農業改革?
さて、これで用地も決まったし、いよいよ実行に移そう。
学校の方は先日ユーノ君のお父さん、ゼロンさんに会って細かい打ち合わせを済ませておいた。
今はどういう建物にするかの設計と、予算の見積もりをお願いしている最中だ。
この世界の建物は基本魔法で建ててしまうため、細かな設計図を書いたりはしないらしい。
それでも、どんな資材を使ってどんな間取りでどんなデザインの建物にするのか? そういうことはしっかりと決めた上で着手するとのことで、今はそれをお願いしているところだ。
ちなみに、今回の学校建設の費用は、全てお祖父様が出してくれることになった。
「町の子供たちに勉強を教えるのに、紙とかペンとか、他にも色々必要なんだけど、あそこの箱のお金遣っていい?」と尋ねたら、好きなだけ使って構わないと了解を得られた。
孫に理解のある祖父で何よりだ。
実際、この町を丸ごと作り直しても全然余裕くらいの金貨が、無造作に放置されているのだから、お祖父様に取っては学校の一つや二つ全く問題ないだろう……多分。
問題は、農業改革の方だ。
とりあえず、農業のやり方を工夫して、町の農作物の生産量を増やそう。
あの異世界転生ファンタジーでは定番の、“三歩式農業”とか“ノーホーク農法”とかだ。
詳しくは覚えていないけど、要は土地が痩せないように休耕地を挟むとか、輪作するとか、そういうことだよね。
あとは、肥料の導入とかかなぁ……。
まずは、この世界の農業レベルについて知らないと話にならないだろう。
ということで、今、私はハーベ君とハーベ君のお父さんのアグリさんにお屋敷に来てもらって、話を聞いているんだけど……。
「では、アグリさんのお父様がここで畑を拓いた頃と比べると、明らかに収穫量が落ちているということですね? (やっぱり、輪作障害かぁ)
それって、輪、『連作障害でしょうな』……あれ?」
「同じ畑で一つの作物を作り続けると、土地が痩せて育ちが悪くなります。
昔は1、2年休ませれば大丈夫だったのですが、最近はそれもあまり効果がありません。
大麦の代わりに小麦を植えてみたりもしたのですが、そもそもこの土地は寒すぎて、小麦はうまく育たないのです」
どうも、私のなんちゃって知識チートは、またも役には立たないっぽいです……。
「……え~と、何か解決策は?
他の土地ではどうしているのですか?」
「大抵は、貴族様や魔力量の多い地主が豊穣魔法をかけます。
この魔法を使ってもらうと、弱っている農作物も蘇りますし、連作障害もおきません。
私の父は、もう亡くなりましたが、元々ユーグ侯爵領で小作農をしてまして。
私が小さい時に新天地を求めてこの町にやって来ました。
当時は公爵様のお屋敷もなくて、本当にただの集落だったのですが、自分の畑が持てると必死に土を耕したそうです。
聞いた話では、前の土地ではかなり地主に酷使されていたそうで……。
ただ、今考えると、地主が豊穣魔法を使ってくれるだけでその年の収穫が保証されるのだから、あんなに威張り散らされるのも仕方がなかったのかもしれないと、年を取ってからはたまに溢していました」
あったねぇ……。
そんな魔法が、確か魔法大全に。
でも、あの魔法の効果は、今一つよく分からない。
『大地に神の恵みを与え、豊穣を約束する魔法』ってことなんだけど、具体的な効果がはっきりしない。
さっきの話から考えて、恐らく土地を回復させる魔法なんだろうけど、地中の特定の養分を増やすものなのか、元の状態に戻すものなのか……。
植物に直接働きかけるという線もあるし……。
うん、要実験だね。
当初のイメージとは違ったけど、所詮魔法ありきの世界だしね。
今まで通りに、農地で試せる魔法の実験をやっていけば問題ないだろう。
とりあえず、豊穣魔法の効果と具体的な使い方が分かれば、それだけでこの町の収穫量は上がるということだ。
私はアグリさんに豊穣魔法の解析が済めば、この町の畑に豊穣魔法をかけてあげることができるからと伝え、無事にこの町の農家のみなさんの協力を取り付けたのだった。