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網元との話し合い

 あれから1週間ほどで学校は完成した。

 建物自体の建築日数は実質3日ほどだ。

 前世の科学技術を駆使しても、たったこれだけの人数でこんな短期間では不可能だろう。

 魔法文明様様だ。

 ゼロンさんも、私やレオ君、レジーナの協力がなければ絶対に不可能と言っていたし、やはりこの世界では如何に上手く魔法を利用できるかが発展の鍵なんだろうね。

 でも、それは決して魔力量ではない。

 レオ君はともかく、私やレジーナはゼロンさんと比べてもかなり魔力は低いわけだからね。

 やり過ぎちゃうと、この世界の社会制度を混乱させちゃうからまずいけど、やはりこの町の発展のためには、魔法教育は必須だろう。

 うん、とりあえず太極拳は必修科目だね。

 あとは、二桁までの足し引き掛け割りを徹底させて、最終的には日本の小学生程度の算数までは教え込みたい。

 読み書きは勿論だけど、理科や社会についても、ある程度の知識は教えた方がいいよね。

 その辺は、個々の進展具合を見ながら考えていこう。

 授業は、毎回私が教えるのは無理があるから……基本はレベル的に上の子が下の子を教えるというスタイルにしよう。

 教える側の勉強にもなるしね。

 人数はどのくらいになるかなぁ……。

 できれば町の子供たちには全員参加してもらいたいんだけど、家の手伝いをしなければいけない子もいるだろうから、その辺は状況をみて、無理のない範囲で柔軟に対応って感じかな。

 まずは農家のまとめ役のアグリさんと、網元の……網元さんに話をしてみるか……。

 あの網元のおじさん、何か苦手なんだけど……。

 何か偉そうだし、目つきが嫌らしいし……。

 ついでに言うと、地図作成の時に途中で来なくなった2人のうちの1人が、あのおじさんの息子だ。

 で、もう一人はその息子の取り巻き。

 私やレオ君に対しては慇懃な態度を取っていたけど、他の子達には妙に偉そうだった。

 レジーナの言うことなんて、端から聞く気がない感じだったしね。

 で、レジーナは私の側近だからしっかりと話を聞くようにって注意したら、次の日から来なくなった。

 あの子の親が、漁師のまとめ役かぁ……。

 気が進まないけど、一度話をしてみるか……。



「いやあ、この料理は実にうまいですなあ。

 うちも素材の一番いいところをお届けした甲斐があるというものです。

 この魚は時間が経つとすぐに味が落ちてしまうんですよ。

 ですから、毎回新鮮な物をお届けするのは、正直こちらも大変なのですが、公爵家の食卓に並ぶものだと思えば、私も手が抜けませんからなあ」


 着慣れぬ一張羅を着込み、カチャカチャ、くちゃくちゃと食事をするのは、この町の漁師のまとめ役、網元のゲスリーさん……いや、本名ですよ。

 自分で名乗ってました。


「それにしても、せっかくの素材をアリッサ公爵様に味わってもらえなかったのは残念ですな。

 体調が優れないとは、実に残念だ」


 私とアルトさんを前に、本当に残念そうな顔をするゲスリーさん。

 なんだろう……この地を治める男爵様と、仮にも王家の血を引く公爵令嬢だけでは不服なのだろうか。

 私もなんちゃって貴族だし、別に身分を振りかざす気はないけど、これは身分関係なく失礼ではないだろうか。

 そもそも、なぜ今私がこのおじさんと夕食の席にいるのか?

 勿論、今度始める学校についての話し合いのためである。

 アルトさんと話し合った結果、一応正式に男爵家、公爵家の連名で、夕食への招待状を出したのだ。

 うちは一応ここの領主なので、本当はただ呼び出して話をすればそれでいいのだ。

 でも、あれでもこの町、というか村に元々いた住人だし、町のまとめ役の一人でもある。

 流石に領主が自ら領民の家を訪ねるのも問題があるし、ただ呼び出したのではプライドの高い人だからへそを曲げるだろうということで、わざわざ招待状を出して“招待”したのだけど……。

 ちなみに、招待状を届けに行ったダニエルの話だと、彼は全く招待状の文面は読めていなかったそうだ。

 受け取った招待状を難しい顔で睨んでいたので、それとなく招待状の用件を口頭で伝えてあげたら、「ここにもそう書いてあるな。確かに“了承”したと、公爵様に伝えてくれ」と言われたそうだ。

 何か、逆に増長させた?

 ちなみに、お母様は仮病だ。

 ゲスリーさんを呼んで、町の学校について話し合うと言ったら、今日は気分が悪くなる予定だから、夕食は別室で一人で食べると笑顔で宣言された。


 ……お母様の気持ち、わかるかも。


 食事も済み、私達は場所を移して本日の用件について話し合ったのだが……。


「お嬢様が町の子供に学問を授けたいというのはよくわかりました。

 ですが、正直なところ、私等漁師にとっては、たとえ子供でも貴重な労働力なのですよ。

 お嬢様のように、毎日塔に籠もって好きな本を読んでいればいいというわけにはいきません。

 漁師にとっては、毎日が海との戦いなのですよ。

 今日お嬢様が食べられた食材も、そうした私達の戦いの成果です。

 労働力が減るということは、そうした町の食糧が減ってしまうということなのですよ。

 うちのグルーピーもまだ子供とはいえ、私の後を継ぎ町を支えていく将来の網元です。

 今から覚えるべき仕事は、たくさんあるのですよ」


 塔のある崖の上から見ていると、砂浜で元気に遊ぶお宅のお子さん達の姿をよく見かけますけどね。

 それにしても、なんだろう、このおじさん。

 この人の言い分って、こうだよねえ。


 うちはお嬢様のように、毎日好きなことして遊んで暮らせる身分じゃないんだ。

 自分たちが頑張っているから、毎日新鮮な魚を食べられるんだぞ。

 誰のおかげで毎日魚が食べられると思ってるんだ。

 お前の道楽に付き合っている暇などないわ。


 大体こんな感じかな。

 それに、あのニタニタ笑いは……。

 あれは、こっちにも意図が伝わるように、わざと言ってるっぽい。

 微妙に脅しもかけてるか。

 文句があるなら、もう魚は売らないぞってところかな……。

 あ、アルトさんがキレかけてる。

 私が我慢してるから黙ってるけど、これ、今すぐ物理的に切り捨てられても不思議じゃないよね。

 この町の人は他所との交流がなくて、“貴族”を知らないからしょうがないのかもしれないけど、こんなの王妃のベラ叔母様の耳にでも入ったら、町ごと焼き払われちゃっても不思議じゃないくらいだ。

 そう考えると、お母様がここにいないのも正解かも。

 流石に、“公爵様”の前でやらかされちゃうと、場合によっては見て見ぬ振りもできなくなる。


「それに、これはグルーピーから聞きましたが、なんでも勉強を教えているのはお嬢様ではなく、孤児のレジーナとか。

 それでは大した勉強にもなりませんからなあ」


 ゲスリー、私の大事な側近を、孤児と愚弄するか!


「そうですか、わかりました。

 ゲスリーさんのお仕事は命がけの大変なお仕事ですから、これ以上の我儘は言えませんね。

 幸いアグリさんの話では、漁師の方々と違って農家の子供たちは暇そうですから、私の相手はそちらにお願いすることにいたしましょう。

 漁師の皆さんの大切なお仕事の邪魔はできませんから」


「ご理解いただけて何よりですな」


 私が全身の怒りを抑えてにっこり微笑むと、ゲスリーも貴族に自分の主張を通してやったと、得意そうに頷いていた。


 漁師同士は団結が強いらしいから、恐らく漁師組は地図作成組のユーベイ君以外は全滅だろう。

 ユーベイ君の家は漁師といっても、元々漁師だったお父さんは既に海の事故で亡くなっていて、今はお母さんと2人暮しで、直接漁に参加しているわけではないらしい。

 それに、ゲスリーの家とはあまり仲が良くないようなので、今更私のところにユーベイ君が来ても、何も言われることはないそうだ。

 そんな訳で、記念すべきセーバ小学校の第一期入学生は、地図作成組の5人にレオ君とレジーナ。

 それに、新たに農家の子たち5人を加えた計12人に決まった。


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