第7話 道標
【名もなきバーNorth】注意:マスターと呼ぶのだ!!
入り口に書かれた扉を開けた。
『いらっしゃいま~せ~。』
尻上がりで伸ばす声で、ピエロがこっちを見ながら声を掛け微笑んでいる。
シンが座るとピエロはニコニコしながら話しかけてきた。
『ねぇねぇ。アミーゴの店に向かっているヒトたちは道を外れてた~。』
シンは答える
『あぁ。』
ピエロは嬉しそうに話す。
『やっぱりね~。残念だね~。もう少しで目的地だったのにね。フフフ。
ダメだよね。欲深いのは。
この迷い森の結界通路は魔物たちがヒト釣りしているからさ。
欲深いヒトはおいしいんだって。
魔物たちが喜んでくれるからヒトには真っすぐ進めって教えてないんだ。フフッ。』
ピエロが話終わると同時に大賑わいの店舗の端の方から声が聞こえる。
『ぺらぺらしゃべってないでさっさと酒持ってこい。このクソピエロ!』
屈強な戦士がこちらをにらみつけている。
『ごめんね~。お客さんが呼んでいるからいかなくっちゃ。ちょっと待っててね。』
ピエロはテキパキと酒を作って、にらみつけていたお客のところへ運んで声を掛けた。
『ごめんね。遅くなって。お詫びに外でいいのもあげるから来てくれる?』
屈強な戦士は少し機嫌を直したように答える。
『分かりゃ~、いいんだよ。よし貰ってやろう。』
ピエロと戦士は外に出ていった。
とたんに怒号が聞こえる。
誰がピエロだこのやろう!マスターと呼べよ。殺すぞこのやろう。
バキィッ!!ボキィッ!
もういいません。
もう遅せえよ。このボケ。ドンッ!
・・・・・なにも聞こえなくなった。
周りは何事もなかったのように騒がしく飲んでいる。
・・・日常茶飯事のようだ。
ニコニコしながら入ってきてマスターピエロがシンに残念そうに声を掛ける。
『さっきボクに声を掛けてきたかっこいい戦士が急用で帰っちゃったよ。
もっと飲んで帰ればいいのにね。』
シンが黙っていると、そういえばとマスターピエロがこの世界の説明を始めた。
『君はこの世界が初めてだよね。教えてあげる。
この世界は深い深い迷いの森がドーナツ状になっているよ。
その内側の世界がインナーヘルと呼ばれる世界。
外側がアウトフローという世界だよ。
アウトフローの世界の南にはドリームをいう街を中心に魔物がほとんどいない地域で、ヒトの憧れの場所となっているよ。
東は魔人となった歴史上のヒトがず~~~っと戦っている戦場だよ。
北は死の山と言われる山頂からまぶしい光があふれる忌々しい高い山があるよ。
西は龍の巣という偉い龍神様が住んでいる場所だよ。
君は、南のアウトフローの世界からインナーヘルの入口にきたところだよ。
インナーヘルのど真ん中に漆黒のへそという場所があって、そこにルシファーズタウンという魔界最大の街があるよ。
その東方には鬼神山という鬼の住む山があるよ。
あといろいろあるけど、ルシファーズタウンに行ってみるといいよ。世界の中心だよ。
地図とコンパスを買うと迷うことないよ。
このまま北に真っすぐ行くとルシファーズタウンに着くよ。』
話し終えたときシンは尋ねた。
『ルシファーズタウンまで真っすぐで分かるのか?』
マスターピエロはニコニコしながら答える。
『無理だね。外へ出ると砂漠だらけだからさ。目印もなくてすぐに迷うよ。』
『じゃあ、どうすればいい。』
マスターピエロはニッコリ笑って答える。
『はい。これー。ここを中心としたコンパスだよ。
北を刺す方向に歩いてね。
それとマント。君は黒色がいいね。ここのマントつけているとモテちゃうよ。』
シンは受け取り礼を言おうとしたらマスターピエロは両の手のひらを上に向けて差し出していた。
『11,000ルピズのところ、10,000ルピズだよ。ドリーム通貨の10,000ドリムでもいいよ。』
ほれほれと言わんばかりに指先をクイクイと動かしてる。
『まいどあり~。今の飲み代はサービスしとくよ。』
マスターピエロは満面の笑みで受け取った。
このバーからルシファーズタウンまで遠いなのだろうかとシンは考えながら酒に口をつけると見透かしたようにマスターピエロはニヤリとして口を開いた。
『ここをでると一番最初に面白い街に着くよ。ウフフ。きっと楽しめるね。』
『そうか。俺はいくぜ。』
シンが立ち上がるとマスターピエロはバイバイと両手を振る。
『また来てね。きっとだよ。』
バーの外へ出ると砂の海が延々続いている。
傍らには先ほどの屈強な戦士が苦痛に顔をゆがめて死んでいる。
くえないピエロだ・・・。
シンは歩き始めた。