎて、二十分もかかってしまった。でも、かなりお腹は満たされたようだ。


   * * * * *


「やああぁぁぁーっ!  やああぁっ!」


   パパァンッ  パパンパパンパパァン!


「もっと踏み込みな、恭子! 身体ごとアタシにぶつけるくらいで! 当たりが弱いよ!」

「はい! やああぁぁっ!」


   パパァンッ  パシインッ!


「たあああぁぁーーーーいっ!」


   シュンッ・・・・・・  シュバババババアッ  シュバババババアッ!


「うわあっ・・・・・・」


   バアンッ!  どたっ


「ほらほら、まだまだ! 恭子、相手が手数で攻めてきても、慌てないこと。焦らないこと。しっかりと間合いを切るか、横に回って攻撃の動線を外すか、方法はいくつもあるんだから」

「は、はいっ! もう一本、お願いします!」


   パパパパァン!  パパァンッ!  バアンッ!


 阿部は今日、川田にマンツーマンで稽古をつけてもらっている。前原と神長は、大南と内山に組手指導中。基本的な約束組手をやった後に、今から自由打ち込みに入るところだ。


「よし! じゃあ、真衣ちゃん。俺に何でもいいからどんどん技をかけること!」

「は、はいっ。神長せんぱい、おねがいします」

「じゃ、僕らも始めようか。大南さん、蹴り技でもなんでもいいからね?」

「はい! では、いきますっ!」

「えいいっ! えいっ!  えいえいえいっ!」


   ぽふ  ぽひゅ  ぽんっ  ぽぽんっ  ぽこおっ


「キイィィィーーーーーーーヤァーーーーーーーーッ!」


   パチンッ  パパンッ  パンッ  パチパチッ


「いいぞ真衣ちゃん。もっともっと! もっと強く打ってこいっ!」

「は、はいっ!  えいいっ! えいーっ・・・・・・」


   ぽぽぽぽん  ぽこん  ぽぽおんっ  ぽこぽこぽこっ


「お、大南さん。剣道じゃないから、気合いは、そこまで叫ばなくていいからね?」

「あ。はい。そうでしたね! ・・・・・・キイヤァーーーーーーーーッ!」


   パパパン  パパンッ  パンッ パパンッ


「いいぞ。真衣ちゃん、紗代ちゃん、インターハイで見て学んだことを、動きのイメージに乗せてごらん? そうすっと、けっこう技の強さやスピードに変化がでるかもなぁ」

「「 (インターハイで・・・・・・学んだこと。・・・・・・よぉし!) 」」

「えいいいぃーっ!」


   ポヒュッ  ヒュン ポポポポンッ  ヒュン  タンッ ポコポコポコッ


「キイヤァーーーーーーッ!」


   シュパンッ  シュパパッ  パパパァン  ヒュン  パパパァン!


 一年生も少しずつではあるが、しっかりと毎日稽古を積んで成長している。

 内山が、組手を怖がらずに一生懸命に技を出すようになった。大南も、単発でしか打てなかった突きに、蹴り技を少しだけ加えるコンビネーションを、時折見せるようになった。


「ほら、恭子! アタシを倒す気でかかってこいっ! ほらぁ、突っ込みが甘いーっ!」

「はいっ! ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。やああああぁーっ!」

「いいよ真衣ちゃん! 誰か今、強い人をイメージしているな? その調子、その調子!」

「はい。・・・・・・ふぅ・・・・・・ふぅ・・・・・・。つよくならなきゃ!」

「良くなってるね大南さん。蹴りも、だんだんうまくなってるよ!」

「ありがとうございます! よぉし、もっとやります!」


 女子三人、今日は組手の強化中だ。特に川田が、まるで大会前でもあるかのような厳しさで阿部に稽古をつけている。


「おぉー。女子、頑張るねぇー。よし、じゃ、こっちもどんどんやろうやぁ」

「おねがいします!」

「よろしくおねがいします、田村先輩!」


 田村は、長谷川と黒川の二人を相手に、打ち込み役で指導中。

 阿部、長谷川、黒川の三人は、うまくいけば来月の審査会で黒帯取得になるかもしれないとのことだ。


「よし。まず、黒川から好きにかかってこい。迷わずに、どんどん来いよなぁ」

「いきます! ・・・・・・やーーーーーー。やーーーーーーーー」


   トトォン  トンッ  トトトトトォン  トトンッ


 独特な気合いを発する黒川。

 田村に向かって、鶏がつつくような小刻みの連突きを仕掛けている。威力はないが、回転力はそこそこにある。


「甘いねぇ黒川! もっと突きを伸ばさないと、カウンターで引き込まれっちまうぞぉ」

「は、はい!  やーーーーーーー。やぁーーーーーーーーー」

「そりゃ!」


   シュンッ・・・・・・   シュパアァァンッ!


「ほら。リーチ差のある相手にはもっと、伸ばしてみ? 今みたくやられっちまうんだ」

「はい。ありがとうございました。・・・・・・みつる、交替な!」

「おねがいします! 自分、長谷川、いきます!」


 黒川と交替した長谷川は、がちっと構え、思いっきり田村にかかっていった。


「とりゃあっ! とりゃあぁっ!」


   ドドドンッ  ドンッ  ドドドンッ  バチンッ


「いいねぇ長谷川。でも、もちっとスピードが欲しいな。黒川の回転力、参考にしてみー」

「は、はい。・・・・・・とりゃりゃーーっ!」


   グイッ  グウッ   ばたああぁぁんっ


「ほれ、突きの引きが遅いから、入り込まれて崩されちまうんだ。もっと速く打ってみ」


 二年生男子も、田村にみっちりと指導を受け、着実に成長中。

 後輩達五人は、こんな調子で三年生からひとつずつ学び、伸びている。

 きっといま、この瞬間がすごく伸び盛りで楽しいのだろう。


「(このまま、しっかりと精神力も技術力も上げて、上を目指してくれるといいな)」


 前原は、後輩たちの目覚ましい成長を目の前にして、ふと、そんなことを感じていた。

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