2-10、小笹によく似た女の子
そよそよそよそよ・・・・・・ さらさらさらり・・・・・・
「はぁ、なごむねぇー・・・・・・。畳と、この部屋の感じが、いいねぇー」
「ホントだね田村! 落ち着くよねっ、この部屋! あー、民宿いいわぁ。アタシ幸せー」
「波の音と、潮風が気持ちいいー。真波。恭。、私たち、本当に試合をしに来たんだよね?」
「そうですよー・・・・・・先輩方、がんばってください。でも、いまは、暫しリゾート気分でいましょー・・・・・・」
「いーなぁ、こざさサン。こんなとこで暮らしてたなんて。うちやま、おーい、起きろー」
「起こさないでよ、さよー。やっと気分が回復してきたんだからぁ。それにしても、ほんとに沖縄来ちゃったんだなぁー」
小笹が案内した部屋割りで各自は荷物を置き、二つの部屋を抜いた大きな畳の広間で寝転がっていた。とりあえず、到着後の休憩時間だ。
今日はちょうど、道場も夜に稽古がある日なので、キヨの道場で一緒に稽古をさせてもらえることになった。キヨ曰く「昼間は道場を開けておくから、自由に一階も二階も使ってくれていい」とのこと。本当にありがたいことだらけだ。
「ねぇっ、これ、みんなでどーぞだってッ。おばーちゃんからだよぉー。食べようーッ」
小笹が台所から大きなフルーツを手に二つ持って広間へきた。パイナップルとパパイヤだ。
「すっげぇ! でも小笹ちゃん、これ、どうやって切れば良いんだ? 俺や道太郎でやってみるけど、特別な切り方とかあるの?」
「うーんとね、ここを、こーしてあーして・・・・・・ざくっと。すぱっと。がーっとやるのぉ!」
「な、なんだかよくわかんねーけど、切ってみんなで美味しく頂こうかねぇー。井上、パイナップルたのむ。神長、パパイヤをたのむ。俺らは、応援してっからさぁ」
「了解! やってみっか。ざくっと、すぱっと、がーっと、だな! 手刀じゃさすがにできないから、包丁か、やっぱ」
「まさか、パパイヤなんて自分で切ることになるとはな。どれ、森ちゃん、ナイフとってくれ」
ざくざく すぱ ざくり ざくざく すぱぱっ さくっ
「パイナップル、むっず! しかも、なかなかツンツン痛ぇ! でも、切れてきたぞ」
神長はあっという間にパパイヤを切ったが、井上は大きなパイナップルに大苦戦。
まさか手刀でやるわけにもいかないだろうし、やはり、包丁でやるしかないようだ。
「(そうじゃない。井上、パイナップルの切り方は、そうじゃないんだ! 神長、パパイヤは、まず、割って種をとれよ! それじゃ、スイカの切り方じゃないか! むむむ・・・・・・)」
南国の果物に悪戦苦闘する二人を、中村が何か言いたそうに、その横で見ている。
「「 よし、できた! 」」
全員でよく冷えたジューシーなフルーツを頬張る。パイナップルもパパイヤも、甘酸っぱくて瑞々しく、まさに新鮮そのもの。宿の近くに市場があり、今朝仕入れたばかりの新鮮採れたてのフルーツとのことだ。噛むと果汁が滴り、天然のジュースが口いっぱいに爽やかな味を広げる。
「あまくて、おいしーぃっ! なぁにこれ! アタシ、こんなパイン食べたことないよ。すっごく瑞々しくて、いーぃ香りだね!」
「キヨさん、ごちそうさまです! いや、これはすごい! 本場沖縄のフルーツは違うね!」
早川先生もパイナップルやパパイヤの味にびっくり。部員たちのぶんも奪ってしまうくらいに、次々と食べている。「ちょっと取り過ぎじゃないか」という目で川田は早川先生をじっと見ている。
たたたたたっ・・・・・・ さく さく さく さく
「こーんにちわぁっ。キヨおばぁ、いるぅー?」
庭先に、甲高い元気な声が響いた。地元の子だろうか。すごく活発な、明るく綺麗な声だ。
「ん? 誰か来たよ小笹? お客さんみたいだから、おばあちゃん呼んだ方がいいんじゃない?」
「アタシらと同じくらいの年齢のお客さんだ。あれ? アタシら、貸し切りでいーんだよね?」
健康的な小麦色の肌をした、ショートカットの女の子が民宿を訪れてきた。
縁側や広間でフルーツを頬張る阿部と同じくらいの年齢を思わせる見た目。どことなくその子は、小笹と似たような雰囲気の子だが。
「はぁい? だれかなぁ? ・・・・・・あぁ! なんか聞いたことある声だと思ったらぁッ!」
「ヤッホーっ! こざさぁーーーッ! 久しぶりだぁねぇーっ! 今日から来るって聞いたからさぁーっ! 会いたかったぁーっ! ほんと久しぶりだぁ! 今、栃木なんだってぇ?」
「み、美鈴ーッ! 元気だったみたいねぇッ! インターハイだから、戻ってきたよぉ。いまね、こっち離れてから、外国にちょっといてぇ、栃木に住んでるの。そこで友達になった学校のメンバーとね、ちょうどさっき、着いたんだよぉーっ。元気そうだなぁ、美鈴も! くすっ」
宿を訪ねてきた美鈴という女の子と小笹は、久々の再会を懐かしんで盛り上がっているようだ。
その小麦色の肌をした美鈴という子は、テンションも声もやはりどこか小笹に似ている。目元や顔立ち、体格や全体の雰囲気も。白い肌をした小笹と比べると、よく日に焼けた褐色の小笹という感じだ。
いったい、この美鈴という女の子は、小笹とどういう関係なのだろうか。