まずは現状把握から
昨夜は散々泣いて、気分もだいぶ落ち着いた。
何の躊躇いもなく全力で泣きわめけるというのは、赤ん坊の特権だね。
ここまで恥も外聞もなく泣いたのって、記憶にある限り初めてかもしれない。
そのせいか、たったの一晩でだいぶ気持ちの切り替えができたみたい。
もう元の世界には帰れないとか、家族にも会えないとか、まだ色々辛い気持ちもあるにはあるけどね。
でも、新しいゲームを始める時とか、日本を出国する時とか、それに似た高揚感も感じているから、とりあえずは大丈夫そうかな。
さて、新しいゲームを始めましょう。
まずは現状把握からかな。
よし!
「ステータス・オープン!」
「ウィンドウ・オープン」
「アイテムボックス・オープン」
………………。
はい、無理ですね。
別に本気でやった訳じゃないから。
ただ、一応確認した方がいいかなぁって思っただけだから。
そもそもゲーム中に死んだ訳じゃないんだから、この設定はないよね。
となると、あと期待できるのは転生特典。
所謂チート能力ってやつか。
とりあえず、体の中心、丹田に意識を集中して、体内にみなぎる魔力の流れを感じてって……。
もちろん、何も感じない。
多少の熱は感じるけど、これは元の世界で太極拳の練習とかしてる時にも感じた熱だから、気の流れっていうか単なる血行促進効果みたいなものだから。
体の一部に意識を集中させると、何かそこに熱を感じるっていうのは結構自然なことで、それで私にも魔力が!?とか言い出しちゃうと、もう例の病一直線だ。
まだ、現実逃避ぎみだなぁ。
なんか異世界転生なんてファンタジーなことが実際に起きちゃったから、現実と妄想とか願望とかがごっちゃになっちゃってるね。
ここは冷静にならねば。
とりあえず、今のところ生命の危機とかはなさそう。
ここの人、みんな優しいしね。
見た感じ、生活水準もそこそこ高そうな気がする。
部屋も広いし、汚い感じもしない。
中世のヨーロッパ?
よく異世界ファンタジーで見る設定、とも違うかな。
どちらかというと、明治の洋風レトロ?
基本洋風なんだけど、微妙にアジアっぽい感じもするし。
服装も、ドレス!って感じじゃなくて、意外とシンプルで、ベトナムで見たアオザイやチャイナ服に似ているかも。
あまり刺繍とかコテコテしてない民族衣装って感じで。
うん、結構カッコいいかも。
でも、あの手の服って人を選ぶんだよね。
どうしよう。
私には無理だ。
て、今の私、赤ちゃんじゃん!
これから超絶美少女に育つんだから、ああいうのも全然オーケー……多分。
で、あの紅い髪の人が読んでるのって、本だよね。
よしよし、とりあえず本はある世界だ。
まずは一安心だね。
本の無い世界なんて、考えられない。
さすがにアニメやゲームもとは言わないけど、本くらいはないと快適に引きこもれない。
いや、引きこもりって人生の夢でしょ。
私の中の将来なりたいものランキングでもかなりの上位だよ。
まあ、どうでもいいけどね。
さて、灯りは……どう見てもロウソクやガス灯の明かりじゃない。
電気かなぁ。
テレビやラジオみたいなのは見当たらないけど。
もしかして、結構発展してる?
窓ガラスも透明だし。
とりあえず、どのくらい文明が発展しているのかは分からないけど、多分お金持ちの家だ。
生活水準は結構高いと見た。
元の世界の発展途上国の宿屋なんて、ここの100倍酷かったしね。
蚊が大量発生したり、Gが大量発生したり、ベッドがダニだらけだったり、一晩中クラブ並みの大音量で音楽が鳴り響いていたり、コーランが大音量で流れていたり……。
こんなん、眠れるか!って……。
なんか異世界転生ってことでビビってたけど、実は全然大したことないかも。
とりあえず、安全だし宿は快適だしお金の心配もしなくてよさそうだし。
全然問題無いじゃん。
だいぶ冷静さを取り戻した私は、改めて周囲の観察を始めてみた。
あそこのソファーに座って本読んでいる紅い髪の人が、多分私の母親なんだと思う。
よく一緒に居てくれるし、なんか私に対する接し方が他の女の人たちと違う。
こう、世話をしてるという感じじゃなくて、ただ単に構いたいから側に居るって感じ。
他の女の人も優しいんだけど、でも接し方が仕事っぽいと言うか。
それに、あの紅い髪の人に対する周りの対応って、明らかにメイドさんの対応だよね。
その割には紅い髪の人の対応が主っぽく見えないのが気になるけど。
ただ、実際今も働かずに本読んでるし。
従業員なら、さすがに怒られるよね。
よし、とりあえず、あの紅い髪の人が私のお母さんでここの主。
で、他の女の人達はこの家のメイドさんということにしておこう。
その線でまずは人間関係を構築かな。
あとは、朝と夜によくやって来る男の人がいるけど、あれが父親かな?
まあ、悪人には見えないし、多分カッコいいんだろうけど、ちょっと私の好みとは違うかな。
なんか、構い方が微妙にウザいし。
でも、あの人が私の父親だとすると、あの紅い髪の人の旦那さんで、この家で多分一番偉い人ってことだから……。
うん、無難な対応を心掛けましょう。