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思わず連れ帰ってきてしまった

衝動的に連れ帰りました

初めて運命の番と出会えて、一番に思ったのは「愛おしい」ということだった。運命の番の存在を感じた時点で愛おしくて仕方なかったのに、出会ってしまうと抑えが利かないほど愛おしくて。そして次に感じたのはメランコーリッシュ王女殿下の美しさ。波打つ金の髪に潤んだ蒼い瞳。とても綺麗で、こんな方が俺の運命の番なのかと嬉しく思う。ただ、線が細過ぎる。ちょっとでも力を入れると折れてしまいそうな身体が心配だ。そして最後に感じたのは、パラディースへの失望だった。何故かは知らないが、メランコーリッシュ王女殿下は他の王族と比べてはるかに細い。おそらくまともな環境を与えられていなかったのだろう。


本当は、今日はまず会ってみて、数日パラディースに滞在して仲を深めてからアトランティデへ連れ帰るつもりだったが、予定変更。ちょっと強引だがこのまま連れて帰る。俺の愛おしい人をこれ以上傷つけさせるわけにはいかない。


「ほら、手を貸そう。乗ってくれ」


「ありがとうございます、皇帝陛下」


メランコーリッシュ王女殿下を我が国でも皇族しか使用を許されていないペガサスの引く馬車に乗せる。普通の馬車なら数日かかる国の間の移動も、この馬車なら一日で済む。


「私、ペガサスの引く馬車なんて初めてです」


「そうか。なら高いところからの景色を楽しむといい」


メランコーリッシュ王女殿下は俺の言葉に素直に従って、窓から外の景色を楽しむ。可愛らしい人だな。


「わあ…すごいですね」


「ああ。あの」


「は、はい」


「…強引に連れ出して、悪かったな」


俺が短く謝ると、メランコーリッシュ王女殿下は目を丸くする。


「い、いえ、そんな、皇帝陛下に謝っていただくことなんて…!わ、私の方こそ、その、迎えに来てくださってありがとうございました!」


あわあわとするメランコーリッシュ王女殿下は王女というより普通の女の子で。こんな普通の子に支援金と引き換えの政略結婚を持ち掛けてしまったのかと、余計に胸が締め付けられるような気持ちになった。


「…本当にすまない」


「い、いえいえいえいえいえ、そんな!あの、本当に気にしないでください!」


困ったように眉を下げるメランコーリッシュ王女殿下の表情を見て、俺は謝るのは止めることにした。


「これから、婚約者としてよろしく頼む」


「!こ、こちらこそよろしくお願いします!」


「急で悪いんだが、一週間後に婚約発表しても大丈夫だろうか?お披露目式を挙げようと思うのだが」


「…は、はい!大丈夫です!」


メランコーリッシュ王女殿下の表情を見るに全然大丈夫じゃない。だがメランコーリッシュ王女殿下が人族な以上、早めに公表するに越したことはないし…。


「俺も隣にいて、なるべくフォローする。一緒に頑張ってくれるか?」


「はい!頑張ります!」


やっぱり俺の運命の番は可愛らしい。素直な良い子だな。


「ところで、メランコーリッシュ王女殿下」


「はい、なんでしょうか?」


「その、婚約するに当たって、お互いの呼び方なんだが…もしよければ愛称で呼び合わないか?」


「愛称ですか。わかりました。ただ、私、愛称とかなくて…」


しまった。辛いことを思い出させたか。


「そ、そうか。すまない。…なら、シュシュと呼んでもいいだろうか?」


「…は、はい。シュシュ、シュシュ…なんだか可愛い響きですね。私に似合うでしょうか」


「ああ、とても似合うと思う。シュシュ」


「は、はい」


「こんなこと、言っていいのかわからないが。…シュシュの愛称を初めて呼ぶのが俺なんて、ちょっと嬉しく思う」


「!」


かあっと顔を赤らめるシュシュ。可愛らしい。


「あ、あの、皇帝陛下のことはなんと、呼べば…」


すっかり真っ赤になったシュシュがおずおずと聞いてくる。控えめな子だな。


「ニタ、と呼ばれることが多いな」


「ニタ様」


「シュシュ、ニタでいいぞ」


「いえそんな!恐れ多いです!」


「シュシュ。俺がニタと呼べと言っているんだ」


俺がそう言うと、シュシュは顔を赤くして「ニタ…」と小さく呟いた。可愛いな。それに嬉しい。


「上出来だ」


シュシュの頭を撫でると、シュシュはいきなり目に涙を貯める。え!?俺何かしたか!?もしかして、そんなに俺に触られたくなかったか!?会ってすぐなのに馴れ馴れしすぎたか!?


「しゅ、シュシュ!?」


「ごめんなさい、こんなに誰かに優しくされたの、初めてで…」


その言葉を皮切りに、グズグズと泣き出すシュシュ。


「…辛かったな。この俺の婚約者になったからには、もう大丈夫だぞ。シュシュ」


シュシュを優しく抱きしめる。改めて線の細さを感じる。アトランティデに帰ったら、たくさん美味しいものを食べさせよう。シュシュは何が好きだろう?甘いものは好きだろうか?実は俺は甘党なので、皇室のパティシエ達の腕はなかなかだ。気に入ってくれると嬉しいのだが。


「ニタ。ありがとうございます、色々と」


「愛おしい婚約者のためだからな。気にするな」


「い、愛おしい…!?」


「運命の番なのだから、当たり前だろう?」


「そ、そういうものなのですか…?」


「そういうものだ」


「そうですか…」


シュシュは耳まで真っ赤だ。いつのまにか涙も止まっている。よかった。


「シュシュ、我がアトランティデは文化的にも豊かな国だ。期待していてくれ」


「は、はい、楽しみです!」


「シュシュ。我がアトランティデは亜人族の治める国で、シュシュは人族だから、色々と言ってくるやつもいるかもしれないが、気にしなくていいからな」


「はい!」


「何かあったらすぐに俺に言ってくれ。すぐに対処する」


「はい!ありがとうございます、ニタ」


にっこりと微笑むシュシュはとても愛らしい。思わずもう一度抱きしめる。


「ニタ!?」


「シュシュ、好きだ」


「えっ!?え、えええええと、は、はい…」


「シュシュは俺のことをどう思う?」


「えっ…いや、その、か、かっこいい方だなぁと」


「まだ好きにはなってくれない?」


「きゅ、急には無理です!」


「そうか。…これから口説くから覚悟していてくれ、シュシュ」


「…お、お手柔らかにお願いします、ニタ」


俺たちの婚約は始まったばかりだが、こんなに素敵な愛おしい子が運命の番なら何の心配もないな。これから、穏やかな幸せな関係が築いていければいいと思う。

空飛ぶ馬車とか乗ってみたいですよね

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