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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第1章 アメリア、領主となる

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開発計画

 それから数日をかけて、私達は今後の予定について話し合った。


『ウィスキーを餌にこの町に人を呼び込むのなら、宿屋の確保が第一ですね。

 正直なところ、私達もこの町に来る前は、仮にも領都なのだから宿の一軒くらいはあるだろうと考えていました』


『今は町への移住希望者は一旦学校の寮に入ってもらっているようですが、これは一度にどのくらいの人数を受け入れられるのでしょう?

 仮に100人以上の人間が一時期にやってきたとしたら、どのように対処するお考えですか?』


『確かにウィスキーは魅力的ですし、あの学校のレベルを見ればこの町の発展を疑う者はいないと思います。

 ですが、ただの取引先の町と考えるなら、わざわざこの辺境の町まで来て、取引できるものがウィスキーしかないというのは、ちょっとインパクトに欠けますね』


『初めての商品というのは、最初の売り出し方でほぼ商品価値が決まります。

 “辺境でしか作られていない、大麦の珍しい酒”というのと、“神々よりその製法をもたらされた、唯一この地でしか作られていない神酒”というのでは、価値が全く違います。

 いずれは平民でも気軽に飲める酒になるとしても、最初は王侯貴族しか口にできない高級酒として、それなりの値で売り出すべきでしょう』


『この町が順調に発展したとして、本当にアメリア様のお立場は安泰と言えるのでしょうか?

 この町が国にとって重要な港湾都市となったところで、魔力の少ない子供になど任せられないと、国や他所の貴族に取り上げられるという可能性はございませんか?』



 流石は一流の商人というべきか、一旦目標が定まれば最初のチョロさはすっかり鳴りを潜め、こちらが気づかなかった点や、見て見ぬ振りをしていた点をバシバシ指摘された。

 そして、私達はそれらの点も踏まえて、今後の行動方針を決定していく。

 まずは急いで商会の建物と、宿屋を2つ建てることにした。

 宿屋は店を構える中堅層の商人の為の中流レベルのものと、行商人等が利用する安宿の2つだ。

 ないとは思うけど、もし大商会の商店主や貴族等が直接来た場合には、レボル商会か公爵家が直接対応すれば問題ないだろう。

 それから、移民希望者が増えた場合や、宿屋のみでは来訪者の対応ができない場合を考慮し、新たに校舎と寮を1つずつ建てることにした。

 こちらは今回使われる機会がなかったとしても、学園都市として発展させていく以上、遅かれ早かれ必要になるので全く無駄にはならない。

 これらの建築はこの町の職人のゼロンさん一家と、ゼロンさん家の長男にして上級クラス筆頭、ユーノ君率いるセーバ小学校の生徒たちが行うことになっている。

 もちろん、建築にはレジーナやレオ君も加わる。

 今なら、セーバ小学校を建てた頃の何倍もの戦力がある。

 あれから実験農場を作ったり学校の寮を作ったりしたし、倉庫や桟橋、船も作った。

 私も覚えている限りの地球で見た建築物の特徴なんかをユーノ君やアンさんには教えてきたし、もう2人に任せても大丈夫だろう。

 ゼロンさん一家と私達は細かな打ち合わせを繰り返し、どのような建物を建てるのかを詳細に話し合って決めていった。



「レジーナ、今寮にいる3家族の仕上がり具合はどうかしら?」


 彼らは近隣の森の集落からやって来た人たちだ。

 最近は畑の作物の育ちが悪いところにきて、小型ながら魔物の群れに目をつけられてしまったらしい。

 追い払っても追い払っても次々にやって来る魔物に畑を荒らされ、どうしようもなくなってきたところで、この町の噂を聞いたらしい。

 このままここに住み続けても後がないと腹をくくり、集落の3家族は住んでいた土地を捨てて、この町にやって来たそうだ。

 今は寮の仕事や農場の手伝いをしてもらいながら、学校で読み書きや計算を学んでもらっている。


「皆さん、初めてのことばかりで戸惑っていらっしゃいましたが、最近は寮の仕事も任せられるようになりましたし、恐らく2週間後の試験にも合格すると思われます」


「彼らに仕事の希望とかあるのかしら?」


「いえ、特にはないと思います。

 今は農場の方の仕事も手伝っていますので、そのまま農場で働くことになると考えているようですが」


「では、あの3家族に宿屋の方を任せましょう。

 今日から農場の方の手伝いはいいから、カノンの下に付けて徹底的に接客術を叩き込んで。

 人手が足りないようなら、お屋敷の侍女を助っ人に使ってもいいわ。

 ただし、宿屋のターゲットは中級から下級の商人さんたちだから、あまり貴族向けの堅苦しい対応にならないように気をつけてね」


 カノンは、現在セーバ小学校の上級クラスに所属している10歳の女の子だ。

 公爵家が現地採用した使用人夫婦の娘で、地図作成の頃からの初期メンバーになる。

 最初の頃は、いきなり私の側近になったレジーナを妬んで、自分もうまく取り入ってやろうと、レジーナに色々とちょっかいを出してきたらしい。

『あなたなんて、お嬢様の側近に相応しくない云々』って感じだ。

 で、レジーナに返り討ちにあった後は、すっかり心を入れ替えたようで、今ではレジーナを“姉”のように慕って、レジーナの仕事の補佐をしてくれている……。

 ちなみに、レジーナは今8歳だ。

 カノンもレジーナと同じく、公爵家の侍女のお手伝いもしているので、宿屋の運営に必要な一通りの技術は既に習得済みだ。

 今回、セーバの町の方の総指揮はレジーナに任せるつもりだから、宿屋の方の現場指揮はカノンにやらせようと思っている。

 いつまでもレジーナの補佐じゃ、育たないしね。


 レジーナと宿屋の運営について話していると、横でフェルディさんと商会の間取りについて話し合っていたユーノ君が尋ねてきた。


「ところで、今更ですけど、本当に建物はここに建てちゃっていいんですか?」


 ユーノ君が指差す地図上の宿屋と商会の建設予定地は、この町のメインストリートの“道の真ん中”だ。

 ちなみに、そのすぐ南側には漁師たちの家が並んでいる。

 以前は、大通りを挟んだ北側に農家の家が並んでいたが、今は全て移転していて何もなくなっている。

 今後の街作りを考えた時に、流石に街道から公爵家に続く大通りに並ぶのが、普通の農家や漁家じゃ見栄えも悪いし、商業的にも勿体無い。

 それで、建て替え費用はこちらで持つのでと移転を持ちかけたのだが、網元(ゲスリー)は了承しなかった。

 先祖伝来の土地がどうとかこうとか言ってたけど、この町の網元としては、公爵家に続く大通りの一等地に自分の家があるというのが重要らしい。

 ダニエルに脅されて多少大人しくはなったけど、未だに彼は町の顔役で、公爵家と並ぶ町の支配者なのだと、信じているのだろう。

 こちらは領主だから、勿論無理やり立ち退かせても全く問題無いし、建て替え費用を出すという時点で、貴族としては考えられないほどの大盤振舞いなのだが、どうもゲスリーの中では違うらしい。

 ゲスリー、お母様のことも嫌らしい目で見ていたし……。

 聞いた話では、以前はユーベイ君の母親にも言い寄っていたらしい。

 特に、ユーベイ君の父親が亡くなった後は、しつこかったそうだ。

 ユーベイ君の父親が海の事故で亡くなったのも、ゲスリーの船でなんだよね……。

 ユーベイ君は何も言わないから、私も敢えて触れないけど。

 そんな訳で、私は完全にゲスリーを切り捨てることに決めた。

 町が変わり始めているこの状況を見ても、未だにゲスリーに付き従う他の漁師も同様だ。


「予定地に変更はないわよ。

 もし、それでがたがた言ってくる者がいたら……。

 レジーナ、殺さない程度なら攻撃魔法の使用も許可します。

 公爵家の名のもとに、力づくで排除しなさい」


「はい、畏まりました。アメリア様」


 にっこり笑う私とレジーナに、引きつった笑みを見せるユーノ君。

 そんなに動きたくないなら、動かなければいい。

 どうせ大した通りではないのだ。

 大通りの方を北にずらせばいいだけだ。

 その上で、ゲスリーの家の玄関の真ん前に宿屋を建ててしまえば何の問題もない。

 これで全て丸く収まる。


 そんなこんなで1週間ほどが経ち、私とフェルディさんの出発の日がやって来た。


「これで大体大丈夫かしら?

 後は任せても平気そう?」


「お任せ下さい、アメリア様。

 何かあればご連絡しますし、ダニエル先生もアルトゥーロ男爵様もいらっしゃいます。

 商会の方はビーノさんもおられますし、何も問題ございません。

 それよりも、私がアメリア様と御一緒できないのが口惜しいのですが……。

 そちらも、サマンサ先生が御一緒ですから心配はしておりません」


「ありがとう。

 では、後のことはよろしく頼むわね」


 そう、私は今回フェルディさんがクボーストの街に帰るのに、同行させてもらうことになっている。

 この街を貿易都市にするにあたり、まずはライバルとなるクボーストの街の現状を見ておきたいと思ったのだ。

 どちらにしろ、近いうちに王都には行かなくてはならなかったしね。

 2ヶ月後に行われる国王陛下の誕生祭に出席するためだ。

 だから、予定よりも少し早めに出て、先にクボーストの街を視察することにしたのだ。


 実は、既に7歳になっている私は、本当ならもう貴族の社交を始めなければならないのだ。

 この国では、貴族は7歳で一応一人前の貴族として扱われる。

 実際に仕事を始めたりするのは、学院を卒業する15歳からだが、貴族として扱われるようになるのは7歳からだ。

 だから、私よりちょっとだけ年上のレオ君も、本当は“レオナルド男爵”と呼ばないといけない。

 誰も呼ばないけど。

 私の場合は事情が特殊過ぎるので、“アメリア公爵”と名乗ってしまっていいのかは微妙だけど、一応7歳になれば家督も継げるし、正式な役職にもつける。

 今回私が王都に行くのは、公爵家の一員として正式に貴族の仲間入りをしたことに対する、国王陛下へのご挨拶が目的だ。

 ついでに、国王陛下の誕生祭という国中の主だった貴族が全て集まる催しで、まとめて貴族各位への最低限のご挨拶を済ませてしまおうという作戦だ。

 国王陛下への根回しは、お父様が既に済ませているので、謁見すれば問題なく貴族として承認はされるそうだ。

 国王の言質を取ってしまえば、他の貴族が私のことを貴族とは認めないと言ったところで、表立った否定はできない。

 一応、最低限の貴族の権利は認められるようになる。

 今回の謁見は、その承認をいただくのが一番の目的だ。

 他にもいただきたい“承認”はあるけどね。

 誕生祭への参加はできれば避けたいんだけど、流石にこれは避けられない。

 正式な貴族が一度も社交の場に出席しないのも問題だし、王都にいながら国王陛下の誕生祭に出ないのも体裁が悪い。

 そんな訳で、やむを得ず参加することになった。

 まあ、お母様も付き合ってくれるだろうし、諦めるしかないだろう。

 救いなのは、私がまだ子供だからという理由で、出席するのは昼間の立食パーティーのみで、お酒の出る夜会の方には出席しなくてもよいことだ。

 昼間の立食パーティーが終わったら、私はさっさとセーバの町に戻る予定だ。


 きっと、“お酒”の出る今年の夜会は、荒れるからね。


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