悪役令嬢?襲来
悪役令嬢になってない気がする…
ご機嫌よう。メランコーリッシュです。お披露目式も昨日無事に終えて、今日は未来の皇后としての教育を受けていたのですが、突然お客様がいらっしゃいました。
「プーロ様!突然来られても困ります!王女殿下は今皇后教育で忙しいのです!邪魔をしてはなりません!」
「うるさいわね!私はニタ従兄様の妹がわりよ!少しくらいいいじゃない!それよりも私はあの運命の番もどきに用があるのよ!退きなさい!」
「プーロ様!」
ばんっ!と大きな音を立ててドアが開きます。
「あなたが、メランコーリッシュ・パラディースね!」
「は、はい。えっと、…どちら様ですか?」
「失礼な女ね!私はプーロ・ウニコルノ・プレガーレ!ニタ従兄様の従妹よ!この国の公爵令嬢!」
プーロ・ウニコルノ・プレガーレ様。ニタの妹がわりの従妹…。公爵令嬢なのですね。大事なお客様のようです。
「ご丁寧にありがとうございます。はじめまして、私はメランコーリッシュ・パラディースです。以後お見知りおきを」
出来るだけ丁寧にご挨拶したつもりでしたが、プーロ様には気に入らなかったようです。
「お見知りおきをじゃないわよ!なんで龍神として覚醒したニタ従兄様の運命の番がこんなみすぼらしい人族の王女なのよ!納得いかないわ!」
「プーロ様、言い過ぎです!」
「なによ!あんた達だって同じ気持ちでしょう!?」
「プーロ様!」
「…」
「なによ!悔しかったら言い返してみなさいよ!」
「いや、ニタは愛されているなと思って、嬉しくて」
「…は?」
プーロ様は私の言葉に、ニタと同じ黒真珠の瞳を丸くし、銀髪の縦ロールを揺らします。
「私は人族ですし、アトランティデは亜人族の治る国ですから、偏見があるのは仕方がありません。すんなりと受け入れられるとも思っていません。それよりも、ニタのことを心配して、こうして自分の身も顧みずに乗り込んでくれる方がいることの方が嬉しいんです」
「…な、なによ!いい子ぶって!」
「ふふ、すみません」
「余裕ぶるんじゃないわよ!」
「ロロ、そこまでだ」
「ニタ」
「ニタ従兄様!」
ニタが来てくれました。
「ロロが急に来たというから、何事かと思ったがな…俺の運命の番に手を出すとは、いい度胸だな?」
「ニタ、そんなに怒らないでください」
「別に怒らない。叱るだけだ」
「に、ニタ従兄様…!私は、ニタ従兄様のことが心配で!」
「だからってシュシュのことを何も知らないまま非難しようとするんじゃない」
「うっ…それは…」
「過去にも人族と結ばれた皇帝もいるんだ。前例がないわけじゃない」
「それはそうですけれど…」
「せめて、シュシュと少しでも行動を共にして、それでもシュシュが皇后として相応しくないと思ったなら非難しなさい。そもそも皇帝の運命の番に口を出すのもどうかと思うが」
「…」
しゅんとするプーロ様。心なしか縦ロールもへなっとしたような…。
「…じゃ、じゃあ、この私が、メランコーリッシュ王女が我がアトランティデの皇后に相応しいか見極めて差し上げますわ!」
ふん!と息巻くプーロ様。あ、縦ロールがしゃんとした。
「はぁ…シュシュ、少し付き合ってやってくれるか?」
「あ、はい。もちろんです」
「ニタ従兄様、私がメランコーリッシュ王女に付き合うんですわ!」
「ロロ、いい加減にしろ」
ニタにじろりと見られてまたしゅんとするプーロ様。ああ、なるほどニタが可愛がるわけです。可愛い方ですね。
「とりあえず、勉強に戻ってもいいですか?」
「ああ、すまない、邪魔したな。ロロ、シュシュの邪魔はするなよ?」
「はい、ニタ従兄様…」
しゅんとしているプーロ様。ニタが執務室に帰るのを見送ると、こちらを振り返ってキッと私を睨みます。
「では、私がみていて差し上げますわ!どうぞお勉強をしてくださいまし!」
「はい、プーロ様。先生、お願いします」
「は、はい。では、先程の続きから…」
ー…
「まあ!メランコーリッシュ王女はこんな簡単な刺繍も出来ませんの!?貸してみなさい、こうするんですわ」
「わあ、プーロ様は器用なのですね」
「このくらい、我がアトランティデの公爵令嬢として当然ですわ!メランコーリッシュ王女こそこんな簡単なことも出来ずにどうなさるんですの!もっと精進なさいませ!」
「はい、頑張りますね」
ー…
「まあ!メランコーリッシュ王女はご自分で料理などされますの?そんなこと使用人にお任せなさいませ!女性は料理より刺繍ですわ!そんなことをしている暇があれば刺繍の練習を致しますわよ!さあ、こちらへ!」
「ごめんなさい、プーロ様。これは執務室で頑張っているニタへの差し入れなので…」
「まあ、ニタ従兄様にメランコーリッシュ王女の手料理を?私が毒味して差し上げますわ!寄越しなさい!」
「おひとつでよろしいでしょうか?」
「ええ。いただきます。…!?美味しい!?」
「ありがとうございます、嬉しいです」
「メランコーリッシュ王女は刺繍より料理なのですわね…」
「食べていくためには、作るしかなかったので…」
「え?」
「なんでもありません。これをニタに届けたら、また刺繍を教えてくださいますか?」
「仕方ありませんわね。いいですわよ。そのかわり、その…」
「はい、なんでしょうか?」
「…お料理、私にも教えてくださるかしら?」
「…!はい、もちろんです!」
ー…
「まあ。メランコーリッシュ王女ったら哲学なんて読んでいらっしゃるの?」
「はい、プーロ様も読みますか?」
「結構ですわ。メランコーリッシュ王女、女性は哲学より詩ですわよ、詩。こちらをお読みなさいませ、差し上げますわ」
「え、この詩集、もしかしてわざわざ買ってくださったのですか?」
「このくらい安いものですわ。お気になさらず」
「ありがとうございます、プーロ様!お礼になるかわかりませんけれど、よかったらこちらを」
「まあ、この刺繍、メランコーリッシュ王女が?」
「ええ、教えてくださったお礼です」
「上達いたしましたわね」
「ふふ、ありがとうございます。プーロ様のおかげです」
「それほどでもありませんわ」
ー…
「チェックメイト」
「ニタは本当にチェスが強いですね」
「必死なだけだ。婚約者に負けては立つ瀬がないからな」
「まあ、メランコーリッシュ王女はチェスを嗜みますの?」
「はい。よかったらプーロ様もやりますか?」
「結構ですわ。それよりもメランコーリッシュ王女はダンスがお得意だとか。その…」
「?はい」
「よかったら、私にダンスを教えてくださらない?今度、婚約者と踊るときに驚かせて差し上げたいの…」
「もちろんいいですよ」
「!ありがとう、メランコーリッシュ王女」
「はい、プーロ様」
「…ふむ」
「?ニタ、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
「?」
「変なニタ従兄様」
ー…
「ロロ、そろそろ気は済んだか?」
「!い、いえ、まだまだ見張りますわ!本当にニタ従兄様に相応しいかまだ見極めていませんもの!」
「…本当はお前」
「あ、それではそろそろメランコーリッシュ王女のところに向かわないと!それではまた!」
「ロロ」
「…なんですの?」
「別に変な口実はなくても、シュシュの友達として会いに来てもいいんだぞ」
「!…ふ、ふん。そんなんじゃありませんわ!それではご機嫌よう、ニタ従兄様」
「ああ、またな」
ただのアホの子な気が…