都市計画
「ここに実験農場を、ここに学校を考えています」
私の指差す場所を見つめ、各々に思案顔の3人。
ここはいつもの塔の、私の研究室。
目の前には新たに作った地図が広げられ、それを囲むようにみなが集まっている。
私、レジーナ、レオ君、そしてアルトさんの4人だ。
学校と実験農場の計画については、前々から代官のアルトさんと領主であるお母様には、無理な予算でなければ構わないと許可をもらっている。
元々放置されていた領地だし、特に大きな税収がある町でもない。
この町がたとえ発展しなくても、困るのは私くらいなので、自分が納得のいくように好きにやればいいと、お母様には言われている。
信用されているのか、プレッシャーをかけられているのかは不明だが、お母様は口を出す気はないらしい。
今回の話し合いも、「任せるわ」で、終わってしまった。
アルトさんに塔の方に来てもらったのは、単純にこちらの方が私の資料が揃っていて話がしやすいからだ。
「実験農場が屋敷の北というのは分かります。
そこなら、町の農家の畑の隣ですから、住民の協力も得られそうですからな。
ですが、学校を塔と屋敷の間に作るのはどうでしょう。
確かに、それならアメリア様は顔を出しやすいでしょうが……」
「みんなの家から遠くならないか?
セーバの町は屋敷の東側だし、この塔は屋敷の真南の岬の突端で、この塔以外には何もない。
こっちに来る用があるのはアメリア様だけだぞ」
「……土地の問題ですか?」
アルトさん、レオ君の反対意見に、レジーナが思案気に口を挟む。
「土地なら問題ないと思うが……?
町といっても別に建物が密集しているわけではありませんから、小さな学校を一つ建てるくらいのスペースは十分にありますよ。
もし、広めにしたいというなら、町の東の外れに建ててもいい。
お屋敷からは少し離れてしまいますが、お嬢様は歩くのはそれほど苦にならんでしょう?
何なら馬車を出しますよ」
「……アメリア様、アメリア様は一体どのくらいの大きさの学校を考えておられるのでしょう?」
レジーナは気づいたか。
さすがにずっと私の仕事を手伝ってくれているだけのことはある。
「今回建てる予定なのは、教室を1つと魔法の練習場兼実験場の2つだけよ。
でも、今後、徐々に拡張していくつもり。
将来的には、塔からお屋敷までの一帯全てを、学校関連の土地にしようと考えてるわ」
「なっ?!」、「ハァ?!」
「正確には、学校というか研究施設ね。
要は、私やお祖父様がこの塔でやっているようなことを、もっと人を集めて大々的に行うってこと。
そのための人材教育も含めてね。
アルトさんも知っているでしょ?
お祖父様が大量の金貨を溜め込んでいること。
あれ、お祖父様が魔法大全や魔法無効化の魔道具で全て稼いだのよ。
ただ、僻地に引きこもっているだけなのに……。
新しい技術や知識というのはお金になるのよ。
ここは王国の中では僻地だけど、魔法の研究をするのには悪くないわ。
魔石の山も近いし、大賢者様もいるしね」
「また、とんでもないことを……」
「それにね。
町の東側、というか、この町のある湾の東側一帯は、丸々残しておきたいの。
いつか大きな港を作りたいから。
塔のある湾の西側は崖になっているから、港は作れないでしょ?」
このセーバの町は手頃な大きさの入り江になっていて、しっかりと港を整備すれば、大型帆船くらいなら問題なく入港できるようになると思う。
ただ、水面からの高さが比較的低いのは入り江の中央から東の一帯だけで、塔のある西側は切り立った崖になっている。
つまり、将来大きな港を作ろうと思っても、お屋敷から塔までの湾の西側は使えないのだ。
今回、学校の予定地を湾の西側にしたのも、それが大きい。
ちなみに、住民の利便性などは一切考慮していない。
こう言っては悪いが、町といっても高々20戸程度の掘っ建て小屋に近い民家だ。
必要であれば、こちらで新しい家を用意して、引っ越してもらった方が余程手っ取り早い。
所謂区画整理、再開発というやつだ。
実際、今後町の人口が増えてきて新たに家を建てることになった場合、本格的な町の区画整理は行う予定だから、今いる住民に移転をお願いするのは時間の問題だ。
さすがに公爵邸から王都への街道に続く町の大通りに、商店や宿屋ではなく、農家や漁師の家が並ぶのは問題だろう。
そんな訳で、今回の学校の用地選びに、町の子供達の通いやすさは一切考慮しなかった。
その辺りの今後の展望も説明し、住民の方は大丈夫そうかと確認したが、アルトさん曰く全く問題無いそうだ。
他所の土地では、領主に突然出ていけと追い出されることも珍しくないそうで、こちらで住む場所まで用意して、町の別の場所に移ってもらうくらいは何でもないとのこと。
家を新しく建ててもらえるなら、却って喜ばれるくらいだと言っていた。
何だかんだで、こちらの都合で一方的に移れというのは悪い気がしていたので少し安心だ。
そんなこんなで用地の選定も終わり、具体的な実施の手順が話し合われる。
学校の建物の建設については、この町唯一の職人であるゼロンさんに頼むことになった。
というか、他にこの町に選択肢などない。
ちなみに、ゼロンさんは、地図作りメンバーのユーノ君12歳と、アンちゃん10歳のお父さんだ。
元々この町の出身ではなくて、レジーナの両親と同じく、ここに公爵邸ができた時に一緒に移住してきたらしい。
その縁もあって、レジーナのお父さんが亡くなってからうちに来るまでの半年間、レジーナの食事の面倒を見てくれていたりもしたそうだ。
明日、ユーノ君が来たら、学校建設の件を早速確認してみよう。
そう、今回地図作成で集められたメンバーだけど、地図作成が終わった今でも、家庭の事情が許す限りこの塔に通ってきている。
別に強制した訳ではないのだが、みな色々と思うところがあったらしく、作業終了後もできればそのまま勉強を見てほしいと言ってきた。
私が学校を作ることも知っているので、学校ができるまではこの塔で、ということらしい。
学校ができれば恐らくあの子達がセーバ小学校?の第一期生となるんだろうけど、今のままでもこの1ヶ月ほどでかなり仕込んである。
そのまま新しく来る子たちの先生役としても使えるんじゃないかなぁ。
学校についてはそんな感じだ。
あと、実験農場の方は……。
これは実際に農家の人の話も聞きたいから……。
とりあえず、今度ハーベ君が来たら相談してみよう。
ハーベ君も今回の地図作成メンバーで、9歳の農家の男の子。
ハーベ君の家はこの町の農家のまとめ役らしいので、一度ハーベ君を通して話を聞いてみようと思う。
具体的にどうするかはそれからだね。
そんなことを決めて、今日の話し合いは終わった。