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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第1章 嵐の前の・・・・・・
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2-1、さぁ夏休み! 

   青葉若葉に青春の 心は輝く 溌溂と

   我らが故郷に 若さ集まる

   柏沼高 ああ 幸多き

   至誠の精神 煌めく母校


   尊く聳える連山の 嶺麗しき 雪溶けは

   我らの故郷 奉仕の楽園

   柏沼高 ああ 友情の

   絆の学舎 誇りし母校


   努力の証を象った 胸にかざすは 三ツ柏

   夢涌く泉の 我らは清水

   柏沼高 ああ 時を越え

   永久に栄えよ 我らの母校   ―――・・・・・・


   しゃわしゃわしゃわしゃわ  じじじじじじじじじ  みゅーんみゅんみゅんみぃーん


 かぁっと降り注ぐ陽射しにたくさんの蝉しぐれ。いよいよ明日から夏休みだ。

 全校生徒で校歌斉唱をし、一学期の終業式が終わった。式後、全国大会出場者の「部活動壮行会」が生徒会主催で行われる。体育館内には約一千ものワイシャツやブラウスの白が光り、ものすごくまぶしい光景となっている。


「これより、全国高等学校総合文化祭ならびに全国高等学校総合体育大会に参加出場する部の、部活動壮行会を行います。まず、全国高文祭参加の部は壇上へ・・・・・・」


 文化部のインターハイと呼ばれる全国高文祭も、今年はなんと南九州の宮崎県で開催。運動部の全国総体は沖縄県。どちらも栃木県からは直線距離でも一千キロ以上離れた遠方だ。

 柏沼高校単体であまりにも延べ人数で参加出場者が多いため、各部とも部費でまかないきれず、県の教育委員会から費用を補助してもらったらしい。中村曰く、過去にも似たようなことがあったと事務長が話していたらしく、費陽にかなり頭を悩ませていたとか。その時の開催地は福岡県と熊本県だったらしい。


「では、続いて、全国高校総体出場の部は壇上へ・・・・・・」


 壇上には、上がりきれないほどの生徒が立ち並んだ。空手道部メンバーもその中の一人として、ちょうど壇上の真ん中付近に並んで立つ。横にはフィールドホッケー部とソフトテニス部が並ぶ。


「前原、いよいよだなぁ。こんな規模の部活動壮行会なんて、はじめてだねぇー」

「そうだね、田村君。他の部とも一緒に並んで全校生から激励なんて、気合いが入るよね!」

「うおー。こりゃすげぇなぁ! 俺、壇上側から全校生のほう向くの、初めてだぜ!」

「だはは! こりゃあ、照れるなぁ。けっこう、注目されるのって緊張するもんだな」

「う、うむっ。しかし、その、なんだ、他の部がいるから、まだおれたち一つに全校生が注視しているわけではないからな」

「なーに緊張してんのよ中村! アタシら、主役なんだよ。胸張りなっての!」

「う、うむっ。そうなんだが、慣れていなくてな。緊張というものは、まず、脳内の・・・・・・」

「はいはい、講釈はいいから。私も真波も、こういう雰囲気はもう慣れっこよ」

「だよね。大会の表彰式とあんまり変わらないじゃん。ねぇ、菜美?」

「うん。そーんなにカチコチになることないでしょうね」

「う、うむむ。川田も森畑も、肝が据わっているな。おれは、その、なんだ・・・・・・」


 生徒会長から、全校生徒を代表した激励の言葉が出場選手陣に贈られた。

 インターハイは八月の第一週。一番遠い場所である沖縄県であるため、全員一週間前に現地入りして土地の環境に身体を慣らすことにしたのだ。


   しょわしょわしょわしょわ  じーじーじーじー・・・・・・


「おーわぁーったぁー。あー、なーつやーすみだぁ! アタシ、夏休みっちゃ課題さえなければ文句ないのになぁ」

「しょうがないよ真波。それは私も一緒。今年は受験生でもあるんだしさ」

「はぁー。受験ねぇ。インターハイ終わったら、いよいよって感じね。なんか、そう考えるとなぁ」

「私たちが抜けたら、女子も恭子と真衣と紗代の三人だけだもんね。男子は団体組めない人数だし」

「来年度、アタシら卒業後はどーなってるのかなぁ。栃木商工みたいなことにならなきゃいいけどさぁ。ほんと、悩みは尽きないね、人生って」

「はははっ。ま、私たちの年齢で人生語ってもしょうがないけど。じゃ、また、部活でね」

「今日も頑張ろうね。アタシ、職員室寄ったらすぐ武道場行くよ。またね」


 森畑と川田は笑顔でお互い手を振り、それぞれ渡り廊下で分かれていった。その後ろでは、神長と中村が化学準備室へ向かっていく。井上は前原をきょろきょろと探しているようだ。


「お、いたいた。おーい、悠樹。悠樹ぃ!」

「ん? あ、井上君! もう教室行ったのかと思ったよ。どうしたの?」

「早川先生が言ってたんだけどさ、いよいよ、インターハイの組み合わせ表が来たってよ!」

「え! つ、ついにかぁ! ドキドキするなぁ!」


 前原は井上の上ずった口調での言葉を聞き、一気に胸がドキドキと高鳴った。

 インターハイは前年度優勝の推薦枠を含め、各都道府県のトップランクに立った者達が一堂に会する、言わばチャンピオンカーニバル。各選手やチームのレベルにはもちろん都道府県ごとにばらつきはあるが、どこも毎年壮絶な予選大会を勝ち抜いて、全国でも白熱戦を繰り広げるほどに実力伯仲の様相らしい。

 昨年、前原や田村はインターハイ予選で当時の日新学院三年生選手たちを前に敗れてしまったが、その時の日新メンバーでも、意気揚々と乗り込んでいった全国の舞台では三回戦であっという間に敗れ去った。

 その当時、全国の場で日新の選手をを軽々と下したのが、当時二年生にして全国個人組手覇者となった(みず)()(りょう)()率いる、東京都代表 ()田谷学堂(たがやがくどう)高等学校であった。

 しかも、団体メンバー五人のうち主将以外の四人が二年生だったというから驚きのチームだ。そしてその瀬田谷学堂の水城龍馬を含む四人の選手は、柏沼高校がある隣町の明日市市あすいちし日光東照市にっこうとうしょうしの出身なのだ。

 先月末、国体予選大会において日新学院の二斗をあっという間に下して三位まで独占したという結果の実態は、そのメンバーが地元出戻り出場によるためであったのだ。


「ど、どんなところと一回戦当たるんだろうね?」

「だ、だよな。早川先生が持ってきてくれるのはいいが、まだ沖縄にすら行ってもいないのに、俺はもう、やべぇよ。日新レベル以上のがごろごろいるんだろ?」

「そ、そうらしいよね。・・・・・・日新学院相手にも僕たち、やっとだったんだけど」

「や、やべーよなぁ!? ど、どーするよ俺ら」

「ど、どうって、どうすればいいかな。強くなればいいんだよ、心身ともに」

「ばかか悠樹!? そりゃ当たりめーだよ! 問題はどーやって・・・・・・」


   がしっ!


「なぁに二人であーだこーだ言ってんだぁ? だいじだって。インターハイなんて、どこも強ぇとこしか出てこなくて当たり前なんだ。なら、俺らだって、その強ぇうちの一校なんだぞぉ? そうじゃないかねぇー?」


 田村が前原と井上の後から、思いっきり肩へ手を掛け、柔らかな笑顔で話しかけてきた。


「な、尚久! ・・・・・・そ、そうだなっ。俺ら、日新倒してインハイ出場を得たんだから、全国の強い出場者のうちの一校か。確かにそうだな!」

「な? もう、やれることはやって鍛えてきてるし、だいじだ。大したことねぇーって。どうせどこも、みーんな思ってることは同じじゃないかねぇ」

「そ、そうだよね田村君。うん、きっと、そうだ。全国の選手も、きっと、モヤモヤしてるよね」

「だろぉー? だったら、あーだこーだびびらずに、楽しんでいけばいいんじゃないかねぇ。ま、そーゆーことだぁ」


 田村は前原と井上の背中をぽんと押し、明るく笑いながら教室の方へ歩いていった。

 柏沼メンバーは毎日楽しくお互いに研鑽しながら空手の稽古をし、無駄なくひとつひとつを積み重ねている。そのおかげで、春先よりもチームとして見違える進化を遂げたと言ってもいいかもしれない。

 それでも、こうしている間に、全国の強豪校はもっと強くなっているのではないか、もっと稽古しているのではないか、本当に通用するのだろうかという不安が前原と井上の脳内には消えなかった。


「尚久のやろう、余裕だよなー。昔っからあいつ、あーだもんなぁ」

「でもきっと、明るく笑い飛ばしてたけどさ、田村君も多少は不安なんじゃないかなぁ。僕や井上君が不安になっているのと同じく、やはり多かれ少なかれこの感情は持っているんじゃないかな?」

「尚久って、ポーカーフェイス得意だかんなぁ。あーぁ、もっと強くなるには、どーすりゃいいんだかな? まず俺は、メンタルから強化しねーとなぁ」

「道場で鍛えてもらってた頃ならさ、部活の後にまた姉弟子のみなさんにビシバシ鍛えてもらえたんだろうけどね」

「道場ねぇー? 高校入ってから忙しすぎて、しばらく顔出してねーよな?」

「そうだね。道場の師範や先輩方にも、僕たちのインターハイ出場、報告しなきゃ」

「ひっさびさに、尚久もつれて三人で行ってみっか?」 

「そうだね。姉弟子のみなさん、どうしてるかなぁ。みんな結婚したって聞いたけど」

「女と思えないくらい強ぇあの先輩らが、結婚ねー。俺も将来、できんのかな?」

「まだ早いよ井上君。まずはインターハイ、そして、大学受験もあるんだし・・・・・・」

「そ、そっか。まぁ、そーだな。・・・・・・じゃあ悠樹、今夜、尚久も連れて、超久々に道場な! あー、今でも師範が竹刀持って待ってんのかな?」

「師範、元気だといいな。『なんじゃい、ごぶさただんべ』とか言いそうだよね?」

「ははは! 似てるぜ悠樹!? まっ、とにかくまずは部活で、めいっぱい暴れようぜ!」

「そうだね。早く、部活の時間にならないかなぁ。少しでも多く積み上げて沖縄に発たなきゃね!」


 前原と井上は、がちっと拳を合わせて、それぞれの教室へと戻っていった。


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[良い点] 新たに始まりましたね! すごく今後が楽しみ!
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