2-102、次世代の部員候補たち、集う
がやがやがやがやがやがやがやがや がやがやがやがやがやがやがやがや
わいわいわいわいわいわいわいわい わいわいわいわいわいわいわいわい
がやがやがやがやがやがやがやがや がやがやがやがやがやがやがやがや
わいわいわいわいわいわいわいわい わいわいわいわいわいわいわいわい
~~~ 校舎内見学のみなさんは東体育館に集まって下さいーっ! ~~~
~~~ 部活動見学のみなさんは西体育館で説明をしますので・・・・・・~~~
「いやぁー、いっぱいいるねぇ。初々しいねぇ」
「こんなだったのかなぁ、僕たちも。なんか、懐かしいねー」
「アタシ、この時なにしてたっけなぁ? 柏沼高校はずっと近所で知ってたしなぁ」
「悠樹! 俺、そんじゃ案内係になってるから、行ってくるわ。部活見学、宜しく頼むぜ! 行こうぜ菜美、道太郎! 道太郎は、六組教室の係だったよな?」
「泰ちゃんが六組だよ。俺は五組教室の係だぞぉ?」
「道太郎も間違ってるよ! 私が五組教室担当。あんたは七組教室だってば!」
「これが終わると、いよいよ二学期まであと一週間って感じだな。おれも懐かしいな」
今日は八月下旬にある恒例の「高校一日体験オリエンテーション」の日。
県内各地から中学三年生が見学に訪れ、来年入学する高校の参考にする大切なイベントだ。
柏沼高校では、校内見学と説明会、そして部活動見学が行われる。前原たちは、森畑、井上、神長が各クラスから出される校内見学の係になったようで、残りの三年生メンバーで部活動見学を担当することになった。なお、一年生と二年生は普通に課外授業中。その様子も、中学生たちは見学することになる。
「じゃ、俺たちは武道場で着替えてスタンバイしてようぜ? 来年度に繋がる、重要な営業活動と言ってもいいねぇー」
「まったくだな。初心者でも経験者でもいいから、来年、たくさん増えてほしいものだ」
サラサササァ~・・・・・・
サササァァサササァ~・・・・・・
サラササササァ~・・・・・・
サラサラサササァァサササァ~・・・・・・
木の葉が囁き、心地よい風が武道場へ入っては吹き抜けてゆく。
前原たちはモップ掛けをし、雑巾であちこちきれいに磨き、いつ誰が来ても大丈夫なように隅々まで念入りに掃除をした。
川田は「一年生の頃に戻ったかのような気分」と言い、にこにこして目を輝かせている。
ざし ざし ざし ざし ざし ざし
ざしし ざしし ざしし ざしし ざしし
~~~ ここが武道場だって? 空手道部、ここだってさー ~~~
「お! 来たね来たねぇ! ねぇ田村、女子はアタシがメインでいいかな?」
「まかせるよぉ。来年いっぱい入るように、いい先輩を演じろよな川田?」
「ひっどぉい。アタシ、常にいい先輩だと思うんだけどなぁー」
「靴音がいくつかあったね。四人くらいいそうだよ?」
からっ・・・・・・ からりからりからり・・・・・・
「し、しつれいしまぁーす・・・・・・。あのぉ、見学よろしいでしょうか?」
戸を開けたのは、ものすごく腰の低い中学生男子だった。その後ろに、女子二名と、ぽっちゃりした男子が一人、ついてきていた。
「「「「「 はいぃ! いらっしゃいませーっ! 何名様でしょうか! 」」」」」
「(ねぇ、田村君・・・・・・。これじゃまるで回転寿司だよ! なんか、ちがくない?)」
「(だって、川田がこれがいいって・・・・・・。まぁ、変だよな。普通にいこうぜ)」
「よく来てくれたねー中学生! ようこそ、柏沼高校空手道部へ! 上がって上がって!」
「「「「 し、しつれいします 」」」」
中学三年生って、こんなに幼く見えるものだろうか。僕たちが大人になったのだろうか。
「ありがとうね、来てくれて。一応、あと一週間で終わっちゃうけど、主将の田村尚久といいます。よろしく!」
「アタシは川田真波です! 女子主将ってのはいないけど、今日は、みんなのことを歓迎して待っていた、この部のお姉さん的存在かなー」
「僕は前原悠樹と申します。副将を一応やってます。本日はどうぞよろしくお願いします」
「おれは中村陽二です。この三人とは同期なんだ。今日は楽しんでいって下さい」
「「「「 よ、よろしくおねがいします 」」」」
なんか、田村たちの勢いのせいなのか、高校三年生を前にしているせいなのか、中学生たちはやたらと萎縮している感じだ。やはり、田村の回転寿司方式の挨拶が、だめだったのだろうか。
「えっと、じゃあ、この中で、空手経験者はいるのかな? だれかいるー?」
川田の元気な声に圧倒されるように、おどおどと二人、手を挙げた。
「は、はい・・・・・・。えっと、あのー、わたし、一応、松楓館流の少年初段を・・・・・・」
「えーとえーと、ぼくも、一応、和合流の少年初段を、もってます・・・・・・」
「へぇーっ! いいねいいねーっ! きみたち、名前教えて? ぜひ柏沼高校入ってよ!」
「は、はい・・・・・・。えっと、わたしは、柏沼北中学校の、磯原ひなといいます。あ、でも、初段って言っても、めっちゃ弱いです! その、はい・・・・・・」
「ぼくもおなじく、柏沼北中、青木康太です。ぼくも、そんなに強くないんですけど・・・・・・」
「ありがとっ! いやぁ、経験者が見学来たのなんて、きっとアタシらの代以来じゃない?」
「そうかもね。そちらのお二人は、空手はやったことないのかな? お名前、いいかな?」
「へ、へいっ。おいらは柏沼南中の貝島拳悟っす。ボクシングやってましたっす。へい」
「明日市中学校の藤野風花っていいまーす。ふーちゃんってよんでください。ふーちゃんは、少林寺拳法やってましたけど、空手は初めてでーす」
なんとも初々しい。制服もそれぞれ違う、個性派の中学生たち。前原は、「武道経験があるのはいいかもしれない」と思っていた。
「いやぁ、田村、この子たちが来年入ってくれれば、全員で九名だ。男子があと一人来れば、男女とも団体が組めるぞ! いい感じじゃないか。おれたちの頃を思い出すなぁ」
「そうだねぇ。しかし、個性的なキャラだなぁ。男子あと一人、ほしいよねぇー」
からっ・・・・・・ からりからり・・・・・・ からからからっ・・・・・・
「こんちゃーーーーーーーーーーーーーーすっ! いいすかぁーっ? ういっす!」
そんな話をしていた最中に、また玄関の戸が開き、ものすごくテンションの高い中学生が見学に訪れた。
「ほら、噂をすれば、だ! 男子のお出ましだ。頼もしいな!」
「はいはい! いらっしゃい。楽しんでいってね! 空手経験とかお名前、よかったらアタシらに教えて?」
「はっはーっ。ういっす! 栃木北中学の、権田原ミナトっすーっ! 兄ちゃんが、国学園栃木高校の空手部っすよ! でも俺っちは、柏沼高校がいーんで、来ましたーっ! 空手は、
ずーっと、ちっけぇ頃からやってましたっすよぉー。ういっ! 趣味は、芋掘りっす!」
「・・・・・・国学園栃木の、権田原君の弟ぉ? あ、そうか、まぁ、わかるよ。うん・・・・・・」
「な、何が何だかよくわかんねーけど、とりあえず、せっかく来てくれたんだ。来年ぜひ、みなさん柏沼高校に受かったら、空手道部へ入ってくれよぉ。楽しいぞぉー」
そして前原たちは、見学に来た中学生たちの前で、形の演武や組手稽古のデモンストレーションを行ったり、薄い杉板を正拳で割ったりもした。試割りなんて、いつ以来だろう。
座っててもらうのもあれなので、中学生に体験として拳サポーターをつけてのミット打ちをやってもらったりもした。経験者三人は、さすがにできる。少林寺拳法やボクシングの経験がある二人も、空手とは打ち方が違うものの、なかなか筋のいい動きを見せてくれた。
「はい、おつかれさま。みんな、すごく素質があるし、いいもの持ってるね。おれが見ても、すごく伸びる原石だと思うよ。ぜひ、この部に入って、活躍してほしいな」
中村が眼鏡をくいっとあげて、にっこり微笑んで中学生たちに声をかけた。その雰囲気に、中学生女子二人は、何だか見とれているような感じだ。
「えっと、あの、あの、えーと、中村・・・・・・さん・・・・・・。わたし、これまで、あの、ほとんど一回戦負けなんです、試合・・・・・・。組手、苦手なんです・・・・・・。あの、その、カウンターしか、できなくて・・・・・・」
・・・・・・きらんっ!
「ほぅ。きみは、待ち拳型ってわけか! それは尚更良い! ちょっと見せて?」
いきなり中村は目を輝かせて、おどおどする中学生に、組手構えで立つように指示した。
「あの、その、えっと、その・・・・・・」
「きみは、素質の原石だ。柏沼高校に入れば、きっと、強くなるぞ。おれが保証しよう」
「おーい。なかむらー? おーいおーい。中学生は、見学なんだぞー? アタシ心配だよー」
「川田、ちょっと眼鏡を持っててくれないか? なに、心配はいらない」
すっ・・・・・・
中村は眼鏡を外して、すっと構えた。中学生女子相手に、いったい、何をするのか。
「自信を持って! 待ち拳しかできないなら、それをこの部で磨くといい。おれの刻み突きになにか、好きなカウンターを合わせてみてくれ?」
「ええぇ! いや、その、あの、むりです。だって高校生だし、その、えーと・・・・・・」
しどろもどろの中学生。川田も呆れ顔。しかし、田村はいつの間にか真剣な目でその様子を見つめていた。
「さぁ、やってみよう! いくよ!」
「な、中村君! 見学に来た中学生に技を仕掛けたなんてバレたら大変だよーっ」
「ま、だいじだ前原。ちょっと見てみようぜ。他の中学生も真剣に見てんぞ? 俺も興味あるしねぇー」
中村の強引な流れに観念したのか、中学生も、一瞬で気を引き締めたようだ。
すすっ すうっ ぱしっ ぱしっ たぁん!
「も、もう、やってみるしかないんですね・・・・・・。ふうぅーっ・・・・・・(ぎらっ)」
「え! 何だあの子、すごくいい構えだ! さっきまでと雰囲気変わった!」
「ふぅん。もじもじしてたけど、気が入ると一気に変わるのか。面白い子じゃん!」
「やっぱりなぁ。中村、それを読んでのことだったか。経験者テスト、ってことかぁ」
かつては二斗に勝ち、瀬田谷学堂すらも下した中村。インターハイベスト8のチームでもある中村と、一介の女子中学生がカウンターの練習で構え合っている。
それを見て、田村は、にやっと笑っている。
「好きなときに、自分のタイミングでカウンターを取ってみて。いいかな?」
「(こくり)」
見学に来た他の中学生も、興味津々な目で見つめている。
「・・・・・・さああぁぁーーーーっ!」
ダシュッ! シュパアアァァンッ!
「えいやぁーーーーーーーっ!」
ギュンッ! パパァンッ!
まさかの光景。中村が仕掛けようとした瞬間、中学生の子は中段逆突きで潜り込んで、中村の刻み突きが伸びる前にカウンターを取っていた。
「「「「「 おおおおおぉーっ! 」」」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチ! パチパチパチパチパチパチパチパチ!
思わず、場内から拍手が飛び交う。はっと我に返った中学生の子は、顔を真っ赤にして、慌てて中村に「大丈夫ですか?」と駆け寄っていた。
「だいじょうぶだ。・・・・・・思った通り、きみは、カウンターしかできないから今までこの技だけやってきたんだろう? そのおかげで、これほどまでの精度のカウンターだったのさ」
「中村のやつ、やるねぇーっ! それを見越しての体験コーナーだったわけですか。まったくもう。アタシは、ケガだけしないか心配だったよー」
「あわわわ・・・・・・えっと、あの、その、わたし、その・・・・・・。もっと、強くなりたいです」
「すっごいな、きみーっ! よし、俺っちも柏沼入ったら、きみと空手部入るぜーっ」
「ふーちゃんびっくりぃ! 空手もおもしろそぉーっ! やってみたいなぁ!」
「ひな、すっごいじゃん。高校生からカウンター取れたなんて、すごいよぉ!」
「ボ、ボクシングより、速いな・・・・・・。でも、空手、面白そうだな?」
わいわいわいわいわいわいわいわい わいわいわいわいわいわいわいわい
「・・・・・・そっかぁ、中村、これを最終的に狙ってたのか。やるねぇー」
見学に来た中学生同士で、わいわいと盛り上がっている。
その後も、田村たちと中学生たちで楽しく体験タイムとなり、それぞれ、武道場から笑顔で帰っていった。
「来年、ぜひ、みんな柏沼高校に合格して、空手道部に入ってくれるといいなぁ」
「そうだねっ! いやー、アタシ、久々に面白いものを見た気がするわ! 菜美にもあとで、話してやろーっと」
後に、川田が森畑や井上、神長にこのことを話したら、すごく羨ましがっていた。案内係は、中学生相手にすこぶる疲れたらしい。