2-100、柏沼高校三年生の夏
カカカッ カッ カカカカカッ カカカッ
ヒュルッ ヒラリッ
カカカカカカカッ カカッ ヒラリ カカカカッ
「~~~えー、で、あるからして、ここは二方面への敬意が含まれ、光源氏と・・・・・・」
カカカカッ カカッ カカカカカッ
お盆も過ぎ、九月からの新学期が始まるまでの二週間、柏沼高校では夏期課外という名の授業や補講が行われる。一年生や二年生は普通に古文、英語、日本史や世界史などの授業が進むが、三年生は受験対策のための演習問題が主となる。
カカカッ カカカッ
「じゃ、ここまでを、よくまとめておくこと。この部分は、私大の一般入試によく出る部分だ。古文における敬語の見極めは、ミスをしないように。明日は課外ないから、自主的にな!」
~~~♪ ~~~♪♪ ~~~♪♪♪ ~~~♪
まだ夏休み中とはいえ、もう、実質受験は始まっているようなものだ。
古文の後は、日本史と英語がまだ続く。休み時間も、なんだか休めてる気がしないような表情の生徒たち。
「あー・・・・・・もぉーっ・・・・・・。暑いし、頭まわんないよぉアタシー。光源氏、なんでこんなにあちこちの女を相手にしてんのよぉー・・・・・・」
「仕方ないけど、大学入試にはよく出るところらしいし、頑張ろうよ川田さん」
「それにしても、暑くない? 来週は九月だよ? これなら沖縄の暑さのがよかったよー」
「沖縄かー。もう、なんか、遠い昔のような感じだね。あの暑さは、確かにこの栃木の暑さとはまた違った感じだったよねー」
川田は古文のプリントやノートに顔を突っ伏したまま、うだうだしている。近くの席の友達も、下敷きで川田を扇いでくれている。
「あー、まったく、あっちぃねぇー。やる気んなんねー。どうだ、一組は?」
田村が、ひまわり柄のうちわで扇ぎながら、前原たちの教室横の廊下にやってきた。
「田村ー・・・・・・アタシはもうだめだ。ねぇ、どーしたらこのダルさを解消できるぅー?」
「知らねー。校舎内って、風通し悪いんだよねぇ。武道場のがすーっと涼しいしなぁ」
「田村君のクラスは次、古文だっけ? 僕たちは日本史の演習問題だよー」
「前原も川田も、なんだか、干物みたいになってるねぇー。前原、古文のプリントや解説文、教えてくれよー。ぜんっぜん俺、わかんねー」
「ご、ごめん田村君。僕も、やる気出なくて、まとめてないんだ・・・・・・」
「アタシも無理ー。先に言っとくけど・・・・・・。あー運動したいよぉー・・・・・・」
「そうそう、課外終わったら、前原も川田も、武道場行こうぜ。やることあるんだしなぁ」
ぱたぱたと扇ぎながら、田村は自分の教室へ戻っていった。
その後、日本史のプリントも英語のプリントも、前原と川田は揃ってやる気にならず、何度か指されるも答えられず。席が近くの友達は、二人があまりにやる気なさそうなので、笑いを堪えていた。
「アタシ、入試のない大学行きたいー。日本語が話せれば合格できるみたいな大学でいいよもうー」
そんなことをぼそっと呟く川田に、英語の先生は呆れ返っているようだ。
川田を見て、前原は思った。「僕も、そんな大学があれば、行ってみたいよ」と。