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第二次プラティ防衛戦(4)

早くもブックマークと評価を頂きまして有難うございます。

ゆっくりですが更新していきますので、引き続きお付き合い頂ければ幸いです。

 突風が渦を巻いて天に昇り、地上の人形兵を巻き上げる。膨れ上がった火球が数十体の人形兵を飲み込み破裂する。

 これら天変地異のごとき惨状はすべて、一体の人形兵(ペルチェ)が引き起こしたものだった。


 第五段階術兵、『魔王(サタナ―)』アステル。


 第五段階にまで至った人形兵は、広大なバートランド大陸の歴史において数体しか確認されておらず、その力は一国をも滅ぼしうると伝えられる。

 しかしアルトにとって彼女は強大な力を持った人形兵ではなく、ただ一人遺された娘に他ならない。




 新しく支給された人形兵の手入れをしようと家に持ち帰った、確かそれが最初だった。のっぺりとしたただの木人形を、六歳になったばかりの娘エステルが興味津々に眺めまわし、撫でまわす。


「ねえパパ、その子のお名前は?」

「名前?お前がつけてくれよ」

「じゃあね、アステル!アルトとエステルでアステル!」

「いい名前じゃねえか。よし、今日からお前はアステルだ」


 あまりにも娘がアステルを大事にするので、アルトはその人形兵を戦場に連れて行くことができなくなってしまった。仕方なく方々に頭を下げて自費で買い取り、娘とお揃いの服を買い与え、どこに行くにも姉妹のように一緒だった。




「おいレナ、アステルに何やらせてんだよ」

「この子ね、すごく物覚えがいいの。洗濯も掃除もできるし、最近ではパンを焼くこともできるのよ」

「そんな馬鹿な。人形兵(ペルチェ)だぞ?そんな器用な真似ができるかよ」

「あら。じゃあアステル、明日はパパにパンを焼いてあげようねー」


 驚いたことにアステルは、妻レナの家事を見様見真似で手伝うようになっていた。荷物運びなどの雑用ならまだしも、自己判断が必要な掃除や調理ができる人形兵など聞いたこともない。




「アルト少尉!奥様と娘さんが・・・・・・」


 そして三年前のあの日。『大崩壊』と名付けられた未曽有の大地震で、妻と娘は命を落とした。ともに掘り出されたアステルは、瓦礫から二人を守るように抱きかかえていたという。




「この子、『昇格』の資格がありますよ。私に任せてもらえませんか?」


 浴びるように酒を飲み、道端に座り込むアルトの傍に佇むアステルを見て、錬金術師を名乗る少女ニアノーラは言った。

 一度も戦場に出たことがないはずの人形兵は数日後、伝説の中にのみその名を残す第五段階『魔王(サタナ―)』へと昇格していた。


 明るい緑色の髪、碧玉色の瞳、優しげに目尻が垂れた目。絶大な力とともに少女の容姿を得たアステルは、どこかエステルの面影を宿していた――――――




 その娘が今、父親の目の前で破壊の限りを尽くしている。初めての戦場に一片の迷いも見せないのは、本来そのためだけに作られた人形兵ゆえか。

 白黒二対の翼から無数の羽が光の矢となって放たれる。真空の刃が全てを切り裂く。頭上の火球を叩きつける。人形兵だけではない、それを指揮する帝国兵士も残骸にまぎれて地に伏していく。


「やめろ!アステル、やめてくれ!」


 もはや立ち上がる力もないアルトは、ようやくアステルの元に這いずり足首を掴んだ。

 見下ろしたアステルの胸に、続けざまに三本の矢が突き立つ。いかに強大な力を持つ『魔王』とて、攻撃を無効化できるわけではないのか。アルトは思わず手を放してしまった。


「待て!行くんじゃない!待ってくれ・・・・・・」


 翼をはためかせ舞い上がったアステルは、育ての親を一度だけ振り返り飛び去った。

 再び噴き上がる砂塵と地響き、それに悲鳴。アルトは地に這い拳を握ったまま動けなくなってしまった。




 ひときわ大きな轟音に顔を上げたとき、全ては終わっていた。

 動く者とて無い荒れ果てた大地。彼が目にしたものは、それだけだった。


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