第5話 愛するということ
オークの森に着いたがエミリアの姿が見えない。
どこだ・・・どこにいるんだ。
シンは必死に探し、森の深みで争った跡を見つけた。
まさか・・・。
ぬかるみの足跡を追って急いで走る。
オークの住みかにたどり着いたところでエミリアを見つけた。
エミリアの服はバリバリに破け、その美しい顔は殴られて腫れあがり口から血を吐き、胸に短刀が刺さっていた。
その命が尽きようとしていることがシンにも分かった。
『エミリアァーーー。どうしたんだ。』
すると目の前にゴズメズと若いオークが10体ほど立っており、ゴズがいきり立っている。
『あー、つまんねぇ~ぜ。おもちゃとしては上玉だと思ったのによ。
自分で胸を刺しておっ死のうとするとはな。おまえら、ちゃんと手足を押さえとけよ。
馬鹿どもが!おもちゃが壊れて使えなくなったじゃねーか。』
ゴズが話終わった直後、シンの心に暗く冷たい波紋が何度もドンッドンッと波打つのを感じた。
ゴズがこっちを向いて、まくしたてる。
『なんだお前は。どこかで見たことがあるぜ。』
メズが思い出したかのように言う。
『なめんな~。の弱っちいヒトだよ。生きてたみてーだぜ。』
『あの雑魚か。』
ゴズはブホブホと笑い、あの時のように馬鹿にしてくる。
ゴズメズの後ろから一回り大きなオークが口を開いた。
『おい雑魚よ。
そんなにくやしければ俺たちを殺ってみろ。この世は強いものが偉いんだよ。強ければ何をしてもいいんだよ。
弱者であるヒトのお前が俺たちより強ければ何をしてもいいぜぇ。
まあ俺たちを超えるやつはいないから無理だがな。』
ブッホッホッホッとオークの老若男女が全員で大笑いしている。
『さすが長老。かっこいい。その通りだぜぇ。』
オークのセリフの最中に脈が速くなり、心が憎しみで焼き尽くされそうになる。
エミリアが、かぼそい声で語りかける。
『だめよ。シン。
心が闇に支配されたら魔人になってしまうわ。魔人になってしまったら心を失ってしまう。
あのやさしいあなたではなくなってしまう。
私がうっかり剣を忘れてしまったのが悪いの。少し眠ったら治るから。』
シンには、眠って治るような傷ではないことも、自分のせいでエミリアを傷つけてしまったことも、そして自分のことよりもシンのために必死で話しかけていることも分かっていた。
『わかったよ。心配しないでくれエミリア。俺も少し落ち着いてきたよ。』
シンも一生懸命冷静さを取り戻そうとする。
『なんだ、あの女。完全に遊べそうにないぜ。ゴミだな。』
愛せば愛すほど、ある瞬間に憎しみが倍増する。
シンの心の糸が切れ、何かがはじけてしまった。
『エミリア。もう大丈夫だから眠ってくれ。』
笑顔でエミリアに語りかける。
『分かった。少し眠るね。』
シンの笑顔とやさしい声で、エミリアは気絶した。
昨日まで、いつもの日常がずっと続きいつまでも笑顔のエミリアと一緒だと思っていた。
ずっと愛していた。
今、エミリアは消えようとしている。
昨日までずっと愛おしいと思っていたが、今日ほど愛おしいと思った日はない。
胸が苦しくて壊れそうだ。血だらけのエミリアの血を左手につけ、自分の胸に押し当てる。
愛おしくて、苦しくて、悔しくて、耐えられなくて、憎くて、殺したい。
豚どもを一匹残らず皆殺しにしないと心が壊れてしまいそうになる。
すまない・・・エミリア。
『うぉーーーー。』
シンは慟哭とともに、目は鋭く白目は赤く、顔と体は灰色に変化した。
命のレイピアの光も灰色に変わった。
・・・そしてシンは魔人になった。
『おー、テメーまたやろうってのか?今度は死ぬぜ。』
ゴズは斧をポンポンと手にあて近づいてくる。
周りも殺れー!とゴズを煽り騒いでいる。
ゴズが近づいたとき、スパッとレイピアで両手両足の腱を切り、俺の目の前で膝をついた。
『な、何、動けねぇ。痛てぇー。た、助けてくれ。』
ゴズは俺に命乞いを始めた。
『なめるな~。と言いながらいつものように舌をだしてみろ。』
シンの要求どおりにゴズは恐る恐る舌をだす。
スパッと舌を真っ二つに切る。
ゴズは泣きながらぐぎゃーと声にならない悲鳴をあげた。
『お前はもう死ね。』
シンは上からレイピアを振り下ろしゴズは左右真っ二つになって動かなくなった。
『ワー。父ちゃん。俺の父ちゃんは英雄だぞ。』
槍をもって子供のオークが俺に向かってきた。
俺は横一閃、槍もろとも子供の首を跳ね飛ばし吐き捨てるようにいった。
『慌てるな。順番にみなごろしにしてやる。』
オーク達は慌てふためき始めた。
目の前にいたメズと若いオーク達は俺をめがけて突っ込んでくる。
エミリアに学んだ連続技で全員切り捨て、メズの額にレイピアを突き立てた。
そして微笑みながらレイピアをゆっくり抜いた。
俺は長老との間合いを一機に詰めて、両手両足を切りつけ動けなくして言う。
『お前は長老として最後まで見届けろ。』
長老が必死に俺に懇願する。
『頼む。ワシはどうなってもいいから里の者達は助けてくれ。頼む。』
俺はニヤリとして答える。
『心配するな。お前も残りの豚どもも全員殺してやる。強いものは何してもいいんだよ。知らないのか?止めたかったら俺を殺してみろ。』
『全員殺すなんて・・・お前は悪魔かッ。』
オークの長老は俺に向かって必死に叫ぶ。
『魔人だよ。』
俺は冷たくあしらって、残りのオークを追う。
残りのオークは住みかの大きな洞窟に逃げ込んだ。
『馬鹿な奴たちだ。切られるよりもっと苦しむことになるぜ。』
命のレイピアの石が灰色ににぶく光ったと同時に、刀身を灰色の煙が大きくまとった。
『デスメンタル』
俺は技を唱えると同時に剣を振る。
刀身をまとっていた灰色の煙が大きくなり穴の中に入っていった。
すぐに洞窟からオークの心が崩壊していく断末魔の声が聞こえ、しばらくして聞こえなくなった。
俺は長老の元へ行き、全員死んだことを教えてやった。
『全員ちゃんと殺してやったぞ。最強だと?クソ雑魚どもが。』
長老は大泣きしていた。
『泣いて悲しむのはお前たちだけと思ったか。死ね。クソ豚が。』
首を刎ねた。
『後は鳥の餌にでもなるといい。』
シンは捨て台詞を残し、エミリアを抱きかかえてパラダイスに戻った。