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天地創生という名の  作者: 神村大也
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第1話 奈落

『さあ、どうしたものかなぁ~。』


御剣心(18)は、縁側で横になり大きなため息をつきながら空を見上げた。


『し~ん。いるの~。』


足音とともに廊下から近づいてくるのは上村葵(18)幼なじみだ。


『もう~。卒業式のあとに黙って帰らないでよね。』


そう言いながら仁王立ちしている。


『葵。パンツ見えてる… ゾぉ。』


言い終える前から、足で顔をガシガシ踏みつけながら『黙れ。このド変態。』と葵は顔を赤らめた。


葵は木のサンダルを履いて、柔らかな日が差す石の上に体育座りでチョコンと座った。


『ねぇ…なぜ東都大学に行かなかったの?心は学年でも1.2を争う秀才だから東都大学に進学すると思っていたのに。1年前おじ様とおば様が交通事故で亡くなって辛い時期だけど心のこれからを考えると・・・。余計なことだね。ごめん。』


少し気まずそうに、伏し目がちにつぶやいた。


道場に目をやりながら心は答えた。


『ここはご先祖様からおやじまで御剣流の剣術道場としてずっと守ってきた場所だからな。おやじが居ない今、俺がここを離れる訳にはいかないだろ。それに俺は剣士だからな。』


心はできる限り明るく振る舞った。


『剣術って、今は剣道じゃん。今の時代に剣士なんて職業ないよ!』


葵は語気を強めて言った。


『おまえこそ、なんで地元の女子大なんだよ。東都大学で研究したいって言ってたじゃねーか。』


少しイラッとして葵の進学へ話をそらした。


『小さい頃から心と一緒だったしさ、あんたがいないとつまんないじゃない。そ、それに地元の女子大でやりたいことができたのよ。』


葵は赤い顔をして焦って答えた。


『なんだそれ。葵のほうがどうかしてるぜ。』


『・・・そうだね。』


そう答えて葵は膝に顔をうずめて震えていた。


なんなんだ・・・。心はつぶやきながら気まずい雰囲気を振り払うように横に置いてあった家宝の刀の手入れを始めた。


しばらくして手入れが終わり、立ち上がって美しい刃紋を確認ながら刀を鞘に納め脇に差して縁側に座り直した。


座ってすぐに縁側の脇から人影が見えた。


『御剣いるか。』


姿を現したのは五宝院貴成(18)だ。


『葵くんも一緒か。』


葵は顔をうずめたままで返事をしない。


『御剣は、また刀いじりか。東都大学でまた張り合えるかと楽しみにしていたが残念だよ。』


心を見下ろすように話しかけた。


『張り合うと言っても高成の方が勉強もスポーツも成績が良かったし、生徒会長としてリーダーシップもあったし、張り合うことなんてないだろ。』


またその話かと言わんばかりに心は答える。


『確かにそうだな。しかし剣道は勝ったことがないがな。』


高成が答えると心は当然と言わんばかりに答える。


『それだけは譲れないさ。』


『俺も努力したしこだわっていたのだけどな。それにもうひとつお前から奪えないものがある。とにかくお前は気に入らんな。』


高成がフンと言わんばかりに答えそのまま続けた。


『葵くんはなぜ東都大学に進学しなかったんだ。』


それまで顔をうずめて動かなかった葵の指先がピクッと動いた。


心は葵の代わりに先ほど聞いた内容をそのまま伝える。


『地元の女子大でやりたいことがあるからだろ。』


葵の指先は折りたたまれ強く握りしめられた。


高成が心をみて呆れたような表情で話を始めようとしたとき地鳴りが始まった。


ゴゴゴゴ・・・。


心は周りを見渡す。


3人を中心に地面が放射状に薄く黒ずんでいる。


同時に突然空がまぶしく光り、見上げると光が迫ってくる。


ゴゴゴゴ・・・ゴゴゴゴ・・・。


地響きは大きくなり放射状の地面の黒ずみが深くなっていく。


空の光も迫ってくる。


ガガガガッ・・・ガガガガッ・・・。


揺れが激しくなり葵が立ち上った時、バランスを崩し地面に倒れそうになる。



『あおいーーー。』


俺は全力で走りだしバランスを崩した葵に飛び込んだ。


俺は葵を石の上の方へ押し返すと葵はバランスよく石の上に立つ。


それを見てホッとした瞬間、空から輝く光と地面の漆黒がぶつかった。


ドンッ・・・


その時、俺の体が誰かに下へ蹴り出された。


なにッ・・・!?


俺の体は地面に叩き付けられ・・・ない?


漆黒に埋もれていくように沈んでいく。


嘘だろ・・・。


石の上に目をやると光に包まれよく見えないが、高成が葵の肩を抱いている姿が薄っすらと見える。


葵の表情は髪に隠れて見えない。


高成の表情は下目使いで俺を見下ろしながら片方の口角を上げニヤリと笑っている。


『タカナリ・・・。』


俺はそのまま漆黒に飲まれていった。


暗闇の奈落をいつまでも落ちていく感覚だ・・・。


俺は死ぬのか・・・。


闇と恐怖に飲まれながら心は意識を失っていった。


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