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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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セーバの街の印象 〜タキリ視点〜

(タキリ視点)


「はぁ〜。なんか、色々と想定外だよねぇ……」


 私は見知らぬ天井に向かって呟いた。

 ここはセーバを治める領主の館の一室。

 バンダルガからセーバまで、30日にも渡る航海を終え、ようやく辿り着いた揺れることのないベッド……。

 いや、揺れるか……。

 清潔なシーツにぎっしりと綿の詰められた敷布。ここまではいい。

 単にお客を送ってきた船の責任者に、なぜ公爵家のこんな高級な客室が充てがわれるのかは、とりあえず横に置いておく。

 問題は、この揺れるベッドだ。

 アメリアと名乗っていた領主の女の子が、確か馬車の中で“スプリング”って言っていた。

 (ほとん)ど揺れを感じない、お尻が全然痛くならない馬車。

 多分、このベッドにも同じ技術が使われている。

 この技術だけでも、私が今抱えている研究上の問題の幾つかは、解決できてしまう気がする。

 そして、極めつけがあのお風呂だ。

 なぜ管から水が出る!?

 水をお湯に変える魔道具って何!?

 さっきまで、見慣れぬ新技術の数々に興奮状態でぐるぐる回っていた頭は、久々のお風呂のおかげか、だいぶ落ち着いた。

 今はかつてない寝心地のベッドに抱かれ、やっと人心地ついたところだ。


 数刻前、船上から眺めたセーバの街は、多くの建物がまばらに散らばっていて、とても不自然な印象を受けた。

 普通の街は、もっと密集している。

 小さい町は小さい町なりに、大きな街は大きな街なりに、一所(ひとところ)に集まっているものだ。

 一見、移住してきた民が、各々の集団ごとに空いている土地に好き勝手に家を建てたようにも見えたけど……。

 上陸してみて、すぐにそれが間違いだと気付いた。

 これでも技術者で為政者の端くれだ。

 その意図はすぐに察せられた。

 この街は、人が集まったからこの規模になったわけじゃない。

 初めから多くの人が集まることを前提にして、街が作られているんだ。

 倭国の都も、最初に御所(ごしょ)を中心に碁盤の目のように通りを整備して、それを元にして街が作られた。

 結果、他所に類を見ない美しく機能的な街並みが完成した。

 でも、それができたのは、今の都が遷都を目的に初めから計画的に作られた街だからだ。

 (みかど)が住む街が都。

 だから、帝が移れば街も移る。

 でも、そんな事は普通はあり得ない。

 住みやすい場所と仕事があるから人は集まる。

 人が集まって生活がしやすくなり、仕事も増えるから、更に人が集まる。

 そうして、少しずつ街は大きくなっていくものだ。

 だから、新しい街などそう簡単にはできないし、発展するには時間がかかる。

 それこそ、何世代もの時間だ。

 故に、為政者はそんな先のことまで考えない。

 ただ自然に任せ、少しずつ大きくなっていく街の現状に合わせて、その問題点に対処していくだけだ。

 そう考えると、この街は異常だ。

 今のような急速な発展は、あの女の子がここに来てからのほんの数年の話らしい。

 それまでは、ただ公爵邸と賢者の塔があるだけの、人口100人にも満たない寂れた漁村だったそうだ。

 それがわずか数年で人口数千人規模の中堅都市だ。

 そんな規模で人が押し寄せれば、普通は家も物資も足りなくなり、街の外には難民が溢れかえる事態になりかねない。

 それなのに、この街にはそういった危うさは全く見られなかった。

 街はどこもきれいに整えられていて、街を歩く民に不安な様子は見られない。

 それは、つまり、この街には急速に増え続ける人口を賄うだけの、家と食糧と仕事があるということだ。

 訳が分からない。

 この街が既に貿易港として機能しているのなら納得もいく。

 でも、港には私達の船以外の外洋船は見当たらなかった。

 つまり、設備はともかくとして、現状この街は貿易港としては機能していないということだ。

 なら、どうやってこの膨れ上がった人口を食べさせる?

 ウィスキー? 羅針盤?

 いや、それだけでは弱い。

 他にも、もっとあるはずだ。

 スプリングや、どうして動いているのか分からないあの船、灯台、水道にお湯を沸かす魔道具……。

 今日見ただけでも、知らない技術のオンパレードだ。

 正直、羅針盤の仕組みを確認したら、さっさと帰るつもりだったんだけど……。

 これは腰を据えてかかる必要があるかもしれない。

 まさか、魔力馬鹿のこの国に、こんな技術があるなんて思わなかった。

 この国って、こう言ってはなんだけど、プライドばかりが高い脳筋のイメージが強いから。

 なんでも大魔力で押し切ろうとするスタイルは、繊細な魔力操作、魔力運用に価値を置く倭国の文化とは真逆なんだよね。

 魔力の低い相手を平気で見下してくるし……。

 でも、あの子は違ったなぁ……。

 長い航海で、お世辞にも身綺麗とは言えない格好で船から降りてきた私達に、あの子は嫌な顔一つせず挨拶をし、当たり前のように同じ馬車に乗って公爵邸に招き入れてくれた。

 おまけに、すぐにお風呂や食事の用意をしてくれて、正式な挨拶は明日以降でいいから、今日のところはゆっくりと休んでくれとの気遣いだ。

 この対応って、過酷な長旅の経験の無い貴族の令嬢には、なかなかできないんだけどねぇ。

 旅の過酷さも知らないで、やれ身だしなみがどうとか、挨拶が先だとか……。

 中には(ろく)にこちらが落ち着かないうちに、いきなり仕事の話を始める奴もいるし……。

 その点、あの子の対応は完璧だ。

 まずは温かいお風呂と、清潔なベッドと着替え。

 食事は用意はしてくれるけど押し付けはしないし、一緒に食事を摂ることを強要もしない。

 まずは休息を取ってもらうことを優先し、挨拶も明日でいいという。

 明日もまずはこの街にのんびり馴染んでもらって、仕事の話は明後日以降でいいでしょうって……。

 その上で、もし急ぎの用や気になることがあれば、遠慮なく言ってくれれば対応するというのだから、こちらとしては文句のつけようもない。

 一方的に自分の都合を押し付けてくるどこぞの貴族とは大違いだ。

 以前、魔法王国の国王の戴冠式に出席した伯父様の話だと、道中で立ち寄った街の貴族の対応はかなり酷かったらしい。

 そんな話を聞かされていたから、正直、羅針盤以外は全く期待していなかったんだけどね。

 どうやら、考えを改める必要がありそうだ。


 ともあれ、今はこのベッドの寝心地を試すのが先決だよねぇ……zzz


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