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貴族の社交4 〜サラ王女視点〜

(サラ王女視点)


 最後に向かったのは、ザパド侯爵のところ……。

 はっきり言って、私はあの人が嫌いだ。

 成金趣味で品がない。

 国王であるお父様に対してすら何だか偉そうで、自分が王家を支えてやっているんだというような態度が見え隠れする。

 それに、アメリア様やアリッサ伯母様、それにディビッド伯父様の悪口を、事あるごとに言ってくる。

 伯父様は次期国王だったのに、平民に“たぶらかされた”って。

 それで、魔力が低くて不出来な弟の方が国王になったって。

 お父様の魔力は王族としては普通だし、別に才能がないわけでもない。

 伯父様が特別優秀なだけだし、お父様は伯父様のように幼い頃から国王としての教育を受けてきたわけではないから、多少伯父様に頼ってしまうところは仕方がないのだ。

 それなのに、あの男は!


 とにかく、侯爵家との顔合わせもこれで最後だ。

 アメリア様に一番何かをしてきそうなのはあの男だし、私がしっかりとアメリア様の手助けをしなければ……。



「ご機嫌よう、ザパド侯爵。

 今日は私の従姉妹を、『いけませんなぁ、サラ様。そのような下働きの下女を連れて来られては!』」


 私がアメリア様を紹介する言葉を遮って、ザパド侯爵が周囲にも聞こえるような大声で話しかけてくる。


「ここは貴族のみが参加を許された場所ですぞ。

 下働きの侍女ですらそれなりの魔力を持ち、しっかりとした教育を受けた者ばかりです。

 そこに、そのような場末の酒場の下働きのような子供を連れて来られては、場の空気が汚れてしまいます。

 陛下も、そういった貴族の常識をしっかりと次代に教えていただかないと、また似たような不祥事が起きては困りますからな」


 常識がないのはどちらなのでしょう!

 公の場で、私だけでなく、国王であるお父様の悪口ですか。

 前国王が認めた伯父様の結婚を、“不祥事”扱いですか。

 国王が公爵と認めたアメリア様を、下女扱いですか。

 そもそも、貴族の常識で考えるなら、王女である私の言葉を妨げた時点で、完全にアウトでしょう。

 私が内心怒り狂っていると、アメリア様が一歩前に出ます。


「ザパド侯爵、ご機嫌よう。

 誤解があるようですので修正しておきますが、私はカルロス国王陛下より公爵位を賜りましたアメリア公爵です。

 お歳のせいか随分と目がお悪いようですから、私やサラ王女殿下に働いた貴族の礼儀を弁えない無礼な言動は不問に付しましょう」


「何を!」


「公の場での国王陛下に対する暴言。

 前国王陛下の決定に対する批判。

 サラ王女殿下の言を途中で遮る無礼。

 侯爵より上位である、公爵である私への暴言。

 全て貴族とは思えない非常識なものです。

 その程度のこと、平民の子供()()知っていますよ」


 澄ました顔で微笑むアメリア様を前に、ザパド侯爵の顔がみるみる真っ赤に変わっていきます。


「この二桁の小娘が!」


 その瞬間、私に向かって途轍もない強さの“威圧”が襲いかかります。


「ひッ!?」


 こんな大量の魔力を使った“威圧”など、今までの魔法の練習では一度もありませんでした。

 足が震えて立ってられない!

 こんな公の場で、王族である私が尻もちをついてしまえば大失態です。

 恐怖が頭の中を占め、怖くて叫びだしそうになって……。

 ふっと、今まで感じていた魔力が、突然消えてなくなりました。

 私はふらつく足に力を入れ、何とかその場にしゃがみこんでしまうのを耐えます。

 そして、ゆっくりと顔を上げると、そこにはアメリア様の背が見えました。

 いつの間にか、ザパド侯爵と私の間に立っているアメリア様。

 お互いの睨み合いはまだ続いているようですが、私の方にザパド侯爵からの“威圧”は届きません。

 アメリア様が守ってくれている。

 その背中はとても頼もしくて、後ろから少しだけ覗く面立ちは凛々しく、まるで光り輝いているようでした。


「ッ!?

 何故平民の貴様に私の“威圧”が受け止められる!

 あの売女のように、何か小賢しい手品でも使ったか!

 貴様のような汚らわしい娘など、あの女と共に貧民街で客でも漁っていればよいのだ!

 こ、ぐぅあ!?」


 アメリア様に向かって暴言を吐いていた侯爵が、急に額を押さえて後ずさります。

 その瞬間、かすかに周囲に感じていたザパド侯爵の“威圧”の魔力が、完全に消え去りました。

 一体何が起きたのでしょう?

 まだ額を押さえたままのザパド侯爵が、アメリア様を睨みつけます。


「貴様、何をした!?」


「何をとは?」


「貴様、魔法を使ったな!

 王宮内で王の許可もなく、上級貴族の私に魔法で攻撃するなど、許されると思うか!」


 ザパド侯爵はそう言いますけど、私にはアメリア様が呪文を唱えているようには見えませんでした。

 

「また、妙な言いがかりですね。

 一体どんな魔法を使ったというのですか?

 火魔法ですか? 水魔法ですか?

 そもそも、私が呪文を唱えるのを聞いたのですか?

 それに、私に魔力がないと散々こき下ろしたのは、ザパド侯爵ではありませんか。

 まさか、庶民並みの魔力しかない私の魔法攻撃で、ザパド侯爵は怯まれたのですか?」


「そんなはずはない!」


「そうでしょうとも。

 それに、もし本当に魔法で攻撃されたのでしたら、何らかの傷なり痕なりが残っているのではありませんか?

 見たところ、特に何ともないように見受けられますけど……。

 全てはザパド侯爵の勘違いではございませんか?」


 周囲の者に確認するも、痕も何も見られないと言う。

 今は触っても全く痛みを感じない。

 これでは、これ以上文句を言うわけにもいかない。

 悔しげにアメリア様を見るザパド侯爵。

 そこに、別のところから声がかかる。


「何やら騒がしいようだが、何の騒ぎだ?

 アメリア()()、何かあったのか?」


 騒ぎを聞きつけたのか、お父様と伯父様がいらっしゃいました。

 伯父様が周囲に集まった貴族に睨みを利かせると、野次馬達は巻き込まれないよう距離を取ります。


「これは国王陛下、お騒がせして申し訳ございません。

 この度、陛下より公爵位を賜り、晴れて貴族の仲間入りができましたので、ザパド侯爵にそのご挨拶をしておりました。

 少々騒がしくなりましたのは、ザパド侯爵とのお話に、つい熱が入り過ぎてしまっただけでございます」


 平然とお父様と話すアメリア様を睨むも、ザパド侯爵は何も言わない。

 それはそうでしょう。

 さっきまで、伯父様の家族やお父様の悪口を言ってましたなんて。


「挨拶も終わりましたので、私は御前を失礼させていただきたいと思います。

 実際のところ、いつまでも私のような子供が大人の社交の場を彷徨(うろつ)くのも、ご迷惑かと思いますので」


 アメリア様が子供っぽく微笑めば、お父様も大仰に頷く。


「うむ、気をつけて帰るがよい。

 サラも、この度のアメリア公爵の介添ご苦労だった。

 詳しいことは、王妃にでも報告しておくように」


 こうして私は、アメリア様の介添のお仕事を何とか終えることができました。

 アメリア様のお陰で……。

 多分、私がいなくとも、アメリア様は問題なく貴族達への挨拶ができたのではと思います。

 守られていたのは私の方。

 お母様は私の“勉強”って言っていたけど、あれは挨拶の仕方の勉強ではなく、アメリア様から学びなさいという意味だったのでしょう。

 今日のアメリア様は、本当にかっこよかったです!

 今なら、お父様やお母様がアリッサ伯母様を引き合いに出して、魔力量が全てではないと言うのも分かる気がします。

 あの伯父様が、元平民のアリッサ伯母様のことを好きになった理由(わけ)も……。

 あのような姿を目の前で見せられたら、あんな風に守られてしまったら、もう好きにならないわけがありません!

 私もアメリア様のように、いえ、アメリアお姉様のように強くなれたなら……。

 きっと、もう少ない魔力でウジウジと悩むこともなくなるでしょう。

 そして、いつの日か、ただお姉様に守られるだけの存在ではなく、お姉様の隣に並び立てる存在になりたい!

 そのためには、まずは勉強ですね。

 今回の事で、私は自分の勉強不足を思い知りました。


 そうして、私は決意も新たに、お母様のところへ今日の報告に向かったのでした。


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